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チートな俺が、チープなあたしに変わったら、くすぐりに悩まされる日々が待っていました  作者: 広瀬みつか


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64.受け入れられないこと、あるよね…

 ミユウの地獄の夜が終わり、朝が来た。

 目が覚めたら、酔っぱらったシュナに襲いかかられ、危うくシュナと一線を越えそうになった。

 その危機からなんとか回避できたと思えば、いきなりティークが出現してシュナと一緒にくすぐられる。

 そして、なぜティークにくすぐられたのか理由も分からないまま、何の前触れもなくティークは消えていったのだ。

 これほど意味不明なくすぐり責めが精神的に来るとは思いもしなかった。

 結局ミユウとシュナはくすぐり責めが終わった後は少しも動くことができなかったので、仕方なく彼女と一緒のベッドで寝ることになった。

 シュナはよほどティークのくすぐりに心身ともに衰弱させられたのか、一晩中気絶するように眠っていた。

 そのため、彼女に襲われる心配は一切なく、安心して眠ることができたのだった。

 “不幸中の幸い”とはまさにこのことだろう。

 朝の日差しが部屋の中に入ると、ミユウは目を覚ました。

 くすぐり責めによる体力消費の影響がまだかなり残っていた。簡単に言えば、全身がけだるい。

 一方のシュナはというと、起きて早々頭を抱えて苦悶の表情をしていた。

 聞いたことがある。

 お酒を大量に飲むとその次の日に激しい頭痛や吐き気に襲われるのだと。一般的にはそれを“二日酔い”というらしい。

 昔、飲みすぎて帰ってきた父がその言葉をよく口にしていたことをぼんやりと覚えている。

 自分のことながら、こんなどうでもいいことだけ記憶していることに呆れている。

「シュナ、大丈夫?」

「あ~、いけん。昨日飲みすぎたみたいじゃ。すまんけんど、水入れてきて。できるだけ温かいんがええわ」

「わかったよ。宿の人に用意してもらうからおとなしく寝ててね」

「は~い」


 ミユウは宿主がいる部屋に向かうために部屋を出た。

 それと同時に隣の部屋のドアも開いて、そこから誰かが出てきた。

「お、おは、よう、にぃに……」

「サヤ?おはよう……って、どうしたの!」

 サヤの姿を見て、一瞬自分の目を疑った。

 休息をとっていたはずの彼女は見るからに疲れ切っている。顔色が真っ青で、左右にふらふらと揺れている。今にも倒れてしまいそうだ。

「にぃに、あたし、過信していたよ」

「なんのこと?」

「あたしね、不殺族が無敵の種族だって、怖いものなんてないって思っていたんだ。けど、違った。あたしたち以上に、強い種族がいるんだね。それも、こんなに近くにいるとは、思わなかったよ……」

 魔王と戦ってきたかのようなセリフをはくサヤ。

 一体、昨日の夜に何があったというのだろうか?

