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チートな俺が、チープなあたしに変わったら、くすぐりに悩まされる日々が待っていました  作者: 広瀬みつか


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66.救いか、それとも…

 ショコラート事件の翌日、ミユウ達は数日間滞在した町を立つことになった。

 それぞれ自分たちの荷物をまとめて宿の玄関に集まる。


 全員が集まっていることを確認したところで、アストリアは宿主である中年の男性に声をかけた。

「今まで本当にありがとうございました」

 アストリアが感謝を口にしながら数日分の宿泊費を渡した。

 4人が連泊するとなると、かなりの出費となる。少女から10万リールを手渡された宿主は少し驚いた表情を見せた。

「いや~。まさかとは思ったが、本当にこれだけの大金を出してくるとはな。見たところ、あんたら一体何者なんだ?」

「私たちはただの旅人です。このお金は……旅に出る前に働いて稼いだものですよ」

「なるほどな。お嬢さんたちがこれだけ稼ぐのは大変だっただろうな」

 宿主はアストリアから受け取った10万リール分の札束を受け取ると、それを受付の机の中にしまった。


「それでこれからどこに行くんだ?」

「クリアスティアに向かいます」

「ほう。馬車に乗っていくのか?」

「いいえ。少しでも節約するために歩いて行こうと思います」

「本当か?ここからクリアスティアまではかなりの距離がある。歩いていくとなったら、一回は野宿が必要になる。それに道中には休息所もない。あんたらみたいな若いお嬢さんが野宿するのは危ない。悪いことは言わん、馬車を使いな。金がないっていうんだったら、1万リールを返すぜ」

 そういうと、宿主は机の中から1万リールを出してアストリアに渡そうとしたが、彼女はそれを断った。

「大丈夫ですよ。私たちも何度も野宿の経験がありますから。それに……」

 アストリアは身を乗り出し、宿主の耳元に顔を近づけて囁く。

「こう見えて私たち、強いですから」

「そ、そうかい?それならいいんだが……」

 宿主は彼女の言葉を信じることはできなかった。どう見てもひ弱な少女ばかりだ。男に襲われればひとたまりもないだろう。

 しかし、自信満々に自分たちを「強い」というのだからこれ以上追求することをやめた。


「そこまで言うんだったら、無理には止めない。だが、これだけは伝えておく。最近あの道を歩いていた奴らが突如消えるという噂が流れているんだ」

「消える?それは“行方不明”ということですか?」

「ああ。数人で道を歩いていた奴らがいたんだが、そのうちの数人が突然いなくなったんだ。すぐに辺りを捜索したが、結局見つからなかった。そんな話が今月だけで20件も立て続けに起こっている。重大事だと判断したナクトリスとクリアスティアの代表者が双方から捜索隊を派遣したんだが、見つからないどころかその隊員の数人も消えてしまったらしいんだ」

「それは……ただ事ではないですね」

「どうしても歩いていくんだったら十分に気をつけな」

「ありがとうございます」

 アストリアは宿主に軽くお辞儀をすると、外で待つミユウたちの元に向かった。



 ---



 宿を出たミユウたちは野宿の準備のため買い物を済ませると、日が昇りきる前にナクトリスの町を出た。

 ミユウ・アストリア・シュナの3人はスッキリとした顔で歩いていたのに対し、サヤ1人だけは目の下にクマを作り、背を丸めた状態で体を揺らしていた。

 前日起こった“ショコラート事件”の首謀者であったサヤは、そのお仕置きとして一晩中冷たい廊下の上で正座をさせられていたからだ。

「サヤ、これから歩かないといけないみたいだけど大丈夫なの?」

「だ、大丈夫だよ~」

 心配していたミユウが訊ねると、見るからに頭がぼーっとしているサヤが寝ぼけた声で答える。

 “ナクトリス”から次の町“クリアスティア”まではかなり距離がある。今日も1日かけて歩くことになる。その上、最近は旅人が消える事件が続いているらしい。

 サヤなら大丈夫だとは思うが、万が一のこともあり得る。ミユウはサヤの後ろに移動して、彼女を見張ることにした。


「しかし、最近起こっとる事件の原因は何じゃろうのう?変な感じはせんのじゃけど」

 道はしっかりと固められて、荷車が横に3台並んでも十分に通り抜けることができるほどに広い。両端は鬱蒼とした林だが、それは今まで歩いてきた道とさほど変わりはない。

「なんか魔術の形跡みたいなもんは感じられんの?」

「はい。先ほどから周りに気を配っているのですが、そのようなものは感じられませんね」

 魔術を行使すると、“魔術痕”と呼ばれる残留物が大気中に残る。通常の魔術師は魔術を行使すると同時に魔術痕を処理するのだが、それらを全部消し去ることはできない。アストリアのような魔術族であれば、僅かであってもそれらを感知することができる。

 その魔術痕が感じ取られないということは、そこで魔術が行使されたことがないということになる。

「となると魔獣の仕業、ですかね」

「魔獣ってティークみたいなもんか?」

 シュナの問いかけに、アストリアはコホンと咳ばらいをした後に講師のように話を始めた。

「魔獣と呼ばれるものは2種類あります。ティークさんの場合は私のような魔術使いが生み出して行使する“使い魔”と呼ばれる分類に入ります。その際は召喚時に魔術痕が発生します。しかし、今回はそれが見受けられなかったので、きっと“野生の魔獣”でしょうね」

