23 ずっとずっと幸せなお話
森が焼かれ、魔物の侵攻という国に動揺が走る事件があった数日後、嘘のようにいつもと変わらない平穏な日々が戻ってきた。
うまくソナ王とこの国の王との間で話が進んだのか、この国の守りはさらに強固になった。
人々の噂とは奇妙な物で、ほんの少し前は黒髪は悪魔の子の証、不幸の象徴、不吉だ、だと言われてきたのに、今ではすっかりすり替えられてしまった。
ついに冷徹の騎士様が黒髪の妖精を見つけた、聖女様が現れた。はたまた女神様だとあらぬ方向に話は膨れ上がり、この世のものとは思えないほどの神々しさと美しさを持つ人で、性別などなく、あらゆる人に恵みを与える菩薩のような存在へと話は変わって行っていた。ある者はその存在に憧れる少女であったり、ある者は妖精を守るために騎士を夢みたり。その話は様々な形に変化している。
私はといえば、今までと何も変わっていない。
たった数日で黒い髪への印象はきっと変わっただろう。しかし、私はまだ、行き遅れの年増である事実は変わっていない。
変わったことといえば、ちょっとばかりお兄様達が過保護になったり、ルノワールが魔物の討伐と聞くとお兄様について行きたがったりする様になったくらいだ。
数日経った頃、王家の刻印の入った手紙がベルモンド家に届いた。
「お父様、これは」
「ふむ、どうやら、王と王子がこの度の討伐と速やかな解決を労って下さると、書いてあるな......サラドール、ジャンドール、それとティナ。お前にだ」
「私も、ですか?」
「ふむ。私が聞いた話では、パーティーが開かれるようだな。お前の出席を、怪我を負った者達が熱心に願っているのだとおっしゃっていた。しかし気負う必要はない。私がその日はエスコートするしサラドールとジャンドールがいる。問題はないだろう」
なんとなく、回復薬を渡した人たちの顔が浮かぶ。きっとそうに違いない。あの時のテンションで決まってしまったに違いない。
「わかりました。お父様も一緒でしたなら安心ですね。お兄様達も」
いろんな事件が重なったあの夜も、とても賑やかだったが、また華やかなパーティーになるのだろう。
ファルマン様にはあれから会ってはいない。
少しばかり寂しい気はするが、ちょっぴりホッとしている。
彼が美しすぎるのも落ち着かないし、近づきすぎて恥ずかしくて顔が燃えそうに熱くなるのも、心臓が爆発しそうになるのも落ち着かない。
熱烈に思いを伝えてくるのは、ちょっとだけ嬉しい。ファルマン様は、このパーティーにはくるのだろうか。
そう思うと、胸の中がくすぐったかった。
◆◆
上品な落ち着いたペールホワイトの長い廊下を抜けて、大きな両開きの扉が現れる。
両サイドに立つ騎士達は、穏やかな笑みで恭しく小さくお辞儀をして「ようこそベルモンド様」そう言って招き入れてくれた。
中へと一歩踏み出す。
ピカピカの大理石の床。
天井には大きなシャンデリア。光がきらりきらりと反射して、美しい。
一度だけだと思っていたお父様とお兄様達が選んでくれた薄紅色のシンプルなスレンダーラインのロングドレス。それを身に纏い、お父様のエスコートでフロアに入る。
「大丈夫か?」
「緊張しています」
「無理もないよ。お父様も緊張している」
「父上はこう言う場所に慣れていらっしゃらないからな。戦場では堂々とされていらっしゃるのに!」
後ろからカラカラと笑いながらジャンドールお兄様が揶揄うように言った。
お父様は「そういうことだ」と困ったように微笑む。
「私はティナに変な虫がつかないか心配だ」とサラドールお兄様は不貞腐れている。
「そんなの心配しなくて大丈夫よ......」
「さぁ、どうだか」
お父様、お兄様達はあまりこう言った場を好まないので、凄く目立つのだろう。
正装をして歩く姿は、私も初めてで少しドキドキする。
お父様ももう45だと言うのに、若々しく、とても似合っている。いつもは流している髪もオールバックにしていて、身内の贔屓目もあるかもしれないが格好が良い。
ざわざわと会場が騒がしくなると、一層サラドールお兄様の機嫌が悪くなった。
美しい演奏が響き、騎士の制服を着込んだ青年達が感極まった様子で近づいてきた。
