準備
「……七時間目に、会えるんだよね?」
「うん……でも、記憶がないって」
「そうだね……」
朝から教室の空気が、淀んでいた。
「本当に……会えんのかよ」
「知らねーよそんなの。会えねーかもしれねーし、会えるのかもしれねー。そんぐらいに思っときゃいいんじゃねーの?」
「……ま、そうだな」
「記憶がないって……本当かな?」
「さあ。でも、春菜が嘘つくとも思えないけど」
「まあね。……ねえ」
「ん?」
「……もし本当だったら……ちゃんと、話せるのかな、うち」
「……思い出してもらうために話すんでしょ?」
「……あっ、そうだね。ねえ、何話したらいいかな?」
「うーん……あっ、そうだ! あの時の——」
「……大丈夫ですかね、みんな」
「確かに、彼女が記憶をなくしていると聞いていると……不安ではありますね。でも……私は生徒たちを信じたいです」
「ええ……私もです」
「本当に……記憶、戻ると思う?」
「分かんないよ。ただ、何もしないよりかはいいんじゃないかと思って」
「そうだけどさ……」
「うちは信じてる」
「……そっか。なら、うちも信じるよ」
ゆっくりと、ゆっくりと。
皆、心の準備をする。




