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チートな俺が、チープなあたしに変わったら、くすぐりに悩まされる日々が待っていました  作者: 広瀬みつか


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39.楽しいお遊戯、始めましょ…

 日が沈み、シュターナリクスの町を色鮮やかな明かりを照らす。

 この街並みを宿の部屋の窓からサヤとシュナが眺めていた。

「ミユウ遅いのう。日が沈むまでに帰る言いよったのに」

「そうだね……」

 シュナの問いかけに生気のない返事をする。

 サヤの兄であるミユウが宿を出てから十時間が経つ。すぐに帰ると言い残した彼であったが、帰ってくる様子がない。

 心配になったアストリアはミユウを探しに町に出て、サヤとシュナは部屋で帰ってくるのを待っていた。

「どうしたん?元気ないやないの。……もしかして、ミユウが心配なん?」

「そうだね。にぃにどこへ……。って、そんなわけないじゃん!にぃにのことなんてどうでもいいから!」

 サヤはこの日の前日にとあることをきっかけに仲違いをしており、未だにサヤは意地を張っている。

「どうなんかな?なんやかんや言うても兄さんのことが好きなんじゃね」

「違うって言ってるじゃん!もうからかわないでよ!シュナさんのバカ!」

 いじけるようにサヤはプイっとシュナから目線を反らす。

「あはは。すまんすまん。にしてもほんまにミユウは何をしよんじゃろ」

 すると、いきなり部屋のドアを開ける音がした。

 二人が振り向くと、息を荒くしたアストリアが立っていた。

「どうしたん?そんな血相かいて」

「はあ、はあ。朝、少女の誘拐事件が起こったそうです」

「ああ。それはかわいそうな話じゃけど、取り立てボクらが気にすることやないじゃろ?」

「私も最初はそう思っていたのですが、その少女がこの町の役人のご令嬢に大変似ていらっしゃったそうで」

「それがどうしたん?」

「そうですね。口で説明するより、こちらを見ていただいた方がご理解いただけやすいかと」

 アストリアは部屋の机の上に新聞を広げる。シュナとサヤは机に近づき、その新聞の紙面を見る。どうやら貴族の令嬢にインタビューをしたものを掲載しているもので、数人の少女たちの写真も一緒に並べられている。

 すると、その写真の中に不可解なものがあった。

 そこにはミユウと同じ顔の少女の写真があったのだ。その下には“ミンク・シュミルーク嬢”と書かれている。

「これって、ミユウやないか!」

「本当だ。これにぃにじゃん!」

「ちょっと待ち。さっき『役人のご令嬢に似た少女が誘拐された』といいよったよな。もしかして……」

「はい。そちらに載っているシュミルーク嬢が今朝若い男性にさらわれたのだそうです。しかし、それにしては静かなのです。本当にそちらの方がさらわれたのであれば、もっと大事になっているはずですが。そして、まだお帰りになっていないところを見ると、ミユウさんはシュミルーク嬢と間違われてさらわれてしまった可能性があります」

「ほんまに何しよんじゃ、あのアホは。あれほど気を付けろって言うたのに」

 一瞬アストリアは沈黙する。

 しかし、ここでじっとしていても仕方がない。

「まずは情報を集めんといかんな」

「そうですね。今からでも町の方々にお尋ねしていけば、より正確な情報を入手できるかもしれません」

「そうと決まったら今すぐ行こう。できるだけ早い方がええけんのう」

「はい!」

 アストリアとシュナはドアに向かう。

 しかし、サヤは部屋の真ん中で立ち尽くして動かなかった。

「どうされたのですか?サヤさんもご一緒に……」

「あたしは、行かない。にぃにがどうなったって、知らない」

「今はそう意地を張っとる場合じゃないじゃろう!ほんまにえらいことになったらどうするん!」

「ふん!捕まったのはにぃにの責任でしょ!それににぃにのことだから、何かあったら逃げ出せるよ!あたしたちが手を焼くことはないじゃん!」

「サヤさんのおっさる通り、本来ならミユウさんお一人で逃げ出せると思うのですが、今回はそうでもないのです」

「え?それはどういうこと?」

 アストリアは右手の指先を自分のこめかみに当て、集中するように目を閉じる。

「魔術印を通してミユウさんの位置を確かめようと試してみるのですが、何者の妨害で正確な位置がわからないのです。わずかながらに反応が見受けられますので、町を出ているわけではないようですが……。どちらにしろ、私の通信を妨害できるほどの魔術を使える方がミユウさんの近くにいらっしゃるとなると、ミユウさんお一人では逃げ出すことは困難でしょう」

