54.信じていた、はずなのに…
シュナを探しに来た男たちに捕まり、ミユウはシュナの居場所を白状させられるために拷問を受けていた。
ギザギザ状の板に挟まれ、その上に石製の板を何枚も乗せられていた。
用意されていた全ての板十枚を乗せられると、ほとんどの骨が砕けて、内臓もほぼまともに機能していない。その上、首からくるぶしまでの肉は大きく裂けて呼吸をするたびに激痛が走る。もし普通の人間だったら確実に死んでいただろう。
不殺族は他種族と比べると肉体的苦痛に対する耐性があるし、長年様々な拷問を受けてきたミユウには多少の苦痛は我慢できる。
それでも今回の拷問はなかなかにきつい。見るからに荒くれものの彼らは行動にためらいがない。この光景を当たり前のように眺めていた。その姿がよりあたしに恐怖を与える。今考えると、まだ要塞の拷問官の方がまだ人間味があったと思える。
そして、また新たな拷問を受けていた。
体の上に板を乗せられたまま手と足の親指に鉄製の細い糸をまかれた。それは手回し車が付いた木製の箱に繋がっている。
メンバーの一人が手回し車を回せば、鉄製の糸を通ってミユウの全身に電気が流れる。
「あーー、あ、あああああ!」
イリイナが作った首輪から流れるものと比べると微々たるものだったが、痙攣することで全身の傷がさらに広がっていく。
そんなミユウを手回し車を回す男がニヤニヤしながら見ている。もちろんその手を止めることはない。
「おい、一旦止めてやれ」
「はい」
男は手を止め、同時に電流が止まる。けど、激痛があるのは変わらない。
「ここまでされて居場所を白状しないとは、シュナの奴も随分と愛されているもんだな。うらやましい限りだぜ」
「ふ、ふん。この、てい、ど、仲間、の、ためな、ら、痛く、も、痒く、も、ない……」
「あはは!聞いたかおめえら!あれだけの声を出しといて、痛くもかゆくもないらしいぜ!」
「「「あはははは!」」」
男たちの下品な声が鳴り響く。とても不快だ。
「それだったら、まだまだ耐えられるということだな。いつまでそんなことがいえるか楽しみだ。よし、回せ!」
リーダー格の男の合図を見て、手回し車を回し始めようとした。
その時だ。
「もうそんぐらいにしとき!」
闇の奥から女性の怒号が鳴り響いた。
それを聞いた男たちは慌てふためきながら、地面にひざまずく。
(この口調、どこかで聞いたような……)
拘束された頭をできるだけ動かして、声が聞こえた方に目を向ける。
そこには長身の女性が闇の中から現れた。彼女は目が切れ長で、赤い髪を後ろでまとめている。額から生える一本の角が特徴的で、彼女の腰には弧を描いた細い剣を二本差している。
彼女からは異様な威圧感を感じる。野蛮そうな男たちが触れ伏してしまうのも頷ける。
「ヤグラさん!いつお戻りになられていたのですか?今日はあちらで泊まられるときいていましたが」
「思ったより早うに始末が終わってのう。そげなことより、女一人をそげになるまで痛めつけよって。シガラキ、おまんの個人的な趣味にうちの部下を使うな」
「俺にそんな趣味はありません!」
「それじゃったら何をしよった?」
「実はナクトリスであのシュナを見つけたんです」
「ほう」
「その時に捕まえようと思っていたんですが、人目があったもんで大事にできずに逃がしちまったんです」
「それで?」
「改めてシュナを捕まえようと、あいつが泊っている宿の部屋に侵入したんです。そしたら、こいつと遭遇したんだ。シュナの新しい仲間みたいだったんで、奴の居場所をこうやって聞き出しているっていうわけなんです」
「大体の事情は分かった。それじゃったら、そん女を解放したり」
「え?どうしてです!まだ奴のことを聞き出せていないんですよ!」
「そん必要がないから言いよるんじゃ!のう!」
そういうと闇の中から見覚えのある獣人族の少女が現れた。
(シュナ!)
