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チートな俺が、チープなあたしに変わったら、くすぐりに悩まされる日々が待っていました  作者: 広瀬みつか


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16.新たな少女、いったい…

 アストリアからのお仕置きから解放されたミユウは、ベッドの上に倒れていた。

 体中の体力はほとんど残っていない。“絞られきった”という表現が正しいかもしれない。

 ベッドの上でミユウは何度も大きく呼吸をして、体力が戻るのを待っていた。


 そんな彼女をアストリアは鼻歌を口ずさみながら眺めていた。

 お仕置きをする中で今晩もミユウと添い寝をするという約束を再び取り付けたからだ。

「うふふ。今晩も添い寝していただけるなんて夢のようです~」

 キシリアの部屋におけるミユウとの添い寝がよほど気に召したのだろう。アストリアはニヤニヤした自分の顔を抑えることができなかった。

 そんな彼女を横目で見ながら、ミユウは自分の理不尽ともいえる不運を嘆いていた。

「なんで優勝して大金を手に入れたのにこんな目にあってるの?」

 ミユウはアストリアから目線をそらして、か細い声で囁く。

 こんなことを彼女に聞かれてしまってはどうなるか分からない。いや、考えたくもない。


 そんなときにミユウたちの部屋のドアが二回ノックされた。

「邪魔すんで~。誰かおりますか~?」

 軽やかな口調の女性の声がドアの向こうから聞こえた。

「聞いたことのない声ですね。それに珍しい口調。一体どなたなのでしょうか?」

 アストリアは「どうぞ」と返事すると、声の主らしき女性が部屋に入ってきた。

 見た目はミユウやアストリアより少し大人っぽく、ウェーブのかかった銀髪の髪が特徴的であった。そして、少し気崩した紳士服の上に大きな白衣をまとった、特徴的な服装をしている。


 彼女は部屋に入るなり、中を一通り見まわす。

 そして、ベッドの上で倒れているミユウの姿を見つけると、すたすたと枕もとに歩み寄り、その顔を近づける。

「お、やっと見つけた!こんなとこにおったんかいな。手間かけさせよって。試合終わったらすぐに話しかけようと思うたんやけど、せっせと運ばれてしもうたからなあ。あんたを見つけようと、ほうぼうで探したで。おかげで足がもう棒になってしもうたわ。ほんまに……」

「あの~、どちら様でしょうか?」

 いきなり立て続けに離す彼女を止めるようにアストリアが訊ねる。

 自分が息をせずに話していたことに気付いた女性は、2回自分の頬を叩く。

「あ~、そうやなあ。まだ名乗ってなかったわ。気づいたら一人で勝手にどんどん話してしまう。うちの悪い癖や。早う直さなあかんとは日ごろからおもうとるんやで。けど、一度ついてしもうた癖いうもんはな……」

「あの~」

「あ、またや。すまんなあ~。うちの名前はイリイナ・ルーリール、職業は技師や」

「ルーリール?」

 彼女が口にした名前にミユウは反応する。それは最近耳にした名前だ。

「ほら、あんたが決勝で戦ったローラっておったやろ?うちはあいつと同族なんや」

「……ひい!」

 ミユウは決勝のことを思い出し、とっさに体を丸めて守りの姿勢をとった。

 くすぐりとお色気の二重攻撃は、彼女に新たなトラウマを植え付けていた。


 イリイナはアストリアのベッドに深々と座ると、話を進める。

「あいつとは昔っからの友人なんや~。言うても相手は族長の娘やから、身分の差いうもんがあったけど、ローラはそれ抜きでうちと仲ようしてもろうたわ~。そんな縁もあって、この大会ではあいつのサポーターの一人になったという訳や~。まあ~、ルール上はサポーターは一人だけやから、うちはいわば“準サポーター”として、観客席から見とったんやけどな~。そのくせ“決勝戦の相手全員分の対戦闘機械を作れ”とか。ほんまにうちへの負担が大きすぎるわ……」

