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チートな俺が、チープなあたしに変わったら、くすぐりに悩まされる日々が待っていました  作者: 広瀬みつか


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90.魔と聖の協働、そして……

 突如姿を消した許嫁を探すために旅に出た魔術族の少女アストリアは、町でのいざこざに遭っていたところをヒーリスト聖教ナイトリアス教会の管理者メイリス・トロイアスに仲介してもらい、そのまま彼女の教会に案内された。

 そして、現在教会内にある応接室にて、自分に課された“教会への奉仕”についての説明を受けていた。

「さて、今からアストリアには明日のこの時間までこの教会で奉仕をしてもらうことになる。具体的に言えば、礼拝堂内の掃除や修道服の洗濯、食事の準備の手伝いなどをしてもらう。有体に言えば雑用だね」

「え?それだけでいいのですか?もっとこう厳しいことをしなくてはいけないのでは罰にならないのではありませんか?」

「君、ここを牢獄か何かと誤解してないかい?君のような幼気な少女を奴隷のように扱うわけないだろ?あの男じゃあるまいし。それに“罰”という言葉は使ったが、あれはあの場をうまく収める方便だ」

「方便……嘘、ということですか?」

「人聞きの悪い言葉を使わないでくれ。方便だよ、方便。よく考えてみろ。確かに彼にぶつかってしまったのは君に罪がある」

「はい。それは自覚しています」

「しかし、君に不当な金銭を要求したり、奴隷商に売ろうとしたり、暴力を振るおうとしたりしたのは明らかに彼に罪がある。君のそれと相殺できるほどにね。それも分かるだろ?」

「はい」

「だから、本当はお互い“お咎めなし”ということなんだ。むしろ、彼に慰謝料を課してもよかったかなとも思っている」

「しかし、私にだけ罰が与えられました。少しおかしいです……」

 アストリアは頬を膨らませる。

 メイリスのおかげでもめ事が収まったので助けられたことには間違いないが、よく考えてみると不公平な裁定だ。

「怒るなよ。もし、あそこでお咎めなしにして二人を解放すればどうなるか。彼は鬱憤が溜まる。そして、僕たちの目の届かないところで君に対して鬱憤を吐き出すかもしれない。危険だろ?」

「そう、ですね……」

「ここで方便さ。君に罰を与えることで彼のメンツが保たれ、少しは鬱憤が晴れる。それに君をこの教会の保護下に入れることで彼から身を守ることができる。つまり一石二鳥ってわけさ。まあ、彼は不満があったみたいだけど、あの手合いは一日経てばこんな些細なこと忘れてしまうから心配ないよ」

「なるほど。そこまでお考えでしたか?私の考えが甘かったです。疑ってしまい申し訳ございません」

「わかってくれればいいんだ。世の中を生きていくにはこれぐらいの心構えが必要なんだよ。よく覚えておきたまえ」

「はい!勉強になります!」

 日常生活に必要な知識は持っていたと自負していたアストリアだったが、自分はまだまだ知らないことがある、もっと学ばなければならないと反省した。

「さて話を戻すけど、君は家事とかしたことはあるかい?」

「はい。母の手伝い程度ですが、一通りはやってきました。特に料理には自信があります!」

「おお、それは頼もしいね。君には期待しているよ」

「はい!」

 そして、アストリアは“教会への奉仕”を始めることになった。


 まず、アストリアは教会内に滞在する際の決まりということで、貸し出された衣装に着替えた。

 修道服の色は階級を表しており、青色は司祭や助祭、もしくはそれに準じる者が、それより下の階級は黒色を着るようになっている。もちろん雑用であるアストリアは黒い修道服とベールを支給された。

