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2 魔王との決戦

 



「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 ――落ちる。落ちている。ついさっきまでいた暗い空間とは違う。召喚者による召喚術によって来たこの場所。目的も意味も分からないが来させられてしまったこの場所。


 ――もう既にここは『異世界』なのだ。


「んだふ!!!!!」


 地上に落ちた。無理やり手を付き身体を転がすことで受身をとり、怪我をすることなく着地に成功。


「いやちょっと召喚雑すぎじゃね?!?!」


 その異世界召喚の雑さにハヤトは苛立ちを覚える。空中にその穴が出現したので、足場もなくその身を重力に委ねるだけだった。

 深く溜息をつき周りを見る。そこは、岩でできた地だ。上を見上げても岩、壁も岩。簡単に言えば洞窟だ。


「どこだよ……ここ……」


 まだ苛立ちが収まらない。ふと思い返せば脳裏にあの名前も知らない女がよぎる。意味のわからない術で勝手に自分を吸い込み、まともな理由も目的もなく自分を異世界へと蹴飛ばした女だ。


「あんにゃろう……次会ったら絶対しばくからな……」


 ハヤトが膝に手をつき立ち上がろうとした直後だ。


 ――低く重い笑い声が洞窟内に響いた。


「ふはははは!!!貴様らに何が出来る?よくもまあのこのことこの洞窟に入れたものだなぁ?!」


「――――」

「――――」

「――――」


 三人の剣士がその勢いのある声を聞き、剣を構え警戒する。それを見ながら両手を上げ、大きく笑うのは――


「この我、魔王セリシウスがいると知っていながらぁ!!!」


 ザ・魔王といった見た目をした怪物――セリシウスと名乗る魔王だ。

 見たものは恐怖を感じざるを得ない、その巨大な身体。聞いただけで今にも殺されると殺気を感じるほどの重々しい声。いわば、脅威の塊である。


「――お前を必ず、討ち倒す!!!」


 一人の剣士がその脅威に負けじと声を張る。魔王の姿を見てもまだなお戦おうとするその戦意は、なんとも勇敢であった。


「ははは!!やってみろ。やれるものなら、精々この我を楽しませてみろ!!!」


「――行くぞ!!!」


 一人の剣士が走り出し、それに続いて他の二人の剣士もまた走り出す。

 そうして、ここで勇敢な剣士と劣悪な魔王との運命の戦いが始まる――





「――うっせぇんだよぉ化け物ォォォォォォ!!!」


「あぼふ!!!」


 唐突に、罵声と悲痛が洞窟内に響く。


 とりあえずこの異世界での言語が日本語であることが分かったが、そのでかい声が耳障りと苛立ちが我慢できなかったハヤトは、自分の周辺に落ちていた割と大きめの岩を全精力を振り絞り、その魔王へと投げつけた。

 その岩は見事に魔王の後頭部へ直撃。その勢いは凄まじく、魔王の頭蓋を砕き、その音が洞窟中に響くほどだ。

 何が起こったのか理解が追いついていない魔王はその衝撃の勢いのまま、前方へ倒れる。


「な……貴様……なにを……ていうか……誰……」


 ハヤトの姿を初めて見て言ったその言葉を最期に、パタンと呆気なく息を引き取る魔王。三人の剣士もそのなんとも意味不明な光景をみて唖然とする。


「……あれ、もしかして殺っちゃった……?」


 人を殺したのは初めてだ。いや、人ではなかった。魔王だ。魔王の声が耳に響き、そのうえ苛立っていたため、黙らせるために手段は選ばなかった。まさか岩を投げただけで死ぬとは思ってもいなかった。というか、よく考えれば魔王に岩を投げつけるなんて行動は、命知らずの馬鹿しかしないだろう。そしてそれは、今のハヤト自身のことを指している。


 苛立ちに任せた自分自身の行動力に驚いたハヤトは、岩を投げたその両手を見る。すると、


「君か?!魔王を倒したのは?!」


 そう言いながら走って来るのは一人の剣士。整った茶髪で、爽やかイケメンといったところ。必ず討ち倒すと言い、先頭を走っていた剣士だ。他の剣士は魔王の死体の処理に向かっていた。


 ハヤトは今、三人の剣士達が死ぬことを恐れない強靭な勇気を持って挑んだ、魔王との決戦に躊躇なく割り込んだ。しかも岩で。しかも魔王討伐成功だ。

 そう思うと急に罪悪感が湧いてくる。


「ああ、そうです……なんか……すいません……」


 勝手に戦いに割り込んでその魔王討伐の名誉だけを奪ったのだ。怒られるのを覚悟してハヤトは謝罪した。しかし、返ってきた言葉は、


「何を言っているんだ?君には感謝しかないよ!この世界を何年も脅かしてきた魔王を倒してくれたんだ。その恩は計り知れないほど厚いものだ!ありがとう!」


 心からの感謝だった。言いながら差し伸べてくれた剣士の手を取り、よくわからないが握手をする。

 つまり、この人達は名誉のためではなく、この世界を脅かしていたらしい魔王を討伐し、平和をもたらそうとしてくれていたのだろう。それは善意の塊で、下心なんてとてもありそうになかった。

 いいとこどりをしたハヤトに怒りを覚えることもなく、ただ感謝を述べる剣士にハヤトは感激する。


「君、名前は?」


「えっと、タカマ・ハヤトって言います」


 そう名乗ると、剣士は腕を組み満足気にうんうんと頷く。


「勇者ハヤトか……いい響きじゃないか!」


「ゆ、勇者?そんなそんな、勇者だなんて。照れるっすよぉ」


 照れくさくなったハヤトは頭を搔く。『勇者』とはそれほどに重みのある単語だ。肩書きが勇者だなんて、どれほどに努力すれば届くものだろうか。なんなら、どれだけ努力しても届かないほどのものかもしれない。

 それをハヤトは、異世界に来て十秒ほどで。しかも、八つ当たりで。

 もう少し、倒す覚悟を持ってかっこよく討伐したかったものだ。


 なんて考えていると、剣士は真剣な表情になり、こちらを見る。鋭い眼差しだ。それは、死を恐れず魔王に立ち向かった強い意志を持つ者の目だ。


「君には、今から王城に来てもらうが良いか?」


「お、王城?い、良いですけど、どうしたんすか?」


「今回の件について、君と共に王と大事な話がしたいんだ」


 王城とはまた唐突な単語だ。なぜそんな地位が高いような人達が行くような場所に?と思うが、


「そっか。俺もう、勇者なのか」


 現に、ハヤトは今その地位の高い存在になったのだ。


 今回の件の話とは、具体的になんなのかと疑問に思う。『魔王討伐』というその名誉相応の報酬か何かについての話だろうか。異世界に来てからの進展が少しばかり早いとは思うが、まあそれもワクワクするものだ。


「了解です。行きましょう」


「そうか!ありがとう。ラット、ヴァルカン!魔王の後処理を引き続き頼む!」


 遠くにいる二人の剣士の名を呼びそう告げ、またこちらに振り返る。


「僕の名前はリュードだ、よろしく。では、すぐ行くとしようか」



 ――魔王。それは、ここが異世界たる所以。もうここは、日本とは、地球とは、全く違う別世界なのだ。


 ――勇者。それは、誰もがそこに成り上がれるものではない。逆にとれば、選ばれた者のみがなれる存在。そこには多量の努力があって、望みがあって、目的があって。

 その苦労をせず、簡単に、呆気なく、勇者になれてしまったハヤト。




 ――ハヤトはまだ、その背負う重みを軽く見ていたのだった。





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