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稲穂対ごぢら 解説 破

解説の続き


「第二のごぢらが北極海で誕生したのも何かオマージュがあるの?」

「うーん、最初は『ゴジラの逆襲』にしようかなと思ったり、あたし達の出身の東海地方の埋め立て地から登場する『モスラ対ゴジラ』みたいにしようかなと思ったけど、『キングコング対ゴジラ』が北極海から登場したのを思い出して。それで北の海なら昔の原潜があるんじゃないのか、北極海じゃないけどさ日本海溝に処理しきれなくなったのを捨てているっていう都市伝説を見たような記憶があったし、そこをアレンジして」

〈麻実の言うようにそんな都市伝説はあるな。冷戦終了前からウラジオストックに原子炉を外した潜水艦が駐留しているというのが噂の元だな〉

 と、これまで特に口を挟まなかったモゲタンが。

 なお、モゲタンの言葉は稲穂の脳内でしか聞こえないので、彼女が他の三人に。

「なら、北極海よりも日本海で誕生のほうがいいんじゃないのか」

「それも少しは考えたけど、日本海だと東京に来るのに遠回りになっちゃうし」

「でも、海じゃなくて陸上を移動するという手段もあるんじゃ。日本列島を最短距離で横断して東京を目指す」

「それもまあ考えてはみたのよね。フォッサマグナ東端を東に向かって移動するとか、初代のモスラに倣って地下を移動して渋谷に出現する。でもそれだと『ガメラ3』と被るような気もするし、それにいくらフィクションでも放射能物質をエネルギーにしているのが破壊しながら歩き回るのはどうかなと思って。それにシロはそういうの嫌がるかなって」

 破壊によって、ある種の爽快感、カタルシスのようなものが観客の中に生じることは理解しているし、それが受けの良いことも知っている、昔は自分もそれを喜んでいた麻実であったが、色々と経験をし、少々思うところが。

 それに稲穂が、なるだけ死者が出ないように尽力していることも知っているから、この西から来訪、強襲、放射能をまき散らしながらフォッサマグナを横断する案は没に。

「まあ、それは確かにね。あまり心情的に良くないかもね」

「そうだね……うん、何……」

「どうしたんだ稲穂?」

「あ、もしかしたらモゲタンが何か言っているの?」

「ああ、桂の言う通り。ちょっと不満があるってさ」

「えー、何処に」

 脳内で聞いたモゲタンの声を稲穂は皆に伝える。

 その内容は以下の通り。データに浸食され能力に制限をかけられてしまった罠、トラップは可能性として絶対にないとは言い切れないから受け入れることはできるが、その後のごぢらの予想進路を大外ししてしまったことについて憤慨とまではいかないが一寸した不満のような愚痴を。北極海の底に眠る原子力潜水艦のことは分からなくても、それでも不確定な存在であるから一つの場所にだけ限定せずに、複数の可能性を挙げているはず、データ駆除に追われてはいてもそれくらいのことはできるはず、と。

「ああ、それはね物語の作劇上モゲタンには少しおバカになってもらわないと話が進まないから。万能過ぎちゃうとね。敵がコチラの裏をかいてピンチに陥る、それに気付いて寸でのところで阻止するって盛り上がる展開でしょ」

