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チートな俺が、チープなあたしに変わったら、くすぐりに悩まされる日々が待っていました  作者: 広瀬みつか


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52/109

52.リベンジ、するはずが…

 自分の元の体を取り戻すためにアストリアと対決したミユウ。

 ティークからのくすぐりに三時間耐え抜くという勝負をした結果、一時間過ぎたところで耐え切れずに笑ってしまった。

 その上、「くすぐりに堪える」という魔術印の効果に背く行為をした代償により、くすぐりが終わった後も全身に強烈なくすぐったさが襲うという散々な結果に終わった。

 アストリアとの勝負が終わってから二時間が経った頃、全身を襲うくすぐったさがやっと収まった。

 笑っている間はまともな呼吸をすることができなかったから、何度も深呼吸をして空気を必死に確保する。

 地面の上を転げまわったせいで、髪や服が乱れに乱れ、落ち葉や泥が体中にまとわりついていた。

「魔術のこと、少しでも理解できましたか?」

 ミユウの全身についている汚れを払いながら、アストリアが訊ねる。

「はあ、はあ。わ、わかり、ました。もう、絶対、バカに、しません……」

「はい。そのことをわかっていただければ結構です」

 アストリアは子どもをあやすように、ミユウの長い髪を優しくなでる。

 さっきまで冷たく重い空気を醸し出していた人物と同一人物だとは思えない。それがまた恐ろしい。

「さて、次の町に向かいましょうか。お二人をお待たせしていることですし、急いだほうがいいかもしれませんね。ここからそれほど距離はありませんが、歩けますか?」

 手足に力を入れるけど、全く力が入らない。

「ん~!無理かもしれない。立ち上がることもできないよ」

「仕方ありませんね。私がおんぶして差しあげます」

「え?さすがにいいよ。あなたにそこまでの力ないでしょ?」

「バカにしないでください!女の子一人を背負うぐらいの筋力はあります!」

 そういうと、地面に倒れるミユウをアストリアがおんぶする。

 彼女の体温が直に感じられて、なんだか恥ずかしくなる。

「いかがです?苦しくはありませんか?」

「大丈夫だよ。むしろ、快適でいいかも……」

「うふふ。それは何よりです。少し揺れますが、我慢してくださいね」

「うん。ありがとう」

 こうしてサヤたちが待つ町に向かった。


「うふふ」

「いきなり笑ってどうしたの?」

「いえ。このようにミユウさんをおんぶしていると不思議な気持ちになりまして」

「あたしもだよ。まさか女の子におんぶされるとは夢にも思わなかった」

 たまにすれ違う人がいる。彼らはミユウたちを見ると必ずくすっと笑っていく。その度に恥ずかしくなってしまう。

「うふふ」

「まだ笑ってる」

「先ほどからずっと私の首筋に鼻息が吹きかけられてくすぐったいのですよ。ミユウさん、呼吸を止めていただけませんか?」

「あたしに死ねっていうの!」

「冗談ですよ。我慢します」

 その後も体をビクっとさせながら歩みを進めていく。

 ここであることを思いつく。

(そういえば今のアストリアは無防備だ。ここで今までの仕返しをできるかもしれない)

 アストリアの首に巻き付けていた腕を彼女の脇腹に手を伸ばす。

「くらえ!こちょこちょこちょ!」

 ミユウがくすぐり始めると、アストリアは立ち止まって体を右往左往させる。

「あはは!ちょ、な、何をするのですか!」

「ほれほれ~。いつものお返しだ~」

「あ、危ないですから、やめてください!あはは!」

「やめないもんね~。たまにはくすぐられる側にもなってみろ!こちょこちょこちょ~」

「い、いいかげんにしてください!」

 アストリアがそう叫ぶと、足元からパチンと音が鳴った。

 それと同時に、ミユウの体の周りに複数の手が現れ、全身をくすぐり始める。

「あ、あははははは!ごめん!許して!」

 あまりのくすぐったさにアストリアをくすぐる手を止める。それを確認した彼女はもう一度指を鳴らして、複数の手を消す。

「はあ、はあ、な、なんで~」

「両手をふさがれた状態なら何もできないとでも思われたのかもしれませんが、甘かったですね。指を鳴らすことができれば、ミユウさんをくすぐることぐらいどうとでもできますから。ご理解いただけたのであれば、おとなしくしてください」

「は、は~い」

 ミユウのアストリアに対する復讐劇は一分も経たないうちに失敗に終わった。


 アストリアに背負われて二時間経ち、次の町“ナクトリス”の入り口が見えてきた。

 その頃には歩くことが可能な状態までに体力が回復していたので、彼女の背中から降りて自分の足で歩いていた。

「もう少しで到着ですね。きっとお二人が宿を用意しているでしょう」

「今日はもう疲れたから、部屋に入ったらすぐに寝よう」

「疲れたって、ほとんど私が背負って差し上げたではないですか」

「それもそうだけど……」

 『その前にティークにくすぐられたんだよ!』と言おうと思ったけど、自分から持ち掛けたことだからとても言えない。

「あら?あそこにいらっしゃるのはサヤさんではありませんか?」

 アストリアから呼びかけられて、彼女が指さす方に目線を向ける。

 そこには“ナクトリス”と書かれた木造の門があり、その門の右側の柱にサヤがもたれて待っていた。彼女の表情は遠目で見てもわかるぐらいにこわばって見えた。

 ミユウたちに気付いたサヤが走って近寄ってくる。

「にぃに、アスねぇ。待ってたよ」

「サヤ、なんであんなところで立ってたの?それにシュナの姿が見えないけど、宿にいるの?」

「あのね、実はね、シュナさんが、シュナさんが……」

「一度落ち着いてください!シュナさんがどうされたのですか?」

 サヤは一度深呼吸をする。

「シュナさんが、いなくなっちゃったの!」

 サヤの言葉にミユウたちはしばらく沈黙した


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