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家族会議+オマケ 2


「……いいの……これはペンギンモチーフなんだから……燕尾服はあくまで参考にしただけで、誰が何と言おうがこれはペンギンの尻尾なの」

 固まってしまった空気の中で、八神麻実はまるで自己弁護をするように呟き、自らの気持ちを無理やり押さえ込み、やや強引であるが納得しようとした。

 どう声をかけて慰めていいのか分からずに美月みつきは黙っていた。

 そしてかつらは、

「……麻実ちゃん」

 促されたとはいえ、軽率な発言だったのでは、もっと良い方法で伝えるべきだったのではと反省しながらも美月同様になんと言って慰めたらいいのか分からずに、かろうじて出たのが名前だけ。

「……あたしのことはもういいから。それよりも、志郎のデザイン……基本路線は白のゴスロリ風で決定していいのかな」

 強引とまではいわないが、八神麻実が美月の服のデザインへと話題を戻す。

 大人二人も空気を読む。

 あのままでは、八神麻実がせっかく自己弁護によって浮上したのに、また落ち込んで沈み込んでしまい、自己憐憫に陥ってしまう可能性が。

「そうね、それがいいかも。稲葉くんには可愛い恰好をしてもらいたいから異存はないかな」

 桂が同意するような発言を。

「それじゃこれで決定」

「ちょっと待った」

 決まりかけていたところに美月がストップをかける。

「えー、何でこれ可愛いよ」

「あたしとお揃いは嫌なの?」

 桂と八神麻実、同時に非難の言葉が。

「可愛いのは分かるし、桂がそういうのが好きなのは知っている……でもさ、着るのは俺だろ。そして俺自身の意見を言わせてもらえば、可愛いよりもカッコイイほうが」

 見た目は美少女、だけど正体はとっくに成人した男、さらに言えば中身は年をとってもカッコイイものに憧れてしまう少年。

「そんじゃさ、志郎はどんなのがいいの?」

 この質問に美月は少し考えた。

 そして頭の中にぼんやりと浮かんできたものを口に、

「……ライダーかな」

「それって黒のツナギを裸で着る、某怪盗マンガのキャラみたいなもの」

 スリーサイズが全てゾロ目のキャラを思い浮かべて八神麻実が言う。

「ああ、あれか……確かにカッコイイとは思うけど、稲葉くんというか美月ちゃんの体型であの姿は似合わないんじゃ」

 たしかに自分の幼い体型では似合わないだろう。あの手の格好はもっとメリハリのあるボディーじゃないと。

 しかし、そのキャラは美月の意図は全然違う。

「違う、そうじゃなくて……」

 訂正しようとしたところで美月の口が止まる。

 美月の頭の中にぼんやりと浮かんだのはとある変身ヒーロー物のシリーズ、しかも昭和のもの。その変身ヒーローは昆虫をモチーフにしている。

 虫が嫌いな桂がそんなデザインに賛同するはずがないと思い、口を噤んだ。

「何がそうじゃないの?」

「……えっと……」

「ほらほら、ハッキリと言う」

「……オートバイのレースのライダーみたいな恰好がシンプルでカッコイイと思って……あ、後はヘルメットもすれば顔も隠せるし」

 しどろもどろになりながらも何とか別の理由を。そして後半部分には話しながら咄嗟に思いついたことを。

 魔法少女という特異な姿に変身はするが、髪の色と長さが変わるだけで顔の造詣は伊庭美月そのままだった。

 これでは万が一の可能性だが、正体が世間にバレてしまう可能性も。

 ネットで画像を検索する。

 出てきた画像を数点眺めて、八神麻実が、

「志郎の趣向は理解できるけど、これはあんまりお薦めできないかな」

「どうして?」

「だって、志郎って変身で体型を変化させることできないでしょ」

「ちょっと待って、今確認を取るから」

 美月が左手にはめたクロノグラフ、モゲタンに話しかける。

〈結論から言うと不可能だ。装備品及び服装の質量を変化することは可能だが、君自身の身体の質量を上限も加減もすることはできない。ああ、髪の毛を伸ばしたり、短くしたりするくらいは可能だが〉

 これまでずっと黙っていたモゲタンが美月の発言を求められ答える。

「……無理だって……でもさ、体型が変化できなないことが関係あるの?」

「似合わない、ていうか、頭でっかちになってバランスが変になる」

 そう言いながら八神麻実は持参したスケッチブックにスラスラと画を描く。

 そこに描かれたのは頭の、ヘルメット部分が大きなアンバランスなライダーの姿。

「……うん、これはたしかにおかしいかも」

「かっこ悪いよね」

「でもさ、こういうのがいいんだったらプラグスーツみたいなデザインはどうかな? 一応十四歳っていう設定だし」

「プラグスーツ?」

「エヴァよ、エヴァ。二人ってドンピシャの世代でしょ」

 たしかに多感な時期にエヴァンゲリオンの放送があった。

 しかし、二人は本放送当時に観た記憶がなかった。

 それというのも、二人の育った東海地方に理由が。エヴァンゲリオンはテレビ東京をキー局として午後六時半から放送されていた。しかし、テレビ愛知一局だけが、朝の通学時間帯に。これは当時の六時半の時間帯に同時の再放送アニメ枠があり、そのあおりで辺鄙な時間に放送され、結果当時は知る人ぞ知る番組に。

 多少目の肥えたアニメファンならば、ガイナックスという制作会社の名前、それから庵野秀明という監督のネームバリューでチェックしていただろうが、その当時の二人はアニメから離れつつある年齢であり、その手のことを調べてみるような大人でもなかった。

 その後、幾度か目にする機会はあったが結局観ることなく今日こんにちまで。

「パソコン貸してね。えっとね、こんなの」

 八神麻実が操作するパソコンのモニター上にプラグスーツを着たエヴァのキャラが。

「ああ、これ見たことある。確かにスリムでカッコイイかもしれないけど、私としてはフリフリの衣装のほうが可愛くていいけどな。それになんかエッチな感じだし」

 どうやら桂はお気に召さない様子だった。

「志郎はどうなの?」

「……うーん」

 現状の魔法少女の格好よりもはるかにこちらの方が好みである。それにカッコイイとも思う。

 けど、何かがちょっと違うような気が。

 頭を悩ます。

 自分のことなのに、なりたい姿がよく分からない。

 未来永劫、この姿になるわけではない。今後も変更は可能なはず。

 ならば、ここは妥協して。ちょっと違うなと気の正体は、もしかしたら今後判明するかもしれない。そうなったら、その時にまたリニューアルすれば。

 美月はそう考え「じゃあ、これで」と、言いかけた途端、自分のなりたい格好のイメージが唐突に頭の中に浮かび上がった。

「……あ、そうか……サイクルジャージみたいなシンプルなのが良いんだ」

 独り言のようにポツリと漏らす。

「「サイクルジャージ?」」

 桂と八神麻実の疑問の音が同時に響いた。


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