表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チートな俺が、チープなあたしに変わったら、くすぐりに悩まされる日々が待っていました  作者: 広瀬みつか


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/109

37.覚えのない恨み、なぜ…

「ん~」

 寝起きが悪そうにミユウが目を覚ますと、鉄製の台の上で手足をX字に拘束されていた。

 あまりにも何度も体験したことのある状況に、自分でも不思議なほど冷静でいられた。その事実が本当に情けない。

 唯一自由に動かすことが出来る首を回しながら、まわりを確認する。

 三方の壁と天井は鉄で作られ、ミユウの姿がはっきりと映るほど研磨されていた。その異様さは見るからに普通の建物の一室ではないと分かる。

 彼女の右側の壁はガラス張りになっており、その向こうには暗い部屋がある。

 その部屋では八人の男女が拘束されているミユウをニヤニヤと見ていた。

 その中の一人、二十代ほどの痩せ型の男が話しかける。

「お気分はいかがですかね、お嬢様」

 言葉こそ丁寧だが、そこには一切の敬意を感じることができない。それこそ奴隷に対する軽蔑するような態度であった。

「その声……」

 一瞬のことであったが、確かに覚えている。

 背筋を指先でなぞられる前にかけられた声と同じだ。

「なるほど。あなただったんだ。あんな品のないお誘いをしたのは」

「ええ。あの時の声は小鳥のさえずりのようで本当にかわいかったですよ。ここにいるみんなにも聞かせてやりたかったぜ」

 男の言葉に周りの男女が一斉に嘲り笑う。

「全くいい趣味だね、虫唾が走るくらいに……。それであたしを捕まえた理由は一体何なの?あたし、あなたたちと初対面だと思うのだけど?」

「あ?」

 ミユウの言葉に、嘲り笑っていた男女の表情が一変する。彼らは怒りに満ちた目で彼女を睨みつける。

「あんたは俺たちのことなんて知らないだろうな。だが俺たちはあんたのことをよーく知ってる。憎くてたまらないくらいにな!」

「町の人たちがあたしのことを見ていたけど、そんなにあたしってこの町で有名?」

「ああ有名だよ。俺たち下々の者はお前たちのことを憎んでいるからな!」

 長髪の男の言葉に続けて、周りの男女が罵声を浴びせかける。ガラス越しではっきりと聞き取れていないが、声質や表情からその怒りの具合がよく分かる。

 しかし、ミユウにはなぜ自分がそこまで恨まれているのか全く理解できなかった。

「ちょっと待ってよ!話が全く覚えがないよ!」

「はんっ。まだシラを切るつもりなのか。往生際の悪い。あんたはシュミルーク卿のご令嬢であるミンク・シュミルークだろうがよ!」

「え?あー、そういうこと」

 ミユウはそこで自分が他人に間違われていることに気が付く。

「あのね、あたしの名前はミユウ・ハイストロ。あなた達のいうミンクなんとかとは別人だから…」

「そんなわけないだろ!これを見ろ!」

 椅子に座っていた茶髪の男が手元にあった新聞を手にし、ガラスにそれをたたきつける。

 ミユウは目を凝らしてガラス越しに新聞を見る。

「え?嘘でしょ?」

 呆然とした。そこには自分自身とほぼ同じ顔の少女の写真が掲載されていた。そして、その下には“ミンク・シュミルーク嬢”と書かれている。

「どうだ!これでも別人だというのか?」

(確かにこれなら間違われても仕方ないか。町の人たちがあたしを見ていたのはこれが原因だったのか……)

「で、でもあたしはその人とは別人だから!」

「信じられるか!どうせ俺たちに恨まれているから、助かるために別人に成りすまそうとしているんだろう。貴族が町にお忍びで出るときの常套句だ。だが、絶対に騙されねぇ」

「とんだとばっちりなんだけど……」

 部屋の奥で眺めていた女が椅子から腰を上げて、ガラスに近づいてくる。

「そいつのいうことは本当みたいだよ」

「え!信じてくれるの?」

「あんたを拘束しているその枷には真偽判別機能がついていて、あんたが嘘をついていたらそこの明かりが光るの。それが光らないということは嘘をついてない証拠だよ」

 自分の上に目線を向けていると、赤く染まった半球のガラスがあった。

 女の言葉に息粗ぶっていた男たちが冷静になる。

「た、確かにそうだな。あれはあの人が作ってくれた特注品。正確さは折り紙付きだ。誤動作はずがない」

「それじゃあ、信じてくれるの?」

「ああ。済まない。あまりにも似ていたものだったから、間違えちまった」

「よかった~。それじゃあ、すぐに解放してくれる?」

「もちろんだ。すぐに解放してやるよ」

 短髪の男が枷を外すボタンを押そうとする。

「ちょっと待て!」

 がたいのいい男がその手を止める。そして、顎を手でさすりながら、ミユウの顔を眺める。

「さっきは済まなかった。俺は"シーラス・アルカイト"だ。こいつらをとりまとめている。いわゆるリーダーだな。で、確かミユウといったな。悪いが、あんたにはもう少しこのままでいてもらう」