 イリイナから再び次々と言葉が繰り出されるところで、アストリアが無理やりに言葉を挟む。

「ということは、あの機械を作られたのはあなたなのですか?」

「そうやで~。対戦相手の弱点を分析するサポーターいうもんが居って、そいつの情報に基づいて設計してから実際に組み立てるまで、ほとんど一人でやったよ。言うても、一台作るんに数十分あれば十分やし、いくら金かけてもええっていわれとったから、案外効率よう作れたよ。まあ、一台50万リールの報酬がもらえるってなれば、そりゃ腕もなるわ~」

「あれだけのものを短時間で、その上お一人で作られたのですか!」

「そりゃ、うちは天才やもん」

 機械に疎いアストリアでもあの機械の質の高さは十分にわかる。

 正確にミユウの手首足首を拘束した正確さ、剛力のミユウを長時間しっかりと拘束する頑丈さ、生きた人間のような滑らかな手の動きなど、どの点から見ても並外れた技術だ。

 それがものの数十分で作れるとは、“天才”という言葉だけでは片付けられない。

「特に中でもあの“対ミユウ用鐘形くすぐり機”、名付けて『こちょこちょくん3号』には力入れたんやで~。あんたが決勝に残る確率が一番高かったからな~」

 “こちょこちょくん3号”名前の響きから言えばかわいらしいが、ミユウからすればどんな拷問器具の名前よりも恐ろしく聞こえる。


「ところでやな~」

 イリイナはベッドから腰を上げて、再びミユウに顔を近づける。

「どうやった?」

「な、何が?」

 その透き通った目をキラキラと輝かせてイリイナが質問をする。

 そんな彼女の質問の意味をミユウは理解できなかった。

「何がって、あの機械のことに決まってるやんか~。設計者にとって、自分が一からつくった作品は自分の子どもも同じ。その出来を把握したいいうんは性みたいなもんや~。特にそれを体験したもんの感想は今後の作品作りの参考にもなるからな~。ぜひ、正直な感想きかせて〜」

 イリイナの顔がより顔に近づき、彼女の呼吸だけでなく、心臓の鼓動までもが聞こえてきそうだ。


「まあまあ、かな?」

 ミユウはイリイナから目線を外して答えた。

 できるだけあの時のことを思い出したくなかったし、多くを語りたくはなかった。

 それにミユウにも意地があった。ここで「あれはすごい出来だね。本当に参っちゃったよ」などといえば、自分の不殺族としてのプライドが傷つくのではないかと思ったのである。

「まあまあ~?」

 ミユウの回答が気にいらなかったのか、イリイナはジト目で彼女の顔を見つめていた。

「うちの自信作が『まあまあ』やって~?おかしいなあ~?うちにはあんたが笑い悶えて、死にかけとったように見えたんやけどな~?」

「気のせいじゃないの?」

「確か~『やめて!』とか『助けて!』って叫んどったように見えたけどな~?」

「聞き間違いじゃないの?」

「ほんまに~?」

「本当本当。あんなのあたしにとってはマッサージと同じだったけど?本当に気持ちよかったな」

「ふ~ん」

 イリイナと目線を合わせず、脂汗を流しながら、本来とは真逆の感想を次々口にしていくミユウ。

 しかし、納得のいかないイリイナは彼女に質問を繰り返す。

「ほんまに気持ちよかったんやな~?」

「本当だよ。何ならもう一度使ってみたいくらいに……」

「そんならもう一回使ってみるか?」

「え?」


 イリイナは部屋を出ると、ドアの向こうから鐘形の鉄の塊を部屋の中にゴロゴロと引き入れた。

 それはミユウの記憶の中に焼き付けられた、二度と見たくない拷問器具、“こちょこちょくん3号”であった。

「いやな~、あんたにもう一回使ってもらおう思って持って来たんや~。下にコマつけてるいうても、これ移動させるん結構きつかったんやで~。もし、正直な感想もらっとったら使うのやめとこう思っとったけど、苦労して持ってきたかいがあったわ~」

