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ギルド集会所職員手記  作者: スカーユ
2/2

新規クエスト受領業務1

よろしくお願いします

「今後ギルドと冒険者のやりとりに首突っ込まないように。いいね?」


「わかりました…。すいませんでした…」


例の転生バカを詰所に連れ込み早1時間。

個人情報を聞いた上で警察に引き渡したがお縄ということにはならなそうだ。

冬季に入って2日目というクソ忙しい時期に本来やらなくていい仕事をしており、さらにこの後報告書を書かないといけないので欲を言うといますぐ極刑に処して別の異世界に転生して頂きたいがそうはならないらしい。

命拾いしたわね。


「まぁ今回はこの人もアルクさんを庇おうと思ってした行為ですし本人も反省してるので、情状酌量で今回に関しては不問にするというのがこちらの判断ですがそれでよろしいでしょうか」


「はい、大丈夫です」


所長が答える。


正直なところ不服しかないが所長と警察が言うなら従うしかない。

命拾いしたわね。この短時間に2度も命拾いするとはなかなかの強運をもってるようね。


「本当にすいませんでした…」


男が頭をさげる。

「お姉さん、助けてあげます」と言っていた時の自信に満ちた顔はどこへやら。しょんぼりという言葉以外表すことの出来ないくらいしょんぼりしている。



……なんか彼を見てたら切なくなってきた。まぁ…私の為にした行動だし…。

私の休憩を潰した事は万死に値する愚行中の愚行であり末代まで煉獄の苦役を背負って欲しいけど少し同情する。


「では、我々はこれにて失礼します」


「はい、ありがとうございました」


所長が短く礼を言うと警察官は転生バカを連れて部屋を出て行った。


はぁー。ここから報告書かー…。

かったるいけどいつまでも言ってたって仕方ないので取り掛かろう。


「アルク、報告書の件だが」


「あ、今から作成します」


「いや、大丈夫だ」


「え?」


「本来なら書くんだが今日は忙しいしな。俺もチェックとか本部に送るのめんどくさいし作らなくてもいいぞ」


「まじすか!」


やったぁぁ!私の休憩が守られた!所長大好き!!


「で、その代わりに新規クエストの受領に行ってきてほしいんだが…」


「……え?」


「いや、本来は他のやつの仕事なんだがそいつが病欠しててな。どうしても人が足りないんだ。休憩削ってやってくれるかい…?」


「え、えぇ〜…」


「残業代に箔つけておくからさ、頼むよ〜」


「わ、わかりました…」


「助かる〜!!ありがとう!」


急転直下の大逆転。

私の手から休憩のふた文字は転がり落ちた。


あぁ、休憩。さようなら、休憩。

……というか、よく考えたらあの転生バカさえいなければ普通に窓口が終わって休憩だったはず…。

そう考えたらイラついてきたな。

私の同情を返せ。やはり許さん。


はぁ……。


私は肩をがっくし落としながら部屋を出た。









今から行う業務は新規クエスト受領という業務だ。

簡単に言えば困っている依頼者のもとへ赴き、新規クエストを受領してくる業務だ。

受領といってもただ単純に話を聞いてクエストを製作するのではなく調査を行わなければならない。

例えば対象モンスターの狩猟の場合、本当に指定した地域に狩猟対象がいるのか、大きさ、凶暴さにも個体差があるのでどの程度の報酬が見合うかなどを現地調査しクエストに落とすというなんとも骨太な仕事内容となっている。

護衛を2人連れて行う業務だが護衛がつくといっても命を落とす人はいる。

とても危険な業務なので遠征手当が出るがあまり気乗りはしない。




「お、アルクじゃねぇか。おめぇがこの仕事するとは珍しいな」


「病欠の代務ですよ代務」


受付にいたのはゼブラさん。

彼も元々は冒険者だったがモンスターとの激しい戦いで重傷を負い引退。ギルドに入所した。

私よりも年上で面倒見がよく、とても信頼している。

冒険者の頃の知識を活かして若手やルーキーの相談室も個人で開いているとかなんとか。


「代務か。働きもんだねぇ」


「所長からのお願いという名の強制ですよ…休憩全削りのね…」


「災難だな。ハッハッハ」


「笑い事じゃないです…じゃあ赤の15番で」


「赤の15ね、あいよ」


赤の15番というのはギルド職員が楽な場所にばかり行くのを防ぐためにつけた札のことだ。

ギルドができた当初は職員が自由に依頼者を選べたのだがそうするとやはり近い楽な依頼者ばかり選ばれるようになる。

もちろんギルドによって管轄はあるが昔は今と違いギルドの数も少なく一つ一つの管轄区域が広かったので同じ給料で同じ手当だと遠方へ行くのを嫌う職員がほとんどだった。

本部は対策として『遠征手当は移動距離によって加算するものとする』としたがこの仕事自体命に関わる為、金よりも命だと近距離を選ぶ職員が後を絶たずあまり芳しい効果は得られず仕舞いだった。

さらにはその制度を逆手に取りギルドからは近いが依頼者同士は距離があるルートを選び遠征手当をがっぽり儲ける不貞な職員もいた。(簡単に言うとギルドから東に5km、西に5kmの地点にいる依頼者を選び、東の依頼を受けてからギルドに戻らず円を描くように回ると距離が稼げるというもの)