 着替えを終えると礼拝堂内に移動し、掃除を始めた。

 礼拝堂内は最大千人ほどが収容できるほど広かった。

 既に取りかかっていた修道士たちに混ざり清掃を始め、三時間ほどで終わらせた。

 次に、女性用大浴場の着替え場に向かい、女性修道士たちの修道服を洗濯することになった。

 この教会には三十人以上の女性修道士がいるらしく、彼女たちは食事前に三回に分かれて入浴する。

 彼女たちの裸に少しだけ目を奪われてしまった。自分でも結構大人な体つきをしていると思っていたが、自惚れだということに気づいた。

 選択をし終えると、次に調理場に向かう。

 十人以上の修道士が準備している中に混ざり、野菜の皮むきや食器の配膳などをする。

 その中で、村でどの料理にも使われている調味料“マジリアクス”を使っていなかったことに気付き、隙を狙って持ってきていたものを入れようかと考えた。しかし、入れるタイミングがなかったため、渋々諦めた。

 そして、簡単な賄いを食べ終えると、大量の食器を洗い、この日の仕事はすべて終わる。

 この頃には、もう既に外は暗くなっていた。


「つ、疲れました~」

 疲れてヘロヘロになったアストリアは誰もいない食堂の椅子に腰かけ、机に上半身を倒した。

「お疲れ様、アストリア」

 背後から声をかけられたので目線を向けると、そこにはメイリスが立っていた。

「め、メイリスさん!」

 急いで立ち上がろうとするアストリアに、メイリスは手のひらを見せて「そのままでいいよ」と促し、自分はアストリアの前の椅子に腰かける。

「どうだったかな?十分な罰になっただろう?」

「はい。なかなかの重労働でした。皆さん、いつもこのような激務をされているのですか?」

「まあね。これも修行の一環という訳さ」

「なるほど。確かにこれは精神が鍛えられますね。今日は何とかなりましたが、毎日は無理です」

「誰も最初の内はそうだよ。僕も初めてここに来たときは“もう死んじゃう~”って思ったものさ。けど、何年も同じこと続けていると簡単にできるようになるんだから不思議だね。それよりも君にいいものをあげるよ」

「いいものですか?」

 メイリスは手に持っていた小さな袋をアストリアの前に置いた。

「開けてごらん」

 アストリアは袋を手にすると、その口を開いた。

 するとそこにはクッキーが十枚入っていた。

「こちらは?」

「今日一日頑張ってくれたご褒美だよ」

「メイリスさんが用意されたのですか?」

 アストリアが問いかけると、メイリスは顎に人差し指を当てて考える。

「う~ん。半分正解で、半分不正解かな?これはね、女性修道士たちが用意したものなんだ」

「え?」

「君の頑張りを見て、自分たちの子どもの頃を思い出したんだろうね。少ない持ち金を集めてさ、僕に“これであの子にお菓子を買ってきてください”って渡してきたんだ。まったく、司祭をパシリに使うんじゃないよってね。それで僕も少しだけお金を出して、買ってきたという訳さ」

「私はただ罰だから仕方なく働いていただけですのに……」

「いままで何人かが罰として奉仕をしてきたが、君ほど一生懸命な子はいなかったよ。そうじゃなかったら、彼女たちがあそこまですることはなかったと思う。君は教会内の生活で冷え始めた彼女たちの心を元に戻したんだよ」