そう、それはシュナだ。
「てめえ、どの面を下げて俺たちの前に……」
シュナに殴りかかろうとしたリーダー格の男シガラキの目の前に、ヤグラが抜き放った白銀の刀身がかざされる。
「落ち着き、シガラキ。うちが連れて来たんじゃ。指一本手を出させん」
「どうしてこいつがここにいるんですか?」
「こっちにもんてくる途中にでおうてのう。またうちらの仲間になりたいいうけん連れてきた」
「こいつは俺たちを裏切ったんですよ!不問にするっていうんですか?」
「頭領であるうちが決めたんじゃ。それともおまんはうちに口答えできるほど偉うなったんか?」
「……すみません」
シガラキの答えを聞き、ヤグラは剣を下げる。
「しかし、まだこいつを信じるわけにはいきません。ヤグラさん、こいつにテストをやらせてもいいですか?」
「それでおまんらの気が済むんじゃったらええじゃろう。おまんはどうじゃ、シュナ?」
「………やらせてください」
シュナは小さな声で答える。
「いい覚悟だ。それだったらこっちにこい!」
シュナはシガラキに呼ばれ、ミユウのそばに連れてこられた。見下ろすシュナの目に生気がない。
「シュ、ナ……」
力一杯に声をかけても彼女は全く返事をしない。
「シュナ、こいつはお前の新しい仲間らしいな」
「仲間じゃ……ない」
「え?何を、言ってるの?あたし、たち、仲間じゃ、なかったの?みんなと、誓った、あの、言葉は、嘘、だったの?」
「………」
「何か、言ってよ!ごふぉ!」
しゃべり過ぎたのが負担になり、血を吐いてしまう。
「まったく、つくづく哀れな奴だ。そんなになるまでかばい続けた奴にこうあっさりと裏切られるとはな」
シガラキは電気を発生させる機械を指さす。
「シュナ、あれを回せ。お前ならその意味が分かるだろ」
「……うん、わかった」
「シュ、ナ、やめ、て……」
シュナはミユウの制止を聞かずにシガラキの指さした方に向かう。
そして、手回し車のハンドルに手をかける。
「おね、がい、やめ、て……」
そして彼女はゆっくりと車を回し始めた。それと同時に手足の親指に結ばれた鉄製の線を通して電気が流れる。
「ああ、ああああああ、あああああああああああ!」
体の傷は広がり、痛みが強くなる。
けど、今回はそれだけじゃない。仲間と信じていたシュナに裏切られ、拷問される精神的苦痛が重なる。シュナを信じるという心の支えを完全に折られ、心身ともに衰弱していく。
「そこまでじゃ」
シュナの手回し車を回す手をヤグラが止める。
「シガラキ、こんだけのことしたんじゃ。十分証明になったじゃろ」
「はい。よくわかりました。こいつが自分のことを仲間だというやつを簡単に痛めつけられる人でなしだということがな」
「おまんのう」
「わかっています。シュナが俺たちのところに戻ることは認めますよ」
そういうシガラキの表情は心から歓迎しているようには見えない。それは他の仲間たちも同じだ。けど、頭領のヤグラの貫禄に反論ができないようだ。
「それでこいつはどうします?」
シガラキはミユウを指さす。
「俺がいうのは何ですが、解放するにしてももう無理でしょ」
その通りだ。ミユウの体はもう人間ということはできないまでにボロボロだ。ここで解放されても治療することは不可能だろう。
それは彼女が不殺族でなければ、の話だが。
「そうじゃのう。不憫じゃが、ここで命を絶った方がこいつのためかもしれん」
そういうと、ヤグラは一振りの刀を抜き、ミユウの喉元に剣先を当てる。
彼女からミユウに対する同情や憐みを感じとることができない。きっと人を殺すことに何の抵抗もなくなるほどに多くの命を絶ってきたのだろう。
「そういうことじゃ。ここで冥土に送っちゃる。うちは剣の腕には自信があるんよ。こん以上苦しまんよう一瞬で済ましちゃるけん安心しい」
ヤグラは剣を上げて、上段に構える。
「最期に言い残すことがあるんじゃったら聞いといちゃる。うちらへの恨み言でもええで」
「シュ、ナ……まだ、信じてる、から……」
「最後まで哀れな女じゃ……じゃあ、往生しいや!」
ヤグラの甲高い掛け声の後に剣が振り落とされる。
そして、瞬時に暗闇へと落ちていった。