あの夜の青年2人だ。
「女神様、また会えるなんて夢みたいです」
「今夜は一層お美しいです」
「ベンさん!シャンクさん!」
「嬉しいです。名前、覚えていただけていて...!足も喉も本当にもう駄目だと思っていましたから...」
「あれからこいつ、女神様がいかに素晴らしいか、自分は奇跡を見たって言いふらしているんですよ。周りからはファルマン2号と呼ばれています」
「そんなっ恐れ多い事です...ファルマン先輩には学ぶことが多い......!」
「ね?」
照れ照れと謙遜しているものの、少し嬉しそうにしていて一抹の不安を覚える。
恥ずかしいし、もうその女神扱いはそろそろやめてほしい...。
「ティナ嬢」
そこにはファルマン様の姿があった。
初めてパーティーで引き留められた日、あの日と同じ格好で、私を見つけ、真っ直ぐ私を見つめる目は嬉しそうにとろけている。
「いつもの姿もとても美しいけれど、今日は特に美しい。会いたかったですティナ嬢」
「ファルマン様の方が何倍も美しいですよ。ご自分のお顔ご存知ですか?」
キョトンと本当にわからないように首を傾げる姿がなんだか可愛くて、つい笑ってしまう。
「そんなことはありません。貴女を初めて見た頃から、随分と昔から、貴女が1番なのです。ずっと貴女を探していました......ティナ嬢」
そう言うと私の手を取り、愛おしそうに手の甲に口付ける。
「貴女は、間違いなく、私の妖精です。私だけの妖精」
くすぐったくて、ぞくりとした。
そのストレートで、遠回しな言い方。でも初めから変わっていない台詞。
「貴女だけを愛すると誓います。私と生涯を共にしてほしい...どうか頷いて、私の妖精」
強引な言葉、「イエス」しか用意されていないと言うのに、懇願するその姿は美しく、この人こそ妖精のようだった。
「私、何も特別じゃないですよ」
「私にとっては特別です」
「私は年増だし、とても平凡です」
「それがなにか?」
「それに...」
「何を言われても諦めません。何度だって貴女に伝えます。私の気持ちを。絶対に、逃がしません......私と、どうか結婚してください」
キュッと握られた手が、あまりにも熱くて、私まで熱がこもる。
言い返す事も、何も浮かんでこない。
この人と自分が釣り合わないのではとか、平凡だからとか、年齢とか、そんなものどうだってよく思えてしまう。
「はい...私でよければ」
こんな時でさえ、自分に自信のない私はこんな言い方をしてしまうけど。
そんなことは些細なことだとばかりに、ファルマン様は、とびきり幸せそうな笑顔で思い切り私を抱きしめた。
苦しいけれど、それ以上に嬉しさと幸せでぎゅうと胸が苦しくてそれどころではない。
会場は、大きな拍手に包まれ、いつまでも鳴り止まなかった。
この国に、また一つお話が生まれた。
昔々、地上には妖精の王様と人間の王様がおりました。
とても凶暴な魔族や魔物と戦って生き残るためには、妖精は人間と、人間は妖精と手を取り合って闘うしかありませんでした。
妖精が人間に力を貸すおかげで人間には魔法が使えるようになり、簡単に魔物が人間の住む場所には来なくなりました。
妖精に深く感謝した人間達は、サーチャというお菓子を作り、友好の証に妖精達に振る舞い感謝を伝えたそうです。
妖精に恋をした人間の王子様が、妖精のお姫様と結ばれて、妖精と人間はもっともっと仲良くなりました。
それはずっとずっと幸せなお話
END
これにて完結です。
ハッピーな感じで終われて満足です
この後番外編、アナザーストーリーを書くか迷っております....
またどこかで書こうかな...
気になる部分あるよという方、是非感想にてお知らせくださいませ。
ここまでお付き合いいただきましてありがとうございました!
主人公、めっちゃ愛されております。
◆誤字報告ありがとうございます。
非常にありがたいです!感謝です!
数ある小説の中から、この小説を読んでくださりありがとうございます。
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