34.やっとのチャンス、だけど…
マッサージにより力が抜けたミユウを部屋のベッドに寝かせたアストリアとシュナは、サヤが持ってきた水を一気に飲み、一息ついていた。
「ふぅ~。やっと落ち着いてきたわ~」
「ありがとうございます、サヤさん」
「こちらこそ、うちの兄がご迷惑をおかけしました」
サヤはベッドで寝ているミユウの寝顔を眺める。
緊張が解けているようだ。見ているこっちの気が抜けそうだ。
「こんな気の抜けた幸せそうなにぃには久しぶりに見るよ」
「つい最近まで毎日拷問が続く日々を過ごされていたのですよね。きっと私たちが想像のできない残酷なことも。そんなミユウさんからすれば、マッサージをされているあの時間は至極の時間だったのでしょうね。そう考えると、マッサージにお誘いしてよかったです」
一休みしたアストリアはゴホンと咳をすると、サヤとシュナさんにある話題を切り出す。
「ミユウさんも明日までには元に戻るでしょう。ですので、明日の朝この町を出ようと思います。しかし、その前に決めないといけないことがあります」
「決めんといけんこと?それは何じゃ、それは?」
「今晩誰がミユウさんと一緒に過ごすか、です」
「「!!」」
アストリアの言葉にシュナとサヤの中で一瞬緊張が走る。
「いきなり何をいうんじゃ?この前決めたじゃろ?この宿ではうちがミユウと一緒の部屋になるんじゃと……」
「おや?私が何も知らないとでも思っていらっしゃるのですか?」
「え?」
「二日前の夜、ミユウさんを襲いましたよね?私たちとの約束を破って……」
「な、何のことかのう~」
「今回は私を助けていただいた借りもありますので、その件は不問にしましょう。ただし、これ以上ミユウさんと一緒の部屋に泊まることは許容できませんね」
「う……」
シュナはアストリアにこれ以上言い返すことができず、部屋替えの提案を受け入れることにした。
「平等にじゃんけんで決めるのはどうですか?三人でじゃんけんをして、勝った方が今晩ミユウさんと一緒になる。いかがでしょうか?」
「まあ、妥当だね」
「それじゃったら、ええじゃろ」
「そうと決まれば、早速やりましょう」
アストリアは立ち上がると、円形に並び向かい合う。
「では行きますよ!」
「「「じゃんけんポン!」」」
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ジャンケンの結果、この日にミユウと一緒に夜を過ごすことになったのは、サヤと決まった。
敗者である二人は意気消沈しながら開かれた手のひらを眺め、勝者であるサヤは握られた拳を天上へと掲げて、その喜びを表現した。
「あ~負けてしもうた~」
「もう!今晩は久しぶりにミユウさんに添い寝していただこうと思っていたのに……」
「やった!にぃにと一緒だ!これでにぃにを好きに……」
「サヤさん!くれぐれもミユウさんに襲いかからないでくださいね!」
「わ、わかってるよ~」
「本当ですかね?まあ、いいでしょう。明日の朝十時に部屋の外の廊下で待ち合わせということでお願いいたします」
「は~い」
サヤを警戒をしていたアストリアだったが、自分が持ちかけた勝負で決まったことに文句をつけることはできず、渋々自分の荷物をまとめて隣の部屋に移った。
アストリアとシュナが部屋を去るのを見届けると、サヤは自分のベッドの上に腰をかけて、再びミユウの寝顔を眺めていた。
「今晩が楽しみだなぁ……」
ーーー
日が落ちると、宿の部屋の中は闇に覆われていた。
部屋に置いてあったランプに火をつけると、身に着けていた部屋着を脱ぎ捨てて、ミユウが眠るベッドのそばに立つ。
「いよいよ待ちに待ったこの時間!アスねぇの監視もないし、さて、にぃにをどうしてやろうかな?とりあえず……にぃにのベッドの中に入ってみよ!」
部屋中を軽く見渡して確認すると、ミユウにかかったシーツをめくり、自分の体をねじ込む。
深い眠りについているため、一切目を覚まさない。
慎重にミユウの上半身に両腕を回し、彼女に抱きつく。
「あ~服の匂いもいいけど、やっぱり直に匂う方がいいな~。それに柔らかくて抱き心地もいい~。大好きだよ~にぃに~」
ミユウの体に自分の顔を擦り付け、匂いと柔らかさを感じる。
(いけない!今日はもっとすごいことをするんだった!よし、それじゃあ………ってあれ?この後どうすればいいんだろう……)
以前から望んでいたミユウを襲える状況を手に入れることができた。しかし、いざというときになっても、まだ幼い思考を持つサヤには具合的な計画が思いつくことができなかった。
(お色気作戦をするにもにぃにが寝ていたら意味がない。けど、せっかくにぃにと二人きりになれたのに何もしないのももったいない。う~ん、何かいい方法ないかな?)
サヤはミユウに抱きついたまま考えてみる。
(あ!そういえば“寝ているときに耳元で囁かれると、囁かれたことを夢を見ちゃう”って聞いたことがある……よし!)
ミユウの耳元にそっと顔を近づける。
「サヤの裸、サヤの裸、サヤの裸……」
サヤがつぶやくと、スヤスヤと寝ていたミユウは眉間にしわをよせて、唸るような寝声を立てる。
「う~。サヤ、何で服脱いでるの~」
「いひひ。うまくいった、うまくいった」
思ったより面白く愉快な反応したことにサヤの口から笑みがこぼれる。
味を占めたサヤは他の言葉を囁く。
「じゃあ次は……抱きつかれる、抱きつかれる、抱きつかれる……」
「い、いきなり、何を、は、離れて~」
「いいよ、いいよ。だったら、こちょこちょされる、こちょこちょされる、こちょこちょされる……」
「ダメ、だって、や、やめ、許して~」
「にひひ。こんな手に引っ掛かるなんて、にぃにって単純~」
噂の催眠法がミユウに効果があることを確かめた。
それが分かったら、本題に入ろう。
「そ、それじゃあ。ごほん。にぃには、サヤのことが、大す、す、す…」
「もうやめてーーー!」
サヤが囁こうとした途端にミユウが目を覚ました。
彼女の鼻頭がミユウの頭にぶつかり、ベッドの下に落ちる。
「はあ、はあ。ゆ、夢か……。まったく変な夢だよ。まさか裸のサヤに抱きつかれるとは……」
大きく背伸びをして辺りを確認すると、床に倒れているサヤに気が付く。そして、彼女が自分を鋭い目で睨みつけていることにも……
「あれ?サヤ?なんでそんなところでいるの?……というか、なんで怒っているの?」
サヤは自分の作戦が失敗してしまったことと、自分のやっていたことへの恥ずかしさ、そして、自分の気持ちに気付かずに対応するミユウへのいら立ちで、複雑な怒りの感情がふつふつと沸き上がった。
「むぅ~~!あと、もうちょっとだったのに~~!にぃにの、バカーーー‼」
サヤは感情のままにミユウに飛びかかり、倒れた彼女の両わき腹をくすぐり始める。
「い、いきな、あ、あははははははは!」
「もう知らない!にぃになんて笑い死んじゃえ!」
「なんで、や、やめ、やめて、あははははははは!」
暴れるミユウをサヤは夜が明けるまでくすぐり続けた。




