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《名も無き神様》  作者: 下弦の月
《名も無き神様》
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【エピローグ】再生

《名も無き神様》のエピローグ、完結となります。

故郷を訪れて、清太は何を想うか…。

 

 私は15年振りに故郷へ戻ってきた。やはり何もない。だが、あの頃感じた腐敗した雰囲気はなく、緑も増え動物や鳥の鳴き声が聴こえてくる。空気が美味しい。

 あの頃は先行きの見えない未来に余裕もなく、空気が淀んでいるように感じてた。


 貧困は人を殺す。それが災害か人災かの違いはない。単純に金や食べ物がなければ人は餓死する。それは当たり前のこと。そして、〝心〟も死んでゆく。貧しい時、自分らしく、まして人に優しくするなんてできやしない。非情にならなければ家族もろとも死んでしまうから。みんな守りたいものの為に必死に生きていた。ただそれだけだ。

 江戸の人達は優しい人が多い。それはやはり食べ物と住む家があり、家族が安心して暮らせる生活を営んでいたからなのかもしれない。中には貧しい人もいたけれど。

 心に余裕のある人は、誰かが困っていれば声をかけ、子供が迷子になれば家まで送ってやり、そして冗談を言い合いよく笑っていた。

 そう、私の父とまさしく同じなのだ。父はどんなに貧しくても笑って家族を迎え、人を助け、自分らしく生きた、強い人だったんだ。

 母には父は人を助けようとして事故で死んでしまったんだよ、と伝えていた。母は「あの人らしい」と涙を流し、どこか誇らげだった。母も父に恥じない生き方を選んだのだろう。

 自分はそんな両親のような大人になれるだろうか。試すつもりはないけれど、この場所でまた生きていきたいと、そう思った。


 あの御神木の所へ向かう。そこにはちゃんと大樹が残っていた。あんなに酷い状態だったのに。今は夏、緑の葉を広げ歓迎しているように見える。


「遅くなってすまなかったね。あの時は私を守ってくれてありがとう。感謝を伝えに来るのに時間がかかってしまって本当に申し訳ない。寂しくなかったかい?」


 私は語りかける。

 樹に向かって。あの時一緒に生き抜いた命だった。ここは両親とよく来ていた神社でもあり私の想い出の場所。


「この近くに家を建てようと思うんだ。それからまた神社のお(やしろ)を作らなきゃね。時間はかかるかもしれないが見守っていてくれるかい?」


 返事は勿論ないが、風に葉が揺られザワザワと鳴った。

 あんなに朽ちそうだった樹が本当に立派になったものだ。私もまだまだこれからだ。

 ここで薬を作ろうと思っている。昔は気づかなかったが、この山には薬草となるものがいっぱい生えていた。ここは宝になる。今度は私が人とあなたを助けよう。これが私にできる贖罪だ。

 またいい村にしような。

よく晴れた空と両手いっぱいに緑葉を広げた大樹に向かい私は誓ったーーー




                    (了)

最後まで読んで頂きありがとうございました。

初めての短編、至らないところばかりでしたが今の私にとっての精一杯。それを受け止めて頂き本当に感謝しかございません!どうか少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。


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