お出かけ前
食堂で、お弁当を待っていると、ハルが駆け込んできました。
「ハル? どうしたの? 忘れ物?」
「……姉さん、怒ってる?」
「えっ、どうして?」
「いや、怒ってないならいいんだ。じゃっ、行ってくる!」
「うん、いってらっしゃい!」
言うだけ言って、ハルは食堂を出て行きました。
なんだろうって思って、すぐに気付きました。
きっと私が、お昼を一緒に食べられないことに怒ってる、って思ったんだと思います。
嫌味のひとつも言って困らせてあげればよかった、って思いました。
「リーゼロッテ様、なにを一人で笑ってらっしゃるんですか?」
声のほうをみると、お弁当の包みを持ったミスティが立っていました。
ミスティは、ティトのお孫さんで、時々、屋敷の仕事の手伝いに来てくれていました。
私より、みっつ年上のお姉さんで、一見、性格がきつそうに見えるけれど、でも、とってもかわいいひと。
少し癖のある黒髪をポニーテールにしているのが、とても似合っていました。
「ううん、なんでもない」
そう答えて、ミスティの何かいいたそうな顔に気づきました。
いつものなんだろうな、って思ったけれど、いちおう聞いてみました。
「どうしたの、ミスティ?」
「リーゼロッテ様。また森に遊びに行くんですね? いつまでも遊んでいて、どうしますか? ハル様があんなに頑張ってるのに、なにか思わないんですか? リーゼロッテ様だって、来年になればフィクスの町の社交界にデビューするんですよ」
案の定、雲行きが怪しくなってきました。
でも、ミスティの追及をかわすのにとてもいい方法があるんです。
「そうね。社交界では、未来のだんな様を探さないとね。誰かさんみたいに、心に決めた人がいるってわけじゃないんだから」
「な……」
「トートン先生はとても素敵な人ね、ミスティ。でも、あのちょび髭はどうかと思うのよ」
「……」
「でも、そういうところも含めて好きになってあげないとね。彼のお嫁さんになる人はね」
さっきまでのおすまし顔がどんどん赤くなっていきます。
「もし、トートン先生の親戚の方々から『家格が合わない』っていわれたら、私に言ってね。私の養女にしてあげる」
「ま、また、そういう……」
顔を真っ赤にして、弱々しい視線を床に投げるミスティ。
本当に、かわいいひとなんです。
「それじゃ、行ってくるわね」
ミスティの手からお弁当を取り上げて、私は悠々と食堂を後にしました。