 確かサヤと一緒の部屋で泊まっていたのはアストリアだ。その彼女もシュナと一緒にお酒を飲んで……。

 いや、深く考えないようにしよう。これ以上想像すると、今晩悪夢を見てしまいそうだ。

「この後にぃにたちの部屋で休んでもいい?」

「いいけど、アストリアは大丈夫なの?」

「うん。当分は起きそうにないから」

「わかったよ。あたしのベッド貸してあげるからゆっくり寝てて」

 ミユウは今にも倒れてしまいそうなサヤに肩を貸しながら、一旦自分の部屋に戻った。

「これって……」

 その時、サヤたちが泊まっていた部屋の中がほんの僅か見えた。

 そこにはベッドの上で乱れた白い薄着で寝ているアストリアの姿があった。

 しかし、正直彼女よりもその周りに落ちている道具たちに身の毛が立った。

 羽ペンやブラシ、久しぶりに見た木製の棒マゴノテなど、ミユウからすれば恐ろしい拷問道具ばかりが乱雑に床に転がっている。

 中には白い錠薬が入った瓶や使い方が想像できない道具など、ミンクのお遊戯部屋で見覚えのあるものまで……。

「サヤ、よく頑張ったね」

 気がつけば、隣で体をピクピクと痙攣しているサヤの頭を優しく撫でていた。


 宿主からホットミルクを貰い、ベッドの上でうずくまるシュナに渡してから数時間経った。

 シュナはホットミルクを飲むと「もう少し寝るわ」と横になり、また眠りについてしまった。

 その横のベッドの上にはサヤが眠っていた。

 彼女の寝顔はこころなしか安堵の表情を浮かべているような気がする。

 ミユウは椅子に座り、その二人を姿を何をするでもなく眺めていた。

“またみんなと一緒にいられる”

 何気ないが、いろんなことがあったからこそ、そのありがたさに気づくことができた。

 今後の旅ではきっといろんなことがあるだろう。

 もしかしたら、今まで以上の困難が待ち受けてるかもしれない。

 けど、彼女たちがいればなんとかなる気がする。

 根拠なんてないが、そんな自信が湧いてきた。

 そう考えていたら、ドアを叩く音がした。

 「どうぞ」と返事をすると、ギーと音を鳴らしながらドアが開く。

 そして白い薄着を着崩したアストリアが入ってきた。長い金色の髪を珍しくボサボサにした彼女は眠たそうに目を擦っている。

 日頃の彼女からは全く想像できない姿だ。

「おはよう、アストリア」

「おはようございます、ミユウさん。随分と早くお目覚めですね」

「何寝ぼけてるの?もう日が昇って結構経つよ。けど、いつも早起きしているアストリアにしては珍しいね」

「お恥ずかしい。どうも朝から頭が回らなくて。正直昨日のこともはっきりと覚えていないのです」

 そう言いながら、頭を抑えて苦しそうな表情を浮かべてフラフラ揺れているアストリア。

 なるほど。

 彼女もシュナと同じで"二日酔い"というやつなのだろう。

「無理しなくてもいいよ。今ホットミルクもらってくるから、ここに座って待ってて」

「ありがとうございます……」

 ミユウは再び宿主から一杯のホットミルクをもらい、椅子に腰を下ろしているアストリアに渡した。

 アストリアはゆっくりとミルクを飲むと、大きく一呼吸する。

「落ち着いた?」

「はい。やっと意識がはっきりとしました」

「昨日はだいぶ飲んだみたいだね」

「実はシュナさんと居酒屋さんに行って、“セーシュ”というお酒を一杯飲んだところまでは覚えているのですが、そこから先ほどまでの記憶が丸ごと抜け落ちているのです。朝目覚めると、サヤさんがいらっしゃらなかったので、こちらの部屋にお伺いしたのですが、やはりこちらにいらっしゃったのですね。しかし、どうしてこちらに移動されたのでしょうか?」

