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チートな俺が、チープなあたしに変わったら、くすぐりに悩まされる日々が待っていました  作者: 広瀬みつか


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97.ガールズトーク、と思いきや……

 ミユウたちが“アレスティ”に到着したのは、メイリスと分かれてから4日後の夕方のことである。

 “アレスティ”は大都市“フレイムサンドロス”までの中継点として作られた町であり、そこまで規模は大きくない。

 しかし、多くの旅人がこの町で寝泊まりするということもあり、宿屋や旅の必需品を取り扱う店は充実している。

 ミユウたちは到着して早々足らなくなったものを一通り買い揃えると、自分たちの泊まる宿屋をみつけた。

「今回は一人一部屋です。本当は大部屋を借りた方が安く済むのですが、大部屋が見つからないのであれば仕方ありませんね」

「これだけの大人数が同じ宿屋に泊まれるいうだけでもええんやないか」

「最近は野宿が続いとったし、昼間はずっと歩きぱなしじゃったし、これぐらい贅沢してもええじゃろう」

「まあ、贅沢といっても一部屋一部屋は結構小さいけどね。でも、一人で泊まるのって久しぶりだな。確か、にぃには前の宿は一人部屋だったよね」

「そうだけど、ネコマタに襲われるし、サヤに誘拐されるし、アストリアと一晩を過ごしたし、全くゆっくりできなかったよ」

「そ、そのことは反省してるよ~」

「おや?おかしいですね。その言い草ですと、私と夜を一緒にしたことが苦痛だったと聞こえるのですが……」

「…………さ!みんなも疲れてることだし、早速それぞれの部屋に入ろう!」

「うぅ。ミユウさんの言葉の真意が気になりますが、とりあえず休みましょう」


 ミユウたちは宿屋の2階にある5つの客室を使うことになった。

 奥からミユウ、アストリア、サヤ、イリイナ、シュナの順番である。

「荷物を置いた後、一緒に夕食を頂こうと思うのですが、いかがですか?」

「うちはそれでええで」

「ボクもじゃ」

「あたしも!外で食べるのも楽しいけど、やっぱり室内の方が落ち着いて食べられるよ」

「あたしはパスする」

 そう言ったのはミユウである。

「ミユウさん、夕食はいいのですか?」

「今はいい。あんまりお腹もすいてないし、疲れてるから寝たい」

「珍しいのう。ようけの敵と戦っても息切れもせんから、てっきり不殺族は疲れなんて知らんもんやと思っとったわ」

「不殺族をなんだと思ってるの?あたしたちだって疲れるときは疲れるんだよ」

「随分と弱々しくなったね、にぃに。もうそろそろ隠居の時期かな?」

「う、うるさい!とにかく今日は寝る!」

 そう言い残すと、ミユウは自分の部屋に入り、思いっきりドアを閉めた。


 残されたアストリアたちは不思議そうに互いの顔を見合った。

「なんか不機嫌だね。どうする?もう少し誘ってみる?」

「まあ、無理矢理つれ出す必要はないやろ。ミユウ抜きで行こうやないか」

「そうですね。ミユウさんも子どもではないのですし、自分の食べる分は自分でなんとかするでしょう」

「そうじゃのう。さすがに宿の中におったら捕まることはないじゃろうし」

「「「「…………」」」」

 その場で4人が黙り込む。

 今までミユウを一人で行動させていると何らか問題に巻き込まれ、拘束されていた。それも奇跡と言えるほどの確率で。

 その上、うちの数度は宿でいたときだった。

「どうする?誰か一人留守番する?」

「そうやな。心配やし、うちが残ろ……」

 イリイナがそう言いかけた時、廊下の奥から妙な気配が漂っていることに気づく。

 全員が一斉に振り返ると、奥の部屋のドアが少しだけ開いていて、ミユウの顔の右半分がアストリアたちをじーっと見ていた。

 どうやら自分がいなくなった後にアストリアたちが何を話しているのか聞き耳を立てていたらしい。

「み、ミユウさん?」

「あたしはそんなにバカじゃないから留守番なんて要らないよ!」

 再びミユウは部屋の中に閉じこもる。

「より不機嫌にさせちゃいましたね」

「これ以上ミユウに構っても火に油を注ぐだけじゃろ。ほっとくんが一番じゃ」