「ありがとう、ございます……」

 アストリアは袋を両手で優しく握る。

 不思議とそこから温かさを感じた。村の人々が自分のために集めてくれた資金の入った袋と同じような安心感のある温かさである。

「そうだ。浴場でゆっくり汗を流してきたらいいよ。その後、僕の部屋に来なさい。一緒にクッキーを食べよう。君のこともいろいろ聞きたいからね」

「はい。喜んで」


 アストリアは広い大浴場でひとり汗を流していた。

 修道士たちが全員入った後に浴槽内の湯は抜かれていたが、大きな樽一杯分の湯を用意してもらっていたので、十分に体を洗うことができた。

 体を洗い終えると、着替え室で用意されていた新しい修道服に袖を通す。

「何から何までしていただいて、本当にありがたいです。メイリスさんには感謝しないといけませんね」

 アストリアは今日一日起こったことを思い出していた。

 町に入り、家族や村人以外の人と触れ合うことができた。

 その中で怖いことや心傷つくこともあった。しかし、メイリスや女性修道士たちと出会い、人のやさしさというものに触れることができた。

 彼女にはそれが本当に嬉しかったのだ。

 そして、これからの旅の不安を少し解消することができたような気がした。

「さて、メイリスさんの部屋に向かいましょうか」

 アストリアは着替え室の中を確認すると、ろうそくの火を全て消した。室内の光源がなくなると何も見えなくなる。

 入り口から差し込んでくる光を頼りに廊下へと出る。

 すると、そこに眼鏡をかけた一人の男が立っている。

 彼はアストリアが教会に到着してすぐに出会ったハウリング助祭であった。

「こんばんは。アストリア・ナルトリフ」

「こ、こんばんは。ハウリング助祭」

「こんな時間に入浴ですか?」

「はい。先ほど仕事が終わり、メイリス司祭から汗を流すよう勧められましたので」

「今日は随分と懸命に奉仕されていましたからね。殊勝なことです」

「いいえ。私はあくまで罰として奉仕していただけですから」

「そうですか」

 ハウリングの声や表情からは一切の感情が読み取れなかった。

 その不気味さがアストリアを恐怖させる。

「あの、この後メイリス司祭と約束がありますので、すぐに行かないといけないのですが……」

「なるほど。メイリス司祭とお約束ですか」

「はい。もう行ってもよろしいでしょうか?」

「お待ちください。私は貴女にお尋ねしたいことがあります」

「訊ねたいこと?この私にですか?」

「はい。とても重要なことです」

「なん、でしょうか?」

 ハウリングは一歩前に進み、アストリアとの距離をグンと縮める。

「貴女は町の外から来られましたよね?」

「はい。今日初めてこの町に来ました」

「では、どちらからお越しになられたのですか?」

「え?故郷の村からです」

「では、その故郷の村とは何処にありますか?」

「何処って……」

 アストリアは回答しなかった。

 彼女は村を出るときに、その場所を誰にも伝えてはならないと厳命されていたからだ。それは魔術族の存在をよく思わない者が村に危害を与えないようにするためだと聞かされた。

「……お答え、できません」

「それはなぜですか?」

「それもお答えできません」

「……なるほど。では質問を変えます」

 ハウリングはもう一歩前進し、よりアストリアとの距離を縮める。

「貴女は魔術族、ですか?」

 彼の質問にアストリアに緊張が走った。

 直感した。

 彼らは魔術族をよく思わない者たちであり、彼らに自分の正体を気付かれてはいけないのだと。

「……私は魔術族ではありません」

「なぜ即答されなかったのですか?」

「それは、いきなり予想外の質問をされましたので、驚いたのです」

「そうでしたか」

「あの、私、ここで失礼します!」

 アストリアはハウリングに軽く礼をすると、逃げるように速足で廊下を進んでいった。

 すると……

「きゃっ!」

 左右の廊下の柱に隠れていた二人の修道士がアストリアの前に飛び出し、両腕を掴まれた。

「何をするのですか!放してください!」

「ええ。ちゃんと解放いたしますよ。貴女が魔術族かどうかを確認した後にですがね」

 ハウリングはアストリアの背後から近づく。

 彼は右手で首にぶら下げたペンダントを握り、左手でアストリアの背中に手をかざす。

「『告げる。その聖なる光をもって、真偽を明らかにせよ』」

 ハウリングが詠唱を唱えるとアストリアの背中が赤く光り、それと同時に強烈な痛みが走る。

「きゃあああああああああああああ!」

 暗い廊下に一人の少女の断末魔が響き渡る。

「ふっ。どうやら本当に魔術族のようですね」

 ハウリングがアストリアの背中から左手を放すと赤い光が消える。

 想像以上の痛みのあまり、アストリアは気絶した。

「この魔女を地下に連れていきなさい。メイリス司祭に報告したら、私もすぐに向かう」

「「はい」」

「わかっているでしょうが、封魔鎖で手足を拘束するのですよ。くれぐれも私たちが向かうまで逃げないよう気を付けてください」

「「はい」」

 修道士の男たちは気絶したアストリアを地下へ連れていく。

 