「あわわ……」

 ミユウには直後の未来が予想できた。再び全身の震えが止まらなくなる。

「あれ~、どうしたん~?顔色悪いで~?もう一度体験したいっていうあんたの願いが叶うんやで~?もっと喜びいや~」

 ミユウはベッドの上で土下座をした。

 体力はほとんど残っていなかったはずだったが、あの機械の恐怖が彼女の身体を動かしたのだった。

「す、すみませんでした!嘘です!本当はとてもくすぐったくて苦しかったんです!もうこりごりなんです!」

 やっと正直な感想を口にしたミユウを見て、イリイナは満足げに笑った。

「せやろ、せやろ~。特にな、手のところの素材や動きにこだわってみたんや~。もんまもんの人間にくすぐられている感じをできるだけ忠実に再現するために何度も改良を繰り返したんやで~」

 嬉しそうに自慢の機械の話を夢中でするイリイナ。

 その姿にミユウはホッと肩をなでおろす。くすぐられる未来はこれで回避ができるはずだと。


「けどな、うちはまだ満足いってないんや。さっきあんたに『まあまあ』って言われたし……」

「だからあれは嘘で……」

「やから、ほんまの感想を教えてほしい。実際にくすぐられながら……」

「え?」

 イリイナはニヤッと笑うと、機械の起動ボタンを押す。

『モクヒョウ、ミユウ・ハイストロ、ハッケン。コウソク、シマス』

 それと同時に、機械の扉が開かれ、4本の鎖と手錠がミユウの手足首を拘束して機械の中に引きずり込む。

『モクヒョウ、コウソク、カンリョウ』

 ここに数時間前の地獄が再現された。


「いやーー!アストリア、助けてーー!」

 ミユウは部屋の隅で待機するアストリアに助けを求める。

 その呼びかけに、アストリアはニコッと微笑み返す。

「先ほどのやりとりを終始聞いていましたが、正直に感想をおっしゃらなかったミユウさんが完全に悪いですね。いっぱいくすぐられたら、少しは素直になるのではないのでしょうか?」

「そんな~」

 涙目でアストリアに訴えかけるミユウ。

 そんなことをお構いなしに、イリイナは機械に搭載された複数のボタンを押しながら調整を始める。

「さっき、うち言うたよな~。『自分で一から作った作品は自分の子どものようなもんや』って。自分の子どもを正当に評価されんかった親は一体どう思うやろうな~。うちやったら、絶対に許さへんわ~」

 最終調整を終えたイリイナは一つのボタンを押す。

『コレヨリ、コチョコチョ、カイシ、シマス』

 すると、ミユウの背後から無機質な音がゆっくり近づいてくる。

『コチョ、コチョ、コチョ……』

「ごめんなさい!ちょっと見栄を張りたかっただけなの!だから……」

「もう遅い。じゃあ、ゆっくり観察させていただくで〜」

 ミユウの体に複数の手がたどり着いたと同時に、くすぐりが始まる。

 今回は上半身だけでなく、太ももや膝、ふくらはぎなど、合計20の手がミユウの全身を襲う。

 その上、それぞれの手がくすぐったいツボを的確に、かつ効率的な方法で責める。

『コーチョコチョコチョコチョコチョ』

「ぎゃーはははははは!」

 くすぐりが始まると、イリイナは胸ポケットに入れていた眼鏡をかけ、白衣のポケットから小さな手帳と羽ペンを取り出す。

 そして、くすぐる手の動きや、ミユウの表情、くすぐりの手から逃げようともがく体の動きなどを観察しながら、黙々とメモを取る。

「やははははは!み、見てないで早く止めてーー!」

「何いうてるんや~。まだ始まったばかりやで~。あと1時間は我慢しい」

「そ、そんなーあはははははは!」


 その後ミユウは早く試験を終わらせるため、イリイナからの質問に正直に答えていった。



 ーーー



 1時間後、試験を終えて満足したイリイナは一つのボタンを押し、機械を止める。

 やっとくすぐりの手が止まると、ミユウは「ひにゃ~」という間抜けな声を出して倒れ込んだ。彼女の両手には枷がはめられているので、“両手を上げた状態でぶら下がった”という表現がふさわしいだろう。

