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チートな俺が、チープなあたしに変わったら、くすぐりに悩まされる日々が待っていました  作者: 広瀬みつか


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76.不確かな記憶、どうも…

 朝を迎えた“クリアスティア”。今日も変わらず、朝早くから往来する人や荷車で賑わっている。

 この町の広場のベンチに、旅支度を済ませたミユウたち5人は腰かけ、次の町“サクリス”に向かう馬車をテイラとイリイナが手配をしているのを待っていた。

 “サクリス”は“クリアスティア”と40キロ以上離れている。徒歩で向かうには遠すぎ、野宿ができるような休憩場所がない。

 そこでほとんどの旅人はこの町にある馬車の待合所で手配し、“サクリス”に向かうのだ。

 レイの店の開店初日を成功させたお礼として、馬車の乗車賃をレイの父であるトークが援助することになった。

 ちなみに、最初は“クリスティア”の観光することをイリイナに提案されていたが、ミユウたちはこの町の人々にメイド服という恥ずかしい姿を見られ、とても観光できる気分になかったので、その提案を断った。


「はぁ……」

 広場のベンチに座っているミユウは自分の首に装着された首輪を指でいじりながら、ため息をついていた。

 その首輪はイリイナが作ったもので、合図の言葉を周囲の誰かが口にすれば装着者の全身に電流が流れる。

 ミユウはこの前日にイリイナたちから無理やり装着されたのだった。

「無駄ですよ。以前と同様に私の魔力を流してありますので、私の意思なしでは外れません。諦めてください」

「そんなことはわかっているよ。わかっているけどさ……」

「どうしたのですか?」

「これつける必要ある?そんなにあたしって悪いことしてる?」

「それはまぁ……」

 その問いかけにアストリアは顎に人差し指を当てて考える。

「女性の体をいやらしい目で見ていますし……」

「仕方ないじゃん!あたしの意思とは関係なく体が動いちゃうんだから!」

「よく姿をくらましますし……」

「あたし悪くないもん!むしろこの首輪のせいで捕まっちゃったこともあるんだから!」

「私たちから逃げようとしたこともありますよね」

「それは……」

 言葉を返さず、目を反らした。前科がある分、返事ができない。

 その姿をアストリアは疑いと不満の目で見つめていた。

「やはりミユウさんに強引にでも首輪をつけて正解でしたね。当分の間は外すつもりはありませんから、そのつもりで」

「ぬぬぬ……」

 ミユウは無謀とわかっていながらも、再び首輪の金具部分をカリカリといじり始めた。

「よ、よかった……」

 サヤは隣で座っていたミユウを見てホッとした。

 ミユウに首輪が装着された後にサヤも同じものを装着されかけていた。しかし、繰り返し謝罪したことで装着を免れた。

「サヤも一緒に付けられたらよかったのに」

「残念だったね」

(よし。サヤが隙を見つけたところでつけてやろう)

「……ビリコチョ」

「ぎゃはははははははははは!」

 サヤが合図となる言葉を口にすることで、ミユウの全身に微量の電気が流れ、彼女をくすぐる。突然強烈なくすぐったさを受けたミユウは座っていたベンチから崩れるように崩れ落ち、十秒間地面の上で右往左往に転がりながら大声で笑い悶え続けた。