「え?な、なんでかな……」

 本当にアストリアは昨日のことを忘れているらしい。

 サヤに何があったのかをこれで彼女から聞くことはできなくなった。

 まあ、ある意味聞かずに済んでよかったような気がするけど……。

「ところで提案なのですが、ここでもう一泊しませんか?」

「この状況で出ても危ないだろうし、賛成するよ。別に急ぎでもないからね」

「ありがとうございます。では、今から宿主の方に交渉をしてきます。その足で自分の部屋に戻って、もう少し眠ります」

「大丈夫?肩貸そうか?何ならあたしが交渉に行っても……」

「大丈夫ですよ。ミユウさんはお二人のことを看てあげてください」

 アストリアはゆっくり腰を上げて、部屋を出ていく。さっきよりも足取りがいい。


 アストリアが部屋を去って、また数時間経った。

 シュナとサヤが徐々にベッドから体を起こしていく。

「おはよう二人とも。といってももうお昼だから『おはよう』というのもおかしいけど」

「もうお昼か。結構寝てしもうたのう。あれ、なんでサヤがこっちにおるん?」

「えへへ。いろいろあってね」

 サヤはシュナの問いかけに目を伏せながら答えた。

「そういえば、さっきアストリアが来て……」

「え、アスねぇが……(ガクガク)」

 アストリアの名前を出すと、サヤは膝を抱えて何かつぶやいている。「何があったの?」と喉まで出かけたが、ぎりぎりで止めた。

「落ち着いて。アストリアは『もう一泊しよう』って提案しに来ただけだから。それに昨日のことは忘れたって言ってたし、もう大丈夫だよ」

「え?本当?」

「本当だよ」

「……ぅわ~~ん!」

「はいはい、怖かったね~」

 ベッドの上からミユウの胸に飛び掛かってきたサヤの頭を優しくなでる。

 しかし、子どものころから気丈なサヤをここまで泣かせるとは。

「そうか、もう一泊するんじゃったらゆっくりできるなあ。どうじゃ?町に繰り出すか?何なら今夜飲みに……」

「いかないよ!まったく、今朝こんなに苦しい目に遭ったのにまだ懲りてないの?」

「あほう。二日酔いが恐ろしゅうて酒が飲めるかいな。君もお酒を飲むようになったらわかる日が来る」

「わかりたくないな……」

 シュナはいいかもしれないが、酔ったシュナに襲われるこっちが嫌だわ!

「みなさーん!入ってもよろしいでしょうか?」

 ドアの向こうからアストリアの声が聞こえたので、「どうぞ」と返事を返した。

 そして、彼女は部屋のドアを開けた。

 ちなみに、アストリアの声が聞こえた瞬間、胸元にいるサヤの身体がまた激しく震え始めた。

 髪が首元に当たってくすぐったい。

「皆さん目を覚まされたようですね」

「アストリアもだいぶ良くなったみたいだね」

「はい。皆さんにはご迷惑をおかけしました。特に、サヤさんには昨晩介抱していただいたようで」

 アストリアはミユウに抱きついているサヤの背中をさする。

「申し訳ございません。昨夜の記憶がなく、サヤさんに何をしてしまったのかわからないのですが、部屋の状況からすればサヤさんにひどいことをしてしまったようです。虫のいい話ですが、どうか許していただけませんでしょうか?」

