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里帰り、かんこう 12


 美月みつきは人ごみを縫うようにして移動した。

 人目が付かない、いや用心のために誰も見ていないような場所を探した。

 園内には今どき珍しい電話ボックスが。

 一瞬ここで変身をして飛び出せば、往年のアメリカのスーパーヒーローみたいかもと思ったが、即座にその考えを脳内で否定する。

 誰しもが上空に咲き乱れる花火に夢中になっている。しかし、もしかしたらという可能性もある。電話ボックスはガラス張りで外から丸見え。

〈急げ〉

 モゲタンが美月を急かした。

 誰にも見られない場所を、ということで美月は最初に頭に描いたとある場所へ。。

 この少女の身体になった当初は入るのに躊躇していたけど、今ではもう慣れっこになった女子トイレに。

 個室に入り、

「変身するぞ」

〈了解だ〉

 美月の姿が変わる。バレエのチュチュのような淡い白色の衣装に綺麗な輝きの金色の長い髪。

 魔法少女、しかし魔法の類は一切使えないけど、へと変身する。

 女子トイレの個室から左手のクロノグラフの形をしたモゲタンの力を借り、空間を跳躍する。 

 跳んで移動した場所はジャンボバイキングの最長部。

 そこから園内に隣接するホテルの屋上へと、再度跳ぶ。

「何処にいる?」

 データの反応はあるが、何処にいるのか美月にはまだ目視できていなかった。

〈南東の方角。現在は伊勢湾上空を飛行中だ〉

 好都合と美月は思った。

 海の上、もしくは河口付近でならば万が一派手な戦闘になったとしても、大勢に人に目撃されようが、被害が周辺に出る可能性は小さくなる。

 だが、問題もあった。

 それは美月の要している能力では空を飛べないこと。

 空間を一瞬で跳躍する力はあっても、それは自在の空を飛ぶのとは異なるもの。

 モゲタンが探知したところによれば、今回のデータは空を飛ぶ。

 これまでのも何度か空を飛ぶデータの捕獲をしたが、それは地上からの撃退。

 今度は海上。

 だが、美月には秘策というほどもないが考えがあった。

「行くぞ」

〈ああ、任せろ。全力で君をサポートしよう〉

 ホテルの屋上から美月は伊勢湾の方角へと、その小さな身体を投げ出した。

 何もない空に円盤状の足場が。

 これは美月が出したものだった。モゲタンの力を借りて、跳んだ先に足場、というか踏み台になる円盤を展開し、横へと、データへとの接近を図ろうと考えていた。

 以前、同じような手法で上空高くへと移動した。

 今回は、それの応用だった。

〈近いぞ、気を付けろ。正面から来るぞ〉

 モゲタンの助言が美月の脳内へと流れた時、美月の視界にデータが。

 それは黒くて大きな飛行物体だった。

 距離が近付いてくる。

 今度の相手はどうやら人が乗り込んでいない物体のようだった。 

 数日の前に回収したデータは人が乗ったグライダーに寄生し、解決自体はすぐだったが、人的被害を出さないことに苦慮し、苦労したのは紛れもない事実。

 しかし、相対するのは人が乗り込むのは少々無理のある大きさ。

 それが真正面から美月へと迫ってくる。

 この交差する瞬間に一撃で倒し、そのままデータを回収する。美月が頭の中に描いた皮算用だった。 

 その皮算用は不可能ではなかった。モゲタンもそれで倒せるという計算をしていた。

 一気に距離を詰めるために、そして破壊力を増すために、美月はもう数枚足元に円盤状の盾を展開させ、脚に力を込めて前へと蹴り出そうとした。

 頭から突っ込む。

 これで終わりになるはずだった。

 事態が解決して、元の姿に戻るために前進し、そして何よりも桂との楽しく幸せな時間を再開するはずだった。

 なのに、ならなかった。

 美月とデータは衝突しなかった。

 互いの身体が接近し、そして離れていく。

「……あれペンギン型だよな?」

〈そうだ〉

「おい、もしかしたらアイツはこないだのじゃないのか?」

 数日前に名古屋港付近でペンギン型のデータと対峙した。

 あの時の姿はコウテイペンギンの雛だった。水族館で見たのと同じような可愛い姿で攻撃をするのを躊躇った。

 今回は雛ではない、成長した姿だった。

 それでも可愛らしい姿には、とはいっても大きさは実物よりも何倍もあるのだが、変わりない。

〈そうだ。君が指摘するように前に会ったのと同じデータだ〉

「何でだ?」

 美月は驚くのも無理はなかった。

 破壊、そして回収したはずではなかったのか。

 そう思ったが、次の瞬間美月は自分自身で答えを出してしまう。

 あの時突如現れた自らと同じような存在の人魚の少女が、もっとも見た目は少女だが中身まで少女とは限らないけど、、あれは自分の獲物だと震える声で宣言し二つの理由で譲ったのだった。一つは可愛らしい姿に攻撃をする気が失せたこと、もう一つは以前の苦い経験があったから。

 その後面倒ごとを避けるために、あの人魚から追跡されないように遠回りをして桂に元に帰ることだけに神経を使っていた。

 その後どうなったのか分かっていなかった。おそらくだろうが、あの人魚が退治したものだとばかり思っていた。

 確認を疎かにしていた。

 周辺に大きな被害があったわけでもないから、あの人魚が退治したと勝手に思い込んでしまっていた。

 倒していなかったんだ。いや、倒したかもしれないがデータを回収していなかったんだ。

 だけど、どうして?

〈このままではデータは桂のいる施設へと向かうぞ〉

 美月の思考を止めたのはモゲタンの冷静な声だった。

 勢いをつけたことで速度が増していた。本来なら衝突し、そこではない及び回収する予定だったのに、美月の判断に狂いが生じて交差する結果に。皮肉なことに距離が開いていく。

 余計なことを考えている時間はない。

 あのデータは一直線にナガシマスパーランドを目指して飛行している。

 そこには大勢に人がいる。

 あの場所で暴れまわられたら夥しい数の犠牲者を出すだろう。

 仮に暴れなくとも、大型のペンギンが大きく翼を広げて空を飛んでいるのだ。花火を見ている大勢の人間が上空のその姿を目撃してパニックが起きるだろう。

 止めないと。

「モゲタン」

〈了解した〉

 声をかけた後で美月は小さな身体を捻り、反転した。水泳のターンの要領。

 キックをするために足元に円盤何枚も展開される。

 だが、止まらない。

 ここでも勢いをつけたことが仇になってしまった。

 瞬く間に何枚もの展開した盾を破壊していく。

 それでも勢いは、速度は確実に落ちていく。追加でもう十何枚の数の盾を進行方向に展開し、ようやく止まった。

 止まると同時に美月の小さな身体は海面へと落ちていった。

 速度があったからこそ、美月は落ちずにすんでいた。その速度がなくなれば重力に引かれて落ちていくのは自明の理。

 逃れられない物理法則。

「アイツの真上に跳ぶぞ」

 落ちながら美月はモゲタンへと指示を出した。

 声に出す必要性はないのだが、いつの間にか叫んでいた。

〈ああ、分かった。ワタシに任せろ〉

 海面へとその小さな魔法少女の格好をした姿が叩きつけられようとした瞬間、美月は空間を跳躍した。


これでもう、ジャンル詐欺とは言わせません。キリッ!

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