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【番外編】悪魔の子【???】01

番外編です。続きます。

 



 妖精の住まう大地にある国は、外の国からは「妖精の国」と呼ばれていた。


 大きな大陸に、妖精の国を挟むようにして南と北に国が存在しており、その名を「魔族の国」「女神の国」と呼んでいる。


 妖精の国の北に位置する「魔族の国」は魔族への信仰が強い国である。


 妖精の加護を受ける国が、妖精の力を借りて魔法を使うのに対して魔族の国は魔族から力を借りて生活しているのである。仕組みはどこも共通で、人間の持つ魔力と引き換えにその力を貸すという者であった。

 

 呼び名は違えど、その土地にある神や妖精や魔族への信仰はどれも差はなく、それぞれの人ならざる者の王たちが人間に力を貸すことで互いの土地を守っているのが現状である。


 それぞれの国に伝わる話や伝承、常識や倫理観はやはり国が違えば全く異なっているのであった。




 争いを生むのは、力を貸している妖精や魔族や女神が原因なのか、それともその力を使う人間が問題なのか。




◆◆



 荒れた大地が広がり、突如として現れる鬱蒼とした森を抜けた先には大層大きな街が現れた。

 その大きな街を覆い隠すようにぐるりと周囲を森が囲み、さらにはニョキリと飛び出した塔が煌びやかな宮殿を取り囲んでいる。




「失敗だと……?貴様らっ」



 宮殿の一番広く大きな間大きな声が響いた。

 この国の王が席を置く玉座の間で、でっぷりと脂を蓄えた男が苛立ちを隠そうともしないで、うろうろと歩き回っては鼻息荒く声を荒げていた。

 

「申し、申し訳、申し訳ございませんっ、次は必ずっ」


 フードを深く被った初老の男が、硬い床に膝を立て、深々と頭を下げる。

 床についてしまった頭は男が話すたびにゴツゴツと音が鳴る。

 それに続いて同じようにフードを深く被り顔を隠した若い痩せ細った男も、深く地べたに這う様にして頭を下げた。王のあまりの剣幕に初老の男は震え上がりまともに声が出せていない。


 ぎりり、と王が歯を噛み締める音がしたかと思うと、若い男のフードを思い切り引っ張り、頭ごと床に叩きつけた。


「うぐっ」

「貴様のような汚い者でもようやく使い物になるかと思ったらこのような体たらく…腹が煮えくり返りそうだわ……次? 次など………よい、わかった貴様に最後のチャンスをやろう。最後だ。よく考えるがよいわ」

 

「さっさと下がれ」その声とともに、男たちは慌ててその場を後にした。


バタン、と閉じられた大きな扉はまるで王とそれ以外を分けているような、大きな壁のようにそこに聳えていた。



◆◆



 追い出されるようにして王座の間から出された私たちは、王の飼う魔物の餌にされずに済んだようだったが、本当に寸でのところであった。ジクジクと痛む額をさすると、少しばかり切れたようで、血が滲んでいた。

 

「すまないなグンジ、お前には多くの魔物を連れて国境へ出向いてもらったというのに」

「いえ…いいえ、先生。それよりも次を考えなければ、先生の奥様が」

「ああ。そうだったな、そうだった」


 そうだったそうだったと、震えながらポツポツと話す先生は、随分と疲れた様子だった。先日、隣国の些細な衝突の情報を手に入れ、障壁が崩れた瞬間を狙って多くの魔物たちを自分の魔力と引き換えに使役し襲撃させたが、思わぬほど早く手練れのものが現れ、場を収めてしまった。

 妖精の森もよく燃えていたというのに、魔法でもかけられたかのようにあっという間に綺麗に元に戻ってしまった。煙一つ残さず、消滅したはずの障壁もすっかり元通りだった。

 完全に失敗した。

 せっかくようやく見つけた穴に付け入る隙もなかった。


 手に入れた装飾品や金を入れた小袋を取り出し、先生に渡す。元々襲いかかってきた追い剥ぎたちから巻き上げたものだ。別に惜しくはない。


「私のような者を先生は拾ってくださった。人間にしてくださった。私は先生が望まれるならなんでもいたします」


「そうか、そうか、悪いなぁ、悪い」


「奴隷の身に落ちていた私を救ってくれたのは先生です」


「そうか、そうか」


 突如先生が、目を細め、私のフードをばさりと剥ぎ取った。

 私を見るその瞳は複雑に歪み、好奇と哀れみと、残酷なほどの優越感が垣間見えた。


「は、な、何を」


 はっとして、フードを深く被り直す。

 廊下に配置された護衛兵たちがどよめく声がかすかに聞こえ、羞恥と恐怖が襲いかかってくる。体が、手が、無意識に震え、頭を覆い隠す外套がくしゃくしゃになる程の力が入る。

 

「グンジ、グンジは可哀想に。こんな真っ黒な髪も目も見たことがない」


 優しげな先生の声に被って、過去の奴隷だった頃の記憶が蘇ってくる。

 幼い頃、この黒い髪や瞳のせいで私は売られたのだから。

 恥ずかしい。

 恐ろしい。

 二度と戻りたくない。

 先生に捨てられたくない。

 

「グンジ、私に任せなさい」


「はい、はい、先生」

 

 震え、縋り付く私を先生は慰めるように、優しく話しかけてくる。

 頭の中はパニックと恐怖でぐちゃぐちゃで不安だというのに、驚くほど先生の声はすんなりと頭に入り込んでくる。


「大丈夫だよ。私のいう通りにしなさい。この道具をグンジにあげよう。うまくやりなさい。うまく事が運んだら、この笛に魔力を込めて吹きなさいそうすればグンジ君は自由だよ」


「はい、はい」


 首にひっかけられようとする小さな銀色の小枝のような笛がついたネックレスを見遣る。

 そこに反射し、映り込んでいる自分の黒い髪がぼんやりと見えた。



 ネックレスが首にかかった瞬間、ギュルギュルギュル、と鎖のような冷たく重い何かが体を這い回り、臓器がキュキュと締め付けられる感覚に襲われた。

 ヒュ、と息が詰まる。

 僅かな苦しさにカタカタと体が痙攣する。


 その様子を、哀れそうに、愉快そうに、先生が眺めている。


 苦しくて、流れる涙で滲む視界の中で先生に向かって手を伸ばす。


「グンジ、大丈夫だよグンジ。妖精の森に入りなさい。そこで思い切り魔力を込めてこの笛を吹きなさい。そうすれば妖精の力だけ奪ってしまえるよ。グンジも自由になれる」


「は、はい、はい、先生」


 苦しくて、手を握ってほしくて、安心させてほしくて震える体を抑え込んで先生の話を聞く。


「できるかいグンジ。国のためにもなって、私のためにもなる。グンジは自由になれるよ」


「はい」


 倒れそうな体を、先生がぎゅうと抱きとめてくれた。そうすれば、不思議と苦しみが随分とぼやけてきて、息ができるようになる。


「グンジ、簡単だよ。逃げてきた奴隷として隣国に入り、妖精の森に入り込む。そしてこの笛で妖精の力を奪うんだ。その笛が合図もくれる。いいかい?」


「はい。はい。先生」


 私には先生しかいない。

 先生の言うことはいつだって私の体を楽にしてくれる。

 私には先生しかいないんだ。




数ある小説の中から、この小説を読んでくださりありがとうございます。


続き、というか番外編書いてしまいました。

途中で出てきた、「言葉が乱暴な敵」のお話です。

しばらくお付き合いくださいませ。


面白かった、続きが気になる!と思っていただけましたら、

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