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とある夏の日の午後


 それなりに忙しい日々が続いた。

 八神麻実の中学への編入のために美月みつきは役所を駆け回り、といっても駆け回るだけで全てモゲタン任せだのだが、見事に前例のないことを勝ち取る。

 つまり、晴れて八神麻実の中学へ、美月と同じ二年生として通うことが決定した。

 だが、これで終わりではない。

 これまでの行動が報われただけで、ようやくスタートラインに立っただけ。

 すべきことはまだ山のように。

 これからの新生活のために制服を買わないと、それに体操着も用意しないと。それだけじゃない、教科書も揃えないといけないし。

 これで時間に余裕があれば問題ないのだが、二学期はもう目の前にまで迫っている。

 中学への再編入が決定したところで美月の、というかモゲタンの特殊能力はもう必要ない。ということは美月も必然的に八神麻実のために一緒に行動を、彼女のために手助けをする必要性もないだが、乗り掛かった舟とでも言うべきなのだろうか、人以上の力を有していながらどこか危うい、世間知らずのこの子のことが放っておけずに、ついつい手を出すとまではいかなかったけど最後まで付き合ってしまう。

 結果、自分のことが疎かに。

 この自分のこととは夏休みの課題。

 当初は計画通りに進行してたが、急な帰省によって大幅な遅れが、それを友人達の力を借りて取り戻したけど、再び遅れが。

 二度目の中学生活では、夏休み終盤は課題に追われることなく優雅に過ごしたい。その願望が潰えそうに。

 十数年たっても同じことを繰り返してしまう自分は何て愚かな生き物なのだろうかと落ち込みたくなるような心境に美月は陥りそうになった。

 それでも一所懸命に課題に取り組む。

 そんな美月に意外な救いの手が。

 救いの手を差し伸べたのは八神麻実だった。

 空白部分の多い英語のノートを瞬く間に和訳で埋めていく。

 それも美月の筆跡によく似た文字で。

 ノートを写すのではなく、完全に他人任せ。これでいいのだろうかという忸怩たる気持ちに美月はなったが、背に腹は代えられず委ねることに。

 美月はこれまた完成していない数学の課題に。

「ありがとう、手伝ってくれて」

「いいのよ。あたしが中学に入るために志郎の時間を取っちゃったんだから。これはそのお礼。毎日美味しいご飯もご馳走になっているし。これ位になら簡単だし」

「英語得意なんだ?」

「まあね。ベッドの上でずっと暇で本を読むか、ネットをするか、後はテレビを観るか。そんで一時教育テレビの外国語講座にはまって。フランス語なんかも得意だよ」

「へー、そうなんだ」

 素直に感心する。教育テレビって意外と凄いんだ。

 そして自分もそれに倣ってみようかと美月は考える。

「まあ、冗談なんだけどね」

「……冗談なの?」

「うん。ああ、このネタ、もしかしたら志郎には通じるかと思ったけど駄目だったか」

 何かしらネタがあったらしいが、美月には皆目見当もつかない。

「なんかゴメン。期待に沿えなくて」

 別に非があるわけではないのだが謝ってしまう。

「けど、知恵なら案外通じるかもしれないわね。あの子の知識はなかなかのものみたいだし」

 美月の交友関係は、美月が与えた情報によって全て八神麻実の知るところに。

 しかし、実際にはまだ会っていない。

「そうだ、三十一日にみんなと遊びに行く予定になっているから一緒に行かない?」

 九月から同じ中学に通う八神麻実を、年の離れた友人達と引き合わせておくのは悪い考えではないと思い、美月は提案した。

 夏休みの最後の日にみんなで池袋に遊びに行くことが決定していた。

 この最後の一日を使えれば、もう少しだけ余裕をもって課題にとりくむことができたのだが、如何せんこの約束を破るわけにはいかない。

「……うーん。……いい」

 しばし考えた後、八神麻実が尻込みを。

 ずっと病院で過ごしてきた彼女はもしかしたら集団が苦手なのでは、と美月は危惧していたがそれがどうやら的中したみたいだった。

 だがこれからもっと集団の中で生活をすることに。

 まずは少人数でリハビリを。

 けれど、無理強いはよくない。これは桂も言っていた。

 今度は美月が思考タイムに。

「ねえ、手を止めてないで動かしなさいよ。三十日までに課題を終わらせるんでしょ。それで年下の女の子を侍らせてハーレムタイムを満喫するんでしょ」

 後半部分には絶対に同意できないが、言わんとすることは分かっている。

 美月はまた黙々と右手を動かし数学の課題へと取り掛かった。


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