ばんがいへん 3
桂がお風呂に入っているうちにと思い、美月は美人へと電話をかけた。
コール音がする間、なんだか桂にいないうちに電話をするのは浮気をしているみたいだなと少しばかり思ってしまうが、そんな気持ちはまったくなく、別に聞かれても別段問題のない用件なのだが、やはり少しばかり後ろめたさを少しばかり覚えてしまうような気持ちが。
もしかしたら出られないのかなと思い、またしばし時間をおいてかけ直すかと思った矢先に美人は電話に。
メールでのやりとりは何度かあったが、電話で、話をするのはあの日以来。
近況を聞き、そして今桂に付いて三重県に来ていることを告げ、それからしばし雑談をした後美月は本題を切り出した。
「こないだの日曜日に四日市のショッピングセンターで紙芝居の上演を観たんだ。機会があったら、あの上演は絶対に観に行ったほうが良いから」
『……紙芝居?』
「うん、紙芝居。すごく面白かった」
『でも、紙芝居って子供が観るんのじゃ』
「そんなことない、大人でも十分に楽しめる上演だったから」
『……でも、……紙芝居なんて誰でもできるんじゃないのかな』
「誰でもできるようなことを、誰にもできないような領域でしている紙芝居なんだ」
『……そうなの?』
「うん、そう。あれは絶対に見て損はしないと思う。それに演っている人の話もすごく参考になるし、面白いしそれに楽しい。僕はまた絶対に観に行きたいと思ったから」
『そんなにすごいの、その紙芝居?』
「うん、すごい。……すごいとしか表現できない自分の陳腐な語彙力が嘆かわしいけど、本当にすごいから。実際に観たら僕の言っていることが理解してもらえると思う」
『……美月ちゃんがそんなに言うなんて珍しいね』
「いや、本当にすごいんだから」
『うーん、……ちょっと興味がでてきたけど。……でも、四日市って遠いんじゃないのかな』
「近いよ、多分美人ちゃんに引っ越した名古屋からは電車で三十分くらいかな。運賃は往復で千円くらい」
『それって、すごく遠いよ。……それに往復で千円の交通費はけっこう痛い出費だし』
「紙芝居は毎週日曜日に上演していると言っていたから、お金と時間の都合がついたらで」
『……でも……』
「でも?」
『……美月ちゃんがこれだけ言うんだから面白そうなのは間違いないと思うけど、……中学生が一人で観に行くのは恥ずかしいような』
「……うーん、だったら今度の日曜日に一緒に観に行く?」
『一緒に行ってくれるの?』
「さっきも言ったけど、また観たいと思っていたし、それに直接美人ちゃんのことも紙芝居のお兄さんに紹介した方がいいかもしれないし」
『それじゃ、お母さんに行ってもいいか聞いてみてまた連絡するから』
「了解。それじゃまたね」
こうして電話を切った瞬間、お風呂から上がった桂が部屋に入ってきた。




