18 ベルモンド家の特攻
まだ続きます
「すぐ後ろは王都だ! 一体も通すなよ!」
騎士達と共に大地を駈けていたジャンドールは、ビーンと劈く様な大声で叫んだ。
その言葉を皮切りに、ビュンと飛ぶような速度でぐんぐんと進み、馬でかけるよりも速く、1人前へ前へ飛び出した。
そのすぐ後ろをサラドールが追い、そしてさらに奥に騎馬隊、歩兵隊と続いている。
「ジャンドール、空を飛んでいる鳥型は私が引き受ける。地上のものは頼んだぞ」
「うむ。任された!」
その言葉と共に、さらにぐんと地をかける速度を上げる。
サラドールは、視界の端に魔物を確認すると、走る速度はそのままに空中に躍り出た。その跳躍力は凄まじく、はるか上空へと駆けていく。
手慣れた動作で弓を素早く構えると、数本同時に弓を引いた。
一直線に飛んでいった複数の矢は、鳥型の魔物の脳天を次々に貫き、その巨体は床に墜落してゆく。同じように何度も弓を引いては次々と墜落していく鳥獣達。
数秒の間にある程度の数を仕留めた後、背に担いでいた得物を引き抜いた。背丈以上もある長い棒の先に、鋭い弧を描く刃先が伸びる。体が落下するのに合わせて、地面に突き立てた。
着地と同時に大きく土煙が上がるが、気を取られることなく、手に持つ薙刀と呼ばれる武器をぐんと回し、先にかけて行ったジャンドールに合流すべく地を蹴った。
ジャンドールが飛び込んだ先には、恐ろしいほどによく伸びた牙の生えた獅子のような姿の魔獣が、何十、何百と雪崩れ込んできていた。
ジャンドールはその中心に転がり込むと、二刀を構えた。
二刀は鎖で繋がれており、鎖の部分を掴むと自らを軸にぐるりと大きく振り回した。
周囲を囲み、飛びかからんとしていた魔物たちは空中で胴と脚が真っ二つに切り離され、ボトリボトリと床に肉の山を作る。
その肉の壁の向こうから次々に飛びかかる魔物たちを叩き切っていく。
「ふむふむ。私は取りこぼしてしまったか兄上?」
ひと段落とばかりに、ジャンドールは刀を大きく振り回すのをやめ、向かってくる一体一体を斬りつつ、周囲を見回す。
「大丈夫なようだ。流石だジャンドール」
上空から降りてきたサラドールも、薙刀で空中の鳥を何体も串で刺すように、地べたに縫い付けた。
「早く終わらそう。何かがおかしい」
「そうだな。残すところどうだ? 顔のついた鳥が10、人の胴がついた馬と、犬が100、くらいか?」
「ふん。魔法でひと焼きだ、な......あ?」
「どうした?」
手を振り上げ、薙ぎ払うような仕草をしたジャンドールは、何も起こらないその腕を見て、こてん、と不思議そうに首をひねった。
「魔法が使えん」
「魔法が?」
サラドールもグッと腕を握り、魔法の力を探ってみるも、使おうとすればするほど、その存在がぐんぐんと姿を消していくのを感じた。
「......何かが、おこっているのか......?」不意に、ルーモフォレの方向を見やるが、舞い上がる土煙と、肉塊となった魔物の残骸、そしてその奥は兵士で埋められている。サラドールは、床に落ちている鳥獣から矢を抜きとり、そして弓を構えた。「仕方がない。力勝負だな」ぎちち、と弓がしなり、声を上げる。
「そうだな、それがシンプルでいい」
よし、と気合を入れたジャンドールは、迫り来る第二波と言わんばかりの大群の魔物の群れをみやる。黒い塊となったそれは奇声や唸り声をあげ、何とも不気味な集団だった。
後方には、自分達を慕いついてきた部下達が、仲間がいる。
何も案ずることは無い。自らを鼓舞し、大地を蹴った。
二刀の刃は、空を切り、地上に肉の山を作っていく。
幾つもの矢は、閃光のように鋭く魔物を射抜き、魔物達の壁はガタガタと形を崩していく。
2人の赤い騎士は敵を凄まじい速度で薙ぎ倒し、射り、捌き、圧倒的に制圧した。その様は、実に鬼神と呼ぶにふさわしい姿だった。
◆◆
焦げ臭いにおいに、何かが燃える音を感じながら、ティナは何者かに揺さぶられ目を覚ました。
うっすら目を開くと、10歳も行っていないような小さな少年がティナを揺さぶっていた。
ハッとしてあたりを見回すと、パチパチと言う音と一緒に、真っ赤な炎が一面を覆っている。
この場に似つかわしくない小綺麗な少年は、この状況の中、気だるげに眠そうにしている。
「おお、起きたか? 貴様よくこのような場所で眠れたものだ。早く逃げるが良い。他の妖精は逃した」
「あ、あなたは…? なんでここに子供が? 妖精? 妖精を、逃すって……?」
「ああ? ここ数100年聖女なり何なりが現れないせいで力が弱まっておるのは知っての通りだろが。眠いし火事だし小さくなっとるし最悪だよ。何も知らんか? あ? 貴様さてはまだ生まれたばかりか? うん?」
少年は怪訝そうな顔をしたが、不可解そうにジロジロと顔を近づけ、クンクンと匂いを嗅いだ。
途端に、面白そうに顔がクシャリと歪み「貴様人間か」とケタケタ笑い出した。
「なぜそんなに妖精臭いのだ?貴様もしや聖女か?」
「せいじょって、そんな冗談、それより早く逃げないと……」
少年の背後を見れば、すぐそこまで火の手が迫っていた。
「ふんふん…違うか。では転生者というやつかな。ふふふ、して貴様、いいものを持っているな」
「え?」
少年は何かがわかったようにうんうんと頷きながら、おもむろに私の傍に捨て置かれていた鞄に手を伸ばした。
手に握られていたのは私が作った回復薬だった。
「これはいいな。これはいいぞ。わざわざ形をとった甲斐があった。ふむふむ。これがあれば話は別だ。ははは運がいい」
そう嬉しそうに言うと、指でボトルの蓋を弾き大きな口を開き、ぐいと飲み干した。
その瞬間、ブワリと風が吹き、カッと眩いほどの閃光が走ったかと思うと、目の前の少年があっという間に巨大な大人の姿へと変化を遂げていた。
そこからはそれはもうあっという間の出来事で、私が声を上げる間もなかった。その光景に言葉も出なかったという方が正しいだろう。神秘的な光景に、目を奪われる。
少年だった人物は、するりと大人になり、あっという間にそれはそれは大きな建物のような巨大さに変化していた。
大人になった少年はニヤリと笑み、何かを確認するように頷くと、グッとその巨体をかがめた。
大きな顔が私のすぐそばまでやってきて、またもや実に満足そうに微笑み、燃え盛る炎に向かって、ふーと息を吹きかけた。
そっと吹いたというのにものすごい風圧が体を襲う。
たったのひと吹きで火が消え、草や土の匂いが帰ってくる。
燃えて倒れた木が、焦げ落ちた草が、焼けて消し炭になった果実が、一気に息を吹き返す。
まるで、いや、これぞまさしく魔法だった。
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