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 私はいまでも、あのときのことを――あの男の人たちの顔や、あのとき言われたこと――を思い出すことがあります。

 でも、もう、昔みたいに私を怯えさせたりしません。

 それは、私の心の回廊にかかる暗い色彩の絵。

 その絵の前で立ち止まって、「ああ、そんなこともあったなあ」って。

 その絵の前を離れて、私は、私の心の一番奥の部屋へ行きます。

 そこは、私の心の中のハルの居場所。

 あの日から、私は、その場所がハルにとって居心地のいい場所になるように、少しずつ模様替えをしてきたような気がします。

 

 あれから……。

 クルたちの傭兵団は、順調にいっているようでした。

 ときどき、ノリスさんたちが遊びに来て、クルの豪腕ぶりや、トートン先生がハルの任官のために飛びまわった話を聞かせてくれます。

 ティトはおととし亡くなりました。

 ハルの晴れ姿……そして私の花嫁姿が見られないことを、とても残念がっていました。

 最期のときまで、私たちのことを考えてくれてありがとう……。

 ミスティは、フィルと結婚して、今では二人の子どもがいます。

 結婚式の日のことは、まるで昨日のことのように思い出すことができます。

 そうだ、ティトも、ミスティの花嫁姿をみることができたんでした。

 フィルとミスティがみんなに祝福されているのを見て、私は、これでよかったんだって思えました。

 そして、昨日届いた、叔母様からの手紙。

 封筒には、ハルの写真が同封されていました。

 写真の中のハル……近衛軽騎兵の制服がとてもよく似合っています。

 体つきもがっしりして、もう突き飛ばしても、後ろに倒れてくれそうにありません。

 そういえば……ハルが私の背を追い越したのはいつだったでしょうか。

 かっこよくなったね、ハル……。そう思って。

 

 ハルは……。

 ハルは、自分のいる世界を私に見せたくないんだって言いました。

 ここが自分の帰る場所だとも。

 『僕が帰ったとき、ここにいてほしいんだ』

 そうして弟は行ってしまいました。

 私が狂わせてしまった弟の人生でした。

 私は、あの日の誓いを思い出します。

 私がしなければならないのは、ハルのためにできること、そのすべて。

 

 部屋の中に入って、ベッドの端に腰掛けます。

 あの夜、ハルはここで私の手を包み込むようににぎってくれました。

 こんなふうに、これから、この家に……このラントに残された思い出と、私は生きて……。

 そうして、ここで、ハルを想いつづけます。

 後悔なんてしません。

 だって私、いま、とってもしあわせなんですよ。


お終い。

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