「そんな……」

 サヤの表情が変わる。口を尖らせていた彼女だったが、今は余裕なく全身を震わせていた。

 “にぃには一人でも逃げ出せるはずだ”という希望があるからこそ意地を張ることができていたが、それが不可能かもしれないという事実がその余裕を打ち砕いてしまった。

 呆然と立ち尽くすサヤに近づくと、彼女の肩をポンポンと叩く。

「サヤ。意地になる君の気持ちもようわかる。じゃが、今は素直になった方がええんちゃうの?ここでミユウを見捨てれば、今度こそ一生会うこともできんかも……」

「え?にぃにと、会えない?もう、一生?」

 サヤの頭の中で今までのミユウとの思い出がよみがえる。嫌な思い出も多少あるが、そのほとんどが楽しいものであった。

 時間が経つと、目頭が徐々に熱くなる。

「い、いやだーーー!」

 サヤの感情が表にあふれ出す。もうこうなったら自分を止めることができない。

「やっとにぃにと会えたのに~、離れ離れなんて、絶対に、嫌だよ~」

「わかっていますよ。サヤさんもミユウさんのことが心配なのですよね」

 泣きじゃくるサヤの頭をアストリアは自分の膝の上で撫でる。

「では、サヤさんも手伝っていただけますよね」

「う、うん……」

 涙をぬぐうと、アストリアとシュナとともに外に出る準備をして町に飛び出していった。



 ---



 ポチャン ポチャン ポチャン


 赤いレンガ造りの部屋の中に響く水滴の音で、天井から下がる鎖で両手首を拘束されたままで目を覚ます。

 ドレスはすべて脱がされ、下着姿になっていたせいで、妙に肌寒い。

 錆びた鉄扉で閉ざされた部屋の中には、無数の拘束器具や拷問道具が並べられ、それらには赤い錆がこびり付いている。なぜだか故郷に戻ったような懐かしさがある。

「お目覚めになられましたか?ほとんどの方はこの部屋をご覧になられると、発狂されたり、慌てふためかれるのですが、よほど腹の座られた方なのですね?」

 声が聞こえるほうに目線を向けると、入り口で整った執事服を身にまとった青年が椅子に腰かけていた。

 ミユウはその青年のことを知っている。

 彼は自分を捕らえたシュミルーク家の執事である。

「まあね、諸事情があって慣れてるんだよ」

「そうですか。どのような体験をされたのか、少し興味がありますね」

 執事は椅子から立つとミユウに近寄り、彼女に頭を下げた。

「失礼。自己紹介がまだでした。私はシュミルーク家で執事長をさせていただいております、ジークと申します」

「これはご丁寧に。言っとくけど、あたしは名乗らないからね」

「結構ですよ。特段知りたいわけではありませんので」

「それであなたが今からあたしを拷問にかけて、なんでここに侵入したのか聞きだすってことでいいのかな?」

「そうですね。半分正解で、半分不正解とでも言っておきましょうか」

「え?どういうこと?」

「あなたを拷問にかけることは正解ですが、行うのは私ではありません」

「それじゃあ誰が?」

「それはわ・た・し・で・す・よ。ふぅ」

「ひぃ!」

 後ろから耳に息を吹きかけられ、ミユウの全身にビクっと電流が流れる。

 ゆっくり振り返ると、いたずらが成功した子供のような無邪気な笑顔を見せる少女の顔があった。

「うふふ。いい反応ありがとうございます~」

 彼女はミユウが鏡で見た自分と同じ顔の少女である。彼女の名は……

「ミンク・シュミルーク!」

「あら?私のことをご存じなのですね!光栄です!」

 そういうと、背後からミユウに抱きついて、自分の胸を擦り付ける。

「キャーーー、やめてーーー!」

 背中に当たる女性独特の柔らかい感触と肌の温かさを感じて、思わずミユウは悲鳴を上げた。

 その反応が気に入ったのか、ミンクはグニグニと胸を擦り付ける。

「いい反応ですね~。いじりがいがありますぅ~」

「ゴホン!お嬢様、いいかげんになさいませ」

「は~い」

 ジークに促されると、ミンクはミユウから離れる。

「はあ、はあ。もしかして、あなたがあたしを拷問にかけるの?」

「その“拷問”という言葉は物騒で好きではありません。“お遊戯”とおっしゃっていただけますか?」

「この部屋で行われる“お遊戯”って。やっぱり高貴な人の価値観はよくわかんない……」

「正直あなたがどのような目的で私に成りすましていたのかはどうでもよろしいのです。うちだけではなく、他の邸宅でも何者かに侵入されることは日常茶飯事ですから」

「え?」

 ミンクはミユウの前に移動し、顎を持つ。

「私はですね、あなたの苦しむ顔を見ることができればそれでいいのです」

 頬を赤らめながら、ミユウを眺めるミンク。

「あなた、サディストなの?!」

「失礼ですね!私は苦しんでいる女性の姿を私に照らし合わせて興奮しているだけです!」

「どっちにしろ変態でしょ!」

「う~。そうおっしゃられると否めませんわ……。私だってできるのであれば、私自身の体を直接傷つけてほしいのですよ。しかし、由緒ある家柄の娘が全身に傷跡があるとなると問題になりかねません。ですので、私と同じ年頃の女性をこちらにお誘いしてごうも、お遊戯をしているのです」

「何の言い訳にもなってないよ。それと自分でも“拷問”と言いかけてたよね」

「しかし、どれだけお遊戯をしても心の隙間が埋まることがありませんでした」

「もしも~し。あたしの声、聞こえてる?」

「所詮彼女たちは私とは別人です。私になることは絶対にありえません。そこに現れたのがあなたです。私と瓜二つのあなたとお遊戯をすることにより、ようやく心の隙間を埋めることができそうです」

