第五話 年末と年始
ふたたび、ナオと長田家の物語に戻ります。
「味はどう?」
「にゃ~」
キッチンのテーブルの上で数本だけ食べた年越しそばは、サッパリした味でおいしかった。
お皿にくれたママさんも「そう、よかった」と笑って自分の分をすする。
「こうしてナオと分けっこするの、楽しいな」
ぼくはこんな風に、ときどき人間の食べ物を分けてもらう。
あぁ、普通のネコはよくよく気を付けないとダメだよ? お腹を壊しちゃうからね。
我が家もリンに見られたら「ちょーだい」攻撃がすごいから、来たときは気が抜けないんだ。
リンはぼくが普通じゃないことに気付いてるけど、色々と分かるようになるまではもうちょっとかかりそうだしね。
『違う番組を見ようよー』
他の家族は食べ終えていて、毎年恒例の歌番組を見ながらあれやこれやと言い合っている。
子どもたちは「お笑い」が見たいらしいのに、ソファに座る父親のタカヤはにべもない。
「長田家は毎年これって決まってるんだ。なぁ、ナオ?」
確かに田舎も年越しはこの番組だったよ。でもネコに同意を求められてもね?
興味がないからぷいっと顔をそむけたら、視界の端っこでタカヤががっくり肩を落としていた。
そうしてワイワイしている四人を眺めている間にも時間は過ぎていく。
遠くでゴーン、ゴーンと鐘をつく音が聞こえてくる中、カウントダウンが始まった。
『さーん、にーぃ、いーち……明けましておめでとう~!』
仲良し家族は新しい年の訪れを祝い合い、ぼくにも「おめでとう」を言って前足の肉球をぷにぷにしてくる。どの手も優しくてあたたかい。
もう何度くり返したか分からない、そして何度くり返しても飽きない光景だった。
◇◇◇
長田家の本家がある田舎と同じで、この町にも当たり前に神社はあって、ここら一帯を見守る土地神さまがいる。
年が明けたお正月の三日目には、この地域に住むネコたちが一匹、また一匹とやってきて、神さまへのあいさつもかねて集会をするのだ。
どうして初日じゃないのかって?
その日も翌日も、境内は人間でいっぱいだからね。
はぁと吐き出す息は真っ白だし、雪が残る地面も風もヒヤリと冷たい。
リンを連れてやってきた時には、もうみんな集まってニャーニャーと騒がしくおしゃべりをしていた。
「ここでなにするの?」
「新年のあいさつだよ。みんな、あけましておめでとう」
「おめでとう、ナオさん」
ぼくが告げると、みんなもあいさつを返してくれる。
リンもまだ良く分かっていないなりに「おめでとう」を言い、ネコたちの輪に入れてもらった。
ぼくはそれを見届けてから大きな鈴が下がっている真下まで行って、顔を上げて土地神さまにもおめでとうを伝える。
すぐに柔らかい声で「おめでとう、ナオ」と返ってきた。うん、元気そう。
神さま、みんな。
今年も、ぼくとぼくの家族をよろしくね。