22黒髪の妖精
王城の門を抜けて、少し進むと、美しい花や木が生い茂り、丁寧に手入れされた園庭が姿を現す。その見事な庭を越えると、城に足を踏み入れるための扉が現れる。
門番が守る扉を抜けると、長い廊下、その先に大きなホールが現れる。そこに通されたのは、この度の魔物の侵攻に貢献した英雄達だ。
つまるところ、兵士や騎士達、暗く魔法も使えないなか、多くの魔物を倒し、この国を守った全ての英雄達に、と大規模なもてなしが行われていた。もう夜も遅く夜明けが近いと言うのに、そこは実に賑やかで活気が溢れている。
騎士や兵士には貴族も多いが、平民も多い。
その中には確かに階級も存在するが、基本的には実力主義。貴族の上に平民が立つこともあるし、功績を上げていけば望む貴族の称号を賜ることもある。
とはいえ、そこに壁が存在するかと言えば、殆どがそうではないのだ。多少の確執や対立のようなものはあるが基本的には気易い間柄なのである。
その性質がよく出るのが、懇親会、慰労会、慰安会、俗に言う飲み会である。
立食という形が採用され、そこには、果実酒やビール、ワイン、シャンパンにウイスキーと平民の好むようなラインナップも組み込まれている。
まさに宴である。
医務室を後にし、元いた場所でファルマン様を探そうと、たどり着いた先では賑やかな宴会が開かれていた。
「お嬢様!お疲れ様でございます」
ヒョロリと飛び出した頭がこちらを向いたかと思うと、その周囲にいた騎士の人たちまで私の方を向き、思いもよらない注目にどきりとする。
しかしこれほど沢山の人がいる中でよく私を見つけられたものだと感心する。
背が高いと随分と見えてる世界が違うのかも。
残念ながら女性としては平均的な身長の私は、前世でも今世でも170を越したことはないため、わからない。
幼い頃にお父様やお兄様達に抱き上げられた時に恐ろしく視界が高くなって怖くて泣いたことがあったっけな。
よく周りが見渡せたかどうかまでははっきりとは覚えていない。
たくさんの料理をせっせとお皿に盛り付け忙しなく私の元に駆けつけたルノワールは、実に幸せそうにその料理を見せびらかしてきた。
確かにどれも珍しく美味しそうではある。
「よろしければお嬢様もこちらをどうぞ」
先ほど盛り付けた料理は自分のためかと思っていたら私用だったらしい。綺麗に少しずつ盛られた色とりどりの料理は心躍るものがあった。
「ありがとう、ルノワール。とっても美味しそうね。これは何か知ってる?」
お皿に盛り付けられた、皮がパリパリに焼かれた肉に少しスパイシーな香りのする香辛料がまぶされたものを指差す。
こんな時間にあれだが、とっても美味しそうだった。くう、とお腹が鳴る。致し方ない。
「そ、それっ、んんん゛っえーっと、それはクァーバーンと言って、空を飛ぶ鳥です!美味しいのですよ」
興奮気味に答えたのは、ルノワールの背後からピョンと現れた青年から発せられていた。
所々で裏返ってしまっている。
さらにその背後には先ほどの大怪我を負っていた青年も一緒にいた。「あ、さっきの!」と言うと、照れ臭そうに俯いてしまう。
そりゃそっか。
私だって大泣きしたところを見られたら恥ずかしくなってしまう。しかも異性。しかも歳若そうな青年だ。
ルノワールはうんうんと頷くと、自分も食べようと思ったのか、料理をとりに行ってしまった。あれだけ渇望していたのだもの。そりゃ食べたいだろう。
「おい、気安く女神に声かけるなよ」
ペシンと小気味いい音で、視線が戻る。
「いたっいいだろ、別に。突然すみません...俺はルーモフォレ特別隊の隊員のシャンクって言います。こいつはベンって言って同期なんです。ありがとうございます。本当、もうダメなんじゃないかと思ってました......ほんと、こんなことってあるんだなって...俺、これからもっと頑張るんで、いつか俺にも回復薬を作っていただけますか?」
「おいっ!」
「あ、私も!」
「俺も!」
「僕もー!」
「俺も!」
「私もほしい!」
「わたしも!」
「俺はさっきもらった」
「うんうん。私もいただいたぞ」
「ひえぇ」
わっと周囲から声が上がる。控えめだった声がやけに遠くからも聞こえるようになって手がどんどん挙がっていく。わーっと盛り上がる会場で縮こまる。
元々陰口には慣れてしまっていた今世だが、こんなに人に感謝されたりすることなんてなかったので、くすぐったい気持ちと居心地の悪さを感じる。
「こらっそんなダメだって!女神に不敬だぞ」
「俺だって女神のお恵みが欲しい」
「......ちょっとお待ちください......! 私も欲しいです!」
控えめながらも挙手をし、前のめりにズンズンと近づいてきたのはファルマン様だった。
近づく彼の目はいつになく真剣で、キリリとその美しい顔で、ググッとより近づいてきた。
カバンから回復薬を取り出し、その手に乗せると、うぐっと胸を押さえよろめいた。
周囲に集まった騎士達からは、おお!あのファルマン殿が!と声が上がる。
「ああ、なぜ... 私もまだ貰ったことないのに、この手の中のこれは私のものにならないのか...」
憎々しげに回復薬をもらったと言う兵士を見つけてはぎりぎりと悔しそうに睨みつけていた。
「あ、でも、あのファルマン様はお怪我なされておりませんし」
「......怪我...そうか。怪我をすれば貰えるのですね」
「ちがう!わざとはいけません!」
「貴女は心優しいのは素敵ですが、私以外に回復薬を渡すことはあまり.....許したくありません、貴女は私と、その恋人になったでしょう?」
「! そそそ、それは」
恐ろしいほどの儚い美しさで、肩を落としたファルマン様は悩ましげな表情も美しく、つい動揺してしまう。
周囲の人間もあまりの美しさにざわめき、息を飲み込む音がする。
「まさか、あれは友人という意味合いで...?」
「い、いいえそうではなく、」
「いえ、いいのです。貴女が私の妖精だと言う事実には変わりません......!生涯私の妖精は貴女だけだとここに、ここの騎士達に誓ってもいい」
絶望的な表情を浮かべたファルマン様だったが、すぐにパッと表情を変え、真剣に、まっすぐな瞳で私を捉える。
その手に持っていた回復薬をそっと懐にしまい、胸ポケットから懐中時計を取り出し時間を確認すると、すっとその場に跪いた。
「私はきっと貴女を振り向かせて見せます。私の妖精様」
大事そうに手にとった手の甲にそっと、触れるか触れないかのキスを贈る。
ぶわっと顔に熱が集まり、はふはふと息ができず浅い呼吸を繰り返してやっと、声が出せるかといった時、言葉を待たずにファルマン様はスッと立ち上がり、「では」と颯爽と出て行ってしまった。その光景を見た誰もが、うっとりと、まるでロマンス劇を見ているような気分になった。
それほどまでに強烈な色気を放って去って行ったのだ。
「え!あの妖精しか興味ないファルマン殿が!」
「あいつの言ってた妖精って聖女様だったのか!」
◆
妖精馬鹿な変態不落の冷徹の騎士が、黒髪の妖精様を見つけたと言う噂は、猛スピードで会場を湧かせた。
さらに興奮し盛り上がった会場で、その言葉を聞いた1番の功績者、赤髪の鬼神2人が怒り狂い、それを納めた者達をさらに慰藉すると言うおかしな事になってしまったが、誰もが納得したようだった。
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