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【番外編】悪魔の子【???】02

すみません。もう少しです



「はぁ、くやしい...」


「おいおい。今日はなんだと言うんだファルマン。私の部屋でため息をつくな、この戯けが」


 つい力が入りすぎて、そっと添える程度にするはずの拳が予想よりも強く机を叩いてしまった。いやしかしこの気持ちをどう表現すれば良いのかわからないので許していただきたい。それが第二王子であるジル王子の私室だったとしてもだ。

 



「聞いてるのかこの変人め」


「もちろん聞いている」


「ならばしゃんとしろ。私の机から拳を下ろせ馬鹿者」


 気だるげに指ひとつで指図してくるジル王子は非常に面倒臭そうに私の方を見ていた。

浮遊する指を手招きするようにくいくいと曲げて自分の座る椅子に向かい合ったソファを指差した。「聞いてやろう座れ」と言われ、指示されるままにソファに腰掛けた。



「どうせティナ嬢の事だろうが聞いてやらんでもない」

「ううう、その通りだ」

「泣くな泣くな鬱陶しい。良いではないか。互いに想いも通じ合い婚約も目前だと聞いたぞ。よかったではないか。それにだ、この城でも彼女の評判は上々であるぞ。聞くか?」


「聞きたくない」


「よしよし。それでは聞かせてやろう。かのベルモンド家の隠された令嬢が今では皆の聖女であるのだぞ。城勤めの騎士たちの憧れの女神様ときている。何せ週に3日は働きに出てくれているからな」


「それが問題だと言っているんだ!私だけの妖精がっみんなの女神とは…...私だってまだ回復薬すら手に入れられていないのに…...くっ」


「はははは」


「それに加えて数日前に報告があった…隣国から奴隷の男がこの国に亡命を希望してきていると連絡が来た。ままある事だが、念のため私が出向く事となった…忙しくてなかなかティナと出かけられないと言うのにまたこれだ」


 ふん、とつまらなさそうに相槌を打ったジル王子は、また同じように詰まらなさそうに目を細めた。


「しかしなぁ。どうもキナ臭い。タイミングも悪い。あの魔族の国の者だろう。あやつらは魔物を操るらしい。魔力が多い者はそうそう奴隷の身分になる者など居ないだろうから、害は無いとは思うが。情に流されるなよ」


「私が?情に?」


「言ってみただけだ」


 ジル王子のどこまでも揶揄う様な視線を払い退け退室し、すぐさま国境へ急ぐ為に詰所へ向かう。


 その途中で沢山の薬草を抱える妖精が居た。

 いや違う。

 ティナがそこに居た。

 大きな籠の中に沢山の薬草が入っており、視界は悪そうだ。ヨタヨタと人とぶつからない様に廊下の端を歩いている。

 いつまででも見ていたい気持ちを丁寧に仕舞い込み、すぐさまティナに駆け寄った。


「ティナ、大丈夫ですか?手伝います」


「えっファルマン様!」


「んんっ」


 ひょっこりと草の端から顔を出すティナは相当に可愛かった。口に出しそうになるが、なんとか自分の口を自分の手で塞ぐ事で防ぐことが出来た。


「大丈夫ですよ。これでも私は力持ちなんです。これくらいなんともありません」


「私のお仕事なんですよ!軽い軽い」と笑う彼女から草の山を奪ってしまうことができなくて、「そうですか」としか声に出せなかった。

 なんと言う事だ。この、私のヘタレめ。全く良いところなしだ。無念。


「どうかされましたか?少し疲れている様に見えます」


「ああ、いえ......もうすこし一緒にいたいのですが、今から国境へ行かねばならなくなってしまって」


「そうなんですね......危険な任務なんでしょうか?」


「ああ、いや、そう言うわけでは......いえ。命に関わります」


「?それはどういう」


 ポカンとする彼女から草の沢山入った籠を抜き取り、廊下の端に所々配置された机の上に置く。


「なので、少しだけ。元気がないと死んでしまうかもしれません。充電をお願いしても?」


「!」


 ぽん、と赤くなる彼女をそっと腕の中に閉じ込めて、きゅうと抱き締める。そろりそろりと申し訳程度に背中に回される手がなんとも言えない幸福感をもたらす。

  

 視界の端に入隊し立ての新米騎士達が頬を赤く染め、ほんの少し肩を落とす様子が映り、この場所で会えてよかったとホッとする。


 この黒髪の妖精は実に可憐で、誰にでも優しい。しかし誰も彼もを魅了してしまうからタチが悪い。こうやって牽制できたことは幸運だった。


「ずっとこうして居たいのですが...行かねばなりませんね」


「あ、ええと、そう、ですね。お気をつけて」


 薬草の山を運ぶ事が許され、それを医務室の前まで運べば、もう別れの時間だ。中に入るところまでを見届けて、詰所へ向かった。

 そこからは報告を終えれば国境に向かうだけだ。


 此度の任務は亡命を希望する隣国の民の危険性を測るものだ。そう難しいものではない。もうすでにその者に対する取り調べ等は始まっている事だろう。特にこの国は今妖精との契約も色濃く、強固なものとなっている。心配することは無いだろう。



◆◆



 国境に近づけば、やはり先日の魔物の侵攻の件もあってか、それなりの数の兵士達が立ち替わりで警備に当たっって居た。


「ファルマン隊長殿、お待ちしておりました」

「ご苦労。案内頼む」


 若い兵士に通されたのは、簡易的なテントが数個建てられたうちの一つで、テントの中を覗き込めば、端の方で縮こまったボロ雑巾の様な外套で身を包んだ男が、怯える様に、こちらを見遣った。無理もないだろう。おそらく武器や薬などを隠し持って居ないか身体検査を受けた後だろう。

