表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/34

03 お父様からの呼び出し

いいね、評価、ブクマありがとうございます!

たくさんの方が読んでくださっていて、感動しました。

凄く嬉しいです。ほんの少しでも楽しい世界を共有できたら良いなぁと思います!

楽しく書くので、楽しく読んでいただければと思います!






----『冷徹の貴公子』サイド-----





「あれは絶対に私の妖精だった」




私の発言がどうにも可笑しくて仕方ないかのように、目の前の男はブハッと吹き出し、遠慮もせず豪快に高笑いし始めた。


「はははっ!懲りもせずよく言う。いやしかし、面白い事を言っていたな。見ものだったぞ。お前があの御令嬢に迫っている所は。実に気持ちが悪かったわ」


「うるさい。見ていたなら助けてくれれば良かったんだ。ジル王子が声をかければさっさと帰ってしまうことなんてできない筈だ。」


「馬鹿を言うな。私から声をかけるなんぞできるか。しっかりお前の妄想に付き合って望み通りの宴を開いたではないか。十分だろう。それに、だ。」


 ゆったりと背を預けていた豪奢な椅子から立ち上がったかと思うと、グンと顔が近くに寄る。

 

「お前の迫っていた御令嬢がいらん政治の戦に巻き込まれるわ。そんな事をしてみろ。あの令嬢のお父上殿が黙っておらんぞ。」


グイッと顔を近づけたかと思うと、真剣な顔になりひどく嫌そうに、ジル王子はそう言った。



「あの方のお父上殿?そんなに恐ろしいお方なのか?あのお方からはそんな雰囲気は無かったが?」


「お前、まさか知らないのか?ああ、そうか。随分と毛並みが違うものな。お前はかの有名な魔族殺しのベルモンド家の騎士達を知っているか?」


「勿論だ」


 ジル王子の問いかけに深く頷く。

 少し前の話だが、王家や騎士達の中では知らないものはいないだろう。

 大規模な戦では無かったが、森を荒らそうとやってきた大群の魔物達をあの一族達があっという間に薙ぎ払い治めたのは記憶に新しい。


「だろうな。お前も森の守人を任されている家の一騎士だ。知らんわけないだろうな。彼女はあの家の隠された御令嬢だよ」


「は?隠された御令嬢?そもそもあそこは赤毛の一族じゃないか。随分と違うぞ」


「ははは。名前も聞けなかったお前に教えてやろう。彼女の名前はティナ・ベルモンドだ。間違いなくあの家の娘だ」


「ティナ、ベルモンド...」



 あの大きな会場で、一際目立つ美しい黒い髪。どの国へ渡っても、あれほどまで見事な漆黒の髪と瞳はありはしなかった。


 未だに頭から離れない。


 あの髪、あの瞳、あの色は今まで生きてきた中でたったの一度しか見たことがなかった。

 目に焼き付いて離れなかったあの色。ずっと探し続けてきた色を見間違うわけもない。


 あの強い眼差しを思い出すだけで、じんわりと胸が熱くなる。

 今でもしっかりと頭に残っている思い出が昨日のように蘇る。

 決して己が変態だとかではない筈だ。決して。


「ははは、さてなぁ。お前があの家に入り込むことができるだろうか見ものだなぁ。私は心配だよ。何がって?大事な友人のお前が八つ裂きにされないかさ」


 ジル王子はカラカラと笑って手元のグラスを仰ぎ一気に果実酒を流し込んだ。


 私の長年の思いを知っているはずのこの男は。


 王族であると言うのに未だに婚約者の1人も見つけられずじまいの自分のことを棚に上げてのうのうと言ってのける。


「そんな怨めしい顔で人を見るなよ。私とて国の、国王の駒の一人よ。あの一族の事を怒らせることは国の損失に当たる。国王の逆鱗には触れたくはないのよ。しかし...そうだな。御令嬢殿の事は気にかかるものがあるのは事実だ。私が調べるくらいは許されるだろうよ」


「しかし...」


「いいではないか。最悪ではあったようだが、このたびの宴は未婚者の集まりだ。彼女はまだフリーという事だな。しっかりせよ。お前はこの国の宝である森の守人であろう。さらには公爵家の嫡男であるぞ。無碍に扱われはしないだろうよ。アタックだ!押してもダメなら控えめに押してゆけ!」


