12 回復薬の効果
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土煙があがり、金属のぶつかり合う音が激しくなるにつれ、だんだんと歓声も大きくなっていく。
舞い上がった土煙で視界がいいとは言えないが、ジャンドールお兄様の赤い髪が目印になり、ようやく、なんとか目で追えている。
目の前の攻防に集中していると、近くの席から愉快そうに話す騎士の会話が聞こえてきた。
「あのベルモンドの次男坊か。相手はファルマン。見応えのある模擬試合だな」
「なんでもジャンドール・ベルモンドの方からふっかけたらしいじゃないか。珍しい事もあるもんだ」
「ファルマンも受けるとは。珍しいといえば珍しい。最近はさらに熱が入っているが、以前は喧嘩をふっかけられても無視していたじゃないか」
「何があったのか......なんでまた団長クラス同士が」
「さぁなぁ」
騎士達の話に気を取られている間に、バキリ、と鉄が鳴く音が聞こえ、真っ二つになったサーベルの剣先が床に突き刺さっていた。
「ひゃっ」
驚きでつい声が上がるが、周りの声が大きく、小さな悲鳴は跡形もなく消え去った。
何か会話をしているらしいが、この距離では聞き取れない。しかしどう見てもお兄様が脅しているように見える。
声が聞こえていた人がいたのか、この状況に興奮しているのか。はたまた見学に来ていた学生達には刺激が相当強かったのか。わっと地が揺れるほどの湧き上がる歓声が上がる。
居ても立っても居られず、席を立った。
自分の友人と兄の試合をゆっくりと鑑賞できるほど、私の肝は据わっていない。
どちらかに頑張れとも声援を送る事もできずソワソワとしている私はさぞ不審だっただろう。
何せ、友人を訪ねただけなのに突然自分の兄と真剣で試合していただなんて、衝撃以外の何者でもない。
銃刀法違反の存在する日本で生まれ育った過去を持つ私には少々刺激が強すぎる。いや、強すぎた。
グラグラとする頭を抱えて、急ぎ、来た方向と逆に位置する出口の方へと向かった。
歓喜の声を上げる女性達をかき分けて、ようやく出口に出たところで、ホッと一息をつく。
観覧席のように作られた場所を抜けると、大きな柱がずらりと並んだ長い廊下が現れ、そこは幸いな事にあまり人がいなかった。
どうやら、そこは演習場に訓練にきた兵士や騎士達が出入りするような、柵がかかった門へと続く廊下であった。
カバンに入った回復薬を確認し、それが無事であるかを確認する。
あれほど混み合った場所を抜けてきたので、回復薬が入った瓶が割れてしまってはいないかと心配だったが無事だったようだ。
「お兄様もファルマン様も怪我していないかしら......」
あれほど真剣で打ち合ったのを考えると、とても無傷では済まない気がする。
あんなに遠いのにものすごい音が聞こえてきてたのだから、どんなに屈強で豪然たる人達だとしても擦り傷すらないなんて有り得ない。
そっと廊下の奥を覗き込むと、運良くお兄様が歩いてくるのが見えた。
家の外で会うのも、この建物で会うのも初めてなので近づいていいものか一瞬間迷う。
そもそもこの建物に足を踏み入れたのも初めてなので当たり前なのだが。
「おや?ティナか?」
「ジャンドールお兄様」
迷ってうろうろとしている間に私に気がついたお兄様が駆け寄ってきてくれた。
思えば、幼い頃からこの兄は私がモジモジと悩むたびに駆け寄ってきてくれる。
それは言葉がわからなかった時から変わってはいない。この兄の優しさなのだ。
「見ていたのか? ルノワールはどうした? 」
「私もういい歳になりましたよ。お守りが無くとも大丈夫なのですよ」
「ほほぉ、それを聞いたらサラドール兄上は泣くな」
「サラドールお兄様に言うと、ルノワールがお叱りを受けて泣くので内緒ね」
「そうか。相分かった」
ははは、と豪快に笑ったかと思うと、パンパンと手の埃を払い、その大きな手で私の頭を撫でた。
その腕にかすかに切り傷がついていたのを見つけ、ハッとなる。よく見れば、頬や首筋、至る所が皮膚が裂けて血が滲んでいた。よく見れば、撫でつけていた反対の手の指は浅黒くなり爪が剥げている。とんでもない状態だった。
その割に飄々としているところがとんでもなくアンバランスで、不安になる。
いけないいけない。楽しく話をしている場合じゃなかった。お兄様を探した本来の目的を忘れるところだった。
「お兄様、怪我をしているわ。これを使って」
「ああ、回復薬か。擦り傷程度だ。使わずともじきに治るよ」
「傷口からばい菌が入るわ。そうなったら大変......私が作ったものを持ってきていましたから」
「ばい菌か。それは大変だ。ああ。ティナのは何故だか本当によく効くからな」
アンティークな香水瓶のような形状の手のひら程度のボトルを受け取ったお兄様は「ありがとう」と言うと、それを一口で飲み切った。
そうすると、一度だけふわっと微かに風が起こり光の粉がピカピカと舞う。
その光の粉が床に落ち、消える頃にはすっかり傷口はなくなり、滲み出た血の跡すら残っていなかった。
小さな頃からこれだけは得意だった。
異常なほどよく効く回復薬を作る事が唯一の得意な事だ。
昔、よく遊んで大怪我をしたお兄様にこっそり渡して怪我を隠蔽していたことを思い出す。
骨折すら治せてしまうので重宝したものだ。
主にサラドールお兄様に怒られたくないジャンドールお兄様がだが。
「うん。いい感じだ。近衛騎士団の回復薬じゃあこうはいかないんだ」
「こうはいかない? 」
「そうだな。まず骨折は治らなかったな。国から支給された上級回復薬でやっとってとこだ。うーん。不思議だなぁ」
「それは...」
それは作っている人の腕がものすごく悪かったのか、運悪く出来が芳しくなかったのかもしれない。回復薬は基本的には手作りなので、その時々によって出来は変わる。よくある話だ。
回復薬、作るだけの仕事ってあるのだろうか?
そう考え込んでいると、パタパタと誰かが駆け寄る音が聴こえ、段々と近寄ってきているようだ。
ちょうどお兄様の大きな体で誰がこちらに向かってきているのかわからなかった。
こちらに向かってきているのはわかるので、少し避けて確認しようとすると、お兄様が両手ですっぽりと顔を固定してしまった。
な、何をする...
「はぁ〜、しまったな〜早く移動すべきだったか」
うんざりしたように天を仰いだお兄様は、足音が止むと、諦めたように振り向いた。
「ジャンドール殿!」
そこに居たのは、私が本来会いにやってきた張本人。
回復薬を両手に持ったファルマン様だった。
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