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トバされたわけで(異世界に)

 まさかこんなところに来るとは思わなかったけども。


 辺り一面の石畳と石柱、長年、人の手が入れられていないことを示すように、その組み合わさった石の間からは青々とした草が伸び放題だ。


 うん、ここは一体どこなんだろうか。


 自分が生まれ育った家、お散歩して回ったお外の縄張り、記憶の底まで探っても何一つ、この景色と符合するものがなかった。強いて言うなら、テレビジョンという謎の板から映し出された映像に、こんな風景があったかもしれない。


 いや、さすがにキメ過ぎたのかもしれないが。あれは我ながらやり過ぎだったと思う。


 そう。飼い主美咲が気まぐれに与えてくれるマタタビ玉、それの隠し場所を突き止めたことが始まりだった。キャットフードの袋が置かれたキッチンのフードストッカー、対曲線に位置するシンクの脇に、そびえるキッチン洗剤の列に差し込まれるように、それは潜んでいた。きっと美咲は彼が洗剤の匂いなら嫌うかもしれないと思っていたのだろう。浅はかにもほどがある。彼のマタタビに対する探求心を甘く見過ぎていていた。まあ、そんなことはいい。


 とにかく彼はマタタビ玉の入った未開封の袋を三パックも見つけ、狂喜乱舞。ひたすらに耽溺。キメにキメまくって、トビにトビまくった。溺れまくりラリリまくり。りりりりりり。


 その結果がこのザマである。


 妖麗なるマタタビラクトンの成分が吸収されきった頃、即ち我に返ったときには、よくわからないこの場所にいた。ひょっとすると美咲のお仕置きで、捨てられて、今や野良猫に落ちぶれてしまったのかもしれない。だからこのような見知らぬ場所に置き去りにされたのだ。


 無論、未練も後悔も一切ない。


 そもそも美咲には彼を手放すような冷酷さは持ち合わせていないし、何なら彼の忠実なる僕とさえ言える。たまにぶたれるが。


 何はともよりここは何なんだろうか。


 四丁目の旋風こと、河村おうどんは、ちょっぴり途方に暮れていた。


 これはひょっとすると大変な事態なのかもしれないが。


 深刻な胸騒ぎが起こった気もするが、そういうものはすぐに捨て去る。それよりも今はお日様がぽかぽか心地良い。


 うん、寝よう。


 そよ風にヒゲを任せ、石柱の隅に丸くなる。なぜとか、なんでとか、そんなのどうでもいいじゃん。だって猫だし。

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