 すると、サヤの震えが徐々に収まり、伏せていた目線をアストリアに向ける。

「……アスねぇも悪気があったわけじゃないんだもんね。うん、許してあげる」

「うふふ。よかったです」

 アストリアとサヤは仲直りしたようだ。

 これから旅をするのに喧嘩されてたんじゃ気まずくなるだけだから、本当によかった。

「そうです!仲直りをした記念に今日は私が皆さんにご飯をお作りいたします!」

「「「え?」」」

 予想外の提案だった。

 そういえば、今までアストリアが作ったものを食べたことなかった。

 野宿の時は採ってきた木の実やパンなどを食べてたし、町に入ればそこの飲食店で食べていた。

「アストリアって料理ができたの?いままであなたの料理を食べたことがなかったから、作れないのかと思っていた」

「何を失礼な!私は一人の乙女なのですよ。料理の一つや二つできなくてどうします?」

「ご、ごめん……。でも、そこまで言うからには自信があるんでしょ?」

「もちろんです!」

 アストリアは胸を張る。

 得意げな表情からしても、よほど自信があるのだろう。

 これは期待してもいいかもしれない。

「それなら作ってもらおうかな」

「そうじゃのう。アストリアが作った料理は楽しみじゃ」

「わかりました!今晩は腕を振るいますね。では、準備がありますので、ここで失礼いたします!」

 そういうと、アストリアは意気揚々と飛ぶように部屋を出ていった。

「アストリアの料理ってどんなんじゃろうのう?」

「ん~~、想像もつかないな。サヤは知ってる?……サヤ?」

 ミユウの足元で震えていたシュナの体がまた震えている。

 なぜかさっきよりも顔色が悪いような気がする。

 何度も問いかけても返事がない。ずっと固まっている。

「サヤ?ねえ、サヤってば!って痛!」

 サヤがいきなりその場で立つ。

 その時に彼女の頭がミユウの顎に直撃した。

「いきなり何するの?」

「にぃに、シュナさん」

「ん?どうしたの?」

「あたし、今晩は用事があるから……」

「今晩はアストリアがご飯を作ってくれるんだよ?」

「あたし要らないから……アスねぇに伝えといて!それじゃ!」

 そういうと、サヤは部屋を飛び出ていく。

「初めて来て数日なのに用事って何だろう?というか、めっちゃ元気じゃん」

「なあミユウ。ほんまにアストリアの料理って……大丈夫なんじゃろうか?」

「え?…………大丈夫でしょ!」

 ミユウは自分自身を納得させるようにそう返事した。



 ---



 日が落ちて夜になった。

 繁華街近くにあるこの宿では外の喧騒が聞こえて、部屋でいてもそのにぎやかさを感じられる。

 そんな部屋の中でミユウとシュナはテーブルを挟むように椅子に座っている。

 アストリアは部屋の中で待つように言われたからだ。

 彼女は宿主と交渉して厨房を借りて、そこで料理をしているのだそうだ。

「どんなのを作ってくれるんだろう。楽しみだね、シュナ」

「君はほんまにそう思っとるんか?見たじゃろ?サヤのあの反応」

「う、うん」

 確かにサヤは逃げるように部屋を出ていった。

 あれは確実に何かに怯えていた。

 実際、今になってもサヤは帰ってこない。

(もしかしたら彼女の料理に問題が……いや、きっと大丈夫だ)

「あれだ。本当にサヤは用事があったんだよ。それを思い出したから部屋を飛び出ていったんだ。そうに違いない」

「そんならええんじゃけどのう」

「シュナはちょっとナイーブに考えすぎなんだよ。ほら、なんだかいい匂いしてこない?」

「ん?ほんまじゃ。なんや香ばしい匂いが……」

 部屋の外から漂う食欲をそそる匂いが漂い、同時にガタガタと廊下の上を移動する音が聞こえる。

「ミユウさん、シュナさん。入ってもよろしいでしょうか?」

「いいよ。入ってきて」

 ミユウがそう答えると、部屋のドアが開かれた。

 ドア越しに見えた廊下にはアストリアがいて、その傍に彼女の腰ぐらいの大きさの木造のカートがあった。

 カートには何枚かの皿と大きな鍋が置かれている。皿の数からすれば、数品の料理を作っているのだろう。

「少々お待ちくださいね。今盛り付けてテーブルに並べますので」

「いっぱい作ったね。手伝おうか?」

「いいですよ。座ってお待ちください」

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 アストリアはミユウたちに背を向けて、歌を口ずさみながら皿の上に料理を盛り付けていく。

「ほら、大丈夫でしょ。こんないい匂いがするのにまずいわけないじゃん」

「それもそうじゃ。ちょいと心配しすぎとったみたいじゃのう」

 そうシュナと小声で話していると、アストリアがテーブルの上に真っ白のシーツをかぶせる。

 そして、ミユウたちの前にそれぞれランチョンマットを敷いて、その左右に銀のナイフとフォーク、スプーンを並べる。これらも町で仕入れてきたものらしい。

 それを見るだけでも、今回の彼女の力の入れようが分かる。

「大変長らくお待たせしました。これより今宵のディナーを開始いたします」

 アストリアは廊下にあったカートを部屋に入れて、そこに置いてある皿を並べ始める。

「さて、何を作って……」

 テーブルの上に置かれた大小の白い食器。

 その上には色とりどりの料理が乗っている……はずだった。

「アストリア、これ何?」

「こちら、青菜のサラダ、コーンのスープ、豚肉のワイン煮込みです。主食として手作りのパンも用意いたしました。おかわりもありますので、欲しい場合にはおっしゃってくださいね」

「……そうなんだ」

 匂いは本当においしそうだ。すぐにでも手を伸ばしたいほどに。

 しかし、サラダ、スープ、煮込み、そしてパン、目の前にあるもの全部紫色……。

 いやいや絶対おかしい!これは食べ物じゃない。色から絶対に食べるなって自己主張してるもの。なんなら皿の上から悲鳴みたいなものが聞こえる。何、食材にされたものたちの断末魔?