「控えめに...押す...」


 控えめに押すとは珍妙な案ではあるが、私もここでみすみす彼女を見逃すわけにはいかない。


 たしかにジル王子の言う事ももっともだ。

 そう思い、深く頷くと、ジル王子が愉快そうに高笑いを始めた。


「はははははっ冷徹の貴公子と呼ばれるファルマン・ルフトクストともあろうものが変人から変態になったな!」


「なっ!へ、変態だと!?」


 変態。いや、しかしちゃんと紳士として...ちゃんと、ちゃんと。いやできていない。

 全然出来ていなかった。

 自分の思い出と重なった色の髪色に息が詰まって、駆け寄って、それから。


 思い出すだけで自分の醜態に死にそうになった。

 あれは間違いなく変態だ。

 初対面でレディーの腕を思い切り掴む男がいるだろうか。居たな。ここに。彼女は何と言っていたか。顔を真っ赤にして怒っていた。そりゃ怒るだろう。私も嫌だ。知らない令嬢や男に腕を掴まれたのだ。恐ろしくないわけがない。あの細い腕を握っていたのか。

 随分と華奢で柔らかかったな。

 気分が昂ってつい強く握ってしまったがアザなどにはなっていないだろうか...


 つい彼女の腕を握っていた自身の掌をみる。すぐに蘇ってくるあの柔らかさと彼女の表情。声。


 はっ、これでは...本当に変態だ....


 パッと顔を上げると、ニヤリニヤリといやらしい笑みを浮かべるジル王子。


「へんたい」

「ぐっ」


 返す言葉もなかった。







 


 朝起きると、時刻はもう朝というよりは昼に近い時間だった。まさかこんなに時間が経っているとは思わなかった。驚くほどに自堕落的。よく眠ったような気がするけれど、鏡に映る自分はそんなにいい顔はして居なかった。


 寝れば忘れるだろうと、怒りに任せて布団に潜ったは良いが、沈み込んだ気持ちはなかなか浮上する事は難しく、思ったようにすぐ忘れてしまえるわけはなかったようだ。


 昨晩の出来事はまだ記憶に残っている。思わず息を吐き出すと、控えめなノック音と共にこれまた控えめに入室してきたルノワールがバツの悪そうな顔で「大丈夫ですか?」と尋ねてくる。


「ごめんなさい。気を遣わせてしまったわね。大丈夫。」


「そうですか。それはよかった...あの、旦那さまがご帰宅なさいました。お嬢様に顔を出すようにと伝言を承りました」


「そう。すぐ行くわ」


 手早く着替えを済ませ、お父様が呼んでいるという部屋へと向かう。




「お父様、ティナです」

「ああ、入りなさい」


 お父様の許しと共にルノワールが扉を開く。

 そこにはお父様だけではなく、兄たちも控えていた。

 兄たちはなぜか武器を磨いている。とても物々しい。

 禍々しいともいう。その武器等は対魔物や魔族用ではなかったかしら?

 

 大きな部屋に暖炉が一つと、長テーブル、そしてテーブルを囲むようにソファが配置されている、いわゆる客間である。


 日本の一般家庭ではそんなに無いだろう豪華な作りだ。元々が日本の一般家庭育ちの私はとてもじゃないが落ち着かないので、あまり立ち入ることはない。


 自分の部屋においても1番小さな部屋にして貰っている。それでも随分な広さなのでもっと狭くても良いくらいなのだ。

 私的には住み込みのルノワールが使っている部屋と交換したって良いくらいに思っている。実行しようかと、一度12歳くらいの頃にルノワールに打診してみたが、青い顔をして必死に拒否されたので、この境遇に甘んじている。


 ただ、私の境遇を憐れんでこの家にずっと居ていいと言ってくれているが、兄たちが結婚して家を継いでいくのだと思うと、私はいつまでも甘えてここにいるべきではないだろうとも思う。

 昨晩のことでやはり私は世間からどのように見られているのかがはっきりと分かった。それがお父様のお耳にも入ったのだろう。噂話は良いものも早く広まるが、悪いものの方が何倍も早く広まるのがこの世の常だ。


 おそらくこの後される話は修道院への打診の話だろう。


 悪い話ではないはずだ。タイミングとしては妥当な時期だろうと思う。



 気持ちを引き締めて、お父様の正面に回る。

 父の案内のままソファに座ると、兄たちも武器をしまいこちらに向き直した。


「遅い時間になってしまいごめんなさい。お父様もお兄様たちもお帰りなさい。」


「かまわない。昨晩は慣れない場所だったはずだ。疲れただろう」


「いいえ。大丈夫です」


 嘘です。結構疲れた。一瞬どう言おうか考えたが、ほんの一瞬だけだ。大丈夫。

 精神的に少しダメージを負っただけで済んでいる。コソコソ話していたご令嬢だって今日には私の顔すら覚えていないだろう。もう二度と会うことはないだろうあの『冷徹の貴公子』様とて同じ事だ。それほどに自分が記憶に残らない平凡顔をしている自覚も自信もあった。