 そんな彼女の姿を、大通りを歩く人々は好奇の目で見ていた。

 電流が止まると、体力を削られた体でベンチにゆっくりと戻った。

「な、なにするの、サヤ……」

「だって、にぃにが変なこと企んでそうだったから」

「そ、そんなこと考えてないよ~」

「血のつながった妹を舐めないで。にぃにが考えてることはお見通しなんだから」

「だから考えて……」

「正直に言わないともう一回言っちゃうよ」

「隙を見つけてサヤに首輪をつけようと考えていました。ごめんなさい」

「……ビリコチョ」

「ぎゃははははははははは!」

 サヤが再び合図の言葉を口にすると、ミユウの全身にくすぐったさが駆け巡る。そして、十秒間地面の上で転がり回りながら笑い悶えた。

「まったくあんたは静かに待つこともできひんのか?」

 笑い終え、地面の上で倒れているミユウの頭上に白衣を羽織った少女イリイナと紳士服を着こなした少年テイラが仁王立ちしていた。

「だって……だってサヤがいじめるんだもん」

「それやったら、どっちが年上なんかよう分からんな。そこで眠ってたら人さまの迷惑やろ。早う立ち」

 イリイナは涙目で倒れているミユウに手を差し出して、彼女を起き上がらせた。それと同時にアストリアたちもベンチから腰を上げる。

「どうでしたか?」

「おう。ちゃんと見つけてきたで。五人で三万リールや」

「三万リール?安すぎんか?」

 通常の馬車の乗車賃の相場は一人一万リールとかなりの高額だ。旅人の足元を見て、高めに設定されているのだ。

 それを一人六千リールと半額近くまで抑えるとは、イリイナはかなりの腕前といってもいい。

「最初、五万五千リールとかふざけたこと抜かしよったから、いろいろ難癖つけて値切ってやったわ」

「ほんま、お前の容赦のない値切り交渉力は尊敬できるわ」

「そう褒めるなや。照れるやろ」

「「あははは!」」

 高笑いをする二人。

 いつも喧嘩をしている二人だが、この姿を見ていると実は仲がいいのではないかと思うミユウたちであった。

「でも、五人って数が合っていないのではないですか?」

「いや。これでええんよ。俺は乗らへんから」

「そうなのですか?」

「俺はこれから“ナクトリス”に行かないかんのや。やから、あんたらとはここでお別れという訳や」

「それは寂しいですね。今回はあまりお話する時間をとれませんでしたから」

「まあいつか会えるやろ。その時にちゃんと話そうや」

 テイラはミユウに近づいて彼女の肩にポンと手を置く。そして、彼女の耳元で小声で囁く。

「ミユウ、これから大変やろうけど頑張りいや。遠くから応援しとるで」

「ありがとうございます。あたし、頑張ります!」

 ミユウへ秘かに激励を送ったテイラは広場から立ち去った。

「ミユウ、テイラに何を言われたんや?」

「え?他愛のないことだよ。『今度はもっと話そう』って」

「あんた、それ告白されたんちゃうか?やっぱりあいつ、あんたのことを女として……」

「違うよ!」

「そりゃそうか。じゃあ、うちらもそろそろ行こうか」

 そして、ミユウたちはイリイナに連れられて、彼女たちを乗せる馬車のところに向かった。



 ---



 日中馬車に揺られて、ミユウたちが“サクトス”に到着したときには既に日が沈んでいた。

 “サクトス”は簡素な宿町だ。“クリアスティア”に比べると市場の規模も小さく、繁華街と呼べるような場所もない。この時間になれば外には誰もいないし、灯りもほとんど点いていない。

