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チートな俺が、チープなあたしに変わったら、くすぐりに悩まされる日々が待っていました  作者: 広瀬みつか


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25/109

25.地獄の中の女神様、本当に…

 木々の間を通り過ぎる風の音と小鳥たちの囁きだけが聞こえる静かな森の中で1人の少女が途方に暮れていた。

 腰に届く黒髪に黒い瞳の少女の名前はミユウ・ハイストロ、“世界最強の種族”と呼ばれた不殺族だ。

 ミユウはある事情から許嫁のアストリアと妹のサヤにお仕置きとしてこの場に放置されていた。

 彼女たちが助けに来るのは10日後、それまでミユウは飲まず食わずで過ごすことになった。



 ---



 放置されてから初日。

 最初の内は自信はなかったが、思った以上に大丈夫だ。

 むしろ久しぶりにひとりになれたことで、少し心の余裕を持つことができた。

 この日は体力を回復させるために1日中眠ることにした。



 放置されてから2日目。

 まったく動けないとなると全身が痛い。

 この状態があと8日間も続くと考えると先が思いやられる。

 左右に転がり姿勢を変えてみる。同じ姿勢でいるよりはだいぶマシだ。

 これからは起きている限りは1時間ごとに寝返るようにしよう。



 放置されてから3日目。

 この日も快晴が続いていた。強い日差しが長時間ミユウの体力を著しく消耗させる。

 長年室内で拘束されていたせいで、日光に対する免疫が弱くなっているらしい。

 体を転がして木陰に避難する。



 放置されてから4日目。

 飢餓が襲う。

 要塞の生活で飲まず食わずの状態でいさせられたこともあり、飢餓には慣れていたはずだった。

 しかし、この数日間普通の生活を送り、なまじそれに慣れたせいか、飢餓への耐性が弱まったらしい。

 喉が渇き、ずっと腹が鳴っている。頭も動かず、まともに考えることができない。

 本当にどうなってしまうのか、ミユウは不安に駆られていた。



 放置されてから5日目。

 ある事件が起きた。

 服の襟元と胸元から数匹の虫が入り、ミユウの体を這いずり回る。

「あ、や、やめて!そんなとこ、入れないで!あは、あはははは!やめて、あははははは!」

 この日は一日中転がり回り、服の中の虫を潰すことに費やした。

 日が沈んだころには目的は達成できたが、だいぶ体力が奪われた。



 放置されてから6日目。

 久しぶりの雨。

 ミユウは口を開けてここぞとばかりに水分を補給することにした。それに日差しを避けることもできる。

 ここほど雨が嬉しいと思ったことはない。

 これでもう少し生き延びることができる



 放置されて7日目。

「あは。今日はどんな拷問をするの~。よ~し。今日も絶対に負けないから~。あは、あははは~」

 要塞の拷問官の幻覚を見る。

 しかし、あまりの孤独に喜んで会話をする。



 放置されて8日目。

(………)

