84.一つ部屋の二人、それでも…
「あまり、痛く、しないでください……」
「う、うん……」
今ミユウは下着姿でベッドに仰向けになっているアストリアの上に馬乗りになりながら、なぜ自分がこのような不可解な状態になっているのか、混乱する脳で懸命に思考していた。
この状況を理解するためには数十分前に遡る必要がある。
ーーー
ミユウは宿の浴室で湯船に入っていた。
現在進行形で温まっているはずの全身が雪山にいるかのように身震いしている。それは飲み過ぎが原因ではない。正確に言えば、「飲みすぎ」もその原因の一つといってもいいが、それは全体の内の一割にも満たない。
全身の震えの大半数を閉めていたのは恐怖だった。
アストリア、イリイナ、シュナと四人で飲み会をしていたミユウであったが、突如開始された“腕相撲大会”でアストリアに負け、そのまま彼女と一緒に宿の部屋に連れ戻されていた。
腕相撲で負かせた者の権利として、ミユウはアストリアとこの部屋で一晩を過ごすことになる。
“一晩を過ごす”一定の歳を超えた大人であれば、その意味を理解できることだ。
それは一台のベッドの上で二人は過ごすこと。そして、互いの体を重ね、交わらせることを意味する。
「酔っていたとはいえ、あんな無責任な約束するんじゃなかったよ」
ミユウにとって、それはくすぐられることに並ぶほどの恐怖だった。
長年、女性の身体と触れ合ったことのなかったミユウは、それを見るだけでも体内の奥の方から溶岩のような熱が吹き上げる。ましてやアストリアのように性的に刺激的な身体と直接肌をすり合わせるなんてすれば、一瞬で気絶してしまうだろう。
その上アストリアの寝相は決していいとはいえず、添い寝をすれば、その手足でミユウの全身をくすぐりだす。一瞬たりとも寝られたもんじゃない。
宿に戻り、汗を流したアストリアと交代するようにミユウが入浴をはじめて二十分ほど経つ。
その間に何度も逃走することを考えた。このまま服を着て、夜が明けるまで町のどこかで身を隠す。容易に可能なことである。
しかし、ミユウはそれをしなかった。なぜか。理由は簡単だ。
「逃げたら絶対お仕置きされるもんなぁ」
それはこれまで彼女と一緒に旅をしてきた中で何度も体験して、学習したことだ。
ミユウもバカではない。このままアストリアと添い寝することと、逃亡して後でお仕置きされることと、どちらがマシかくらいは判別はつく。
「はあ。もうそろそろ出ようかな。ここで時間を潰してもアストリアの機嫌を損ねるだけだし」
意を決したミユウは浴槽から出ると、濡れた自身の体を布で拭いて、部屋から持ってきた白く薄い部屋着を身にまとう。そして、ランプの明かりを頼りに、アストリアが待っている二階の自分が泊まっている部屋に向かった。
いざ部屋のドアの取っ手に手をかけると、一時止まっていたはずの震えが再発する。あたかも森の奥に建っている古びた洋館に入る子どものような気分だ。
「なんで自分の部屋へ入るのにこんなに怯えないといけないの?」
一度取っ手から手を離し、両手でパンパンと自分の頬をたたく。
(大丈夫!あたしならいける!怖くなんてない!)