「お嬢様、もうそろそろお言葉を自重していただけませんか?聞くに耐えません」

「あ。おほほ。私としたことがはしたない……」

 我を取り戻したミンクは一つ咳払いをして場を整える。

「とにかくあなたにはこれから私のお遊戯に付き合っていただきます!」

「は、はぁ……」

 これから自分に何が行われるか理解できた。

 しかし、まだ余裕はある。十年間拷問を受け続けた彼女にとって、多少の責めは何とも思わない。ましてやミンクのような少女にされることなど大したことはないと高をくくっていた。

「他の子はどうだったか知らないけど、あたしはそんなに脆弱じゃないよ。痛みや苦しみには慣れているからね」

「うふふ。それは楽しみです。しかし、どうですかね?」

 ミンクがミユウの顔をまじまじと見つめると、その黒く澄んだ瞳が赤く輝く。

「なんなの、それ?」

「これは偶然。あなたもくすぐりが弱いのですか。私と同じですね」

「な!」

「それに……なるほど。やはり女性の体に対する強い恐怖と抵抗を感じていらっしゃるようです。でも、不思議ですね。あなた自身も女の子ですのに……」

「な、何でそれを!」

「図星のようですね。実はですね、私は生まれながら魔眼を持っているのです」

「魔眼?」

 “魔眼”というのは瞳自体に魔力を秘めたものであり、その持ち主は常人では到底不可能な奇跡を実現させることができる。

「私の魔眼は人の顔を見るとその人が怖がっているもの、いわば弱点を知ることができるのです」

「あ、あわわ……」

 ミユウは自分の立場が危ういものであると理解できた。

 弱点が分かるということは、そこに重点を置いた拷問をすることができる。彼女でいうところの“くすぐり”と“女性の体”だ。

 プロの拷問官から拷問されるのと訳が違う危険度だ。

 ミユウの全身が恐怖で小刻みに震え出す。

「は、は、白状します!あたし自身のことも、ここに忍び込んだ目的もすべて白状しますから助け、ん~~~!」

 白状すると宣言するミユウの口に、ミンクは自分の親指を挟んで妨害する。

「だ~め。ここで白状されては私の楽しみが半減してしまいますわ。これから私がゆっくりじっくりとお相手いたしますので、楽しみにしてくださいね」

「ん~~!」

「ジーク。お父様とお母様に『ミンクは今晩、地下室で過ごします』とお伝えください」

「かしこまりました。では、明日の朝にお迎えに参ります」

「ありがとう。あ、ドアの鍵を閉め忘れないようにお願いしますね」

「はい。抜かりなく」

 ジークは部屋を出ようと鉄扉に向かっていたが、何かを思い出したかのように踵を返し、ミユウの耳元で囁く。

「ここだけの話ですが、今まで二十名以上の方がお嬢様とお遊戯をされましたが、誰一人無事な方はいらっしゃいません。大概の方は朝になると精神が崩壊し、自我を失い、とても人間とは言えない、まるで人形のような状態になられます。大変おいたわしいことですが、すべては自業自得。観念してくださいね」

「ん~~~!」

 ジークはミユウの顔を見てフンっと鼻で笑うと、ミンクに向けて深々と頭を下げた。

「それではお嬢様、私はこれで失礼いたします。どうか楽しい夜を」

 そう言い残すと、鉄扉を開けて外に出る。

 鍵を三重に閉める鈍く甲高い音を確認すると、ミンクはあたしの口から親指を外す。

「はあ、はあ……」

「それでは時間ももったいないですし、早速始めますね。ま~ず~は~」

 ミンクは自分の着ていたドレスを脱ぎ捨て、下着姿になった。

「な、な、な、な、何を!」

「あなたも下着姿なのですから、私も下着姿になるのが礼儀というもの。私もシュミルーク家のはしくれですから、その辺の抜かりはありませんわ」

「どんな礼儀よ!」

「うふふ。この期に及んでその強気な態度とは、随分と肝が太いのですね。でも、いつまでその強がりが続くか楽しみです。では、まずお腹辺りから」

 ミンクは両手を胸の高さまで上げて、十本ある細い指をうねうねと動かして近づいてくる。

「え?お、お願い、来ないで、や、やめて……」

「こちょ、こちょ、こちょ………こーちょこちょこちょこちょ~」

 ミンクの指先がミユウの横腹をがっしり掴んで、正確に彼女のくすぐりのツボを何度も押し続けた。

「いやーーーあははははははは!」

 あまりのくすぐったさに体をのけぞったり、左右に振ったりしながら笑い悶えていた。

 その姿をミンクは恍惚とした表情で眺めている。

「そうです!そうですわ!その反応が見たかったのですわ!さあ、もっと私を喜ばせてくださいまし!」

「あはははははははははは!た、た、たしゅけてーーーーーー!」


 こうしてミンクによる楽しいお遊戯会が開幕したのであった。

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