 あれは精神的にくる。


 少し近づけば、もうそれ以上は隅に寄れないというのに、ビッタリと壁にくっつく様に離れていく。


「私の名はファルマンだ。亡命を望んでいると聞いた。調査のため会話が必要だが、言葉は話せるか?」


「はい、はなせます」


「ではまず顔を見せて。手荒な真似はしない」


「はい」


 ボロボロになった外套のフードを外せば、そこから現れたのは。

 

 痩せ細った骨が浮き出した足に、傷だらけの体。ゴワゴワの服。

 爪の先はひび割れ、黒い線が走っている。

 足、腹、腕と視線を上げていくと、ようやく顔へ辿り着く。パサパサした肌にひび割れた唇。目の下には酷い隈ができ肌にこびりついている様だった。


 はっと息が詰まった。


 そこにあったのは、見慣れた、見事なまでの色。



「黒い、髪...!?」


そこには見事な漆黒の髪と夜空の様な瞳があった。


◆◆



 国境に着くと、身ぐるみを剥がされ、体全体を調べられた。

 奴隷になった時にも何度も経験したものだから、もう何も感じない。先生から受け取った笛のついたネックレスまで盗られてしまったが、すぐに手元に帰ってきた。無能な奴等には分かるわけがない。魔道具は我が国にしかない技術だ。きっとカケラほども理解できてないだろう。心の中で嘲笑う。

 黒い髪や瞳はこの世界では異端で、気味が悪いと言われ続け、蔑まれてきた。きっとここでも酷い事をされるのだと覚悟を決めていたが、こちらが気味悪がる程に、同情的に兵士達は優しかった。こちらの思惑も知らないで、随分と呑気なものだと鼻で笑う。


 しかし、朝も昼も晩も食事もあり、人間として扱われている事にひどく動揺した。自分の親でさえ、この黒い髪と目を嫌がり、外に出さず、あっという間に奴隷として売ったのに。


 柔らかいパンに、温かいスープ。体が芯から温まり、久しぶりに、ゆっくりと眠る事ができた。


 次の日、見た事のないほどの美しい人間がやってきた。全く表情の変わらない人形のような人間だったが、やはりこの髪と目を見れば驚く様に目をまん丸にしていた。


 不思議と心が乱されることはなかった。これが普通。ここではこれが当たり前。優しくされる方が変なのだ。ホッとした。やっぱりそうなんだなと思うと、この国を我が国が滅ぼしたとしても、私は何とも思わないだろう。

 国境から移動して、市街地に入った。


 危険人物として監視がつく事に決まったと申し訳なさそうに言われるが、その監視がつくおかげでしばらくは王城の監視塔に居られる事となった。ほんの少し、妖精に近づいたか。

 このファルマンという男は不思議な男だった。私に対してはさほど興味がなさそうなのに、時折気遣う様な仕草が見られた。


「君は名前は何という?」

「あ、私はグンジです」

「歳は?」

「15、です」

「そうか」

「そのネックレスを預かっても?数日で返す」

「あ、いや」



 正直、あまり渡したくなかった。

 一度調べられて戻ってきたから油断していた分、動揺してしまった。

 しかし何か不審な点が少しでもあれば、ジッとと何かを探る様に見てくるので妙な感覚になる。思わず、ちっ、と舌打ちしてしまいそうな衝動にグッと我慢した。


「かまいません」と答えれば、「わかった」と言ってファルマンは懐にネックレスを仕舞い込んだ。


 数日間棟に入れられたが、部屋は見たこともないほど豪華な作りに思えた。


 シミひとつない壁に、窓があり、書籍、小さなクローゼットに机と椅子、ベッドが一つ。太陽の光が惜しみなく入ってくる様な、清潔な部屋だった。今まで過ごしてきた中で一等上等な部屋。

 自分にこの部屋が当てがわれたのを目の当たりにして、途端に、大きな苛立ちが襲いかかってきた。

 これは一体どういう事なんだ。

 奴隷に与えるにふさわしい部屋なのかこれは。目を見張るほどの贅沢さに、くらりと眩暈がした。

 

 二日ほど経った日、胸がギリギリと締め付けられる様な鋭い痛みで意識がなくなった。

 贅沢をしたバチでも当たったのかもしれない。先生が怠けた私に罰を与えられたのかもしれない。


 目が覚めた頃、手元にネックレスが返ってきた。


 

 ファルマンが私を迎えに来て、あの妖精の森へ連れていくと言ってきた。

 恐ろしいほど運がいい。

 こんなにもうまく事が進むとは思っても見なかった。心の中で「このマヌケども。お前らはもうすぐ我が国の物となるのも知らないで」と罵倒する。滑稽で笑えてくる。バレない様に地べたを見ておく。



「ファルマン様!お帰りなさい!」


「っ! ティナ......」



 女の声が響き、その声にハッとしたようにファルマンが顔を強ばらせたのをチラリと盗み見て、ようやく下を向いて居た顔を上げた。



 そこにあったのは、黒い髪に黒い瞳。

 自分と同じ、日本人の様な見た目の人間だった。

数ある小説の中から、この小説を読んでくださりありがとうございます。


番外編です。ちょこっと続いております。

楽しんで読んで頂ければ幸いでございます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] テンポよく楽しく読ませていただきました! [気になる点] なぜファルマンはティナの声に顔を強張らせたのでしょう? [一言] 気に入って繰り返し読んでいます。 素敵な作品を生み出してくださ…
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