再びドアの取っ手に手をかけると、その勢いでドアを開ける。
仄暗い部屋の中にはベッドに腰掛けていたアストリアの姿があった。突如開いたドアに驚いたのか、彼女は目を丸くしながら、入ってきたミユウを見つめていた。
「入られるならノックぐらいしてくださいよ。驚くではありませんか」
「ご、ごめん。ちょっと緊張してたから、ノックするの忘れてたよ」
「緊張、ですか?」
「ううん。何でもない。気にしないで。あはは……」
「そうですか?」
ミユウはドアをゆっくり閉めると、壊れかけのゼンマイ人形のような足取りで、アストリアと向かい合うようにもう一つのベッドに座る。
「ミユウさん、先ほどからおかしくありませんか?」
「え?あ、ほら、さっきまでいっぱいお酒飲んじゃったから、足元がぐらついちゃったんだよ!」
「飲み過ぎとはまた違うように見えるのですが……。宿の方に暖かい飲み物を用意していただきましょうか?」
「いいよ!夜もだいぶ遅くなってるし、起こすのも悪いよ。それに酔いも収まってきたからさ!」
「……ミユウさんがそこまでおっしゃるのであれば、わかりました」
しばらく沈黙が続く。
ミユウは何を話すれば分からないし、アストリアもなぜか下をうつむいて何もしゃべってこない。たまにアストリアの顔を覗き見るが、枕元にあるランプのせいか、頬がほんのりと赤いように見える。それが妙に色っぽくて、すぐに目をそらしてしまう。
気まずさに耐えられなくなったミユウは一つ咳払いをして、アストリアに話しかける。
「あの~。あたし、もう眠いから寝るね」
腰掛けていたベッドのシートを持ち上げると、その中に自分の体を入れようとした。
その時だった。
「待ってください!」
「?!」
シーツをめくりあげるミユウの右腕を掴まれた。
恐る恐る振り返ると、アストリアが右腕を伸ばしてミユウの腕を掴んでいた。しかし、先ほどと相変わらず目線を下におろして、ミユウと目線を合わせない。
「どう、したの?」
「ミユウさん、約束、忘れていませんよね?」
「約束?」
「腕相撲でミユウさんに勝ったら、一晩ともにしていただけると」
「どうだったかな?酔ってて覚えてないよ。それにこうやって同じ部屋で眠るんだから、もうその約束は果たされたんじゃっ!」
突如右腕を掴むアストリアの手の力が強くなる。長年の拷問で痛みに強くなったミユウでも、その骨を折られるのではないかという握力に驚いてしまった。一体アストリアのか弱い筋肉のどこからそんな力が出ているのだろうか。
「ア、アストリアさ~ん?ちょっ痛いんだけど~」
「ミユウさんにお願い事があります。聞いていただけますか?」
「聞く聞く!聞くから手を離して!」
アストリアが手を離すと、ミユウは再び彼女と向き合うように座り直す。ちなみに、アストリアに握られた部分が赤くなっており、その握力の強さを表していた。一瞬のうちに筋力強化の魔術でも使ったのだろうか。
「それでお願いって何?」
そう聞いてみた。しかし、ミユウの中ではその予想がついていた。『私と一緒に添い寝をしてください』だろう。逆にそれ以外の望みが考えられない。
直前までどうしても踏ん切りがつかなかった。しかし今は不思議と諦めがついた。もう逃れられないというこの状況が彼女を諦めの境地に立たせたのだろう。
それに案外“産むが易し”今夜のアストリアは寝相がいいかもしれない。
ミユウは腹を見せて服従を示す犬の心地でアストリアの返事を待つ。
「では……」
アストリアは何かを決心したかと思うと、いきなり立ち上がる。
「ミユウさん。私がいいというまで目を閉じていただいてよろしいでしょうか?」
「え?それがお願い?」
「いいえ。これはいわば本番前の準備です」
「本番?準備?どういうこと?」
「今は詳しくお伝えできません。駄目、ですか?」
「駄目じゃないけど……うん。わかった」
ミユウはアストリアの指示通り目を閉じる。
すると、彼女の前方から布がすれる音がする。きっとアストリアが服を脱いでいるのだろう。
視界を奪われているせいで、無意識のうちにイメージが膨張されて、なんともいえないイケない気持ちになる。
そして、ドサッと何かが倒れる音がすると、アストリアの「いいですよ」という目を開ける許可の言葉が聞こえた。
指示に従い、ゆっくり目を開ける。
「…………ん?」
ミユウの頭の上に疑問符が浮かぶ。
彼女の目の前には黒い下着姿でベッドの上で横になるアストリアがいた。
アストリアの魅惑的な身体が目の前にあることに一瞬で全身の水分が沸騰したような感覚があったが、先ほどの音を聞いていれば、彼女がどんな姿であるかぐらい見当はつくし、覚悟を決める時間も十分にあった。
しかし、ミユウが疑問を感じたのは彼女の格好が原因ではない。
アストリアはなぜかベッドの上で仰向けに、それも大の字になっていた。
まさに無防備とはこのこと。これ以上、無防備を体現することは決してできないだろう。
いつも隙を全く見せない彼女がこんな姿になるとは……
「あの~聞いてもいいかな?」
「はい」
「その格好であたしに何を伝えたいのかな?」
「…………」
アストリアが沈黙する。話さないどころか無表情のままミユウと目を合わさない。そして、顔全体が真っ赤だ。
「どうし……」
「ミユウさん!」
「はい!」
突如大声で名前を呼ばれて、思わず背筋をピンと呼ばす。
「その、お願いと、いうのはですね……」
ミユウは固唾の飲む。そんな無防備な格好でするお願いとは一体何なのか?
