53.新たな危機、さすがに
ナクトリスの入り口で待っていたサヤからシュナが消息を絶ったと聞かされたミユウとアストリア。その事実をうまく理解することができなかった。
とりあえず、はサヤたちが用意してくれた宿に移動した。
「サヤさん。先ほどの話なのですが、何があったのかもう少し詳しく教えていただけませんか?」
「うん。お昼前にあたしとシュナさんはこの町に到着して、この宿をとったんだ。荷物を置いた後に町に出て、今後の旅支度をするために買い物に出て。シュナさんと別れて市場を回っていて一通り買いそろえたから、シュナさんと宿の入り口に向かったんだけど、そこでシュナさんが男の人たちと話をしてたんだ」
「男の人?」
「うん。武器や防具で武装していた。あれはまともな人たちじゃなかったよ。あたしが呼びかけたら、その人たちは去っていたんだけど……」
「シュナさんはその方たちに脅されていたということですか?」
「怖がっているみたいだったけど、脅されているって感じじゃなかったかな?シュナさんに聞いてみたけど、何も答えてくれなかった。部屋に帰って、あたしがトイレに行ったんだけど、その間にシュナさんがいなくなったんだ。その後も町中を探し回ったんだけど、結局見つからなくて」
「なるほど。どうしていいか分からなくなってあたしたちが来るまであそこで待っていたってことだね」
「にぃに、アスねぇ。一体どうすればいいの?」
「一度落ち着いてください。とりあえず日が沈み切るまで私とサヤさんで探しに行きましょう。一緒にシュナさんと話をされていたという方々の情報も集めましょう。このような町で武装した方は多くはないでしょうから、様々な情報が手に入るかもしれません」
「あたしも一緒に探しに行くよ!」
「ミユウさんは、シュナさんがここに戻ってこられるかもしれませんので、この部屋で待っていてください。長時間歩き回れるほど力は戻っていらっしゃらないのでしょう?こちらでゆっくりと休まれてください」
アストリアのいう通りだ。まだ町中を走り回るほどの力は戻っていない。ここまで来るまででもうかなり疲労している状態だった。
「わ、わかった。それじゃあ、シュナのことを頼むよ」
「うん!行こう、アスねぇ!」
「はい!」
アストリアとサヤは部屋を飛び出ていった。
部屋の中にミユウ一人取り残される。
“シュターナリクス”のような繁華街がないため、町は最小限の人々の声しか聞こえない。
シュナのことは心配だが、今のミユウにできることはない。仕方なく窓際のベッドに倒れる。
「あたしが捕まった時にもこうやって探してくれたんだよね。きっとシュナも同じように。なのに、あたしは何もできないなんて悔しいな……」
天井を見ながらそうつぶやく。
「けど、無理に動いたら探索の邪魔になっちゃうからな。もしもの時に備えて力を蓄えよう!っと、その前にちょっとトイレに……」
部屋を出て、一階にあるトイレに向かった。
用を足した後、階段を上って自分たちの部屋に戻る。
すると、閉めたはずのドアが開いていた。
「鍵かかってるはずなのに。アストリアかサヤが忘れものを取りに帰ったのかな?あ!もしかしてシュナが帰ってきたのかも!」
期待を胸にしてドアを開ける。
「シュナ!帰ってきたの?みんな心配して……」
部屋の中に人影があった。それはアストリアでもサヤでも、ましてやシュナでもなかった。
それは破けた服の上に防具を装い、剣やナイフなどの武器を携えた男たちであった。それも一人二人だけではない。軽く見積もっても十人以上はいる。
サヤが言っていた、シュナと話していた男たちだろう。
男たちはミユウの存在に気付くと、武器に手をかける。それに応じるように、ミユウも腰を落として得意の戦闘態勢に入る。
「人の部屋で何をしているの?」
「お前、シュナの知り合いか?随分とかわいらしいお嬢さんだな」
「あたしが先に聞いてるの!早く答えなさい!」
「ほう、俺たちを見てそんだけのことがいえるとは大した肝持ってんじゃねえか。だがな、強がりも大概にした方がいい。お前は俺たちを見た瞬間にそのまま逃げ出すべきだった」
背後に複数の人の気配がする。宿の外で待機していた仲間たちがいたのだろう。
これで完全に囲まれてしまった。
けど、焦りはなかった。いくら武装した男たちが何人もいるとしても、戦闘に特化した不殺族のミユウには問題ではなかった。
「ふん!あなたたち、運が悪かったね。あたしと出会った時点で逃げ出せばよかったのに」
