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チートな俺が、チープなあたしに変わったら、くすぐりに悩まされる日々が待っていました  作者: 広瀬みつか


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63/109

63.アストリアとサヤ、の場合…

 アストリアとシュナが飲みに行ってからどれほどの時間が経ったのか?

 サヤは部屋の窓から外を眺めると、多くの人で賑やかだった町が静かになり始めていた。

 数時間前にご飯を軽く食べて戻ってきてから、ずっと自分のベッドの上で横になっていた。

 特にすることはなく、暇な時間を過ごしていた。


「けど、みんなひどい!あたしのことをまだ子ども扱いにして!そりゃ年齢でいえばまだお酒も飲めない子どもだよ?マッサージもくすぐったいから苦手だし……。

 けど、今まで一人でいろんなところへ旅に行っていたんだよ。そこでは大人の男たちに一度も負けたこともないくらい強いんだから!」

 サヤは大人な身体だと自負している。実際、ミユウも彼女の身体に興奮していたこともある。胸だってこれからどんどん大きくなる、はずだ。

 しかし、ミユウたちは自分のことを子どもとして見てくる。

 もっと一人前に見てほしい。

「でも、そのためには自分磨きをしないとな」

 今後の目標を立てたところで部屋のドアが開く音がした。

 ドアに目線を向けると、アストリアが入ってきた。

「ただいま帰りましたよ~」

 彼女の頬はほんのり赤く、全身を左右にふらふらと揺らしていた。

 完全に出来上がっている。

 町の集会終わりに帰ってきた父を思い出す。

 いつも子どもたちに厳しかった父が母に叱られているのを、兄と陰から見ながらクスクスと笑ってた。

 そんなことを思い出しながら、テーブルの上に置いてあったグラスに水を注いで、椅子に崩れるように腰掛けたアストリアに差し出した。

「ありがとうございます。どうやら飲みすぎてしまったようです」

「そうみたいだね。大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ。外で風に当たっていましたので」

 そういうと、グラスの水を一気に飲み干す。

 彼女は大丈夫とは言っているが、サヤの目からはそう思えない。

「あれ?一緒じゃないの?」

「シュナさんならまだ外で風に当たっていらっしゃると思いますよ。確か『ボクなんかええこと思いついたわ。もう少し考えたいけん、先戻っといて』とおっしゃっていたような……」

「なにそれ?すっごく気になるんだけど!もしかして、にぃにを襲う計画でも立ててるんじゃ……」

 すぐにでもシュナを止めに行きたいが、この状態のアストリアを一人にさせるわけにはいかない。

「そんなことよりもですね。……せっかくの機会なのですし、少しお話しませんか?」

 アストリアがサヤの服の裾を引っ張る。

 頬が染まっているせいか、はたまた目がとろんと座っているせいか、いつもより色気があるアストリア。

 その表情に女であるサヤも思わずドキッとしてしまう。

(これが大人の魅力!恐るべし)

 サヤは唾をゴクンと飲み込むと、近くにあった椅子に座る。

「覚えていますか?私たちが初めて出会ったことのことを」

「うん。もちろんだよ。十一年前の魔術族の人たちがあたしたちの村にやってきたときだね。そっちの族長さんの後ろ陰で覗き込んでいた記憶があるよ」

「うわあ!嬉しいです!そんなにはっきりと覚えていらしたなんて」

 アストリアはニコっと頬の筋肉を緩ませて喜んでいた。

「その時の私はかなりの人見知りでしたし、魔術族以外の方々と出会ったこともありませんでしたので、とても恥ずかしかったです。事前に私の許嫁と会うことを聞かされていたので、より緊張していました」

「それもそうだよね。けど、その後も何回かうちに来た時には村の子どもたちといろんな遊びをしたよね」

「はい。魔術族の村ではずっと魔術の勉強しかしていませんでしたので、体を動かして遊ぶことは新鮮でした。それに皆さんは私を“友だち”として受け入れてくださったので、本当にうれしかったことを今でも思い出します」