「私を……思いっきりくすぐってください!」
「……」
いつもミユウの体をくすぐっているアストリアが、今自分の体をくすぐってほしいと懇願している。
…………なぜ?全く意味が分からない。
ミユウは脳をフル稼働させて考えてみたが、その答えを見つけるに至らなかった。
こうなっては、当の本人に訊ねるしかない。
「なんで、あたしがアストリアをくすぐるの?いつもと逆じゃない?」
「その通り、いつもであれば私がくすぐる側です。そして、あなたがくすぐられる側。なので、ミユウさんは私のことを嫌いになられたのではないかと思ったのです」
「これまた急に。別にあたしはアストリアのことを嫌いになってないよ。くすぐられるのは嫌いだけど」
「嘘ですぅ!ミユウさんは私のことが嫌いになられたのですぅ!そうでなければ、あのように私を放置したりはしません!」
「放置した覚えなんてないんだけど……あ」
ミユウは数時間前のことを思い出す。
酔っていてぼんやりしているが、確かに自分はアストリアを放置して店内にいた男たちと腕相撲大会に耽っていた。
しかし、あれは楽しくなって彼女に気が回らなくなっただけであり、意図してアストリアを無視していた訳ではない。ましてや、彼女を嫌って行ったことでもない。
「それは誤解だよ」
「いいえ!もう私のこと飽きちゃったんですぅ!」
「困ったなぁ……」
釈明しようにも、取りつく島もない。
それよりもまだ解決していないことがある。
「でも、それとアストリアをあたしがくすぐるのと何の関係があるのさ」
「私は私なりになぜミユウさんに嫌われた理由を考えてみました」
「それがさっき言ってたやつ?」
「そうです。であれば、ミユウさんをくすぐった分、私がくすぐられれば今までのことはすべて相殺される。またミユウさんに好きになっていただけるというわけです」
「なんという暴論……」
何度も言うが、もともとミユウはアストリアのことを嫌いになってはない。この時点で彼女がいう理論の前提は破綻してしまっている。彼女の健気なお願いは彼女にとって無駄なことなのだ。
普段のアストリアでは考えられないことだが、お酒を飲んで少し思考が停止されているのだろう。
「それで、くすぐっていただけるのでしょうか?」
「う~ん。そうだな……」
少し返答を考えてみた。
よく考えてみると、彼女のお願いはミユウにとって悪いものではない。むしろいいことだ。
今までくすぐられた分と比べれば、一晩中アストリアをくすぐっても元を取ることはできないだろう。それでもその数パーセントだけでも仕返しをすることができる。
しかも当の本人はそれを望んでおり、後でお仕置きされる心配もない。
であれば、その願いをわざわざ拒否する要素は一つもないのだ。
「よし。分かった!そこまで言うんだったら、とことんやるよ!」
「はい!徹底的にお願いいたします!」
ミユウは立ち上がると、ベッドの上で大の字になるアストリアに馬乗りになる。
「!!」
その瞬間、ミユウの臀部に柔らかく温かいものを感じ、ビクッとする。
言うまでもなく、それはアストリアの腹部だった。もっと正確に言えば、彼女のへその下あたりである。
ここに来て、今自分が行っている行為が自分自身へ精神的ダメージを与えるということを理解した。
しかし、ここで物怖じしている場合ではない。両手でパチンと顔をたたくと、目線をあげる。
「!!!!」
再びミユウの脳に雷に打たれたような衝撃が走った。
曲線を描くように広がったその先に、突如とてつもない二つの巨峰が並び立っていたのだった。自分がちっぽけな人間なのだと悟ってしまいそうな雄大さと、母親のように何もかもを受け入れてくれそうな包容力を兼ね備えたその山は、肌白さも相まって雪山を連想させる。
