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EP:21 反撃の活路

『まったく、久々に連絡を寄越してきたと思えば、いきなりこれか』


 電脳通信のノイズ交じりの声が、私を責める。

 申し訳なさの表れで苦笑いを浮かべようにも、今の私には無理だ。

 何故なら私は今、生体ボディではなくタクティカルドローンを身にまとっている。

 公安部が正式採用しているタイプではないが、古巣であるM.E.Dが所有する「グラスホッパー」は相変わらず扱いやすい。

 それなりに大きなティルトローター機の中には、私以外に3体のドローンが鎮座している。

 私に愚痴を言ってきたのはその内の一つ、私の目の前に陣取りスナイパーライフルを整備しているヤツだ。


「それも日本支部のドローンと輸送機を持って30分で来い、ですからね」


 面白そうに肩を竦めるのは、私から見て斜め左に座るドローンだ。

 シャーティ・メズノフ。

 そして、ロブ・マクレーン。

 二人とも、私が人格保管室に入る前に勤めていた、民間軍事会社の同僚だった奴らだ。

 私が静香を亡くして以降も、彼らとの交流は続いていた。

 というか、小遣い稼ぎで何度か彼らの作戦にも参加していた。現職の公務員は副業禁止だし、それが傭兵だなんてバレたら大スキャンダルだろうが、今のこの状況に比べたら些細なことだろう。

 うん、そういうことにしておこう。


「それでも本当に駆けつけて貰えてるあたり、やはり君は人望があるね」


 私の横に座るクロムが、感心したようにつぶやく。

 今はコイツも、タクティカルドローンの体の中だ。

 今回の作戦には一人でも多くの戦力が必要だ。あんな弱々しい生体ボディなんて、足手まといもいいとこだ。

 凱のヤツが新見って男から情報を吐かせたあと、私達は即座に作戦を練った。

 限られた時間で用意できる最上級の作戦だったのだが、いかんせん戦力が足らな過ぎた。

 そんなわけで普段の借りを返す、といった名目でシャーティとロブには急遽駆けつけて貰ったわけだ。

 例えどれだけ離れたところに彼らが居ようと、ジェミニさえ飛ばしてくれればすぐにでも駆けつけてくれる。そして彼らは私が最も信頼する戦友たちの一人だ。

 スナイパーライフルの整備を終えたのか、シャーティは手を止めてカメラアイでクロムを見つめる。

 そんなに見てもカメラに映るのは武骨な黒い鉄の塊だけだろうが、どうせクロムのパーソナルデータも一緒に見てるんだろう。シャーティは何かを考えてるかのように、顎に手を当てる。

 

「アンタが今のシズカの相棒か。シズカの男の趣味もわからんものだな」


 シャーティがくつくつと笑う。

 これは、完全に煽られてる。無機質なドローンの動作なのに、あからさまにムカつく動作だ。

 シャーティの言葉を真に受けたロブが、同じように考える様子を見せたあと、露骨に驚くモーションを見せる。タクティカルドローンなのに、なんでコイツらはこんなに感情表現豊かなんだか。


