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17燃え落ちる森




 ジャンドールは、苛々としていた。


 今までで1番だと言っていいほどの苛立たしさで、頭が煮えたぎりそうな思いだった。


 この場所にたどり着いて四半刻。

 騎士たちの詰所の中を忙しなく行ったり来たりと動き回っていた。

 

 行方不明となったティナの捜索を騎士団に願い出たが、組織というものはなかなか腰が重いもので、許可の二重三重の後にようやく行動ができるといったものだった。


 自身がその騎士団に所属しているのが足枷になっていることがもどかしく、その事実こそがジャンドールをさらに苛立たせた。


 王国のために働いている自分たち騎士はそれを重んじなければ下に付く者達に示しがつかない。


 平時の行方不明者の捜索と同じ手順を踏むのだが、それにしたって遅い。遅すぎる。

 

 同じように、サラドールもまた静かに腰を下ろしているとはいえ容易には近寄れない空気が出ている。


 交代を待つ兵士や、騎士たちが待合室や更衣室として使うこの場所に不穏な空気が流れている。

 この場所に居た兵士や勤務の前に準備を整えている騎士達は、一体どうしたことだろうと、思うも、声をかけられずにいた。

 

 コンコンと扉を叩く軽い音が数度響くと、緊迫した表情のファルマンが数人の騎士を引き連れて部屋に入ってきた。

 


「サラドール殿、ジャンドール殿お待たせいたしました。捜索に我が部隊の隊員を当てていいとの許可をいただいてまいりました。誘拐か、他国への販売目的かもしれません。少々時間が経っているのが気になります……国境などに向いましょうサラドール殿、何か脅迫文などは届いては?」


「ない。そうだなルノワール」



「はい。他の使用人からの報告は今の所ありません」


  


「ファルマン隊長!」


 バタバタ、と大きな音を立てて部屋に勢いよく飛び込んできたのは、ルーモフォレ部隊の隊員の一人、ルーモフォレ特別隊の副隊長を務めるロビンだった。


 額に汗を滲ませ、かなり慌てた様子に、その場にいた全員に緊張が走る。ロビンの顔色は真っ青だった。


 息を切らしながらも、その口からしっかりと状況が伝えられる。

 その内容に誰もが息を呑んだ。


 ロビンの報告と共に、ドン、と大地が揺れるほどの衝撃が国中に響いた。



◆◆




「動ける隊は直ちに私に着いてこい!」


「急ぎ他の隊にも連絡。隊員をかき集めなさい。私たちは先に向かう」




 

 ジャンドールとサラドールの指示により、突如慌ただしく詰所がざわめき出す。


 隊員の報告で、交代を予定していた隊員2人が戻らない、連絡も取れない事が発覚した。

 さらにはその報告と同時に起こった大きな地鳴りと共に、谷境の隣国との国境で魔法による結界が崩落。魔物がなだれ込んできたとも報告が入ったのだった。


 各地で非常事態が起こる今、サラドール殿とジャンドール殿は国境付近へ向かい、私とロビンはルーモフォレに急ぎ向かうこととなった。

 

 着いてみると、そこには信じられない光景が広がっていた。

 燃えている。

 森が燃えていた。

 大きく広大だった美しい森から炎が上がっている。


 交代を予定していた隊員たちはどこへ行ってしまったかと目を凝らすと、森の端に捨て置かれるように転がされた塊が目に入った。何かと駆け寄ると、探していた隊員たちだった。



 近くによれば、ぬちり、と床がぬかるむ音がした。



 土を踏みしめた足下を見れば、あたり一面の土が血を吸って黒く変色し、さらに地面を緩くしていた。


 血の出どころを探れば、それは隊員達から流れ出たものだった。


 足首が切り刻まれ、あらぬ方へ向いてしまっている。文字通り皮一枚という状況に思わず顔に力が入る。


「おい! 大丈夫か! 一体何が…」


「う、ぐ、」


「っ喉が……なんということを」


 隊員の男に駆け寄り、口もとに耳を寄せると、ヒューヒューと空気の抜ける音ばかりが顔に吹きかかるばかりで、言葉が出てこない。

 どうやら喉を潰されているようだった。


 程近くに倒れていたもう一人の隊員も、一緒にやってきたロビンが駆け寄るも同様の状態で、ぎりぎりで息をしてはいるが、ピューピューと掠れた音を繰り返すばかりで、意識はない。時間は経っているようだが、未だに止まっていない足首の出血の応急処理に、服の布を破き止血を施す。



「手持ちの回復薬では役に立たない。ロビン、急ぎ救援要請を呼べるか」


 ロビンは「しかし」と渋るが、倒れた2人の隊員を見やると、グッと歯を食いしばり強く頷いた。



「わかりました。すぐに…」




 突如、ロビンの顔がこわばり、大きく叫んだ。




「隊長! 後ろ!」



 振り返ろうとすると、どん、と腹回りに衝撃が走った




「隊長!」



 どんとロビンが体当たりをし、腰に巻き付いた「何か」を引き剥がす。



「やめなさい! 触らないで! ファルマン様! ファルマン様やめさせて!きゃっ」



「この、大人しくするんだ! 貴様っ何者だ? 何故ルーモフォレから出てきた!」



 ルーモフォレから、出てきた……?


 ロビンによって拘束された人物を見やれば、悲しげに訴えていた可憐で儚げな少女の顔がぐしゃりと歪む。


「おい、あの中で何をしていた…? この森に火を放ったのか貴様っ!」


 ロビンが怒鳴るも、全く聞こえていないように、ちらりとも見遣りもしない。まるでロビンなど存在しないかのように、反応すらしない。



「ファルマン様ぁ、怖いわ、助けてファルマン様。そうよ、わたくし、わたくし殺されかけたのよ、あの魔女に!」



 は、魔女?だと?聞き馴染みのない言葉に、思わず首を傾げる。



「魔女?」



 ロビンも聞きなじみがないのか、怪訝そうな声をあげる。



「そう! そうなの! あの魔女がわたくしを殺そうとした! 森に火もつけて! 妖精は自分だけだって言って! わたくしこそが妖精だから、わたくしを殺して、森も焼いてファルマン様を自分のものにしようとしたのですわ! あの魔女!汚らしい、黒い髪の魔女!」



「何の、話だ?」



 まるでパニックを起こしたように。まるで獣のように。ハニーカスタードの艶やかな髪を振り乱し、唾を飛ばしながらヒステリックに叫ぶ女は魔女魔女と興奮したように叫んだ。

 この女の言う魔女とは、なんだ。

 黒い髪の魔女...?



「わたくしこそが妖精なのに! わたくしのファルマン様を奪おうとする売女! 魔女ですのよ! あの女! ティナ・ベルモンド!」




 女の叫断に紛れた言葉に、息が止まる。


 はっと、女から目を離し、見上げれば、轟々と音を立てて木々が倒壊し真赤な山になっている、森。




「は...、ティナがあの中に、いるというのか……?」




数ある小説の中から、この小説を読んでくださりありがとうございます。


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