(いや、あたし疲れているんだ。疲れて過ぎて幻覚が見えているんだ。そうに違いない)

 きっとシュナには正しく見えているはず……

「あわわ……」

 ダメだ、思考停止している。

 シュナの視界にもミユウと同じものが見えているのだろう。

 じゃあ、目の前にあるものはすべて現実……。

「ア、アストリア、え~と……」

「さあ皆さん、召し上がってください!」

「いや……」

「召し上がってください!」

 有無を言わさず、満面の笑みで食べるよう迫るアストリア。

 どうしよう。

 いくら毒を飲んでも大丈夫な身体をしてるが、これは絶対に食べたくない。

(サヤめ、このことを知ってたな!だから"用事がある"って逃げ出したんだ。それならそうとミユウたちにも教えてよ。教えてくれたらあたしたちも"用事がある"って……そうだ)

「ごめん、アストリア。この後どうしても外せない用事があるのを忘れてた。今すぐにでも行かないといけないから、これ食べれれないな~」

「あ、そうじゃ!ボクも用事があったんじゃった。せっかく作ってもろうたのにすまんのう~」

「え?そうなのですか?大事な用事があるのでは仕方ありません……」

「それじゃシュナ、一緒に行こう!」

「おう、わかった」

 ミユウとサヤは席を立つと、ドアに向かって歩いていく。

「ところでお二人とも、何か忘れていらっしゃいませんか?」

「え?忘れ物なんてしてないよ」

「そうですか?ご自身の胸に手を当てて思い出してみてください」

 ミユウとシュナはアストリアに言われた通り胸に手を当ててみる。


 プニッ!

(あれ?服の下になくてはならないものがないような)

「ダメですね。乙女にとって大切なものをお忘れですよ?」

 アストリアの方に目線を向けると、彼女の両手に二セットの布切れがヒラヒラとぶら下がっている。

「「……あ!それはあたし(ボク)の下着!」」

 そう、彼女の右手にあるのはミユウが今日身に着けているはずの青い上下セットの下着だ。

 左手にも同じように黒い上下セットの下着がある。きっとシュナが身に着けていたものだろう。

 椅子から立ち上がる時に一瞬スースーしたのはこれが原因だったのか。

「いつの間に取ったんじゃ!」

「うふふ。魔術を使えば下着を脱ぎとるぐらい朝飯前ですよ〜」

「なんでそんなひどいことするの!」

「ひどいのはお二人ではありませんか?私がせっかく作ったものを召し上がらないだなんて」

「「う!」」

 それを言われると言い返すことができない。

「“本当に”用事があるのであれば、どうぞそちらにお向かいください。しかし、困りましたね。お二人ともご立派なものをお持ちですので、こちらを着用しないまま歩かれれば周囲の方に注目されてしまうかもしれません」

「「むむむ……」」

 間違いない。アストリアはミユウたちが嘘をついていることに気付いている。

 さすがにノーブラノーパンで町に出るのは心もとない。というか、恥ずかしい。

 ミユウとシュナは観念して黙々と自分たちの席に戻る。

「どうされたのですか?大事な用事があるのではないのですか?」

「いや、よう考えたらそれほど大事やなかったわ」

「あたしも」

「そうでしたか。では、食事の続きをいたしましょうね」

「「……はい」」

 ミユウとシュナはランチョンマットの右側に置かれたスプーンを震える手で取り、紫のスープをすくう。

 いい匂いはするが、どう考えてもスープと言えないこの液体を口にするには勇気が要る。

「シュナ、同じタイミングで飲まない?」

「そ、そうじゃのう。その方が安心する」

「じゃあ、『いっせーの』で飲もう」

「よし」

「「いっせーの!」」

 …………。

「なんで飲まないの?一緒に飲もうって言ったじゃん」

「君もじゃ。裏切るやなんてひどいやないの」

「いかがされたのですか?さあ、早くお召し上がりください」

(もうこうなったら仕方ない!あたしは毒で死んでも生き返るんだから、ここは覚悟を決める!)