「いや~、ええデータ取らせてもろうたわ~。これでもっとええ作品をつくれる。完成したら、また付き合うてな~」

「もう、絶対に、いや……」

 蚊の鳴くようなか弱い声で、イリイナへの返事をつぶやく。


 試験が終わったことを確認すると、部屋の隅で見学していたアストリアがイリイナに訊ねる。

「ところでイリイナさん。あなたの本来の目的は何なのですか?まさか本当にそちらの機械の試験をされに来たのではないのですよね?」

 イリイナは機械の調子を確認しながら、アストリアの質問に答える。

「あんた鋭いな~。確かに“こちょこちょくん3号”の感想以外に、ちょっと確認したいことがあってここに来たんや~」

「それは……」

 “こちょこちょくん3号”の周りを一周すると、イリイナはぶら下がるミユウの顔を覗き込む。

 そして、ミユウに一つの質問をする。


「あんた、不殺族やろ」

「「……え?」」

 イリイナの予想外の質問に、ミユウとアストリアは背筋が凍った。

 不殺族は外見だけでは通常の人間と見分けがつかない。それなのに、初対面である彼女はミユウが不殺族であることを見破ったのだ。

(もしかしたら、準決勝でリツを吹き飛ばしたからバレちゃったのかな?でも、あれだけじゃ不殺族だって断定できないはずだし。いや、今はそんなことはどうでもいい!)

 もしこのことを公国側に通報されれば、ミユウはまた捕まり、拷問の日々を送らなければならない。

 それだけではなく、ミユウと一緒に行動していたアストリアにまで影響が及ぶ可能性だってある。

「そそそそそ、そんなわけないでしょ!」

 目をずらして動揺するミユウの顔を、イリイナはジーっと見つめ続ける。

「あくまでしらを切るんやな~?でも、これならどうや~」

 イリイナは紳士服のポケットの中から小刀を取り出し、ミユウの左頬を深く切りつける。

「いたっ!なにするの!」

 ミユウの傷から一筋の血液が流れ落ちる。その直後、ジューっと煙を立てながら傷が治っていく。

 これは不殺族だけに見られる超再生能力であり、それはミユウを不殺族だと証明する十分な証拠だった。

「ほら、見てみい~」

「な、なんのことかな〜?」

 証拠が出たからといって、ほいそれと認めるわけにはいかない。

 しかし、体は正直なもので、ミユウの全身に尋常ではない量の汗が流れる。

「そうか~。これ以上シラ切るんやったら、仕方ないな~。もう少し笑ってもらうか~」

 イリイナが両手をワキワキさせて、ミユウの横腹に近づけてくる。

 今のミユウにくすぐりに耐えられるほどの体力と精神力は残っていない。数分間くすぐられれば、白状してしまうだろう。

「や、やめて~~」

 ミユウはイリイナの手から逃れようと後ろに下がるが、拘束されて逃げることができない。


 もう駄目だと諦めかけていたその時だ。

「止まりなさい!」

 アストリアは部屋に置いてあった箒を手に取り、イリイナに向けて構えていた。

「イリイナさん。あなた、もしかして公国側の追っ手ですか?そうであれば、ミユウさんを渡すわけにはいきません!」

 イリイナを力強く睨むアストリア。その瞳には涙を浮かべ、その体はガタガタと震えていた。

 その姿を見たイリイナは慌てて両手を上げ、戦う意思がないことを伝える。

「ちょっと待ちいや!うちは公国側の人間やない!」

「で、では、どうしてミユウさんの正体を知っているのですか?」

 アストリアの質問に、イリイナは急に顔を赤く染める。

「え?いや、それは、やな、その、うちがな……」

 先ほどまで流暢に話していたとは思えないほどにたどたどしく言葉を紡ぐイリイナ。

 そして、一つ大きく深呼吸すると、意を決したように続きの言葉を口にする。

「うちがこのミユウ・ハイストロの……許嫁やからや!」

「「………え?」」

 イリイナから出た予想外の言葉に、部屋の空気がシーンと静まり返った。

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