「シャーティ、次またふざけたこと抜かしたら、ロブやクロムと一緒にマルウェアで焼き殺すからね」


「いや、どさくさ紛れに僕まで巻き込まないでくれよ」


 クロムが電脳通信でツッコミを入れてくるが、無視だ無視。

 そうこうしてるうちに、私たちは目的の場所の上空にたどり着いていた。

 ラムダ社が所有する、双脚戦車の大規模工場。

 もちろん、ここにヴェルクードも鞍馬という男もいないことは知っている。

 そしてタイムリミットもそこまで残っていない。

 だが、ここの制圧は今回の作戦において絶対に必要なことなのだ。


「行くよ! 全員気合を入れな!」


 私は檄を飛ばし、真っ先にティルトローター機からダイブする。

 パラシュートもつけない自由落下。勢いは止まらず、四つの鉄塊が巨大な工場を強襲する。

 軍の基地ではないが、軍需産業の工場なだけあって、そこかしこに武装したタクティカルドローンが巡回している。

 だが、機械の体になろうとも、やはり頭上からの強襲には弱い。

 シャーティは落ち続けながらも、長大なスナイパーライフルを空中で構え、何発か発砲する。


「4機落とした。周りに5機」


「了解」


 どんどん近づく大地には、崩れ落ちる敵のドローンの姿が見える。

 異変に気付きその周囲に近づこうとする敵を、残りの三人が頭上から襲う。

 自動小銃のフルオート。徹甲弾の雨を浴びた機体は一瞬にしてひしゃげる。

 勢いそのまま、四人は地面に着地する。

 コンクリートの地面を大きく抉り、まるで砲撃が着弾したような土煙を上げる。

 その土煙に紛れて、私達は工場内部に侵入する。

 大したクリアランスも必要ない。とにかく最短距離で目標の場所まで向かい、出会う敵は排除する。

 これまで幾度となく死線を潜り抜けてきた傭兵たちに、ただの警備兵が叶うはずがない。

 通路を疾走する私達の目の前に立ちふさがる敵は、次々と鉄くずへと変えられていく。

 今更になって、工場内に侵入者がいることを知らせるアラームが響き渡るが、いくら何でも遅すぎる。

 なぜなら私達は、もう目的の場所まで辿り着いているのだから。


「ロブ、お願い」


「任せてくださいっ」


 私達の前に立ちふさがる異様に重厚な扉。

 その扉のいたるところに、ロブがそそくさと小さな装置を取り付けていく。

 すべての装置を張り付けたあと、彼は親指を立てるモーションを見せる。

 それに呼応するように、私たちはその扉の前から離れる。

 少し離れた柱の影に全員が隠れると、その扉を爆炎が包み込む。

 扉、というかその周りの壁ごと吹き飛ばした高性能爆薬の炎で、私達の体も炙られる。

 普通の人間の兵士だったら焼死しているだろう。まだ熱気が漂う廊下を私達は進む。


「なんとかサーバーは傷つけてないみたいね」


「ちょっとぉ、僕だって成長してるんですよぉ?」


 不満そうに呟くロブの頭を私は軽く小突く。

 吹き飛んだ扉の先にあるのは、この工場のメインサーバールームだ。

 目的の場所に辿り着いた私たちは、クロムが背負っていた異様に大きな機器をサーバーに接続する。

 コイツは強力な電子専用の無線機で、ジャミング下でも大容量データ通信が行える優れものだ。

 接続と設定を終えた私は、通信を開く。


「楓、パーティの準備ができたわよ」


「待ってました! カインさん、準備できてます?」


「は、はい! 勿論ですとも!」


 通信先の楓ともう一人が、嬉々としたやり取りをしている。

 今回の作戦のために、シャーティやロブだけでなく、カインに楓のバックアップを任せている。

 あの変態野郎に楓を紹介するのは死ぬほど嫌だったが、今回の作戦のためには仕方のないことだ。

 まぁ、変にちょっかいをかけようものなら、地獄を見てもらうだけだが。

 そうこうしているうちに、他の警備ドローンたちが私達の下に集まってくる。

 先程とは比べ物にならない、もはや軍隊規模といっていい数だ。

 流石にこれを真正面から相手にするのはキツイ。

 柱の影から小銃で応戦するが、焼け石に水だ。

 次々と押し寄せてくる警備ドローン。嵐のように殺到する銃弾。

 少し焦りを感じだしていたころ、遠くの方で爆発音が響く。

 見ると、この工場の中で一際大きな区画の壁が、粉々に砕けていた。

 そこからゆっくりと現れたのは、ラムダ社の主力商品の一つ、サイクロプスだ。巨大な腕と単眼式カメラアイが特徴の強力な双脚戦車だが、その機体には武装の類はない。

 当然だ。

 あの機体は今、出荷を待っていた状態だったからだ。

 異様に発達した腕を持った巨人が、工場の外に出る。

 そしてその数は一体だけではない。

 続けざまに一体、また一体と巨人が姿を現す。

 また別の壁が砕け散り、そこからもまた巨人が顔をだす。

 出荷前のはずだった双脚戦車たちは、暴れまわりながら次々と外へ出ていく。

 警備ドローンたちが発砲しても、蟻が象を相手にしているようなものだ。

 踏みつぶされ、吹き飛ばされ、ただ蹂躙されるだけ。

 巨人達のうちの一体がこちらに近づき、私達を攻撃していた警備ドローンたちを次々と破壊していく。

 敵を無力化した巨人が、こちらを見下ろす。

 

「128機強奪できたわ。それにカインさんが、とっておきの掘り出し物を見つけてくれたわ。シズカ達もさっさと乗り換えて」


 サイクロプスに搭載されたスピーカーから聞こえるのは楓の声だ。

 彼女には無線装置を経由して、彼女の持つすべてのジェミニを送ってもらった。

 それを工場出荷前の状態だった空の双脚戦車にインストールさせることで、たった今ここには大軍勢が完成したというわけだ。

 流石に私達も、あの化け物相手に生半可な装備で太刀打ちできないのはわかっている。

 ここの襲撃はそのための下準備というわけだ。

 

「とりあえず、計画の第一フェーズはクリアかな」


 クロムが無線機を操作しながら話す。

 確かに首尾は上々と言っていい。

 それに、楓が言っていた掘り出し物というのも気になる。

 だが、まだ作戦自体は始まったばかりだ。

 私たちはサーバーの近くに集まって、素早く有線接続を行う。

 私より早く接続した三人のドローンは、次々と崩れ落ちていく。

 三人ともすでに、残ったサイクロプスへのインストールを始めているようだ。

 私も後を追うように、鋼鉄の体を捨て、電子の海に飛び込む。


「さぁ、ペイバックタイムよ」

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