選択
「クル、何の話なの?」
「いや、その……」
「言って!!」
私の出した大声に、場が静まり返ってしまいました。
でも、私は、そんなことにかまってられませんでした。
「つまり、あれです。こいつらに協力してもらって、ぶっ殺したんですよ、あの、リーゼロッテ様を……あれした連中をね」
「ハルが……ハルがゴミを見るような目っていうのは、なんのことなの!?」
「……とどめはもちろん……ハル様にさしていただいた、ということです」
ハルが……人を……殺したの?
「な、なんで……どうして……」
「ど、どうしてって言われましても……。あれですよ、この世界では、毒虫は互いに食らいあうようにできてる」
途中から、クルの口調が変わりました。
にやにや笑って、まわりを見回して、これから面白い話をするぞ、って言ってるみたいでした。
そんなクルを見て、まわりもにやにや笑って、笑い声も起こりました。
「あいつらと俺たちは、お互いに相手を食おうとしてた。で、そこへ神様がやってきたんですよ」
また、笑い声……。
ああ、その神様は、ハル様に似てたかな? 俺たちとあいつらを前にして、剣を抜いた!!
神様!! おい、審判のときが来た!!
裁きが下るんだ! さあ、どっちだ? どっちが死ぬんだ?
俺たちは祈った! たのむ神様! まだ死ぬのは嫌だぜ!!
ああ、そうさ! 俺たちは虫けらかも知れねえ!
でも、生きていてぇじゃねえか、あ!? そうだろが!!
そして、そのときは来た!! どうなった? さあ、どうなったんだ!?
……おい。
おい、見ろよ、死んでる……あいつら、死んでるよ……。
おい! 死んでるよ、死んじゃってるよ!!
死んだのはあいつらのほうだ!! ざまあみろ!! 俺たちは賭けに勝った!!
「神様が! 俺たちを選んだんだ!!」
昔話に出てくる神託を受けた預言者のように、クルは両手を大きく広げて、恍惚とした表情で天を仰ぎました。
「そうだ、いいぞ!……」
「いい加減にしなさい!!」
私は、クルやみんなの歓声に負けないくらいの大きな声を出していました。
みんな、いたずらを見つかって怒られた子どものように笑って、私を見ました。
「おい! 俺の銃を持って来い!!」
クルがそう言うと、私の隣にいたキルシュさんが、部屋の隅に置かれた荷物から黒塗りの箱を取り出して、クルのところへ持っていきました。
クルは、その箱を開けて、一丁の拳銃を取り出して。
「どうです、いい銃でしょう?」
クルは言葉を切って、その銃をなでまわすようにしました。
「最新式ってやつです」
そういいながら、私の前に両膝をついて……。
「ハル様を巻き込んだこと、本当に申し訳ございません。ただ、どうしても仕上げはハル様にやって欲しかった……」
そういって、クルは銃口を自分のこめかみに押し当てました。
「どうしても俺が赦せないとおっしゃるなら、どうか一言、『死ね』とおっしゃってください……。それで終わりです」
そこまで言ったとき、いつもの皮肉な笑顔が歪んで、
「でも、頼むよ。もうひとつの選択肢を選んでほしい。アンタが俺の……俺らのことを……少しでも、ほんの少しでも思ってくれるなら……」
涙がほおを伝い、くちびるはよだれに濡れてひかっていました。
「分かるだろ!? 我慢できるわけねえよ!! 俺はアンタを生まれたときから知ってるんだぜ? それをよおおおおおおおおおおおお汚されてよおおおおおおおおおおおお!!!!」
クルの激しい声に、足が萎えそうになって。
「リーゼロッテ様、どうかお言葉を。俺はこれから、どうすればいいので?」
そういって、クルはニヤリと笑いました。
私は、言葉を失って。
頭が回らなくて、どう答えればいいのか分からなくて。
まわりを見回して、そうしてトートン先生を見つけました。
「トートンせんせ……」
やっと絞り出した声に、トートン先生は、
「リーゼロッテ様のお気持ちをそのまま言葉にすればよろしいのですよ。彼はここで死ぬべきでしょうか、それとも、死ななくていいのでしょうか。どうか、リーゼロッテ様のお気持ちをお聞かせください」
いつもの穏やかな口調で、そういいました。
そんなこと……私に決める資格なんてないのに……。
私は、本当に怖くなって、それでも、クルと向かい合わなきゃと思って、クルの顔を見ました。
真っ赤な顔、泣き笑いの表情。
クルの誠実さが、私の胸に突き刺さる気がしました。
死んで、と私が言って、何の躊躇もなく引き金を引くクルの姿が頭をかすめて。
間違えるなよ、間違えないでね。
次の言葉は、絶対に間違っちゃいけないんだって分かりました。
「……死ななくていい。銃を……下ろして、クル」
クルは呆けたように私の顔を見つめて、それから天を仰ぎました。
「神が俺を生かすと決めたぞ!!」
そういって、みんなを見回して、
「俺たちは、赦された!!」
その声とともに、鬨の声が上がって、グラスを酒瓶を打ちつける音が鳴って……そうしてまた、お祭り騒ぎが始まりました。
ティトが駆け寄って、その場にへたりこんだ私の肩を抱いてくれました。
「ねえ、ティト。ハルはどこ?」
「ハル様は、お部屋のほうに。リーゼロッテ様……」
「だいじょうぶ、立てるよ……」
ハルと、話さなきゃ。
そう、思いました。