「……理解したってさ」

 モゲタンの言葉を麻実に伝える。

「分かってもらえてなにより」

「でも、他にも突っ込む箇所があるってさ」

「どんなの?」

「えっとまずは、現段階ではまだ原子力空母のロナルド・レーガンは横須賀に入港していないって」

「そうなの」

「今年の秋に来る予定になっているけど、今の時点ではまだだってさ」

 現在はサンディエゴの港に。今年の十月に横須賀に入港する予定になっていた。

「うん、それは知ってる。ほら、庵野さんの映画は来年だから。それに合わせてということで」

「なるほど。先取りというわけか」

「ちょっと違うけど、まあ大体はそう」

「他にも、イージス艦の説明がかなり雑過ぎないかって。詳しくはよく知らないが、前に稲穂が言っていたのはイージスというのはシステムのことで船じゃないだろ」

「それはわざと。普通の人はミリタリーの知識なんか興味ないじゃん。イージス=高性能な船となんとなく想像するかなって」

「そうね、イージス艦と聞いても大体そんなイメージよね」

「ああ、確かに」

 名目上は荒事専門の警備部門のある会社のトップではあるが一、般の人と比べてまあ多少の知識はあるが、それでも毛が生えた程度しか持ち合わせていない桂。

 そして自身の専門の化学以外はてんで知識のない実里。

 そんな二人が麻実の説明に納得を。

「それで、そんなすごい船を乗っ取られてしまって絶体絶命のピンチに陥ってしまうかもしれない、東京がヤバいことになるかもって観客に印象付けたいという意図があるの」

「なるほど」という言葉が三つの口から。

「ああ、そうだ。ついでだから言っておくとね、イージスに搭載されているドローンはナデシコとニコラ・テスラの発想の合わせ技という裏設定があるのよ」

「どういうこと?」

 三人、麻実の言ってことが理解できず、代表で桂が質問を。

「昔あった『宇宙戦艦ナデシコ』というアニメで、エステバリスというロボットが母船からエネルギーを供給してもらうという設定で、これによく似たので昔ニコラ・テスラという発明家が送電システムを使わないで電気を送るということを考えていたのよ。それでこのニコラ・テスラは米国から追い出されたことがあるの。なのに、そんな男のアイデアをアメリカ軍が使用しているというちょっと皮肉めいた裏設定」

 この麻実の説明に三人な微妙な表情を。

 同好の士、知恵や紙芝居のお兄さん、ならば、この説明から話が弾み、盛り上がる可能性もあるのだが、如何せんその手の知識が素人に毛が生えた程度の二人。そして稲穂はその作品は視聴しているのだが設定のことまではよく覚えておらず、それに加えてニコラ・テスラの名くらいは聞いたことがあるがその実績はよく知らない。

微妙な空気が室内に。

「ああ、そうだ」、と実里が突如何かを思い出したかのような声を。これは不器用ながらもこの変になってしまった雰囲気を撹拌しようという気遣いであったのだが大根芝居に。

「実里、麻実ちゃんに何か言いたいことがあるんだ」

 これに桂が追随。

「ああ、少し先の展開で気になるというか大事な点があってだな」

「どこ?」

「高出力光線砲のことなんだが」

「ああ、それはね特撮ものといったらやっぱりメーサー兵器でしょ。それをそのまま出すのはどうかなって思ってさ。前に実里の研究が新型の兵器に流用できるかもって話があったじゃない」

 東宝特撮といえば、メーサー殺獣光線車。麻実はこれをどうしても出したいが、そのままというのはどうかと思い、色々と頭をひねり高出力光線砲のアイデアを。

「麻実さん、あれはレールガンだよ。実弾とレーザーでは違うよ」

 以前、実里の研究はレールガンに流用できるという無理筋ないちゃもんを受け、それによって研究中止にまで追い込まれてしまいそうになった。

「あれ、そうだっけ」

「ああ、そうだ。それでだ。私の研究は麻実の考えた話の中に出てくる高出力光線砲にはおそらくだが使えないはずだ。あ、後は私の専門は化学だ。他はよく知らない。生物や物理は全然駄目だぞ。自分でいうのもなんだがあんなに知識はないぞ。化学以外はポンコツだぞ」

「ああ、それは実里には謎博士役をやってもらおうかと思ってさ」

「……謎博士?」

「ああ、最初のほうで言っていたのね。渡辺謙が演じていたとか」

「そう、説明役。色んな人が出てきて色々と説明するとゴチャゴチャしちゃうから。一人の人がまとめて説明してくれたほうが観ている側として分かりやすいはずだし、それに作り手側からしても楽で、それで台詞で説明できるから便利だし」

「なんとなく理解はできるが、納得しにくいな」

「まあ、いいじゃない。お話だけど良い役をもらったんだから役得だと思っときなさいよ」

「妄想なのに役得なのか」



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