以前、アストリアがミユウの上に馬乗りになるという、今とは真逆の時にも下から見上げるように彼女の胸を見たことがあった。その時にも迫力に圧倒されたが、それとはまた違う意味でその存在感に襲われてしまった。
「あわわわ……」
ミユウの頭は今にも倒れそうなほどにクラクラしていた。それが数時間前の大量の飲酒が原因ではないことぐらい彼女自身わかっている。
女体耐性のないミユウには刺激が強すぎたのだ。
なんなら今にも逃げ出したい。しかし、走り出すどころか、立ち上がることもできない。
「ミ、ミユウさん?本当に大丈夫ですか?」
「だ、だいひょうぶだよ~。ちょっと酔いが回っちゃっただけだから~」
「やはり先ほどのお酒が。体調が優れないのであれば、今回のお願いはなかったことにしましょうか?そのかわりに私と添い寝を……」
「は!」
アストリアの言葉でミユウの目が覚める。
ここでやめてしまえば、せっかく手に入れたアストリアへ仕返しするチャンスを失ってしまう。それどころか、一晩彼女からのくすぐり&お色気責めが確定してしまう。
ミユウは頭をブンブン左右に振って、半ば強制的に意識を取り戻す。
「じゃあ、いくよ!」
「はい。あまり、痛く、しないでください……」
「う、うん……」
アストリアは頬を真っ赤にして、ミユウから目線をそらす。
その表情と声は実に艶めかしく、ミユウまで真っ赤に染める。
「ミユウさんに、全力を出されると、体が、バラバラに、なってしまいますから……」
「あっ、そうだよね!気をつけるよ!」
確かに不殺族の全力で肉を掴もうものなら、引きちぎることも容易にできる。そんなことをすれば目も当てられないような大惨事になりかねない。
絶対に力加減を間違えないよう息と心を整える。そして、決心を方、得ると手をワキワキと動かす。
「最後に聞くけど、本当にいいんだね?」
「はい。いいです。…………あの、できれば早めにしていただけませんか?でないと、こちらの心臓が破裂しそうです」
「わかったよ。じゃあ……覚悟!」
「ひゃう!」
ミユウは両手をアストリアの横腹へ一気に伸ばして掴む。ミユウの指先がグイっとアストリアに食い込むと、彼女は甲高い声を出す。
その反応に驚いたミユウはすぐに手を引っ込めた。もしかしたら、必要以上に力を出してしまったのかもしれない。
「ご、ごめん!痛かった?」
「いいえ。少し驚いてしまっただけです。どうぞ遠慮なく続けてください」
「うん」
額に流れた汗を腕で拭うと、今度はゆっくりと手を伸ばして、アストリアの横腹をくすぐり始めた。今度は掴むのではなく、肌の上を優しくなでていく。
すると、アストリアは「くくく」と息を殺し、上半身をくねらせる。
「どう、かな?」
「く、くす、ぐったい、です……」
「それはよかったよ……」
一体何がいいのか分からないが、他に口にする言葉がなかったので、とりあえず感想を言ってみた。
「じゃあ、もうちょっと攻めていくよ」
一度アストリアの肌から手を離すと、両手で横腹を掴んでくすぐり始めた。
すると、彼女は大きな声を上げて、笑い始めた。
「ちょ、そ、それ、は、い、いひあはははははは!」
アストリアはミユウの手を掴み、脚をバタバタとさせる。
いつもお淑やかで物静かな彼女とは思えないようなその姿にミユウは少し戸惑う。
「いひひひ、ちょっと、一旦、とめ、くだ、さはははははははははは!」
目に涙を浮かべながら、くすぐりを止めるよう懇願するアストリア。
しかし、ミユウはその手を止めなかった。
いつもミユウはアストリアから“お仕置き”や“拷問”と称して、一方的にくすぐられていた。何度も彼女に対して何度も“やめて”と言ったが、その要求を聞いてくれることはなかった。
そして、今は反対の状況にある。なぜこちらがくすぐりをやめないといけないのか?
