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チートな俺が、チープなあたしに変わったら、くすぐりに悩まされる日々が待っていました  作者: 広瀬みつか


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56.シュナの過去、どうして……

 ミユウがアストリアと待つ宿の部屋に戻ってから数分が経った。

 “お仕置き”と称して抱きついてきたアストリアがやっと離れて、向かいのベッドに腰を据えた。

 アストリアが離れるのと同時にミユウもゆっくりと上半身を起こす。

 未だにアストリアの鼻をすする声が身元から離れない。

 “彼女にまた不安な思いをさせてしまったんだ”その罪悪感がミユウの心を襲う。

「では、もうそろそろシュナさんについて説明しないといけませんね」

 乱れた金の長髪と紺の服の乱れを直しながら、ほんのり頬を赤く染めたアストリアが話し始める。

「まず、私たちがシュナさんを見つけたところからお話いたしましょう」

 アストリアは一つ咳払いした。

「私とサヤさんが宿を出て町に探しに行ったところまでは覚えていらっしゃいますよね。そこから数時間町中を探し続けたのですが、結局見つけることができませんでした。そこで近くの森の中に探しに行きました」

「もうその時には陽も沈みかけていたから半ば諦めかけていたんだけどね、草むらの中で隠れてたシュナさんをあたしが見つけたんだ。シュナさん、その時体を震わせていたよ。あたしが話しかけてもずっと“許してください、許してください”ってつぶやいてた。よっぽど怖かったんだね」

「サヤさんに呼ばれて私もシュナさんのところに向かったのですが、どうしてもそこから動くことができないようでしたので、その場でシュナさんにお話を聞きました」

 アストリアたちは説明を続けた。

「その時にシュナさんの昔のことを教えていただきました」

 確か生まれた村の習慣で村に出てから、前にいた仲間と一緒に旅をしてたんだっけ。

「実はシュナさんはお生まれになった村から追放されたのだそうです」

「え?」

 シュナ本人から聞いたことのなかった事実に思考が停止する。

「もともと獣人族の方々は同じ村で生涯を全うするそうで、村を離れて旅をするということはないそうです」

「じゃあ、なんで?」



 ---



 シュナの両親はシュナを産んだ時に彼女を育てることを放棄した。

 自分と見た目が違う子どもを自分の子供と認められなかった。獣人族の中でよくあることらしい。

 生まれてすぐに家の前に捨てられたシュナは村の中のある家族に引き取られたが、そこで毎日虐待を受け続け、村の人々からもいじめを受けていた。

 何度もその家から逃げ出そうと思ったが、行く当てのない子どもだった彼女は虐待を受け続けていた。

 そんな時に事件が起こった。

 シュナが十歳の時に村の領主だった家の宝玉が盗まれた。

 すぐに犯人探しが始まったが、なかなか見つからず、だんだん村中の空気が険悪になっていく中で、シュナを育てていた里親が彼女を盗みの犯人だと告発した。

 もちろんシュナは盗みなんてしていない。そう何度もシュナは訴えたが、受け入れられることはなかった。

 そのままシュナは村を身一つで追放されてしまった。もともと親から捨てられたシュナを“仲間”と思っていなかったから、これを機に追い出したかったのだろう。

 森の中を昼夜問わず、飲まず食わず歩き続けた。

 それで大きな道に出たところで力尽きて倒れた。

 “もうここで死んでしまうのか”

 そう諦めかけたときに彼女を助けてくれた集団があった。それがヤグラたちだ。

 彼女たちは各地を転々とする“赤狼の牙”と呼ばれる盗賊集団で、あらゆる町の商家を襲って金品を奪っていく、公国領内全体で悪名を轟かす集団だった。

 行き倒れたシュナを拾うと、自分たちの仲間として育てた。

 その中でヤグラはシュナに強盗などの仕事はさせず、武術の訓練をしたり、世の中の知識を教えてくれたりした。

 もともと運動能力が高くて、知識の呑み込みの早いシュナをヤグラは特に可愛がった。

 昔病で死んだ彼女の妹に面影が似ていたことがその原因だった。

 シュナもそんなヤグラを姉のように敬愛していた。シュナのあの口調もヤグラを真似していたのが癖になったのだ。

 そんな日々を過ごしていたある日のことだ。

 メンバーの一部の男たちに襲われそうになった。

 大人の女性になり、性的な対象に見られていたこともあるが、棟梁のヤグラに特別扱いされていたことが気に入らなかった。

 その中で彼らはシュナのことを“獣の血を持つ野蛮民族”と言い放つ。

 その言葉を今まで仲間と思っていた人たちから言われたことにシュナは耐えられなかった。生まれた村の人々から疎まれ続け、初めて仲間を手に入れた彼女にとって、その心の傷は大きすぎたのだろう。