 ついに真白になった。



 放置されて9日目。

 辛うじて意識を取り戻したが、おぼろな状態だった。

 目には涙が流れる。

 せっかく要塞から逃げ出したはずなのに、なぜ自分はこんなことになっているのだろう。

「た、助けて~。誰でもいいから~」

 乾いたのどでか弱い声を出す。


「だ、大丈夫?」

 誰もいないはずの森の中で、ミユウは久しぶりに自分以外の声を聞いた。

 なけなしの力を振り絞り、首を回して周りを見る。

 目を凝らすと、右側の雑木林の中から黄金色の獣の耳が出ていた。

「あたし、とうとう、動物と……。これは、重傷だ。あはは……」

「ちゃ、ちゃうよ!ボクは人間じゃ!」

 雑木林の中から1人の少女が勢いよく飛び出してきた。

 黄金色のショートヘアで、頭の上に参画の獣耳がついている。そして、腰からは耳や髪と同じ色のふさふさとした大きなしっぽが付いていた。

 彼女は髪やしっぽに付いてる砂埃や葉を手で払いながらミユウに近づいて彼女を覗き込んだ。

「ほんまに大丈夫なん?」

「あはは。おいしそうな、パン。食べちゃいたい……」

「だ、誰がパンじゃ!似とるんは色だけじゃろ!」

「あはは……」

「いけん。こんままじゃ死んでしまう。早うなんとかせんと」

 うつろな目で無気力に笑うミユウ。誰の目から見てもまともな状態ではない。

 その場で正座で座った少女はミユウの頭を自分の太ももの上に乗せ、持っていた竹製の水筒を取り出して彼女の口に運ぶ。

「ほら水じゃ。焦らんでええけん、ゆっくり飲み」

 ミユウは喉を鳴らしながら水を飲む。


 数日ぶりに大量の水分を補給できたミユウの意識が徐々に戻る。

「はあ、はあ。危なかった」

「大丈夫なん?」

「う、う、あ、ありがとう~。本当に死ぬかと思った~」

 ミユウは泣きながら、無意識の内に少女の太ももに頬を擦り付けていた。

「ちょっとこしょばいけん、やめてえや」

「あなたはあたしの命の恩人だよ~」

「わかった。わかったけん。少しやけど食べ物もっとるけん、待っちょって」

 少女は袋の中からパンを取り出し、食べやすい大きさにしてからミユウの口の中に入れる。

「お、おいし~。おいしいよ~」

 弱まったあごの力で精いっぱいパンを頬張る。

 味気ないはずのパンのはずなのに、すごく甘く感じる。

「水もまだあるけんね」

「ありがと~~」

 

 ミユウは水と食べ物を摂取すると一息ついた。

「ありがとう!本当に助かったよ!」

「ええよ。あんなに弱っとる人を見過ごすわけにはいけんからね」

「いやいや。あなたがいなかったら……あ、そうだ、まだあなたの名前聞いてなかった」

「ボクの名前はシュナ・アルペルト。見ての通りの獣人族じゃ」

「あたしはミユウ・ハイストロ」

「ミユウか。ところで君は何でこげなとこでしばられとるん?」

「それはちょっと複雑な事情で……」

 まさか『女の子のスカートの中を見てしまったから』なんて言えない。

「まあ、言いたくなかったら別に言わんでええよ。そうじゃ。ボクが縄ほどいてあげようか?」

「え!いいの!本当にシュナは女神様みたいだよ~」

「それじゃ、ちょっと待っちょってな」

 シュナはミユウの頭を地面の上にゆっくり置いて立ち上がると、ミユウに巻き付けられた縄を吟味していく。

 すると、足元に一枚の紙が貼られているに気が付いた。そこには文字が書かれているが、濡れてにじんでいる。

「あれ?これなんじゃろ?」

「え?アストリアたちはそれのことは何も言っていなかったけど」

 シュナは紙を手に取り、そこに書かれた文章を読む。

「え~、なになに?『この縄は普通の方法ではほどけない。ほどくためにはこの人を思いっきりくすぐれ』じゃって」

「……は?どういうこと?」

「じゃってここにそうかいとるんじゃもん」

「なるほど。あの二人が考えそうなことだ」

「どうするん?試してみる?」

「ん~~。仕方ない。覚悟を決めるよ……」

「よっしゃ!えーっと、こしょこしょできそうなんは……」

 シュナは一通りミユウの全身を見渡す。すると、ミユウの両足が裸足になっていた。

 それを確認すると、ミユウの足元に向かい、しゃがみ込む。

「え?!ま、まさか足の裏?!」

「仕方ないじゃろ。見たところ、ここしかこしょこしょできんのじゃけんのう」

「う~。わ、わかったよ……」

「それじゃ、いくで!」

 シュナはミユウの両足に手を伸ばし、人差し指で彼女の足の裏をくすぐる。

「こしょこしょこしょ~」

「きゃ、きゃははははははははは!し、死ぬーーーーー!」

 想像以上の笑い悶え方をするミユウに、シュナは少し驚いた。

「み、ミユウ!大丈夫なん?!めっちゃ苦しそうじゃけど?!」

「い、一回止めてーーーー!」

 シュナはくすぐりの手を止めた。

「はあ、はあ。ご、ごめん。言ってなかったけど、あたし、くすぐり弱いんだ」

「弱いどころの反応じゃないと思うんじゃけど。どうするん?もうやめるん?」

「これ以上、されたら、本当に死にそうだから、やめておく」

「さっきまで衰弱しきとったけんね。無理はせん方がええじゃろ」

「あ、ありがとう……」

「まあ、今晩は一緒におるわ。またほどく方法は明日考えよう」

「いいの?それじゃシュナが野宿することになっちゃうけど……」

「ええんよ。今日は野宿する予定じゃったけん。それにミユウをこのままほっとく訳にはいけんじゃろ?」

「シュ~ナ~。こんな優しくされるの初めてだよ~。本当に女神様だ〜」

「あはは。そんな大げさな……」


 こうしてミユウは獣人族のシュナと一晩を過ごすことになった。

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