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チートな俺が、チープなあたしに変わったら、くすぐりに悩まされる日々が待っていました  作者: 広瀬みつか


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75.理不尽な贈り物、そして…

「いーやーだーー!」

 自分たちの宿の部屋に戻ったミユウは大声で叫んでいた。

「なんでや。あんたのために用意したんやで。ありがたく受け取りや」

「嫌だよ!だってそれ……」

 ミユウは、近づいてくるイリイナが手にしている、革製の赤い首輪を極度に恐れていた。

 それはただの首輪ではない。ある言葉を誰かが口にすれば、それを合図に数秒間電流が流れるという恐怖の代物だった。それも通常の人間であれば、確実に即死するほどの高圧電流だ。

 以前“トーア”でイリイナと別れた時に彼女が置き土産としてアストリアに渡し、すぐにミユウの首に取り付け、その後はミユウをお仕置きする手段の一環として彼女を苦しめ続けていた。

「ほんまにひどいわ。人がせっかくプレゼントしたもんを壊しよって。アストリアから聞いたとき、どんだけショックやったか……」

「あれはあたし悪くないもん。“赤狼の牙”からシュナを助けようとしたときに、あたしの首と一緒に斬られちゃったんだもん。そうだ。責任取ってシュナがつけてよ!」

「ふざけるな!ボクがそれ付けたら死んでしまうじゃろ!」

「だってほら、シュナだったら似合うと思うよ」

「それはボクを犬と言いたいんか!そういうことなんか!」

「まあ経緯なんてうちにはどうでもええんや。あんたが首輪を壊したことは事実なんやから」

「うっ!それを言われたら……」

「けど、うちは心が広いんやで。手間をかけて同じもんを作ってやったんやから。あとはあんたがこれをつけてくれたら、今回のことは全部水に流したろう」

「それだけは嫌だ!」

「わがまま言いなや。無理やりにでも付けたる」

 イリイナは嫌がるミユウとの距離を少しづつ縮めていく。

 それと合わせるようにミユウは後ろに下がっていくが、そこにはサヤとシュナが待ち構えている。

「もう逃げ道はないで。観念しいや」

「ふん。それはどうかな?」

 ミユウは一つの逃げ道を見つけていた。それは正面のドアへ向かう道だ。

 彼女とドアの間にはイリイナとアストリアがいるが、その二人の間を潜り抜ければ強行突破も十分に可能だと判断したのだった。

「とりゃーー!」

 意を決したミユウは姿勢を低くして、イリイナの左側の空間に向けて飛び込んだ。

「うふふ。逃がしませんよ」

 ミユウの行動を予測していたのか、アストリアは冷静に右手で指を鳴らす。

「へ?ひにゃ!」

 アストリアの言葉に気をとられたミユウの体が床に叩きつけられる。

 なぜかと言えば、ミユウの上にある生物が出現したからである。

 全身が緑色で、ミユウの全身を覆うほどの巨体、羽毛の入ったシーツのような形をしており、四方に小さい蛇のような頭が付いている。

 ミユウの弱点を全て余すことなく把握し、それらを容赦なく責め立てる、ミユウの天敵ともいえる存在“ティーク”であった。

 ティークは仰向けに向き直ったミユウの手首足首に巻き付き、彼女の動きを封じ込める。

「放せ!放して!」

「往生際の悪いミユウさんが悪いのですよ。さあイリイナさん、今のうちです」

「よっしゃ!」

 イリイナはミユウの顔の側でしゃがみ、赤い首輪を彼女の首に取り付けようとした。

 しかし、ミユウは唯一動かすことのできる首を振り回し、抵抗を見せる。

「こら!大人しくしい!これじゃつけれへんやろ」

「へへーんだ。誰が大人しくするもんか」

「サヤ、こいつの頭を抑えてくれ!」

「わかった!」

 サヤはミユウの頭の上に回ると、両手で彼女の頭を抑えた。

「サ、サヤ~!兄であるあたしを裏切る気?」

「これは裏切りじゃないもん。イリねぇのお手伝いだもん」

