【番外編】 私と妹の秘密【ジャンドール】
「む?」
自室で書類の整理をしていた際、うっかりベッドの下に転がり落ちた万年筆を拾おうとしゃがみ込めば、そこに小さな本のようなものを見つけた。
万年筆のインクがすっかり床を汚してしまわないうちに拾って、机の上に置く。また転がり落ちないように、しっかりとペントレーに寝かしつける。
ベッドの下ですっかり埃まみれになった本を手に取り、表紙を擦る。
そこには汚い字で「秘密」と書かれている。
紛れもない幼い頃の私の字だった。
秘密ごとにわざわざ秘密だと宣言するような書きかたをするなんて本当に馬鹿だったのだろう。
これでは見てくれ、と言っているようなものだ。
綺麗さっぱり記憶から消えてしまっているが、この字の汚さはまさに私のものだった。
おそらく隠そうとして、ここに忍ばせたのだろう。
大雑把に埃を払い、ぱらりと開くと、そこには「見たやつは絶対誰にも言うな、兄上にもだ」と強く念を押されていた。
昔の私にしてはよく頭が回ったものだと思う。
見てしまっては悪いのでは、と頭をよぎる罪悪感も計算していたならばなかなかのやり手だ。私だが。
8月1日
今日はティナと草を探しに出かけた。家のすぐ前だったが、兄上にティナを連れて行ってはいけないと怒られた。何故だ。
ティナが家から自由に出られたら良いのに。
そういえば、昔はよくティナを連れ出しては危ないから良くないと怒られていたな。
騎士になるために学園へ通い、家に帰れば大概ティナがいるので学校の出来事を全て教えてやらねばと熱く燃えていたなぁ。
この時は兄上や父上がティナを外に出さないのは黒い頭や黒い目を持つ者をベルモンド家が生み出した事を恥じているものだと思っていたが、実のところは真逆だったと知った時には驚いたものだ。
この時の私はティナが可愛くて仕方がなかったし、言葉が出せないのは仕方がないことだと諦めていた。そういった人間も居るのだと、学園の友人が教えてくれていたので、何も特別な事ではないと感じていたのだ。
誰も真似できない色味を持つこの妹を自慢したくて仕方がなかった。どうだ可愛い妹だろうと。
ペラりと次のページに進む。
8月4日
兄上と稽古。兄上には勝てる気がしない。
8月6日
ティナと木登りをした
短い文が続いて、それからは真っ白だった。
ん?これは。
見事なまでに3日坊主。実に私らしくて面白いが、情けない限りだ。
呆れてものも言えない。
パラパラパラと続いていく白いページ。
ふと、最後のページに辿り着くと、薄汚れたページに辿り着いた。
ティナに回復薬を作ってもらった。木から落ちて骨が折れたが、あっという間にくっついた!ティナは魔法使いだった。やはりティナはとくべつだ!これは兄上にはナイショだ!木に登れなくなるし、ティナが家から出られなくなる!私が強くなっていつかティナをたくさん外に連れていくんだ!
「ふふっ」
随分と、興奮して書いたのが窺える荒い文章に、思わず笑ってしまった。
そうだったそうだった!
せっかくティナが黙っていたのに、私が結局バラしてしまってティナの回復薬がよく効く事が知られてしまったのだ。
この時の私も随分と馬鹿で、いくら怪我をしてもティナが治すからと無茶苦茶をしていたなぁ。
ティナが、私が木に登って骨を折ったことは胸に秘めていたおかげで、大目玉を食らうことはなかったが、今思えば随分と口の堅い物静かな子供だったなと感じる。
兄上は随分と隠したがっていたが、あれはティナを誰かに盗られたくなかったからだろう。
どんなにうまく、都合よくティナが家にいてくれても、見つかってしまえばあっという間だ。
ペントレーの上の万年筆を取り、この薄汚れた本のちょうど真ん中あたり、白紙の部分を開く。
今日の日付を書込み、多少はマシになったであろう自分の字を書き込んでいく。
「ティナはもう自由だ。心配するな」
自分も家にはあまり居ないが、同じくらい外出が増えた妹を思う。
この幼い頃の少年が心配するような妹はもう居ない。ずっとずっと大きくなって、ずっとずっと美しくなっている。私が連れ出さずとも、しっかりと自分の足で歩いているよ。
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