 ーーー


 修道女子寮の一室。

 鼻歌を口ずさみながら、メイリスは自分の部屋の片付けをしていた。

 普段、司祭としての仕事を夜遅くまで行うため、机の上だけでなく床にも書類が散らばっている。室内を歩くにも一苦労である。

 司祭室は修道寮の三倍ほどの広さで、そこであればここまでの苦労をせずに済む。

 しかし、司祭室のある“聖職寮”には多くの男性が居住しており、秩序を守るという理由で特別に修道女子寮の部屋を使うことになった。

 メイリス自身、この寮で女性修道士たちといた方が気が休まるということで、その小さな部屋にいることを快適に思っていた。

 そんな彼女がなぜ滅多にしない自室の整理をしているかと言えば、昼間に町で出会った少女アストリアを迎えるためである。

 町で男に暴力を振るわれかけていた彼女を教会で保護した。彼女は教会での激務を文句一つ言わずテキパキとこなしていき、短期間で大多数の女性修道士たちの信用を得た。

 もちろん、彼女を教会に連れてきたメイリスも彼女に好印象を持っている。

 彼女は“ナイトリアス”の町のどの人よりも純粋な心を持っていた。それは人を信じることを放棄しかけていたメイリスの心を癒やしてくれたのである。

 メイリスは一通りの仕事を終えたアストリアを、女性修道士たちからのプレゼントであるクッキーを食べるために自室へ招いた。

 しかし、困ったことに今の散らかしっぱなしのこの部屋に彼女を招くのは恥ずかしい。司祭としての面子を穢しかねない。

 というわけで、アストリアが汗を流している数十分の間に司祭の威厳を保てる程度の整頓を進めていたのであった。

「うん。これなら大丈夫。まあまだ片付いていないところも少しあるが、彼女なら目をつむってくれるだろう。さて、あとはお茶の準備だが、それまでに来てしまうだろうか?」

 机の上に置いていた懐中時計を手に取り、時間を確認する。

 その時だった。


 コンコンコン


 部屋のドアを三回ノックする音が鳴り響く。

「あちゃ~。間に合わなかったなぁ」

 メイリスはゴホンと咳払いをしたあとに「どうぞ」と入室を許可した。そして、その声に応じるようにドアが開かれた。

「どうだい?汗を流してサッパリでき……」

 メイリスは入出する人物への言葉を打ち切った。

 なぜなら、その人物が自分が待っていた少女とは似て非なる男であったからだ。彼は一八〇センチの長身で、眼鏡をかけた青い修道服の男、ハウリング助祭である。

「夜分遅く失礼いたします」

「どうされたのですか?このような時間に男性が女子寮へ足を踏み入れるのは関心いたしませんね」

「申し訳ございません。不躾とは思いましたが、すぐに司祭のお耳に入れておきたいことがありましたもので」

「そうでしたか。貴方がそこまでおっしゃるのであれば、よほど案件なことなのでしょう。分かりました。伺いいたしましょう」

「ありがとうございます」

「しかし、この後に私の大事な親友をお迎えしなければなりません」

「かしこまりました。それほど時間はおかけいたしません」

「では、こちらにおかけください」

 メイリスは中に入るよう勧める。

 そして、ハウリングはドアを開けたまま部屋に入り、椅子に腰かける。部屋を完全な密室にすることを避けるための彼なりの礼儀である。

 正直に言えば、メイリスはハウリングという男が苦手だった。

 彼とは芯のところから自分と相反する存在だとメイリスは思っていたからである。

 生真面目であり、重箱の隅をつつくような神経質さを持っている彼と話していると神経がすり減らされていくような気がする。

 この散らかった部屋を見れば「司祭としての自覚が足りない」と説教が始まりそうだ。

 しかし、そんな彼が助祭として補佐してくれているからこそ百人近くの修道士がいるこのナイトリアス教会がうまく運営できていると考えると大雑把な気質を持つメイリスには手放しがたい存在ともいえる。感謝が尽きない。

