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秘密の相談

実は前話に伏線在り


 十二月、師が走ると書いて師走。

 本来はこの師は僧侶らしいのだが、まあ諸説紛々らしいが、師という文字が入る職に就いているかつらも走り回ってこそいないが、かなり忙しい日々を送っていた。

 そんな多忙な桂に美月は相談事があったのだが、それを切り出せずにいた。

 長年付き合ってきてどれだけ大変なのか熟知している。

 相談事を切り出せば、おそらく桂は一も二もなく解決に向けて行動してくれるだろう。しかしながら多忙な桂を些末なことで煩わせてしまうのは迷惑だと美月は考えてしまう。

 一人で対処しよう、と。

 相談事の種類によっては、時が解決することもあるだろうが、美月のものはある意味切羽詰まった問題、悩みであった。

 というのも、美月の身体は成長期にあった。

 人生で二度目の成長期を迎えている。

 この少女の身体になった当初に比べて身長も手足も伸びた。体重も少し増えた。

 成長に伴うことはある程度は一人で対処できる。

 しかし、かつては男だった身としては戸惑うことも。

 子供から女へと変貌を遂げようとしている身体は徐々に丸みを帯びてくる。

 丸みを帯びるだけならば何の問題もない。だが、一つ直面している事態が。

 そう、美月の現在抱えている悩みとは下着、とくにブラジャーのことだった。

 ほんの少し前までは乳頭の付近がわずかに膨らんでいるだけだったのに、それが横にふくらみ始め、今では少し立体的に。

 着けていたブラでは少々窮屈に、締め付けがきつくなっていた。

 新しいのを買いに行けばと思われるかもしれないが、一人で下着を買いに行くことに美月は躊躇した。羞恥があるのはもちろんだが、中身が男である人間が思春期の少女たちに交じって下着を選ぶのは、というか要らぬというか変な配慮をしてしまう。

 ネットでの購入はどうかというと、これも自身のサイズを精確に把握していないために注文できないでいる。

 サイズが合わなくとも着けられるのであれば多少大きくても問題はないのかもしれないが、美月は桂にキチンと身体にあった下着を着けないと将来大変なことになるという教訓を受けていた。

 元の稲葉志郎に戻るために鋭意努力中であるから、将来のことなんか気にしなくてもいいのにと考えながらも桂の言うことを素直に聞いてしまう。

 ならばあえて、窮屈な下着を着けないという手段も。

 美月も当初はそれを実行していた。

 だが、これまで保護され守られていた敏感な部分のガードがなくなることによって擦れてしまう。その結果痒くなったり、くすぐったりなったり、擦れて痛くなったり、挙句の果てはちょっとだけおかしな気分になってしまいそうになったり、と。

 この状況を脱するために一刻も早く新しい、サイズの合ったブラを購入しないと。

 そのために桂に相談したいのだが、忙しそうでできない。

 なら、一人で買いに行く。

 期末テストも終了して時間ならある。

 だが、行く勇気がわいてこない。

 思い悩んでいる美月の頭に、桂とは別の相談できそうな人物の顔が浮かんできた。


 美月が相談した人物は麻実まみだった。

 知恵やあや、靖子にも相談しようかとも一瞬考えたが、年下のクラスメイト達にこの手の相談をするのは気恥ずかしさもあり、また思春期の少女達にこんな相談をするのは背徳感のようなものを覚えてしまう。ならば事情をよく知っていて、かつか経験者でもあるはず麻実を思いつく。

 麻実ならば、まだ彼女達よりも多少は話しやすいはず。

 そのはずだったが、それでもやはり羞恥のようなものが美月に中に多少あり、直接的な言葉はあまり使用せずに迂遠な、遠回しな言い方の結果、やや意味不明な、本人でさえ何を言っているのか分からないような有様に。

 それでも何とか説明を。

「うん、了解。シロの新しいブラを買いに行くのに付き合えばいいのね」

 どうやら伝わったみたいだった。

 良かったと、安堵している美月の耳に麻実の声が続く。

「それにしても、シロは身も心も乙女になってしまったのね」

 何故そんな言葉が続くのか? どうしてそんな誤解を?