「野生の魔獣?そんなんがおるんか」

「はい。数はほんのわずかですが、確かに存在します。彼らは通常の生物と異なり、魔術に似た不思議な力を使うのです」

「“魔術に似た”って、魔術やないん?」

「彼らが力を行使をしても魔術痕が発生しません。そのせいで多くの人たちが探索をしてきたのですが、彼らの形跡を負うことができず、その生態が詳しく解明されていないのです。ある地域では幻獣として崇拝の対象にされているほど珍しい存在なのですよ」

「なるほどのう。それじゃったら、突然人がおらんようになるという摩訶不思議な事件が魔獣らの仕業じゃいうんも頷けるわ」

「まあ、これはあくまで一つの仮定の話ですから。先ほどもお伝えしたように野生の魔獣は数が少ないので、彼らの仕業だという確率は低いでしょう」

「そうじゃのう。盗賊が襲ったいう方がまだ現実味がある話じゃ。まあ、それはそれでおっかない話じゃが……」

「公国全土に名の知れた盗賊団の元メンバーがいうことですか?どちらにせよ気を付けないといけませんね。ミユウさんやサヤさんも油断しないでくださいね」

 アストリアが後ろで歩いているミユウたちに話しかける。


 その時だった。

「ふんぎゃ!」

 地面に叩きつけられる音と同時にサヤの叫ぶ声が聞こえた。

「どうされたのですか?」

 慌てて振り向いたアストリアとシュナ。

 彼女たちの視界の前には地面に倒れたサヤと、彼女の側に寄り添うミユウの姿があった。

「何があったん?」

「いてて……。歩いていたら、足に何かが当たって転んじゃった」

「ほんましっかりしい。さっきから気をつけないかんと言いよるばかりじゃというのに。で、何に躓いたん?」

 サヤはシュナが差し出した手を借りて、立ち上がる。

 しかし、サヤの周りには躓いてしまいそうなものは何もない。

「なんや。何もないやない。足がもつれてしもうたんやないか?さっきからふらふら歩っきょった見たやし」

「おかしいな。本当に何か足に当たったんだよ」

「それだったら、サヤとぶつかったと同時にあっちに蹴飛ばされていたよ」

 サヤとシュナが周りを見渡していると、サヤの後ろで歩いていたミユウが草むらの方を指さす。

 サヤたち4人は何かが飛ばされていったであろう草むらの中へ向かい、かき分けて覗き込んだ。

 すると、そこには茶色い毛に覆われた小さな物体があった。

「これは……猫?」

「猫だね」

「猫ですね」

「猫じゃな」

 そう。その茶色い物体は全長40センチほど猫であった。息を荒くして、全身をピクピクとさせながら痙攣していた。

「どうやらサヤさんに蹴飛ばされてしまったことで気を失ってしまったようですね」

「え?!ど、どうしよう。あたし、とんでもないことしちゃった……。ねえ、どうにかならない?」

「仕方ありません。できるだけのことをしてみましょう」

 アストリアは猫を両手で抱えると、頭から足先まで見渡す。

「そうですね。透視したところ、あばらの骨を何本か折ってしまっているようです。緊急措置ですが、薬を飲ませてみましょう」

 荷物袋の中から粉薬を取り出して、猫に水と一緒に飲ませた。

 すると、荒かった呼吸が徐々に静かになっていく。

「このまま安静にしていれば、今晩には回復するでしょう」

「よ、よかった~。ありがとう、アスねぇ」

「しかし、ここに置いていくのは少し不安ですね。もし他の獣に襲われでもすれば、ひとたまりもありません」

 4人はアストリアが抱えている猫を見つめながら頭を抱えた。

「…………ねえ。この子、連れて行ってもいい?」

「え?連れて行くって……」

「ほら、元はといえばあたしが蹴ってしまったことが原因だし、最後まで責任もって看てあげたいんだよ。もちろん回復したら返すよ。みんなには絶対に迷惑はかけないようにするからさ。いいでしょ?」

「ん~~。どうする?」

「サヤがそういうんじゃったら、ええんちゃうか?」

「そうですね。私も反対しませんよ」

「やったーー!」

 サヤはアストリアから猫を受け取ると、赤ちゃんをあやすように優しく抱きかかえた。

 心なしか彼女の顔は朝の寝ぼけた表情から慈愛に満ちた母親のような表情に変わっていた。

「さて、もうそろそろ出発しましょうか。できるだけ先に進みたいですから」

「よし、じゃあしゅっぱーつ!」

 サヤは猫を抱えたまま、先頭を悠々を歩いていく。

「まったく現金なんだから……。あれ?シュナ、どうしたの?」

 ミユウは、頭をかきながらサヤの後姿を眺めているシュナの姿に気付いた。

「いや、なんかあの猫、気になるんよな」

「気になるって。どう見てもどこでもいる猫じゃん」

「そうなんじゃろうけど……。きっとボクの気のせいじゃろう。さあ、ボクらも行こう」

「う、うん……」

 ミユウは少し不安を抱えながらも、シュナと一緒にサヤとアストリアのあとを追いかけていった。

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