 そんな中、馬車を降りたミユウたちは、町で開いていた店で夕食をとった後に小さな宿の三部屋を借りることになった。

 馬車の中で作った部屋割り用のくじで部屋割りを決め、サヤとイリイナで一部屋、アストリアとシュナで一部屋、そしてミユウで一部屋となった。

 ミユウは自分に割り当てられた一人部屋に入ると、部屋の真ん中に陣取られたベッドの上で大の字に倒れた。

「あぁ、一人って素敵!」

 部屋の中でミユウは一人でいることの素晴らしさを噛みしめていた。

 ここ最近、誰かと一緒にいることが続いていた。その間、自分一人の時間を持つことができなかった。

 しかし、今は自分を見る目はない。思う存分、自由な時間を過ごすことができる。

「ふわぁ~」

 久しぶりに緊張が解けたせいか、ミユウは大きなあくびをした。

「何でだろう。妙に眠たい……今日は遅いし、とりあえず寝よう」

 ミユウはそのまま目を閉じて、眠りについた。



 ---



「うーん。よく寝た」

 ミユウは目を覚ますと全身で背筋を伸ばした。

 窓からは青空が見える。天高く昇った太陽を見ると昼真っただ中のようだ。どうやら随分長い間眠っていたらしい。

 寝すぎたせいか頭が痛いし、部屋着に着替えずに眠っていたせいか体が汗でべたべたする。妙に気分が悪い。

「シャワーでも浴びよ。お昼だけど入れるかな?」

 ミユウはベッドの上から体を起こして部屋から出ようとした。


 その時だった。

「ここにおるんか、ミユウ!」

 女性の怒鳴り声と一緒に部屋のドアがバタンと開いた。

 ドアの向こうにはサヤ・シュナ・イリイナの三人の少女が立っていた。彼女は表情を険しくしながら、立ちすくんでいるミユウを睨んでいた。

「どうしたの?みんな、なんでそんなに怒ってるの?」

「どうしたじゃと!」

「あたしたちにあれだけのことをして!」

 サヤたちはミユウの目の前まで迫る。その迫力のあまりにミユウはベッドに倒れた。

「え?なんの話?あたしがあなたたちに何をしたっていうの?」

「何をしたって……あんた、あんな恥ずかしいことをうちの口から言わせるって、どんだけ鬼畜なんや」

「そんな酷いことしたの?!」

 サヤたちはなぜか顔を赤く染め、ミユウから目線を染めていた。それが事の重大さを物語っている。

「大通りを歩いとったら、いきなりボクのズボンを下ろしてきて、町の人達にパンツを見せたんじゃ。一体、どの面下げて町を歩けばええんよ」

「うちは後ろから胸を鷲掴みにされて、『こんなだらしないものぶら下げて恥ずかしくないの?』って叫びよったやないか」

「その後にあたしの胸を掴んで、『ふん。これはこれで可愛そうだな』って。大きなお世話よ!」

「え?!あたしがそんなことするわけないじゃん!」

 ミユウは何の覚えもない。

 彼女が目覚めたのはついさっきのことだし、眠る前に彼女たちにそのようなことをした記憶もない。

「そうか。そこまでしらばっくれるんやったら、こっちにも考えがある」

 イリイナはミユウから距離をとる。そして、白衣のポケットの中から緑の石を取り出した。

 それはアストリアがイリイナに渡した、物を収納することができる魔石だ。

 イリイナが魔石を床に力強く叩きつけると、魔石は粉々に割れて、緑の光が飛び出した。その光は徐々に形を成して、巨大な椅子となった。

 全体を木で作られたその椅子には肘掛けはなく、その代わりに背もたれの肩の部分を貫くように横一文字に板が伸びている奇妙な形をしている。どことなく、拷問椅子を思わせる。

「な、何を……」

「あんたが思い出せるように手伝ったるわ」

(やばい!)

 得体も知れない椅子に危機感を覚えたミユウは、咄嗟にベッドから体を起こして窓へ向かった。

「逃がすはずないやろ」

 椅子の背後にまわったイリイナは背もたれの後ろで何かの操作をする。

 すると、椅子からいくつもの枷が飛び出し、ミユウの首・手首足首・胸下・腰・膝に装着される。そして、椅子へと引きずり込んだ。

 ミユウは両腕を肩の高さに広げた状態で拘束されてしまった。

「は、放せ!」

 何度も椅子を破壊しようとするが、木製の椅子の中に強固な鉱物が入っているようで、びくともしない。

 そんな彼女の前に鬼の形相のサヤとシュナが迫った。

「さあ、ボクらに謝ってもらおうか?」

「ふん!さすがのあたしでも覚えのないことで謝罪なんてできないよ」

「しらを切るだけじゃなくて、素直に謝らないなんて、随分肝が太くなったもんだ」

「だから、本当に覚えがないんだって!」

「はあ。ちゃんと認めて謝れば許してあげようって思ってたけど、仕方ないね。イリねぇ、よろしく」

「任せとき!」

 イリイナは再び背もたれの後ろで操作を始める。

 すると、背もたれから小さな穴が左右一つずつ開いて、そこから小さなマジックハンドが飛び出る。

 首を固定されたミユウには音が聞こえるだけで何が起きているか確認ができない。

 しかし、自分に危険が迫っていることは確実にわかる。

「本当に身に覚えがないの。信じてよ!」

「それもいつまで言い張れるやろうな?お仕置き、開始や!」

 イリイナが一つのボタンを押すと、マジックハンドがミユウの横腹をくすぐり始めた。

「ぎゃはははははははははは!い、いやーーはははははは!」

 がら空きの横腹を容赦なくくすぐられ、ミユウは笑い悶えた。

 逃げようとしても、がっしりと椅子に固定されて動くことができない。

「どう?思い出せた?」

「だ、だから、あたしは、知らな、あははははははははは!」

「ほう。まだ余裕があるようやな。それやったら、これならどうや?」

 イリイナがボタンを押すと、背もたれの左右からマジックハンドが出てきて、ミユウの脇の下をくすぐり始めた。

「ぎゃははははは、や、やめてーー!」

「ほらほら〜。早く思い出さないと、笑い死んじゃうよ〜」

「知らな、知らなあははははははははは!」

「次いくで」

 イリイナがボタンを押すと、再びマジックハンドが出てきて、ミユウの胸の横をくすぐり始める。

「しょこはあはははははははは!」

「さあ、まだまだ増えていくで。今のうちに素直になったほうがええんちゃうか?」

「いひひひひ、あ、あたしは、悪く、な、なはははははははは!」

「強情なやつやで。じゃあ、次いこうか?」

「あはははははは、い、いやあああはははははははは!」

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