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Requiem  作者: 秋本そら
幕間7
20/32

フラッシュバック

「——そっか。今日は部活のこと、思い出せなかったんだね」

「はい」

 顕子と咲希は、駅の改札に入りながら話していた。咲希は腕にブレスレットをつけたまま。というのも、顕子曰く、必要以上につけ外しをするのはブレスレットが壊れる原因らしい。それに、クラスの人にも部活の人にも存在を明かした今、姿を消す必要はない。だから顕子につけたままを勧められ、咲希もその通りだと思ったのか、そのままにしているのだ。

「でも、クラスのことは思い出せたんだし、このまま全部思い出せたらいいね」

「はい、そうですね」

 二人は話しながら、ホームへと向かう階段を上っていく。


 上りきったその時。

 声がした。

 可愛らしい女の子の声だった。

 咲希が声の方を見たのと、ホームの端の方で女の子が線路に落ちたのが、同時だった。

「!」

 咲希は走り出す。

 ブレスレットが邪魔で、投げ外す。

「咲希ちゃん⁉︎」

 顕子の声に重なって、凛の声が聞こえる。

 それを無視して走る。

 電車の音が聞こえる。

 もうすぐ、電車が来る。

 線路に飛び降りた。

「もう大丈夫だよ」

 女の子に言って、ホームに上げてあげる。

 自分もホームに上がろうとして……。

 凛が名を呼んで……。

 電車が軋んだ音を立てて……。


「咲希ちゃんっ!」

 いないはずの、顕子の声。

 ……いないはずの?


 電車は、来ていなかった。

 女の子もいない。

 凛もいなかった。

「突然飛び降りるからびっくりしたよ! ほら、早く上がっておいで!」

 何が何だか分からないまま、咲希は声の通りにホームに上がる。力が入らなくて、へたり込む。

「もう! 何やって——」

「私、」

 言葉が、こぼれた。

「そうだ。私……ここで、死んだんだ」

「——咲希ちゃん?」

「あの子を助けようとして……それで、ここで轢かれて……」

 咲希は今になって、ようやく姿がほんのりと透けていることに気付く。

「花畑から……戻ってきたんだよ」

 その言葉はまるで、自分に言い聞かせるかのよう。咲希は顕子の存在に、気付いていない。

「戻らせてくださいって言ったの。渡し守さんに。だって……伝えたかった」

 ——何を?

「……あれ?」

 ——分からない。

「……記憶が、ない」

 今までその現実を、他人事のように認めていた。

 咲希が自分ごととして記憶がないのを実感するのは、これが初めてだった。

「でも、今まで少しずつ思い出してきたでしょ?」

「……少しずつ」

「家族のこととか、クラスのこととか」

「……思い出した」

「だから大丈夫だよ、咲希ちゃん」

「——そうだ。私は、内川咲希だ……」

 初めて、自分が内川咲希だと自覚した。

「ほら、こっち向いて」

 声の方を振り向くと、そこには一人の女の人。

 目が合う。


 はっとした。

「——中村さん」

 そこにいたのは、顕子だ。

「ようやく現実に戻ってきたね?」

「あっ……!」

 ようやく咲希は、自分が幻覚を見て、自分の世界に閉じこもっていたことに気付く。

 顕子が辺りを見回してから、咲希に、ブレスレットを差し出す。そして指を鳴らした。顕子は咲希が幻覚に囚われたその時から、咲希以外の人に声が聞こえないように、姿が見えないようにしていたのだ。

「何か思い出せた?」

「……はい」

 咲希の笑顔は、満足げなものだった。

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