消えた道
——花畑。
聡美は、かつて咲希が渡っていった、記憶で出来た道があったところに立っていた。
「道よ、死者の渡る道よ、現れろ」
聡美は叫ぶ。
現世の時間でいうと、今は十月十五日の早朝。聡美は、咲希が自分の戻りたいタイミングで花畑に戻って来られるように、現世と花畑の間に橋をかけようとしていたのだ。
——しかし、何も起こらなかった。
「……嘘でしょ?」
聡美は思わず、呟く。
「道よ、現れろ!」
自分の力を思い切り込めて、花畑の力も借りながら、再び橋をかけようとする。
なのに、道は現れない。
「そんな……」
思わず、その場にへたり込む。
自分の力不足と花畑の力の消失を改めて実感する。
これでは、次から現世に戻ることを望む死者が現れても、現世に戻せないだろう。
いや、それ以前に、咲希が花畑に戻ってこれなくなってしまう。それだけは、避けたかった。
(あっこ……!)
聡美が頼れる人は、一人だけだった。
顕子は、夢を見た。
夢の中で、顕子は花畑にいた。
「……うちのことを夢の中に連れ出したの? もう、荒っぽいことするねえ、さっちゃん」
「ごめん、あっこ。でも、伝えておかなきゃいけないことがあって」
夢の中の聡美は、半ば泣いているように見えた。
「内川さんの帰りの道が、渡せないかもしれないの」
「……えっ⁉︎」
これには流石に、顕子も焦りを隠せない。
「力が足りないの……まだ頑張ってはみるけど、でも、道を渡せない可能性の方が高くて……」
「……そんな」
「もし、渡せなかったら……」
「それ以上言わないで」
思わず顕子は聡美の言葉を遮る。
「ごめんなさい。ごめんなさい……」
花畑に、聡美の泣き声が広がっていった。




