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《名も無き神様》  作者: 下弦の月
《名も無き神様》
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【プロローグ】昔あったかもしれない御話

初めての投稿です。時代ものなので、時代背景や言葉など少し誤りやズレを感じたりするかもしれませんが、どうぞ御容赦下さいませ。

では、宜しくお願い致します!



 江戸時代と聞いて武士や商人の町、大奥や吉原など華やかなイメージをもたれる方も多いだろう。

だが一方農村地などでは全期を通じて寒冷な時代であったといい、凶作や飢饉が絶えなかった。夏でも気温が上がらず、稲の成長が止まり、加えて、台風、霜害によって収穫ゼロという未曾有の大凶作となり、秋から冬にかけて大飢饉となり、多くの餓死者を出した。

また、気象不順という自然災害だけに原因があるわけでなく、農村に対する年貢収取が苛烈であり、それが限度を超え、農業における再生産が不可能な状態に陥っていた。


今回の主人公清太が住む山奥の小さな村もその余波を受けていた一つである…。


 

 この村の空は日中でも常に暗くこの日の夜も雨が降りだし寒い日だった。更に風も強くなり清太が住む家の薄い壁越しからピューピューとすきま風がうなり声をあげていた。そして僕も、

「うーー腹減ったぁ…」

もうそれが挨拶のようなものになっている。僕はもう11歳になるのに栄養もとれないから体は細く身長もないからいつも9歳くらいに見られてしまう。だけど唸ってるのには別の理由もある。

「すまんなぁ清太。1週間分の食糧だったのに…あまりにもその子達が不憫で。」

昨日父が隣町の商売から帰る途中、山で姉弟の迷子を見つけたらしい(遊んでて迷子とか馬鹿か!もしくはよっぽど山を知らないどこぞの金持ちの子供か?)。

父はその二人を家まで送る途中お腹がすいていた二人に貴重な食糧を分け与えてしまったというのだ。僕達親子三人にしてみれば死活問題。そう、うちの父は極度のお人好しなのだ。困っている人がいれば誰でも声をかけ、怪我をしている人がいればおぶってやり、腹をすかせた子がいれば残り少ない食べ物を分け与える。

だから今まさにこうして減ってしまった食糧の為になんとかやらくりしながら耐えていた。

「仕方ないわねぇ。でも二人共無事に家に帰れて良かったわねぇ」

そんな父を攻めることもせず穏やかに返す母はこれまた父に惚れただけあって優しい。昔は美人だっただろう…だが妹を生んだあとの産後から体を悪くしてあまり働けていない。肌もボロボロ、まして最近の貧困で痩せてしまって顔色も悪い。僕は母が心配だ。妹も結局栄養失調で死んでしまった…。まだ2歳になったばかりだったのに。

「なんでお礼貰ってこなかったんだよ!そいつら金持ってそうだったんじゃないのかよ!」

嫌なことを思いだした僕は苛々して父に強くあたる。だか父は、

「子供の親御さんはそうおっしゃってたけどねぇ、それじゃ悪いから代わりに残りの商品を渡してきたよ。それから…友としてこれからも会ってお話しましょうとか言ってくれたんだ…」また遊びに来てくれだって、えへへと笑って言う。

なんだそれは…。ガキの使いじゃあるまいし、ほとほと呆れてしまった。

「父ちゃんの阿呆が!!!」


トントン…


「???」3人で顔を合わせる。滅多に人が訪れないうちに誰かが来た。もうとっくに日も落ち雨も風も強いこんな夜更けに誰?物盗り?山賊?一気に緊張が走る。が、次に聞こえたのは…「誰かおらんかね…」としわがれたお爺ちゃんの声だった。

なんだ。驚いた。が、何故こんな夜更けに?と疑問を抱いてる間に同じくホッとした父がドアを開けてしまった。「あっ」

最初に思ったことは、ものすごく臭い。そして酷く汚くて泥だらけだった。腰が曲がっているせいか身長は僕と同じくらい、顔はボサボサ頭で前髪まで長く被さっているからよく見えずどれくらい歳がいっているかも分からない。それよりもこんなジジイが何故?

「実は山越えに失敗してのぅ。道に迷っているうちに暗くなって、更に運の悪いことに足を滑らせて沼にはまってしもうたんじゃ。腹が減って力も出んし…どうか一晩軒下をお借りできんかねぇ?」

げっ最悪だ。臭いし汚いしで最悪なのに腹減ってると来た。そうなると見えている。

「それは大変だったねぇ。どうぞお上がりなさい!食べ物も大したものがないがどうぞこれを…」

「父ちゃん…!」

ほらな…父はそういうと思ったよ。母もいそいそと白湯を準備している。

「すまんのぅ、坊や」

僕はブスッとしたまま何も言わなかったけれど、ぼろ雑巾に近い着物を持ってきて被せてあげた。臭いものには蓋だ。それになんだかガタガタ震えていたから寒いのかなと。確かに秋に差し掛かり今夜は特に冷えているがそこまで寒いか?

小声で父に「なんで食べ物やっちまうんだよ!僕らの食べ物は?」

「それならほら、父ちゃんが山へ猟へ行くさ。鹿か猪の肉をまた町で売れば大丈夫さぁ。」

「あんた、こんな時期に山へ行ったら危なくないかい?」

と心配する母へ「任せろ」と堂々という父は頼もしいが…「そう言って父ちゃんこの前ウサギしか捕まえられなかったよね?」

「あはは、あれはあれで食糧だべ。大丈夫だっただろ?」と笑って誤魔化す父。

そんな父を怒る僕と困ったようにいさめる母。

そんないつものやり取りをあの浮浪者はじっと見ていたことに僕達家族は気づかなかった…。


まずはプロローグ、読んで下さりありがとうございました。後に【前編】と【後編】を投稿予定です。宜しければまたお付き合い下さいませ。

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