 できれば、これから楽しいひと時を過ごすつもりだったメイリスは、ハウリングと顔を合わせて気重になりたくはなかったが、重要な話というなら仕方がない。

「それでどのような話でしょうか?」

「“悪魔”どもについてです」

「悪魔、ですか……」


 悪魔。

 それはヒーリスト聖教の教義において、最も憎むべき存在として現れる種族“魔術族”の蔑称である。

 遡ること一万年前、ある牛飼いの男が邪悪な魔の力を司る女神“デイリア”に見初められ、彼女の力の一部を授かったのが起源だと言われている。男は多くの女性と関係を持ち、その間に子どもたちが生まれると彼ら全員に女神の力が継承され、今の魔術族が生まれたという。

 彼らは多種族に自らの魔術の一部を伝え、世界全体の技術発展の礎に貢献し、その人口が減少した現在でも多くの国家で貴重に扱われる存在となった。

 そんな魔術族をなぜヒーリスト聖教教徒が忌み嫌うかと言えば、これまでの両者の歴史が原因といえる。

 五千年前にエルフ族の女性が“シリスト”と呼ばれる神から神託を得たことを起源とするヒーリスト聖教は当初“異端分子”として迫害の対象となっていた。特に迫害運動の中心となっていたのが当時多くの政府中枢にいた魔術族であった。

 それはシリスト神を絶対神とするヒーリスト聖教教徒は、デイリア神の力を受け継ぐ魔術族の存在自体を否定する説を各地で唱えていたからである。

 多くのヒーリスト聖教教徒が捕らえられると改宗を迫る激しい拷問を長期間受け、それでも改宗しない場合は公の面前で残酷な方法で処刑された。

 その状況が一変したのは今から三千年前。

 密かに各地の貴族や騎士に教義を浸透させることで勢力を伸ばしていたヒーリスト聖教の勢力を無視することが出来なくなった複数の国家により、領土内での布教を公認する共同声明を発表した。魔術族の人口の減少による勢力の弱体化もその一因といえる。

 国家からの公認を得、助祭以上の聖職者に貴族と同等の地位を与えられるようになると、それまでに自分たちの迫害を行ってきた魔術族を“悪魔”、特にデイリア神の化身とみられた女性を“魔女”と呼称し、秘密裏に彼らの身柄を捕らえて拷問・処刑を行う“魔女狩り”が行われ始める。

 ヒーリスト聖教本部に魔女狩りを行うための秘密武装組織“審問機関”が結成されると、魔術族の集落を襲撃する大規模な武力侵攻が行われるようになり、魔術族はその数を著しく減少していくこととなる。


 ナイトリアス教会においても、布教活動の傍らで魔女狩りを行っており、管轄内である“ナイトリアス”の住民や外から来た旅人に睨みを効かせていた。

「最近、悪魔どもが周辺の町に姿を見せているという情報を受けていたのですが……」

「そのことは私も聞いております。どうやら彼らが奇妙な行動をしていたそうですね」

「はい。町で奴らと古くより馴染みを持つ商家へ訪れては魔の力を帯びた道具を売っていたと」

「資金集め、ということでしょうね。しかし、噂では、魔女狩りを恐れて、他の町や村と取引を行わず、自給自足の生活をしていると聞いていましたが、そうであれば、金銭を集める必要もないはずです。それをわざわざ教会の管轄内に足を踏み入れるという危険を冒してまでなぜ」