 スプーンの中に入った紫の液体を口に運ぶ。


 …………。

「どうですか、ミユウさん?お口に合いますか?」

「大丈夫か?どうなんか早う答えや!」

「…………おいしい」

「……ヘ?」

「これ美味しいよ!あまり料理のこと詳しくはわからないけど、コクって言うのかな?いろんな食材のいいところが重なり合って、深い味になってるよ!」

「そうですよね!かなり味にはこだわったのですよ。そのために一日かけて市場の食材の中から選んだのですから」

 目の前の料理に手をつけていく。

 どれもこれも予想以上においしい!手が止まらない!

「ほら、シュナも騙されたと思って食べてみて!」

「お、おう。君がそこまで言うんじゃったら」

 ミユウが促すと、シュナもすくったスープを口に流し込む。

「嘘!ホンマにうまいわ!こんなん今まで食べたことないで!」

「でしょ!スープだけじゃなくて他のも癖になる味だから」

「ほんまじゃのう。正直初めてこれ見せられたとき、"こんなん食べもんやない”思うてしもうたけんど、見かけで判断したらいかんのう」

「実はあたしもそう思ってた。実際に食べてみないとわからないものだね」

「むむ。お二人ともそのように思われていたのですか。つくづく失礼ですね。よく考えてみてください。私も味見をしているのですよ。それで不味いものなど作れるわけないではないですか!」

「それもそうだね。ごめん、アストリア。あたしたちが悪かったよ」

「ホンマにすまんかった。じゃけん、ボクらの下着返してくれんのう?こんまま心もとない状態でこんだけうまい食事はしとうないけん」

「仕方ありませんね。では、下着を着けましたら食事を再開いたしましょう」

 その後、ミユウたちはアストリアが作ってくれたものをすべて平らげてしまった。

 しかし、どうしてサヤはアストリアが料理を振る舞うと聞いて逃げ出してしまったのだろうか?



 ーーー



 アストリアの作ってくれた料理を完食した翌日の朝。

 ミユウとシュナは酷い腹痛に悩まされていた。

「う~~。お、おなかが痛い~~」

「いけん、ボク死んでしまいそうじゃ~~」

「ふたりとも大丈夫?ほら、昨日お薬買ってきたから、これ飲んで。少し楽になると思うから」

 朝早く町から戻ってきたサヤが薬二錠と水をもらった。

「ありがとう、じゃないよ!サヤはこうなること知ってたの?」

「うん。にぃにが村からいなくなった後に一回だけアスねぇがあたしたちにご飯を作って、振る舞ってくれたんだ。最初恐る恐る食べてたんだけど、とても美味しくてみんなで完食したんだよ。でも、その次の朝に食べた全員がもれなく激しい腹痛に見舞われる事態になってね。それ以降、アスねぇの作った料理がトラウマになってる」

 魔術族は魔力を体内で生成するために特殊な材料と調味料を使う。それは魔力を使うことのできる一部の種族以外には毒にも等しい。

 ミユウたちがこうやって苦しんでいるのもそのせいだ。

「なんでそれを知っててあたしたちに教えてくれなかったの?」

「ごめんね。今後アスねぇと一緒にいると考えると、今のうちにこのことを身を以て実感してほしかったから。口で言ってもわからないでしょ?」

 サヤの言うとおりかもしれない。

 こうやって経験しなければ、アストリアの料理の真の恐ろしさを理解できていなかっただろう。

 それでも、一言だけでもいいから教えて欲しかった。

「それとこのことはアスねぇには秘密にしておいて。本当のこと伝えるとアスねぇが悲しむから」

 なんとなくわかる。あれだけ楽しそうに料理をする彼女を見ると真実を伝えるのが心苦しい。

「うん。わかったよ。その代わり、これからはみんなでそれとなくアストリアに料理を作らせないようにしよう」

「その方がええかもしれんのう~」

 その後、ミユウたちは適当な理由をつけて、アストリアにもう一泊するように提案し、この町にもう一日滞在することになった。

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