 そんな自信はいらないが、存在感を消すということが私の心のゆとりのためには大事な物のひとつだった


 ピクリと反応したルノワールにお父様は片眉を上げたが、それだけで、はぁ、と重いため息を吐く事で留めた。


「ティナ。お前に会いたいと来訪の許可を求める書状が届いている」

「......はい?」

「ルフトクスト公爵家のファルマン・ルフトクストという方だが、知っているか?」


「......さぁ、知りませんが」


 誰だ。ふ、ファーマン?シャーマン?精霊とか召喚しそうな名前だ。しかし公爵家、とてもじゃないが断れなさそうだ。


「年若いが優秀だと伺った。知り合いでないなら断ってもかまわんが…...一度でいいから顔合わせをと言われている。」


「はぁ、かまわないですけれど私なんかに何の御用でしょうか」


 公爵家ともなると接点がまるで思い当たらない。いや、私はほとんど社交界での交流はないのだから、誰であっても思い当たらないのだが。


「私は反対だ!私はそいつを知っているぞ!あんな変人に可愛いティナを会わせるなんて…...!毒だ!」


 ジャンドールお兄様はブンブンと首を振ると、ガシッと私を抱きしめてきた。

 抱きしめるだなんて可愛いものじゃなかった締め上げにかかっている。ギブギブ


 ハッとしたように大袈裟に離れたジャンドールお兄様は「すまない!」と大きな声で謝った後、スッと元の場所に収まった。お兄様はなんでも大袈裟な物言いや行動をするので慣れっこだが、いかんせん筋肉なのだ。圧倒的筋肉。力が強すぎる。



「まぁまぁジャンドール。いくら我が父上といえど断るには骨が折れるよ。うちは士爵だろう。位が違いすぎるさ。時に私は的確に急所を突くのが得意なんだが、えっとその日取りは決まっているのかな?」


「物騒な事を言うなサラドール。明日我が家にくるそうだ。ティナ、構わないね?」


「もちろんです。」


 ついうっかりお兄様の筋肉により潰されそうになっていたから話を流してしまったが、シャーマンなんたら様が優秀で変人で毒...?

 いったいどんな人が何の理由があって私に会うと言うのか。


 お父様やお兄様たちに昨夜の騒動はどうやら伝わってはいないらしい。ホッとしたのも束の間、心配の気持ちが強くてなんとも楽しい話を想像することはできなかった。




鈍足です。

少しだけ更新しました。

--------キャラクター--------

ティナ

主人公。20歳。元日本人。歯の浮くような言葉や態度は揶揄われていると思う節がある。


ルノワール

25歳。執事。純粋な青年。ドジ。

料理は食べる専門。ティナの手料理も好きだが、兄たちに刺されそうなので言っていない。


ファルマン・ルフトクスト

19歳。またの名を『冷徹の貴公子』

王家に近い一族。ジル王子とマブ。

幼少期に出会った妖精(仮)を追い求めるあまり、女性に興味がない。変人奇人と呼ばれる。この家の人はほとほと困っている。早く妖精でもなんでも結婚してほしい。


ジル第二王子

18歳

ファルマンと腐れ縁。王族なので別に結婚相手には困っていない。自由がゆるされている。ファルマンウォッチャー


ジン・ベルモンド

45歳

ティナぱぱ。

強い。王国の騎士団に所属


サラドール

長男27歳

タレ目に甘めの優男

騎士団所属

弓が得意

思考が物騒


ジャンドール

次男25歳

騎士団所属

ジン似。吊り目で声がでかい。脳筋。


最後まで読んでいただきありがとうございます!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
少しづつフラグが立ってきましたね。 果たしてティナは誰を選ぶのか? ファルマンも良さげのキャラですね。
[良い点] 面白いです♡ 文書も読みやすくて、続きが楽しみです。 「君は私の妖精」パワーワードですね笑 [一言] Twitterから飛んできました♡ 主人公もさっぱりしていて好みです。取り急ぎ感想ま…
[良い点] あれは絶対に私の妖精だったの一言からグイグイ読み勧めていきました。 定番ものとは少し違う角度の物語、とても面白かったです。 あ! 完結おめでとうございます! 言い忘れてました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