 当時は鬼ごっこしたり、かくれんぼしたり、近くの森の中を探検したりと自然の中を駆けるように遊んだ。

 並外れた体力と運動能力を持った不殺族の子どもの動きに、アストリアが少しひいていたみたいだったが。

「しかし、ミユウさんは皆さんと違いましたね。“私たちと仕方なく遊んでやっているんだ”という感じがしていました」

 子どもの頃のミユウはとんがっていた。

 子どものころから村の大人たちを相手で対等に渡り合えるほど強かった。“自分はもう大人なんだ”と思っていたのかもしれない。

 だから、サヤたちと一緒に遊んでいるときにも本気でやってる様子もなかったし、一歩退いたように見ていた気がする。

「白状しますとね、最初の頃はミユウさんのことが苦手でした」

「え?そうなの?」

「ミユウさんだけは私に話しかけてくださらなかったのですよ。もしかしたら、許嫁である私のことを嫌っているのかと思っていました」

「あはは。そう思われても仕方ないよね」

 実は、その時のミユウはアストリアに緊張していたのだ。

 理由はアストリアが昔から大人びていたからだ。実際村の男子たちからも人気が高かった。

 そんな彼女になんて声をかければよかったのか、女子に免疫のなかったミユウは何度も相談された。

 今のミユウにはその時の記憶はなさそうだし、彼の男としてのプライドを守るために今は秘密にしておく。

「しかしですね、そんなミユウさんのことが好きになったきっかけがありまして……」

「え?」

 アストリアは顔をより真っ赤にして話し始める。

「あれは初めて会ってから一か月ほど経った頃、村の近くを村の皆さんと探検をしていたときです。道中でとてもきれいな花を見つけまして、それを眺めていたら皆さんとはぐれてしまいました」

「ああ、そんなことがあったね」

「私は今どこにいるのか全く分からず、怖くて泣いていたのです。そんなときに、ミユウさんが私を見つけてくださり、泣いている私を強く抱きしめて『泣かないで。もう安心だから』と頭を撫でていただきました。その時、ミユウさんのことを“一緒にならなくてはならない方”から“一緒になりたい方”と思うようになったのです」

「そ、そうだったんだ」

 はじめて知った事実である。

 今思い出すと、ミユウが泣いているアストリアの手を握ってサヤたちの前に出てきた。

 それを見て、“ミユウがアストリアをいじめてたんじゃないか疑惑”が子どもたちの中で広まった。

 弁解しない兄の代わりにサヤが説得しに回ったこともあった。

 結局サヤにも本当のことを教えてくれなかったが、本人はそれを言うのがきっと照れくさかったのだと思う。

「その後は不殺族一強いミユウさんの伴侶としてふさわしい女性になるために魔術の研究にも、家事の修行にも力を入れました。それだというのに……」

 今まで恋する乙女のようにいじらしく語っていたアストリアの雰囲気が一変する。

 緩んでいた口元が引き締まり、目からは大粒の涙が流れ、全身が小刻みに震え出す。

「え?どうしたの?また気持ち悪くなった?」

「どうして……私の前から消えてしまわれたのですか、ミユウさん!」

 アストリアが椅子から立ち上がってそう叫んだ。

「いや、あたしに聞かれても困るよ」

「どうしてです?ご本人であればお答えできるでしょ!」

 サヤはここで自分とアストリアの認識の食い違いに気がつく。

「ねえ聞きたいんだけど、あたしが誰だかわかる?」

「何をおっしゃるのですか?あなたはミユウさんでしょ?」

「……違うよ。あたしはサヤだよ」

「そんなわけないですよ。私がミユウさんとサヤさんを間違えるはずないではないですか?」

 サヤを睨むアストリアの目は依然座り続けている。

 どうやら彼女ははサヤをずっとミユウと勘違いして接していたようだ。

 いくら兄妹だからといっても間違えるとは、どれだけ酔っぱらっているのだろう。

「そんなことより先ほどの質問に答えてください。どうして私の前から消えたのですか?」

「だ~か~ら~、あたしはにぃにじゃないよ!よく見て!ほら、髪短いでしょ!にぃにの髪はもっと長いでしょ!」

「ダメですよ!呼び方を変えたり、髪の長さを変えたりされてもごまかせません!」

「そんなことのために髪を切る訳ないでしょ!」

「そこまでシラを切られるのであれば仕方ありません。強引にでもお答えをいただきましょう」

(ダメだ。これは絶対に誤解が解けないやつだ。このままだとにぃにの代わりにあたしが拷問を受けることになる)