「ですね。では、それぞれの部屋に入って荷物を置きましょう。余裕をもって6時に1階に集合しましょう」

「「「おう!」」」

 アストリアたちはそれぞれ割り当てられた部屋に入っていった。



 ーーー




 宿に到着してから1時間後、ミユウを除くアストリアたち4人は宿屋の1階に集合し、町へと繰り出した。

 イリイナとシュナは酒屋に向かおうとしたのだが、今回は未成年のサヤがいるということで、アストリアが小さな食堂を選んだ。

 酒は置いてあるが、たしなみ程度の品数で、客のほとんどは料理をメインに楽しんでいる。

 これに一番不満を持ったのはイリイナやシュナではなく、サヤだった。

「またこうやってあたしを子ども扱いする。そりゃ年齢でみたら子どもかもしれないけど、身体や心は十分大人なんだよ。だいたい……」

 サヤは愚痴をこぼしながら、出された料理を口に放り込む。

「こらこら。食べながらしゃべらない。行儀が悪いですよ」

「そういうところがまだ子どもやね~」

 イリイナはエールの入ったジョッキを片手にサヤの頭をなでる。

 アストリアもイリイナからの勧めでエールを少しずつ、その隣でシュナは暖められたセイシュを小さいコップで飲んでいた。

「イリイナさん、飲み過ぎではありませんか?シュナさんもほどほどにしてください。今日はサヤさんも同席しているのですから」

「むっ!」

 それに不服なのか、サヤは頬を膨らませた。

「本当にあたしは大人なんだよ!」

「はいはい。サヤたんは立派な大人でしゅね~」

「嘘じゃないよ。なんたって……」

 そこまで言うと、サヤはアストリアの顔を見てニヤッと笑った。

「あたしはにぃにとキスしたことがあるんだからね~」

「なっ!」

 挑発するサヤの言葉がアストリアの心に鋭く突き刺さる。気をしっかりと保たなければ、危うく後ろに倒れていただろう。

「あ!ごめーん!確かアスねぇはまだだったよね~?あたしよりも大人なはずのアスねぇはね~」

「ぐぬぬぬ……」

 アストリアは苦虫を噛みつぶすような表情で、勝ち誇るサヤを睨んだ。

 そんなアストリアをにやけながら見つめるのはイリイナとアストリアだった。

「なんや?あんたまだミユウとキスしてなかったんか?情けないなぁ」

「ほっといてください」

「そんな奥手じゃったらミユウも離れていくで」

「大きなお世話です」

「でも、そうなったらボクにもチャンスが……」

「ちょ、シュナさん!チャンスとはどういうことですか!」

「あのなアストリア。うちが言いたいんは。許嫁やからと油断してたら誰かに奪われるということや」

「油断だなんて……」

「まあ、恋敵の立場からすれ自滅してもらった方がありがたいけどな」

「うぅぅ……」

 アストリアはその場でうつむいたまま沈黙する。

 しかし、しばらく経つと「ふふふ」と地の底から響くような不気味な笑い声を出し始めた。

「どうしたんや?自分の立場の危うさに絶望しすぎて、頭がおかしくなったんか?」

「違いますよ。みなさんの方こそ随分と油断されいると思うと、笑いがこみ上げてきたのです」

「どういうことや?」

 アストリアは先ほどと打って変わり、自信満々に咳払いをゴホンとする。

「確かに皆さんはミユウさんとキスを経験済みで、私はまだです。その事実で、私が皆さんに遅れをとっている。このことは認めましょう」

「そうじゃ。さっきからそういう話をしよるじゃろ?」

「しかし、その遅れを一気に取り戻す手段を私は知っています。むしろ立場を逆転できるかもしれませんね」

「「「立場を逆転できる?」」」

 アストリアの言葉に3人の表情が変わる。そして、彼女たちの視線はアストリアに集中する。

「アスねぇ!それは一体どんな方法なの?!」

 サヤが机に身を乗り出し、アストリアに訊ねる。

「それはお教えできませんね。教えてしまえば、先を越されてしまいますから」

「ねぇお願いだから」

「言えませんね」

「アスねぇのケチ!」

「なんと言われようと無駄です」

 アストリアは優越感に浸りながら机の上のエールを口の中に流し込んだ。しかし、エールの炭酸にあまり慣れておらず、咳き込んでしまう。

「ははーん。なるほどな~」

 隣にいたシュナがジトッとした目でアストリアを見る。

「なんですか?」

「君、見栄を張っとるだけじゃろ?」

「いきなり何を!」