これは仕返し、いや、復讐である。
今夜は何を言われようが、絶対に彼女の言葉を聞くつもりはない。
「ミユウさん!き、きいて、ま、ああはははははははははは!」
「ダメだよ。絶対にやめてあげない。こちょこちょこちょこちょ……」
ミユウの指は脇の下や首回り、あばらなど、アストリアの上半身の考えられる場所を移動させながらくすぐる。彼女に両手首を掴まれていたが、くすぐられている少女の弱い力では全く効果はない。その度にアストリアは笑い声を変えたり、体勢を変えたりしながら、そのくすぐったさを全身で表現していく。
(もしかして、アストリアもくすぐりがめっちゃ弱いのかな?)
その姿を見ていると、当初アストリアの肌に直で触っている恥ずかしさと戸惑いに支配されていたミユウの脳内が変化していく。
(アストリアが今あたしの手に翻弄されてる。今はアストリアよりあたしの方が上なんだ!)
今のミユウは支配者の愉悦に入り浸っていた。今まで感じたことのない心浮きだつような楽しさだった。今ならくすぐりをやめなかったアストリアたちの気持ちがよくわかる。
もうこうなってしまえば、ミユウ自身止めることはできない。
「ほれほれ~。ここがいいの?それともここ?やっぱりこっちかな?」
「ゆ、ゆるしてくださあははははははははは!」
アストリアをくすぐり始めてからしばらく経った頃、ミユウは一度くすぐりの手を止めた。疲れてしまった両手を休めるためだ。
今までに体験したことがないほど長時間笑い続けたアストリアは何度も大きく呼吸を繰り返しながら、息を整える。
「はあはあはあ。死んで、しまうかと、思いました」
「どう?いつもくすぐられてるあたしの気持ちを理解できた?」
「はい。反省しました。今後は考えを改めます」
「うんうん。よかったよかった」
「では今日はこのあたりで終わりにいたしましょう。これ以上は私の体がもちません」
「え?何言ってるの?まだまだ続けるよ」
「はい?」
ミユウの予想外の言葉にアストリアは間の抜けた声を出す。
「まさかこれだけで今までのツケが払えたとでも思った?」
「ミユウさん、本当にもう無理です。お願いです。やめてください」
「いやだよ。今晩はあたしの憂さ晴らしに付き合ってもらうよ」
「そ、そんな~」
ミユウは一度腰を上げて、一八〇度に振り向く。
「よし。今度は足の裏をくすぐっちゃおう!」
無防備になったアストリアの右足に手を伸ばす。
「むむむ……。もう、いい加減にしてください!」
アストリアの声と一緒にパチンと指が鳴る。
「はへ?…………ひぎゃ!」
ミユウの上に妙に重いものがかぶさる。そして、バランスを崩したミユウはベッドの上から倒れ堕ちる。
ミユウの全身を覆うほどの巨体、柔らかさと丈夫さを兼ね備えた不思議な肉感。“拷問蛇”の異名を持つ、ミユウの最大の天敵ティークだった。
ティークは瞬時にミユウの手首足首に絡みつき、彼女の動きを完全に止めた。
彼が召喚されるということは、ミユウにくすぐり責めが待ち受けているということだ。
「ちょっと!今回はあなたがやれっていったからやったんでしょ!これは筋違いだよ!ひどすぎるよ!」
「いいえ。何事にも限度というものがあります。ミユウさんは調子に乗り過ぎました。それに……」
アストリアはベッドに落ちたミユウを上から覗き込み、ニコッと笑う。
「やはり、私にはくすぐられるよりくすぐる方が合ってるようです!」
「ええ……」
「ティークさん。今回は上半身を重点的によろしく願いします!私は少し疲れましたので、先に休ませていただきます。あっ、ミユウさんの周りに防音結界を張らせていただきますので、思う存分笑ってくださいね」
「あ、待って……」
アストリアが指を鳴らすと、ミユウとティークの周りに半透明な膜が張られる。
アストリアはミユウに笑顔で手を振ると、ミユウの視界から消える。その間際に何かを話しかけられたように見えたが、彼女の声は聞こえなかった。口の動きから「おやすみなさい」とでも言ったのだろう。
少し目線を下げるとティークがいる。なんとなく目線があったように思えたので「あはは」と愛想笑いをしてみる。
「ねえ、今日は夜遅いから許してくれない?って、いや、だから、その、いやははははははははははは!」
ティークへの交渉は虚しく、恒例のくすぐり責めが始まったのだった。