しかしルールを破っているわけではないので本部は黙認。

依頼は月初めに更新されるのだが更新直後は旨味を得ようと職員でごったがえしたらしい。

近場の一極集中を防ぐための施策がむしろ加速させてることになってしまった。

なんとも節操ない。

そうなると遠方の依頼者が討伐してほしいモンスターなどはいつまでも狩られずに被害が大きくなる。ギルドを仲介しない冒険者もいるが昔は規制が緩かったので報酬金などかなり足元を見られたようだ。

業を煮やした管轄ギリギリの市民たちは署名を募りギルド本部に提出。

その時の要求が「新規ギルドの設置による管轄区域の縮小と根本的な解決」だった。

最初は取り合わなかった本部だったが地方出身の知名人や議員なども賛同し始め、世間の風向きが強くなってきたことにビビりあっけなく要求を呑むことになったギルド本部。

結果、新規クエスト受領のみを業務内容とした『簡易ギルド』を複数箇所設置。依頼の内容を職員に伝えず袋詰めにし、札を括り付ける。その札がついた袋を選んだ職員が責任を持って中身の依頼をこなす。という2点の規定が確立された。


なんというかサボりたがる職員もアレだし本部も本部だし…。

一言で言うとアホとしか言いようがない。


「最近仕事はどうだ?」


「変な客多いですよ!今日だって本来なら窓口やって休憩だったのに変な輩のせいで…」


「ハハッ災難な1日だな」


「あ〜休憩ぃ〜」


「はいよ、赤の15番」


「あ、どもー」


早速中身を開ける。


「えーとなになに…運輸局。……運輸局!?!?」


「お!アルクおめぇ持ってるなぁ!1番めんどくさい袋引きやがった!」


運輸局。この国の旅客馬車、貨物馬車、海運、空運のシステムなどを司っている国の重要機関だ。


運輸局!?嘘でしょ!?国の依頼なんて行ったことないんですけど!!


「信じらんない…サイアクぅぅ…」


「アルク、どんまい」


ゼブラさんが私の肩をポンポン叩く。


「本番は次だ」


「え?」


「この袋はたしか2枚入りだ。開けてみろ」


私は恐る恐るもう1枚を取り出す。

手に取った紙の依頼主の欄にラインハット商会と書かれていた。


「やっぱりな!こりゃ骨のある仕事だなぁ!」


「いやだぁぁぁ!!運輸局ですら嫌なのにラインハット商会とか絶対行きたくないいいい!!!ゼブラさん!お願いします!!もっかい引かせてください!!」


「おいおいそれが無理な事はお前がよく分かってるだろう?今日は厄日だって割り切って行ってきな」


神よ!!なぜ私にだけこのような試練を与えるのでしょうか!!!


ラインハット商会はここら一体の店に商品を流している大手の商会だ。

現在の会長はランヴェール・ラインハット。初代会長の実子なのだが生まれつき金持ちの家に生まれ権力があり、なんの苦労もなく会長に就任した人なのだ。

そんな人の性格、たかが知れている。

ギルド職員の中でもあそこはヤバイだなんだと噂になっているのだ。


運輸局、ラインハット商会…。

行きたくねぇぇぇ…!仕事辞めてぇぇぇ…!過去1で辛い業務かも知れない…。

絶対に今日の仕事終わったら酒飲みまくるからなぁぁぁ!!もぉぉぉぉぉ!!!!



最悪な気分のまま出発準備に取り掛かる。

遠征に行くにはハンターさん2人と憲兵さん1人からなる集団を組まないといけない。

道中モンスターに襲われる可能性があるためだ。

が、しかしハンターさんはモンスターを倒す事は出来ず足止めに専念することしかできない。

というのも襲ってきたモンスターがあるクエストの狩猟対象だった場合それを倒してしまうと狩猟対象が存在しないクエストが出来上がってしまう。

もしそれが受注済みだった場合、ギルドカードの記録消去、契約金の返金、依頼主への通告などかなりめんどくさい事になる。

だからハンターさんがやるのはとにかく足止めをすること。

モンスターが何に弱く何が有効かを熟知し、そのモンスターに最も効果的と思われる足止めをしなければならないのだ。

実に大変な仕事。頭が下がる。

憲兵さんに関しては私たちの移動中にクエスト依頼書に記載されていない物を狩猟や採取をしている密猟者を発見した時に即時現行犯で逮捕するために乗り込んでいる。


あー行きたくない。クッソ行きたくない。運輸局…緊張するなぁ……。偉い人出てきたらどうしよう……。ラインハット商会……いやだぁぁ……。会長死なねぇかな。突然死。…ないか。





「今回の護衛、馬車の扶助を務めさせて頂くハンターのマインだ。よろしく頼む」


「後方見張のクロードです。お願いします」


50代と思われる男性と若い男性が今日の護衛。

肩章を見るとマインさんが特務ハンター、クロードさんが上級ハンター。

どちらもプロフェッショナルだ。安心できる。


「ギルド課のアルクです。よろしくお願いします」


「今回は運輸局、ラインハット商会ということだが運輸局から先に回るルートでいいかね?」


「はい。お願いします」


「了解した。クロード、所定通りプロヴァンスからカマリフ隧道、セクォ西通り経由で行く。いいな」


「わかりました」


「憲兵はすでに馬車に乗っている。ギルドさんの準備はいいか?」


いやです帰りたいです!!!とは言えず。


「はい。お願いします」


「うむ、では、出発!!」



最低で最悪の業務が始まった。

あざした

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