「くそ~。あとで覚えておきなさいよ!」

 動きが止まったミユウの首に首輪が近づいてくる。

 避けようとしても、サヤが力強く固定しているために少しも動くことができない。

「さあ、じっとしときや」

「や、やめろ~」

 刻一刻と首輪との距離が縮まる。装着完了まで時間の問題だ。

 ミユウの目の前には自分の頭を固定しながらニヤニヤしているサヤの顔があった。その表情を見たとき、彼女に対する激しい苛立ちを覚えた。

 そして、考える間もなくサヤの顔に向けて唾を吐いていた。それは偶然にも彼女の目の中に入った。

「きゃーー!目が、目がーー!」

 いきなり唾を吐きかけられた驚きと、目に入ったことによる痛みで、思わずミユウの頭から両手を離してしまった。

「あんた、自分の大事な妹の顔に何してるんや」

「ふん!自分の大事な兄をいじめるサヤが悪いんだ。当然の報いだよ」

「ほんま、どうしようもない奴やで」

「何とでも言えばいいよ。あたしに近づいてみなさい。サヤと同じ目に遭わせてあるから」

 ミユウの悪質な行動を見たアストリアやシュナは彼女の頭を抑えることに抵抗を感じた。イリイナもミユウに首輪をつけることにためらい、彼女との距離をとった。

「どうしようかのう」

「このままじゃ首輪をつけられへんわ」

「そうでしょ。ここはそれをつけるの諦めて……」

「それでしたら、私にいい考えがあります」

「ほんまか!どんな方法や」

「はい。要するにミユウさんが抵抗できないくらいに力を削いでしまえばいいのですよね。であれば、後は簡単です」

「…………もしかして」

 ミユウはアストリアが何を企んでいるのか見当がつき、全身に悪寒が走る。

 そんな彼女に対し、アストリアはニコッと微笑む。

「では、ティークさん。よろしくお願いします」

「ちょっと待っ、ぎゃははははははははははははは!」

 アストリアの言葉を合図に、ティークがその人の指のように動く筋肉でミユウの全身をくすぐり始めた。

「なるほど。その手があったか。なんで思いつかへんかったんやろう」

「いひひひ、か、関心、してないで、た、たしゅけ、あははははははははははは!」

「駄々こねたり、妹の顔に唾吐きかけたりした報いや。十分に反省しい」

「しょんなあははははははは!」

「ティークさん、あまり時間をかけたくありませんので、容赦しなくてもいいですよ。何なら足の裏や背中を責めていただいても」

「か、勝手なこと、言わな、ぎゃーーははははははははははは!」

 アストリアの許可を得たティークはミユウの全身を余すことなくくすぐり始める。

「あははははははははは、ダメダメ、ゆる、許してーーーー!」



 ---



「あは、あははは……」

 ティークによるくすぐり責めが始まってから30分、くすぐり責めが終わった。

 短時間でありながら、最初から全力でくすぐられたことにより、ミユウには抵抗できるほどの力は残されていなかった。

 そんな彼女に首輪をつけることは容易なことだった。

「ふう。ほんま手間かけさせよって」

「く、くそ~。これが、今日一日、頑張ったあたしへの、仕打ちなの……」

「あんたが大人しくしとったら、こんなことにならんかったんや。人の好意は素直に受け取らないかん。ええ勉強になったな」

「な、何が好意よ……」

「じゃあ早速性能を確認してみようか」

 イリイナは立ち上がると一つ咳ばらいをして、喉の調子を整える。

「いくで。ビリビリ」

「ぎゃーーーーーーーー!」

 全身に高圧電流が流れると、力なく倒れていたミユウは悲鳴を上げる。

 10秒後、電流が止まるとミユウは再び床に伏せた。

「ああ、あ、あ……」

「よっしゃ!成功や!いや~、少ない仕事の空き時間を使った甲斐があったわ」

「あの、イリイナさん。なんといいますが、以前と少し違うようですね。以前は電流が目に見えていたのですが、今回はミユウさんが悲鳴を上げただけで、電流が流れていたようには見えませんでした」