「ボクらがミユウとキスしたことがあまりにもうらやましゅうて、嘘をついてしまったんじゃ」

「私は見栄を張ってるわけでもないですし、嘘もついていません!」

「そこまでせんでもええよ。君の気持ちはよう分かるけん」

「だから本当です!」

「じゃあ、どんな方法なんじゃ?」

「それはミユウさんの方から……む!」

 アストリアはとっさに自分の口を両手で押さえる。

「謀りましたね?」

「にひひ。普段の冷静な君ならこんな口車に乗ることもないじゃろうが、今は随分と酔うて頭の回転が鈍いようじゃのう。簡単に騙せたわ」

「うむむ。なんと卑怯な……」

「ところで、ミユウに何をさせるつもりじゃ?」

「ふんっ!」

 アストリアは席を立つと、シュナたちに背を向けた。

「私は先に宿へ帰ります!あとで悔しがるといいです!」

 そう言い残し、店を出ようと足を踏み出した、次の瞬間だった。

 アストリアの体が後ろに引き寄せられ、再び椅子に座っていた。

 それはシュナが羽交い締めにしていたからである。

「何をするのですか!放しなさい!」

「情報を独り占めするんは感心できんのう。そこまで言うてしもうたんじゃから、最後まで教え」

「嫌です!何をされようとお教えできません!」

「そうか。何をされても教える気はないんじゃな?」

 シュナはサヤとイリイナにアイコンタクトをとる。

 それを受け取ったサヤとイリイナは席を立ち、アストリアの前に移動する。そして、彼女の上半身に手を伸ばして、思いっきりくすぐり始めた。

「ちょ、ま、あ、あははははははははははは!」

「早くいいや。我慢は体の毒やで」

「やめて、くだいあははははははははは!」

「いままでくすぐられた分のお返しだ!」

「いひひ、覚えて、おいて、くだひゃい、いひひ。シャヤしゃん、だけは、許しま、あははははははははは!」

「なんであたしだけ?!」

 すると、食堂の奥から給仕の若い女性がアストリアたちの元に近づいてきた。

「あの、お客さま。他のお客さまの迷惑になりますので、騒がれるのはご遠慮願えませんでしょうか?」

「あはは、ほら、お店の、方々の、迷惑になはははははははは!」

「そう思うんじゃったら、早う話や!そうしたら、すぐにもやめたる」

「わ、わかりました!言いますから、やめてください!」

 その言葉を聞くと、サヤとイリイナはアストリアの上半身から手を離し、シュナもアストリアを解放する。

 アストリアは胸に手を当て、何度も肩で呼吸する。

「でも、アスねぇの弱点もくすぐりだったなんて。いいことを知った。これでアスねぇも怖くないよ」

「はあ、はあ、それはどうでしょう。今回は油断してしまいましたが、次からはこのような醜態はさらしません。逆に反撃してみせますから、覚悟してください」

「うっ。気をつけます……」

 サヤとイリイナが自分たちの席に戻ると、再び3人の目線がアストリアに集中する。

「ところでや。さっき言ってた、うちらと立場を逆転できる方法ってなんや?

まさか、ここにきて“やっぱり教えません”はないやろうな」

「強引な手を使って言わされたとはいえ、一度約束したことを曲げるようなことはしません。ちゃんとお教えします」

 アストリアは乱れた髪と服を整え、ゴホンと咳払いをする。

「まず、皆さんがキスをした状況を思い出してください」

 アストリアに言われ、3人はそれぞれの記憶を遡る。

 イリイナは“トーア”の宿で朝を迎えたときに、シュナは“ニアクル”で彼女の尻尾を勝手に触った罰として、サヤは“クリアスティア”で森の中に誘拐したときにミユウと唇を交わしていた。

 そのことを思い出したのか、3人は頬を染めて目線を落とす。

「思い出しただけで恥ずかしいなぁ……」

「ちょっと!私は皆さんに甘い記憶を思い出させるために言った訳ではありません!」

「すまんすまん。しかし、それがどうしたというんや?」

「よく考えてみてください。皆さんのキスは全て皆さんから強引にされたものであり、ミユウさんに求められてしたものではありません」

「どうも分からんなぁ。あんたは一体何が言いたいんや?」

「いいですか?つまり皆さんのキスはあくまで皆さんからの“一方的な愛情表現”であり、『私はあなたが好きです』と告白することとさほど変わりません。既にその感情を伝えている私たちに何の意味があるというのでしょうか?」