「ふざけやがって!お前ら、この女捕まえろ!あの女のこと、知ってること全部吐かせる」
リーダー格と思われる男が呼びかけると、男たちはゆっくりとミユウとの距離を縮める。
「あまり傷もんにするなよ。こいつ、なかなかの上物だ。聞くだけのこと聞いたら、楽しませてもらうからな」
「随分余裕じゃん。でも、そんなことできればいいけどね」
まず後ろの男たちの一人がミユウを抑えるために飛びついてくる。
それをかわして、そのままみぞおちに拳をぶつける。彼の胴に巻かれた鉄製の防具を貫通し、拳は体の奥深くまでねじり込まれていた。
一瞬で気を失った男は、床に倒れると白目のまま泡を吹いた。
その光景を見て、周りにいた男たち数人が一歩後ろに下がる。
「本気であたしを捕まえたいのなら殺す気で来ないと。女だと思って舐めてると後悔するよ」
「ちっ、仕方ない。もったいねえが、捕まえるのが先決だ。腕や足を切り落としてでも捕まえろ!」
「「「おお!」」」
ある男は鞘から剣を抜き、ある男は両手にナイフを持ち、またある男は短銃の銃口をミユウに向けて構える。
そして、一発の銃声が鳴った。それを合図に男たちが一斉にミユウに飛び掛かる。
ミユウは放たれた銃弾をかわし、構えられた銃を男の手から払いのけて、肘で顎を割る。その勢いのまま、刀身をかわしつつ男たちに打撃を加え続ける。一人に対し一撃を与えれば、すぐに倒れる。防具を着けていてもそれは変わらない。
戦闘をはじめて十秒ぐらい経った頃には、彼女の足元に泡を吹いた六人の男たちが倒れていた。
「この程度の腕であたしを生きて捕まえようと思っていたの?自分たちの力を過信しすぎじゃない?」
長い髪を払いながら男たちに吐き捨てる。
あと半数は残っている。しかし、そんなに時間をかけなくても、片が付くはずだ。
「これは驚いたな。見た目によらず、なかなか味な真似をしてくれんじゃねえか」
そういうと、リーダー格らしき男が腰から棒状の道具を取り出す。持つところにある突起物を押すと、先端から電光が走る。
「へえ、それであたしを気絶させようと思ってるんだ。でも残念だね。それぐらいじゃ、ちょっとビリビリって……」
そう口にした瞬間だ。
首につけていた首輪から全身にかけて高圧電流が流れた。
「ふぎゃああああああああああああああ!」
電流が流れて十秒後、ミユウは床に倒れ込んだ。
「わ、忘れ、てた……」
“トーア”の町を出る前にアストリアにつけられたイリイナ特製の首輪が発動したのだ。
まさか自分で“ビリビリ”と口にしても、電流が流れるとは思わなかったけど……。
通常だったら数秒経てば傷が治って立ち上がることができるけど、今は体力のほとんどが失われている状態でまったく動けない。
「一体何だったんだ。こいつ体から電気が流れて勝手に気絶しやがった……。まあいい。無駄な手間が省けた。おい、すぐにこいつを運ぶぞ!そこに倒れてるやつらも忘れるなよ!」
「「「おう」」」
「く、くそ……」
男たちに対抗することができないことに屈辱を感じながら、気を失った。
―――
「……起きろ。おい起きろ!起きろって言ってんだろ!いつまで眠ってるんだ!おい、そこに水をぶっかけろ!」
顔にかけられた冷たい水によって、目を覚ます。
「う、う~~」
周りを見渡せばそこは暗闇で、ところどころに火が灯っている。視界には多くの星が輝いている。どうやらここは外みたいだ。
「何ここ……って痛!」
ミユウは両手両足を縄で縛られ、大の字型に拘束されていた。今までの中でこんな経験は何度もあったから、さほど驚きはしなかった。
しかし、今回は違う。
背中から激痛が走っていた。体を見下ろして確認すると、彼女の体は面がギザギザに尖った木製の板に寝かされていた。その板に紐で首・腰・膝をきつく縛られている。
少しでも体勢を変えようとすれば、その度に尖った先が背中に食い込み、痛みが走る。
「おう、お目覚めですか、お嬢さん?」
「まったく手間かけさせやがって。お前にぶっかけたその水も無限にある訳じゃねえんだ。また汲みにいかなきゃならねえじゃねえか」
「しかし、よくもまあそんな状態で眠っていられたものね。感心するわ」
口々にミユウに対して、言葉が浴びせさせられる。
周りを三十人以上の軽武装している男女が取り囲んでいた。
その中にはミユウたちの部屋に侵入していた男たちも混ざっている。
「今までいろんな布団で寝たことがあるけど、こんな不細工な布団で寝かされたのは初めてだよ」
「あはは。こいつ、まだこんな口を聞きやがる。随分と余裕だな」