「おお!さすがはアストリア、あんたならこの違いを気付いてくれると思っとったわ!」

 アストリアの言う通り、ミユウが叫んでいる間に彼女の全身から電光は見えなかった。今倒れている彼女の肌も以前のように黒く焦げていない。

「前みたいに強い電気が放流してしまったら、周りにおるもんが危険やし、服がボロボロになって毎回着替えないかんやろ?やから、今度はミユウの体内の奥のほうに電気を流して外に漏れんようにしたんや。まあ、あんだけ強い電流を漏らさんようにするんは結構苦労したけどな」

「さすがはイリイナさんですね……」

「それに改良したんはこれだけやないで。今回は新しい機能を追加したんやで」

 イリイナは再び咳払いをして、声の調子を整える。

「よう見ときや。コチョビリ」

「え?コチョビ、ぎゃはははははははははは!」

 イリイナの言葉を合図に、ミユウは大声を上げて笑い悶え始め、10秒後に再び床に伏せた。

「よっしゃ!こっちも成功や!」

「はあ、はあ、な、なにこれ……」

「さっきと同じようにあんたの体に電流を流したんや。さっきより微小の電流を皮膚の下に流すことで、神経が刺激されてくすぐったく感じるという訳や。これはさっきよりも高度な技術を使ってるんやで」

「なんて技術の無駄遣い……っていうか、早くティークを消してよ。もう目的は達成したんだから」

「確かにそうですね。ティークさん、もういいですよ」

 アストリアは右手で指を鳴らし、ティークに指示を出した。

「…………あら?」

 しかし、ティークは消える気配がない。未だにミユウの手足を拘束したままだ。

「おかしいですね。ティークさん、戻っていただいても構いませんよ」

 もう一度アストリアは指を鳴らす。

 しかし、ティークは消えない。

「ちょっとアストリア。ふざけないでよ。早くティークを消して」

「先ほどから何度もそうしているのですが、ティークさんが応答しないのです」

「う、噓でしょ……」

 ティークはミユウをより強く締める。

 どうやらティーク自身消えるつもりはないらしい。

「ティーク、アストリアはもういいって言ってるじゃん!早く消え、あれ?なんで服を脱がそうとするの?下着だけは、み、みんな助けて!」

「ティークさんはミユウさんの数倍の力を持っているのですよ。私たちの力では引きはがすこともできません。私の指示に従わないとなれば、これはもはや彼の気が済むまでくすぐられるしかありませんね」

