25 ハッピーエンドのその先のふた匙
もうすこし....
丁寧な動作でカーテンが開かれ、シルエットだった人物が姿を現し始める。
果たして国宝級とも言われる、美しい我が兄をどんな手法で誑かしたのかこの目で見てやるからな………!豊満な肉体で兄さんを魅了したのか、はたまた妙な薬でも使う悪女か、法に触れるようなやり方ならばこの僕が直々に裁いてやるからな!
そう意気込んで、開かれていくカーテンをまじまじと観察する。
その姿は、見たこともないほど、黒い髪の毛。日の光を浴びて、きらりと光り、美しい。まるで夜空を思い起こさせるほどの暗い色だ。
白い肌に、細い体。
そして
そして
「え!? お、お? 男!?」
「えっ…? は? な、なんだよ、私が男だと不都合でもあるのか……?というか誰だあんた、初対面のはずだけど」
目の前に現れた、この国では滅多に、というか、一度も見たことのない黒髪に黒い瞳。アーノルドが一目でわかると断言しただけあって、確かにどこでも見たことのないような漆黒がこの人物を強く印象づけている。
「ちょ、ちょ、アーノルド!」
「いたた、なんですか。引っ張らないでくださいよ」
「黒目黒髪! この男が兄さんの……?」
「いや、でも、女性だと聞きましたけどね…うん? うーん…」
ベッドの隅により、コソコソと相手に聞こえないようにアーノルドに聞くと、なんとも煮え切らない答えが返ってきた。なんでだ。お前が聞き込みをしたのではなかったのか。ちらりと黒髪の男を見れば、怪訝そうな顔で「な、なに」とひっくり返った声をして、びくりと肩を揺らした。
うん。いや、まぁ女性に見えなくもないのか…?
頭から足下、そして確認するためにもう一度足下から頭の先まで観察する。
うん。
男だ。
やややつれていて豊満とは言えないし、服の隙間から見える鎖骨は浮き出ている。
美人といえば、美人だ。
なかなかいないタイプの影のある感じというか、一癖ありそうな魅力はあると言える。
いや、なに冷静に良い部分見つけ出しているんだ僕。
しかし見れば見るほど。
うん。
男だ。
「あ、あなたが兄さんの………、う、ううう」
「タトラー?」
口篭る僕に、アーノルドが心配そうに声をかけてくる。
冷静になれ僕。
いや、これはもう男だろうが女だろうが、関係ない。フルフルと手に力が入り勝手に震え出してくる。じわじわと頭に血が上り、爆発しそうになってくる。こんなに怒りが湧き上がってきたのは、兄さんに女性の噂が経った時以来だ。
くそ、結構最近じゃないか。どれほど短気なんだ僕。
湧き上がってくる怒りは止まってくれそうにもなく、あっという間に噴火してしまった。
「この……この……この野郎、兄さんを誑かしやがって!!!」
「うわ、ばか、タトラーやめろ!」
「このっ……! あ、れ……」
頭が真っ白になるほどに熱が集中すると同時に目の前がチカチカとし、目の前にいた黒髪の男に掴みかかろうとした瞬間に、ぐらりと世界が傾いた。
同時に視界がぼんやりとし始めると、ヒヤリとした何かが額、そして頬を伝ってゆく。その感覚に気を取られている間にも視界はだんだんと狭まりついには微かにしか人の動きを捉えられなくなる。
「…トラ……!おい......タト......」
「......!何が......大丈......!?」
最後に見えた世界は、黒い髪を持つ人間が近寄ってきたところで意識がなくなった。
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