「「「!!」」」

 その時、3人に電流のような衝撃が走った。イリイナとシュナに関しては一気に酔いが覚めるほどの強い衝撃である。

「そそそそそそそ、そんなのアスねぇの負け惜しみでしょ?」

「サヤさん、コップを持つ手が震えてますよ」

「こ、これは……」

「その様子ですと、私の言葉でサヤさんも理解したのでしょう?あなたたちと私の差はそれほど空いていないということを。それもすぐに追い抜くことができるほどにね」

「うぬぬぬ……」

 サヤは胸を張るアストリアを妬ましそうに睨んだ。

「それでさっきの話に戻るんじゃが、君の言う“僕たちを逆転できる方法”とはなんじゃ?」

「簡単な話です」

 アストリアは右手の人差し指を立てると、自分の唇に当てる。

「ミユウさんの方からミユウさんの意思でキスをしていただくのですよ」

「なるほどな。いわばそれは“ミユウからの愛情表現”。同じように見えても、こっちからするキスとは価値が全然違うという訳や」

「しかし、言葉では簡単なように聞こえるが、あの奥手なミユウからキスをさせるんは困難なことじゃ」

「そのことは私も十分承知しています。しかし、私には秘策がありますから」

「秘策?!それってどんな方法なの?」

「おっとこれ以上は言うつもりはありません。極秘事項ですから」

「言うつもりがないなら……」

 サヤはアストリアの隣に座っているシュナに目で合図を送る。

 それを受け取ったシュナがアストリアの背後から再び羽交い締めにしようとした瞬間、パチンと指の鳴る音が聞こえた。

「ひにゃ~~~~!」

 間抜けな声を出しながら、シュナが椅子から崩れ落ちた。

 サヤとイリイナが身を乗り出して確認すると、シュナの尻尾を4つの小さなマジックハンドがくすぐっていた。

「にゃ、にゃにをするんじゃ~~」

「先ほどお伝えしたはずですよ。もう同じ醜態はさらさない。今度は反撃すると」

「く、くしょ~~」

 アストリアが再び指を鳴らすと、シュナの尻尾をくすぐっていたマジックハンドが姿を消した。

「とにかく私はこれ以上話すつもりはありませんから」

「そうか。まあ、これ以上問い詰める気はないわ」

 イリイナは席に座り直すと、ジョッキに残っていたエールを飲み干す。

「しかし、ええこと聞いたなぁ……よし!」

 そうつぶやくと、再び立ち上がる。

「どうされましたか?」

「急用ができたもんやから、先に帰るわ」

「え?こちらに入って、それほど時間は経っていないではないですか?食事もまだ……」

「ええよ。帰りに適当なもんを買うから。あ、うちが飲んだ分はちゃんと置いていくから安心して」

 イリイナは胸ポケットから3000リール分の硬貨を出して、机の上に置く。そして、そのまま店を出て行った。

 すると、床に倒れていたシュナが腕を伸ばし、イリイナと同じように3000リール分の硬貨をチャリンと机の上に置いた。

「シュナさん、これは?」

「き、急用を思い出した……」

「シュナさんもですか?!」

「済まんが、ボクも先に帰らせてもらうけん」

 シュナは全身を左右に揺らしながら、店を出て行った。

「……こうしちゃいられない」

 サヤは目の前にあった皿を手にすると、上の料理を口の中に流し込んだ。

 そして、イリイナやシュナのように硬貨を無造作に机の上に置いた。金額は2700リールほどだ。

「サヤさん?」

「ごめん、アスねぇ。あたしも先に帰るよ。早くしないと、お店が閉まっちゃうから」

「何か必要なものでも?」

「う、うん。どうしても今日中に手に入れたいものなんだ」

「そうですか。サヤさんなら大丈夫だとは思いますが、夜道気をつけてくださいね」

「分かったよ。早めに宿に戻るから」

 そう言い残し、サヤは店を出て行った。


 店に残されたのはアストリアだけになった。

「皆さん、どうされたのでしょう?このような見知らぬ町に何の用事が。それにサヤさんが手に入れたいというものは一体……」

 アストリアは空いたコップの縁を指でなぞりながら、考え込む。

「そういえば、皆さん私には秘策があると伝えた途端に目の色が変わりましたね…………は!」

 その時、アストリアの脳にある推測が立った。

 イリイナはアストリアに先を越されないよう、先手を打つつもりではないだろうか?それを察したシュナとサヤも後を追うように店を出て行ったのではないか?そして、早くても今晩、彼女たちはミユウに対してアタックをかけるのではないだろうか?

「…………先を越させるわけにはいきません!」

 アストリアは思わず大声でそう叫んでいた。

 その声に店内にいた人々が驚く。

「あの、お客さま?いかがなされましたか?」

 若い給仕が駆け寄って声をかけると、アストリアは周囲の人々の目線に気づき、顔を赤く染める。

「あ、あの…………お会計をお願いします」

 アストリアはイリイナたちが置いていった硬貨を黙々と集め、不足分を自分の財布から取り出し、併せて給仕に支払う。

 そして、そのままミユウの待つ宿へと向かった。

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