「その理由は未だ定かではありません。しかし、不穏な動きであり、警戒を強化しなければならないことは確かです」

「不穏な動き。僕らヒーリスト聖教に対する暴動を計画している。その軍資金を集めていると?」

「それも十分に考え得るかと。少なくともメイリアス西方司教や本部はその線で考えておられるようです」

「物騒な話ですね……」

 メイリスは頭を抱える。

 暴動などとなれば、魔術に対抗できる神術があるとはいえ無傷では済まないだろう。それに“ナイトリアス”の住民にも被害が出るはず。それだけはこの町を管轄する者の一人として避けたい。

「しかし、十分な証拠がなければ審問機関も動けないでしょう。下手にこちらから動けば、公国から取り締まられるのは僕らの方になりますからね。その悪魔と取引をした商人たちはなんと?」

「“何も知らない。今金が必要だから取引してほしいと言われた”と言っております」

「相手が誰であろうと取引するのが商人。彼らを罪に問うことはできません。いくら協力者であったとしても、悪魔でない限りは拷問にかけることもできません。このまま動きを監視するしかありませんか?できるのであれば、彼らの村を探すことができればいいのですが……」

「そこで朗報です」

 ハウリングが身を乗り出し、珍しくニヤッと笑う。

「実は先ほど魔女を一人捕らえました」

「ほ、本当ですか?!」

「ええ。“審問の光”が赤く反応したので間違いありません。その者を責め立てれば、奴らの居場所を聞き出せるでしょう。資金を集めていた理由も引き出せれば拾いものです」

「そうなれば、こちらも先手をうつことができますね。それで今彼女はどちらに?」

「地下に拘束しています。つきましては、尋問に司祭もご同席願えますか?」

「分かりました。先に向かってください。あと少しでこの部屋に僕の友人が来ますので、彼女に断りを入れてから向かいます」

 メイリスは立ち上がると、壁に掛けていた銀のペンダントを手に取り、首にかける。

 それはヒーリング聖教の聖職者の証であり、神術の源である“聖力”を増強させる特別製である。

「その必要はありませんよ。ご友人はこちらに訪れることはありませんから」

 ハウリングは準備をするメイリスの背中に感情のない声をかける。

「それはどういうことでしょうか?なぜ僕の友人のことを貴方が存じているのでしょうか?」

「なぜ?それは地下に捕らえられている魔女というのが司祭のご友人“アストリア・ナルトリフ”だからです」

 ハウリングの口にした名前にメイリスは反応し、彼の顔を見つめる。

「ハウリング助祭。確認いたしますが、貴方は今どなたが地下に捕らえられているとおっしゃいましたか?」

「メイリス司祭が本日こちらにお連れになったアストリア・ナルトリフです」

「う、嘘、です…………嘘だ!彼女が魔女のはずがない!あんな純粋な子が邪悪な魔女な訳がないだろ!」

「これはこれは。先ほどもお伝えしたように“審問の光”で彼女が魔女であることは確認済みです。一緒にいた修道士も立ち会っております。その正確さは貴女もご存じでしょう。それとも司祭は彼女を陥れるために私が虚偽の発言をしているとでもお思いなのですか?」

「そ、それは……」

「嘘だなどとおっしゃるとは。あまりにも心外なお言葉だ。普段の賢明なお考えを持つ貴女とは思えませんな。もしかして既にあの魔女に何らかの魔術でもかけられたのですか?」

 その言葉に反応したメイリスはハウリングを睨む。

「言葉が過ぎました。お許しください。しかし、司祭が魔女の正体を見破れず、招き入れたことは紛れもない事実。聖職者として許されることではありません」

「返す言葉もありません……」

「その点では初見で見破れなかった私にも落ち度があります。これ以上、問い詰めることはやめましょう」

「…………」

「まあ、いきなり友人と思っていた者が忌むべき存在であったと知れば、いくら貴女とはいえショックが大きいでしょう。私は先に地下室へ向かいます。司祭もご自身の気持ちの整理がつきましたら、いらしてください」

 そう言い残すと、ハウリングは部屋を去る。

 その姿を見送ると、メイリスはその場で膝から崩れ落ちた。

「アストリア、君は僕を……」

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