「何で?あたしには何の恨みもないのでしょ?」

「そうだな。恨みはない。しかし、また新しい用事ができた」

「新しい用事?」

「あんたには俺たちに協力をしてほしい」

「あの~、協力も何もあなたたちのことを全く知らなかいのだけど……」

「これは失礼。俺たちはレジスタンス。つまり、この町の支配層に反旗を翻す者だ」

「レジスタンス?」

 シーラスは、自分たちが被支配層の青少年で結成されたレジスタンスだということを簡潔に説明する。

 シュターナリクスでは公国から派遣された貴族出身の高級役人が絶対的な支配を行っていた。彼らはその地位を使い、住人に思い税金と労役を課して、自分たちの財を不当に蓄えていた。

 それに業を煮やした住民は秘かに彼らの支配からの脱却を企てていた。

 その中でもシーラス率いるレジスタンスは過激派で、時々役人の関係者を拉致するなどの行動を行っていた。

 あまりこんな類の話でいい思い出ないなぁ。

「事情はなんとなくわかった。で、あたしに何をしろというの?目立ったことをしたくないんだけど」

「シュミルーク卿はこの町の財政に大きな影響力を与える重役だ。その邸宅の中にはこの町の役人の不正の証拠があるだろう。そこであんたにはさっき見てもらったミンクになりきり、シュミルーク邸に入ってもらいたい。そして、重要な書類をいくつか盗み出してほしい」

「そんなの無理だよ!そのシュミルークのことについて知らないし、すぐにばれちゃうから!」

「大丈夫だ。さっきの新聞を見ただろ。あれだけ似ているんだ。なんとかなる」

「無理だって!」

 頑なに断るミユウに対し、シーラスたちがガラス越しに深々と頭を下げる。

「頼む!あんたにしかできないことなんだ!」

「頼むのなら、まず解放してほしいんだけど……どれだけ頼まれても絶対に嫌!他をあたって」

 そう答えると、シーラスたちは頭をゆっくりと上げていく。

「そうか……それなら仕方がない」

「ふう。わかってくれたんだね。じゃあ、すぐにかいほ…」

「それだったら、多少強引な手を使っても協力してもらう。おい!例のあれを作動させろ!」

「え?」

 シーラスが指示すると他のメンバーが操作を始める。

 するとミユウを拘束している部屋の天井がギギギと壁を削る音を立てて降りてくる。

「何をするの?」

「助かりたければ、俺たちに協力しろ」

「卑怯な……。でも、残念だったね。こんなことで『協力する』なんていうほど、あたしはやわじゃないよ」

 長年拷問に耐え続けたミユウにとって、壁に圧迫されることぐらいではなんとも思わない。

「それはどうだろうな?おい!あれを出せ!」

 シーラスが指示すると、さらにメンバーが操作をする。

 すると、天井にX字型に複数の穴が開き、そこからマジックハンドが出てきた。

「何これ?なんだか嫌な予感がする……」

「俺たちの協力者の中には操雷族のやつがいてな、そいつに作らせた。ミンクがくすぐりに弱いって噂を聞いたんだ。これを使えば奴により効果的に追い詰めることができると思ったからな」

(最悪だ!)

「で、でも、あ、あたしはく、く、くすぐりに強いから、こんなことしても……」

 ミユウは毅然とした態度を取り、恐怖をごまかす。(実際には誤魔化しきれていないが)

 絶対に自分がくすぐりに弱いことを知られてはならない。

 しかし、それは不可能な話だった。


 ヴヴーーーーーーン!


 けたたましいサイレンの音とともに、ガラス製の半球が赤く光る。

 これはミユウが嘘をついた証であった。

 その反応を見ると、シーラスはニヤッと笑う。

「ほう。あんたも弱いんだな。これはラッキーだ。1分ぐらいであんたの体にあの手が接触し、くすぐり始める。その前に『俺たちに協力する』といった方がいいんじゃないか?」

「ぜ、絶対に言わない!」

 この間も天井はゆっくりとあたしに近づく。穴から出た複数のハンドはワキワキし続けて、ミユウの精神を圧迫する。


「ひ、ひぃ〜〜〜〜」

 数十秒経ったころ、マジックハンドが目の前まで近づいていた。

 最初は強がっていたミユウだったが、鬼気が間近に迫ると全身に汗が流れて胸の鼓動が激しくなっていた。

 あの動きを見ているだけで、全身がくすぐったく感じてしまう。実際にくすぐりが始まれば、その比ではないことは彼女自身理解している。

 これなら押し潰される方がまだマシだ。

 これ以上耐えることは出来ないと、覚悟したミユウはある決意を口にする。

「わ、わ、わかりました!協力します!なんでもいうこと聞きます!だから、と、止めてーーー!」

 大声で叫ぶと、迫っていた天井とハンドの動きが止まる。

「あわわわ……」

 あと数秒応えるのが遅ければ、くすぐり地獄が始まるところであった。

「い、いっちゃった……」

「そういってくれると思ったぜ。よろしく頼むな、同志よ!」

「う〜。あたしって、なんでいつもこうなの?」

 自分の発した言葉を後悔する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