「簡単に諦めないで、あ!もしかしたらサヤの力ならいけるんじゃない?ねえ、試しに引っ張ってみてよ」

「……ふん!自分で何とかすれば」

 サヤはミユウの問いかけに答えず、目を背けた。ミユウに唾を吐きかけられたことを恨みに思っているようだ。

「そ、そんなこと言わないで。さっきのことは謝るからさ……」

「にぃになんて知らない!」

「え~」

 そうこう言っている間にティークはミユウの服や下着は全て剝ぎ取り、くすぐりの準備を終えていた。

「やめて、お願い、ティーク……!」

 懇願するミユウにティークは予想外の行動をした。

 右腕に巻き付いていた頭がミユウの顔に近づいて、彼女に口づけをした。

「んぱぁ!」

「どうしたんじゃ?ティークに何をされたんじゃ?」

「口伝いに何かを体内に注入された」

「何を注入されたのですか?」

「よくわかんないけど、前にも口にしたことがあるよう……な!」

 突然ミユウに異変が起きた。彼女の全身が小刻みに震え始めた。

「なん、で。体が、しびれて、きた……」

「しびれですか?ティークさんが注入されたのは痺れ薬ということでしょうか?」

「それとは、違う。なぜか、ピリピリするというか、くすぐったい……」

「「「……まさか!」」」

 ミユウと、彼女の言葉を聞いたサヤとシュナはティークが注入したものに気が付いた。

 しかし、もう遅かった。ティークはミユウの全身をくすぐり始めた。

「ぎゃーーーーはははははははははは!」

 全身に走るくすぐったさにミユウは笑い悶える。

「なぜか先ほどより苦しそうに見えますが……」

「それはそうじゃ。あんなもん飲まされてくすぐられとるんじゃからのう……」

「あんなものとは?」

「ボクらがシュミルーク邸で捕まっとったときに、ミンクに飲まされた“全身を敏感にする薬”じゃ」

「シュナさんの言う通りだと思うよ。あたしが飲まされたときもこんな感じだったから。でも、どうしてティークがそんなものを……」

「きっと以前ミユウさんがその薬を飲まされたときに魔術印を通して、その薬の情報を入手したのでしょう。それをもとに体内で生成してミユウさんに注入したのですね」

「体内で薬を生成するやなんて、噂で聞いてた以上に恐ろしい生物やなぁ……」

「ぎゃはははははははは、冷静に、分析、しないで、た、たしゅけてーーーーーーーー!あはははははははは!」



 ---



 くすぐりが始まって3時間後、存分にミユウをくすぐることができたのか、ティークは消えていった。

 床の上には、全裸の状態で痙攣しているミユウが残されていた。

「あ、あひ、あひぃ……」

「ミユウさん、大丈夫ですか?」

 アストリアは全裸のミユウの上にシーツを被せて、体を隠した。

「まるで、た、他人事みたいに、い、言わないでよ……」

「申し訳ございません。まさかティークさんが私の指示に従わないとは思わなかったもので」

「前にもこんなことがあったんか?」

「いいえ。全くありませんでした。原則、魔獣というのは主人の命令には逆らえないはずです。それはティークさんも例外ではありません。これは一度調査しなければなりませんね」

「まあ、そんなことは一旦置いといて、どっか食べに行こうよ。あたしお腹が空いちゃった」

「そんなことって……あたしにとっては、命に関わる、結構重要な話、なんだけど。自分の大事な、兄が、死んじゃっても、いいの?」

「ふん!にぃにがどうなろうが、あたしには関係ないもん!」

「くっ!絶対、仕返しする……」

「さあ、動けないにぃには置いといて食べに行こう。テイラさんも誘ってさ」

「そうやな。今の時間やったら、どっか開いとるやろうし。……けど、その前にもう一つ終わらせないかんことがあるで」

「え?」

 入り口に向かおうとしたサヤを止めるようにイリイナが声をかけた。

 イリイナはニコッと笑うと、サヤの隣にいたシュナにアイコンタクトを送る。それで察したシュナがサヤを羽交い絞めにした。

「え?なになに?なんなの?」

「サヤ?あんた、大事なことを忘れてないか?」

「だってにぃにに首輪つけたでしょ?それで終わりじゃないの?」

「ほんまに忘れたんか?あんたにも贈りもんがあるんやで?」

「贈り物って……まさか」

 イリイナはスーツの胸ポケットから黒い首輪を取り出した。

「言うたやないか。自分もご褒美が欲しいって」

「確かに言ったけど!」

「どうや。兄さんとお揃いやで」

「嫌だよ!だって、“ビリビリ”とか“コチョビリ”とか言われたら、あたしにまで電流が来るんでしょ?」

「ぎゃーーーーーー!あははははははははは!」

 サヤが合図の言葉を口にしたことにより、ミユウの体に2種類の電流が立て続けに流れた。

「あ。ごめん、にぃに」

「サ、サヤめ~」

「ミユウがつけてるのとは違う言葉を設定してるから、巻き添えにならんから安心しいや」

「そういう問題じゃないよ!」

「さあ、うちがつけてやるから大人しくしい」

「だ、誰が大人しくつけられるもんか!」

「あんたら、やっぱり血のつながった兄妹やな。同じこと言いよるわ。仕方ない。あんたにもミユウと同じ目に遭ってもらおうか?」

「だから、それは、やめ、あ、ぎゃああああああはははははははははは!」

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