 サヤは椅子から腰を上げて、アストリアの背後にあるドアにめがけて走り出そうとした。

「あらあら。私から逃げられると思わないでください」

 アストリアが右手で指を鳴らす。手錠や鎖を出して自分を捕まえる気だ。

 拘束されまいと、体を縮めて警戒する。

 しかし……。

「おや、おかしいですね?ミユウさんの両手を拘束するように術式を組んだのですが、間違えてしまいましたかね?」

 どうしてかは分からないが、とにかく助かった。

 今のうちに逃げ出そう。

 すぐに姿勢を立て直し、再びドアに向かう。

「では、これではいかがでしょう?」

 アストリアは再び右手の指を鳴らす。

「ふん!どうせまた失敗するって、え?」

 すると、今度は指が鳴るのと同時にサヤの手首足首に枷がはめられ、ベッドの上に引き戻された。

「え、どうして?さっき失敗したじゃん!」

「うふふ。今度は狙いを正確にするために、対象を“ミユウさん”から“目の前にいらっしゃる方”に変更いたしました」

(じゃあ、もしかして今隣の部屋でにぃには訳も分からずに拘束されているのか……)

 いや、そんなこと思ってる場合じゃない!

「ではミユウさん。先ほどのお答えいただけますか?」

「だからあたしはにぃにじゃないから!お願い信じて!」

「はあ。まだそのようなことを。仕方ありません。ティークさんにくすぐってもらいましょうか」

「やめて!ティークだけはやめて!」

 体験したことはないが、ミユウがくすぐられているのを見てたらわかる。あんなの絶対耐えられるはずがない。

「もう遅いですよ」

 アストリアはまた右手で指を鳴らす。

 しかし……。

「おや?またですか?確かにティークさんが出現した感覚はあるのですが、おかしいですね」

「よかった」

 ティークはミユウの背中の魔術印から出現するため、さすがにサヤには出現しない。

(ということは、にぃにのところにティークが出現して今からくすぐり責めにされるんだ。……お気の毒に)

 とにかくこれで本当に助かった。

「どうやら本当に今夜は飲みすぎたようです」

「そうだよ。飲みすぎだよ。だから今日はゆっくり休んだ方が……」

「仕方ありません。今回は私の手でくすぐりましょう」

「え?」

 アストリアがベッドの上で拘束されたミユウの上に馬乗りになる。

 そして、近くにあった彼女の荷物袋の中から二本の木製の棒を取り出す。

「うふふ。今回は久しぶりにこちらを使ってみましょう」

「何なのそれ?初めて見るんだけど」

「お忘れですか?こちらはマゴノテです」

「マゴノテ?」

 名前や使い方は分からないが、この状況で出すぐらいなら相当な拷問器具なのだろう。

「お忘れなのでしたら、あの時の感覚を思い出させてあげますね」

「あわわ……」

 アストリアは二本のマゴノテの丸く曲がった先をサヤの両脇にあてる。そして、それを前後に動かす。

 両脇腹から全身に走るくすぐったさがサヤを襲う。

「あ、あ、ああははははははははは!」

「ほらほら。はやく言わないと腹筋崩壊しちゃいますよ」

「だ、だから、あたしは、に、にぃにじゃ、あはははははははは!」

「う~ん、これでは効率が悪いですね。よし、それではジークさんから教えていただいたシャドーハンドを使って。それとミンクさんから頂いた“肌の感覚を敏感にする錠剤”も一緒に……」

「いや、それは、や、あははははははははははは!」

 この後、アストリアが気絶するように眠るまでの数時間、サヤはいわれもない理由でくすぐり責めにされるのであった。

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