 麻実の言葉の意味を問いただしたいが、美月は驚きあまり口をポカンと開けて固まってしまう。

 固まっている美月を尻目に麻実の言葉はまだ続く。

「念願だった初めての体験を桂に喜んでもらうために、可愛い下着かセクシーな下着で着飾って、それで愛する人を悩殺したいんでしょ」

 たしかに桂に初めてを捧げるという約束はしている。

 そのことを麻実が知っているのも承知している。

 でも、まだそういう体験をするのは早いと結論が出ている。

 そんなことは全く思っていない。

「……違う」

 固まっていた口がようやく動き、声を絞り出して否定する。

「えっ、だって桂には頼まないであたしに一緒に行ってほしいのは、桂には内緒にしていて当日驚かすためでしょ」

「違うよ。今まで着けていたのがキツクなったから新しいのが欲しいから。けど、一人で買いに行けないし、それに桂は忙しそうだから麻実さんにお願いしたんだ」

 もう一度。今度はキチンと説明できた。

「そうなの? てっきり初体験用だとばっかり思ってた」

「まだしないよ」

「ふーん。それは置いておいて、キツイのまだ着けているの?」

「ううん、外している」

「それじゃノーブラなんだ」

「まあ、そういうことになるかな。けど外していると、擦れて痛くなったりするし」

「どれくらいの大きさになったの?」

 美月は服をたくし上げて麻実に胸を見せる。

 下着を買いに行くのは恥ずかしいが、こういうことには羞恥心を感じない。

「シロの胸って可愛いわよね。あたしもこんな大きな胸にしなくてもう少し小ぶりな可憐なのにすればよかったかな」

 自分の胸を両手で揉みながら麻実が言う。

 その言葉でどう返していいのか判断できずに美月は黙ってしまう。

「ねえ、シロ。……触ってもいい?」

「別に構わないよ」

 ブラについて、ひいては胸のことで相談しているので別段触られても問題ない。

 麻実の手が、美月の幼い双丘に触れる。

 いやらしい触り方ではないのだが、美月は時折変な声やおかしな感じになりそうに。

 それを我慢する。

 我慢しながら、

「もういいかな。そろそろ寒くなってきたから」

 本当は全然寒くなんかない、その反対に変に触られた箇所が熱くなってきているように思えた。それに顔も絶対に紅くなっているはず。

「ああ、ゴメン。なんか触っているうちに変な気分になりそうになってきた。……それじゃ、明日学校が終わった買いに行こうか」

 ということで、麻実と一緒にブラを買いに行くことに。


 期末試験はもう終了し、テストの返却も終わっているので午後の授業はない。

 昼下がりに、一度帰宅してから昼食を食べ、麻実と一緒に、それから出かけることに。

 出かけた先はよく行くショッピングモール内の下着服売り場。

 そこで麻実が店員に事情を説明して、美月の採寸を。

 本来ならば、大人である自分が行うべきなのだが、この時の美月は妙に照れてしない、恥ずかしくてそれができなかった。

 着いて来てもらって本当に良かったと心の底から感謝する。

 そして普段はまるで子供みたいないのに。この時はすごく頼もしい存在のように思えた。

 麻実がしたことは、それだけ。後は全部店員に丸投げだったのだがそれでもありがたい。

 一人ならば絶対に躊躇して店に入ることさえできなかったはず。

 何の知識も持ち合わせていないから、素直にアドバイスを聞く。

 購入したのはシンプルなデザインのカップ入りの白色のブラ。

 着けると妙な気恥しさがあったのだが、窮屈感から解放されるし、着けないことによって生じる問題もこれで解決するはず。

 美月としては満足だったのだが、

「えー、もっと可愛いのを選ぼうよ。それで桂を喜ばせようよ」

 と、麻実に文句を言われ、購入したものよりも少しだけ大人びたデザインの赤色のブラを強引に勧められたが、丁重にお断りして帰路に付いた。


 その後。

 新しく購入したブラを桂に見られ、

「ズルい。私も稲葉くんの新しいブラを一緒に買いに行きたかったのに」

 と、言われてしまう。

 忙しそうだったから麻実に頼んだことを説明すると、

「だったら仕事を絶対に週末までに終わらせるから、今度のお休みに一緒に買いに行こうね。約束だよ」

 半ば強引に約束させられてしまう。

 気合だけで仕事は終わるわけがない。

 それでも必死で仕事を終わらせようと頑張り、ヘトヘトになって帰ってくる桂を美月はサポートした。

 栄養のつきそうな食事を用意したり、ちょっとでも疲労が回復するようにとマッサージで身体と心を癒した。

 それが功を奏したのか、何とか仕事を終わらせた桂と週末買い物に。

 行き先は下着売り場。

 例のごとく、着せ替え人形のようになり桂好みのものを試着する。

 そして淡いピンク色の可愛らしいデザインの上下セットの下着を購入。

 正直な美月の意見を述べると、あまり実用的なデザインではないこの下着を購入することに意味があるのかという疑問があったのだが、幸せそうな笑顔をしている桂の顔を見ると、その疑問を胸の奥底へとしまい込んだ。


 なお、この買い物には空気を読んで麻実は着いて来なかった。



2018Wカップ開幕日に、Aカップの話を。

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