35.仲違い、どうすれば…
朝九時になったころ、アストリアとシュナは自分たちの荷物をまとめて、ミユウとサヤが泊る部屋の前の廊下で待っていた。
「サヤさん、昨晩はミユウさんとどのような夜を過ごされたのでしょうか?もしかして、やらしいことされていないでしょうね」
「そうじゃろうのう。きっとあんなことやこんなこと……ってそんなわけなかろう。あの二人は実の姉妹じゃろ?いや兄妹か?まあ、どっちにしろサヤが襲うわけ……」
「そんなことがあるから心配なのですが……」
アストリアの脳内にはサヤと再会した時のことが浮かんでいた。
実の妹であるミユウのことを恋愛対象に見ており、婚姻を考えていることを告げられたときの衝撃が思い出される。
再会して数日経つが、ささいな言動を見ているだけでもその本気度が分かる。
シュナと他愛ない話をしていると、バンっと部屋のドアが開き、サヤが出てくる。
「サヤさん、おはようございます」
「どうじゃった?久しぶりの姉妹での時間を楽しめたん……あれ?サヤ、なんか怒っとらん?」
「そんなことないよ!先に降りてるからね!」
出てきたサヤは誰の目から見ても、怒りの感情が漏れ出ていることに気が付く。
彼女はアストリアたちに背を向けて、階段を降りて行く。
気になったアストリアたちが原因を確認するために部屋をのぞくと、一日中寝ていたとは思えないほど頬をげっそりとさせたミユウがベッドに腰かけていた。
「昨晩、一体何があったのですか?」
「わからない。昨日の夜、悪夢で目覚めたら、なんでか分からないけど怒っていたサヤがベッドの下に倒れていて、いきなりあたしをくすぐりだして……」
「怒らせた心当たりはホンマにないんか?」
「あたしにも何が何だか。本当に女心は難しいよ……」
「あのな、ミユウも今は女なんじゃけん、女心を理解するべきやで?」
「そうだよね、あたしも女なんだし……って、まだ心の中は男のつもりなんだけど!というか、今回はあたしが被害者みたいなもんなんだけど!」
「はいはい。それだけの元気があれば宿を出ても大丈夫のようですね。では参りましょう」
「う、うん……」
納得のいかないそうなミユウであったが、早々に荷物をまとめてアストリアたちとともに部屋を出ていく。
階段を降りると受付所があり、そこには中年男性の宿主が座っていた。
「今日出ていくのかい?」
「はい。長い間、お世話になりました」
「いやいや。こんな美少女4人も泊ってくれたんだ。目の保養になるってもんよ」
「本当にお騒がせしました」
「ははは!なんのなんの。あんな面白いことなんてなかなかないからな。楽しませてもらったよ」
「そうおっしゃっていただけるとありがたいです」
アストリアは宿主に今までの宿泊代を払う。
宿主は代金を受け取ると「道中気を付けて」と声をかけて、彼女たちを見送る。
宿を出るとサヤが壁にもたれて腕を組みながら待っていた。相変わらず、不機嫌そうに頬を膨らませている。
「サヤさん、行きましょうか?」
「……うん。わかった」
アストリアが声をかけると、サヤは壁から背を離して道を歩き出す。
「あの~サ、サヤ?」
サヤの機嫌を直そうと、ミユウが呼びかけた。
「ふん!」
鼻を鳴らして、ミユウからそっぽを向くサヤ。
妹から露骨な無視を受け、頭を垂れるミユウ。その彼女の肩をアストリアがポンポンと軽く叩く。
「仕方ないですよ。徐々に仲直りしていけばいいのですから」
「そうじゃ。何があったかわからんけんど、うちらも協力するけん」
「うん。ありがとう」
アストリアは去っていくサヤの後ろをついていく。
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ミユウ一向がニヤルクを出てから三時間ほど経つ。
その一行の一人である妹のサヤは、夜の事件以降ミユウと口を聞かず、ミユウたちの前をすたすたと歩いていた。
サヤと仲直りしたいが、彼女が怒っている原因が一切わからず、その機会を掴めずにいた。
それを見かねていたアストリアとシュナがミユウの後ろから囁きかける。
「ミユウさん?よろしいのですか?このままではサヤさんと仲直りできませんよ?」
「それはわかっているんだけど……」
「そう思っとるんじゃったら、早う行動したほうがええよ」
「うん。それもそうだね。頑張ってみる!」
アストリアたちに促され、前を歩いているサヤに近づく。
「サ、サヤ~」
「ふん!」
全くミユウのほうを目を向けないサヤ。それにくじけず、何度も話しかける。
「サヤ~。もう機嫌を直してよ~。お願いだからさ~」
「ふん!」
「う~ん。どうしたもんかな?よし、もうわかった!サヤのいうこと一つだけ聞く!」
「え?」
ミユウの提案に初めて反応して足を止めるサヤ。
さっきまでのふくれっ面とは一変、パァッと明るい笑顔になっている。
「にぃに、それ本当?」
初めて反応を示した彼女に手ごたえを感じたミユウは、そのままもう一押しする。
「う、うん!本当だよ!あたしにできることなら何でもする!」
サヤは振り返り、ミユウの目の前にスタスタと近寄る。
「それじゃあ、あたしをお嫁さんにして!」
「「「え?」」」
サヤの言葉にミユウの思考が止まる。
「そ、それは……」
「どう?これだったらにぃにもできるでしょ?」
「……無理」
ミユウの返事を聞くと、プイっとそっぽを向く。
「……ミユウの、嘘つき!!」
「そ、それ以外だったらなんでも……」
「『にぃにのお嫁さんになる』それ以外はどうでもいい!」
サヤの幼稚で理不尽な態度にミユウの中に怒りの気持ちがふつふつと沸き上がってきた。
「もう何なの?!なんで怒っているか教えてくれないし、話そうとしても聞いてくれないし、サヤが何を考えているか分からない!」
「にぃにが鈍いだけでしょ?にぃには昔から馬鹿だからね」
「何だって!もうサヤのことなんて知らない!」
「「ふん!」」
ミユウはその時点でサヤとのコミュニケーションをとることをやめることにした。
その後、道中二人が顔を合わせることはなかった。