「で、こんなところに連れてきてどうする気なの?シュナのことでも聞き出すつもり?」
「そうだな。シュナが今どこにいるかを吐いてもらう。だが、もう一つお前に用事ができた」
「用事?ふん。あたしはあなたたちになんて用事もなければ、興味もないよ」
「そう冷たいこと言うなよ。これはお前にもメリットのある話だ。聞いて損はしねぇ」
「どうだか」
「お前、俺たちの仲間になれ」
「え、どういうこと?」
「さっきの身のこなしを見させてもらった。たった数秒で俺たちの仲間六人を倒しちまった。それだけの戦闘能力を持ったやつは残念ながら俺たちの中にいない。どうしてもお前のような人材がほしい」
「勧誘ってこと?」
「もし仲間になるのならシュナのこと話してもらえればそれでいい。あいつらのことは不問にしてやる。だが、もし仲間にならないのであれば、お前が怪我させた仲間六人分のツケをその体で支払ってもらう。一か月間動くことができないほどの重傷になったんだからな。お前にもそれだけの状態になってもらわんと不平等だろ?」
「なるほど。じゃあ答えるよ。あたしはあなたたちの仲間にならない。もちろんシュナのことも話さない」
「ほう。大概の奴は同じ状況にしたらすぐに“仲間になる”というんだがな。一応理由を聞いておこうか」
「あなたたちがどんな集団かわからないけど、まともじゃないことぐらい一目でわかる。そんなところに入って楽しいとは思えない。今の仲間といるほうがよっぽど楽しいよ」
「今の仲間というのはシュナのことも入っているのか。なるほど、お前もあいつに騙されているという口か」
「騙されている?」
「哀れなお前に教えてやる。あいつは俺たちを裏切ったんだ。一人途方に暮れていたあいつを拾ってやった俺たちをだ。そんな恩知らずをまだ匿う気なのか?」
「シュナがそんなことするはずがない!きっと深い事情が……」
「これは重傷だな。目を覚まさせるには荒療治が必要らしい……。よし、問答はこれで終わりだ!始めるぞ!」
「「おう!」」
リーダー格の男の一声で、メンバーたちが暗闇の奥から巨大な板状のものを何枚も持ってきて、ミユウの横に置く。
一枚は木製の板で、ミユウが上に乗っているものと同じギザギザ状のものだった。他の板はすべて石でできている。どれも見た目だけで重量を感じる。
「最後に聞く。シュナの居場所をいえ。そして俺たちの仲間になれ」
「い・や・だ!」
「親切に対応してやったのに、仕方ないやつだな。よしわかった。お前たち、遠慮するな!思いっきりやれ!」
「「おう!」」
号令と同時に、木の板を二人がかりで持ち上げる。そして、ギザギザ面を下にしてミユウの上に乗せる。
「ぎゃあああああああああああああああああああ!」
首の下全てが木製の板が挟まる。尖った先が肉体に突き刺さり、激痛が走る。
「これぐらいで悲鳴上げてたら、後が持たないぞ。次を乗せろ!」
「「おう!」」
男たちは石製の板を持ち上げ、木製の板の上に乗せる。
「あああああああああああああああああああああ!」
乗せられたと同時に体に重力がかかる。すると、傷口が徐々に開いて、大量の血が流れる。
「木の板自体に五キロ、石の板一枚につき十キロある。それが全身にのしかかるんだ。三枚も乗せれば当分の間動くことはできないだろう。そうなる前に白状したほうが身のためだぞ」
「はあ、はあ、誰が、いう、ものか……」
「はん。うちの新入りどもに見習わせたいほどの忍耐力だな。だが、ここではそれが命取りだ。次行くぞ!」
更に一枚石製の板が乗せられる。同時に肉の裂ける音と骨が砕ける音が鈍く響く。
「あああああああ、ああああああああああ!」
「どうやら骨が折れたな。よし、板がずれないよう地面に固定しろ!絶対倒れないように念入りにキツくやっておけ」
「「おう!」」
メンバーが両端にくさびがくくりつけられた紐を三本持ってきて、それらを板の上に通して左右の地面に打ち付ける。それに引っ張られるようにミユウの体に圧がかかる。
「次行くぞ!」
「「おう!」」
更に一枚石製の板が乗せられる。
「あ、あ、ああああああああああああああああ!ぐはっ!」
肉が裂け、骨が砕ける。その上、一部の内臓が破損し、吐血する。
「どうだ?いう気になったか?」
「い、いや、だ………」
「驚いたな。三枚目で白状しなかった奴は初めてだな。こっから先はどうなるか俺たちも分からない。命の保証もできない。覚悟しておくんだな。次だ!」
そして、一枚また一枚と板が乗せられていった。その度に悲鳴が響き渡っていた。