 シュナはこれ以上彼らと一緒にいることはできないと思い、事件があったその夜に逃走した。


 縄に縛られて森の中に放置されていたミユウと出会ったのは逃走した次の日のことだ。



 ―――



 ミユウはシュナの過去のことを理解した。

 しかし、シュナと再会した後の話はまだ聞いていない。

 サヤは「シュナと協力していた」と聞いていたが、一体どういうことなのだろうか。

「そうでした。今重要なことをお伝えしていませんでしたね」

 アストリアはまた一つ咳払いをして、話し始める。

「シュナさんから事情をお聞きしている間にサヤさんに宿へ行っていただきました。もしかしたら、例の方々が宿でシュナさんが来るのを待っている可能性がありましたから。そして、お話が終わったときにちょうどサヤさんが戻ってこられました。そこでミユウさんが何者かにさらわれたとお聞きしたのです」

「部屋に戻ったら、にぃにがいないし、部屋が荒らされていたからびっくりしたよ。急いで宿の人に聞いたら、『気絶した女の子が男たちに連れていかれていった』って言われたんだよ」

 そうだ。ミユウがトイレから部屋に帰ってきたときに例の集団のメンバーと鉢合わせになり、そこで捕まってしまった。

「それをシュナさんが聞いたときに慌てて『すぐに助けに行く』っていうもんだから、必死で止めたよ。なんの計画もなく行っても無駄だし、それにあいつらの目標はシュナさんなんだから、その本人が乗り込むわけにはいかないでしょ」

「なんとかシュナさんを落ち着かせてミユウさんを救出する計画を考えていました。そこでシュナさんからある提案をされたのです」

「ある提案?」

「それは、シュナさんが“赤狼の牙”の仲間に戻り、隙を作ってミユウさんを逃がすというものです。もちろん私たちは反対しました。シュナさんが仲間に戻ることを彼らが許すとはとても思えません。しかし、『自分のせいでミユウがひどい目に遭っているかもしれないのに、見過ごすわけにはいかない』と頑なでしたし、他に代案も思いつきませんでしたので、その提案に乗ることにしたのです」

「シュナさん一人だけを行かせるわけにはいかないから、もしものためにあたしが遠くから付いていっていたんだ。最初はもっと近くでいたかったんだけど、あの女頭領と合流してから何度も気づかれそうになったからあまり近づけなかったよ。その後のことはにぃにもわかるよね?」

「うん……」


 これで一通りの事情は分かった。

 シュナはミユウを助けるために、帰りたくもない”赤狼の牙”のところに戻ったということだった。

 「仲間でない」と言ったのも、騙すためだったのだろう。

 それに気づかずに自分は一瞬でもシュナのことを疑ってしまった。

 もし、あの時に捕まらなければ、シュナを怖い目に遭わずに済んだのに……。

 自分の不注意でまた仲間を危険にさらしてしまったことに自省せざるを得ない。


 ここで一つの疑問が出てくる。それを二人にぶつける。

「シュナは……戻ってくるよね?このままあいつらのところにいるなんて……」

 二人は目を伏せて沈黙する。その沈黙がより不安をあおる。

「ねえ、答えてよ!」

「……お聞きしたのですが、シュナさんは何も答えていただけませんでした。きっと……」

 アストリアは最後まで言わなかった。しかし、彼女が続けようとした言葉は予想できる。

 一度逃げ出している。シュナに対する警戒が強くなっているはずだし、そんな状況でもう一度逃げるのは至難の業だ。

 彼女もそれは承知のはず。その上でもとに戻ったのだから、もう逃げ出すことは考えていないのだろう。

「そんな……あたしのせいで……ねえ、二人はこのままでいいと思っているの?」

「にぃに?」

「短かったけど一緒に旅をしてきたんだよ!こんな形で離れるなんて、あたしは納得できない!」

 これは自分のわがままだ。それはわかっているが、どうしても譲ることはできない。

 ミユウが問いかけると、サヤの手が小刻みに震え始めた。

「そんなの……あたしも一緒だよ!シュナさん、あいつらに連れていかれているときに悲しい顔してた。シュナさんもあたしたちと離れるのが嫌なんだよ。そんなシュナさんを見捨てるなんてできるはずがない!」

 隣のサヤを見ると、大粒の涙がこぼれ出ていた。

 アストリアはどうかというと、優しく微笑みながら眺めていた。

「なんで笑っているの?」

「私は嬉しいのです」

「え?嬉しいって、シュナがいなくなることがそんなに嬉しいの?」

「いえ。そういう意味ではなく、ミユウさんやサヤさんが『シュナさんを助けたい』とおっしゃっていただけることがとてもうれしいのです」

「アストリア……」

 アストリアは腰につけていた小さなポーチから、小さな青く光る石を取り出して、あたしたちの前に出す。

「これは?」

「こちらは同じ石の破片がある場所を特定することができる魔術石です。実はこちらの破片をシュナさんのズボンのポケットに入れておきました。つまり今ならシュナさんの場所が分かります」

「え?でもどうして……」

「私たちがシュナさんを助けに向かうときに、彼女の居場所が分からなければどうしようもないではないですか」

「じゃあ、アストリアもシュナを助けに……」

「当たり前です。シュナさんは私たちの仲間なのです。そんな仲間を見捨てるなんてこと私にもできません!」

「うん!ありがとう!よし、そうと決まったら準備しよう!」

「「おう!」」

 ミユウたちは立ち上がり、シュナ救出の準備を始めた。


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