稲穂対ごぢら 解説 序
「ほら、来年ゴジラの新作が上演されるじゃん」
「ああ、前に麻実さんが言っていたのか」
総監督庵野秀明、監督樋口真嗣で2016年夏に、久しぶりの東宝制作でゴジラが公開される予定になっていた。
「それでさっきの麻実ちゃんの話とどう繋がるの?」
「えっとさ、オラザクならぬ、オレゴジを妄想してみたんだけど」
「何だそれは?」
実里のこの一言の質問には二つの意味が含まれていた。一つは、オラザクについて。もう一つは、オレゴジについて。
「オラザクというのは模型誌で毎年開催されているコンテストのことで、自由な発想でガンプラを作ってる。それのゴジラ版みたいでいいんだよね?」
麻実の代わりに稲穂が答え、それで正解なのか最後に問う。
「まあ、大体は合っているけど、設定とかじゃなくて具体的にこんな映画だったら面白いかもって想像というか妄想してみたのよ。あたしだったらこんな映画を撮るって」
「でも、麻実ちゃん。稲葉くんのことは秘密なのよ」
稲穂のことは極一部の限られた関係者のみが知ること。絶対に外部には流出してはいけない機密。
「そんなの分かっているって。だからこれは、まあ仲間内だけのお遊びみたいなものでさ。だから知恵達にも話してないわよ」
年下の友人達も劇中には出てくるが、この創作のことは話していない。
「それがさっきの話というわけか」
「まあでも、色々とアドバイスのようなものはもらったけどね。ポスターのゴジラの歯を見て、魚肉性の海洋生物の歯みたいだって、それで岡崎二郎さんの漫画を知恵のお父さんから教えてもらったことは反映させてみたけど」
発表されてるティザービジュアルのゴジラは乱食いの歯であった。
「ああ、なるほどね。保科さんならそういうのも詳しそうだもんね。麻実ちゃんにしては妙にリアルだなと思った」
「何よそれ」
「だってさ、オタク趣味はともかく生き物関係はそんなに詳しくないじゃない」
「まあ、それはそうだけどさ……」
「でも、その後の政府内の決定プロセスなんかは良かったよ」
「まあ、そこはリアルには知らないけどさ、それでもシロとか桂を通して同世代の人間よりも知ってるわけじゃん」
稲穂と桂の興した会社は政府との取引があった。
「そうよね」
「でも、それだと少し単純に描写しすぎじゃない」
と、実里が。世の中はもっと複雑で、会議なんていうものは事前の根回しによって決定されているということを思い知らされてきた。
「ああ、それはさ会議の様子を念密に描写したりとか、官僚が法案を創るまでのプロセスを事細に見せても、絶対に面白くなんかできないじゃん。観てる側もつまんないだろし」
「そうかな。法廷というか陪審制度の作品だけど『十二人の怒れる男』は面白いけど。一度舞台で演ってみたかった作品だけどな」
「それはさ名作だからでしょ。だから面白いんだよ、三谷さんもパロ作品書いたくらいだし。でも悲しいかな、私にはそんなに長く読み継がれるような物語を創る才能はないからね。これ以上は卑下していると落ち込みそうだから話を戻すけど、その後の浜岡原発を目指すのは85年版のオマージュ」
昭和最後のゴジラは浜岡原発を襲い、放射能物質を吸収した。
「なるほどそこは確かに麻実ちゃんらしいわ」
「でしょ」
「しかし気になることがあるな」
「何?」
「稲穂の使用する武器のことなのだが、麻実ならこういうのは具体的な描写をするんじゃないのか。どんな兵器を運用したとか」
「ああ、それはね、大体のことは分かるけど、流石に細かい箇所までは分からないし、それでボロが出て叩かれるのも嫌だから」
「いや、これは妄想でしょ。世間に公開なんかしないでしょ」
「それでもさ、何となくそういう妄想するのって楽しいじゃない」
「まあ、それはちょっと理解できるけど」
「それで細かい武器選定は専門家、というか会社の人達に聞いてから決めようかなって」
稲穂達の会社の一部門の人間はこの手のことにすごく詳しい。というか取り扱いの実績が豊富。
「このこと話したの?」
「全部言わないよ。当然稲穂のことは話せないから、大分と濁してそれで訊こうかなって」
「なるほどね、でもねこの先のことで麻実ちゃんに言わないといけないことがあるの」
「え、なんか変な展開あったかな。あ、もしかしたらテレビのリポーター目線のシーン。あれはそういうのを入れておくと臨場感というかリアリティみたいなものが出るかなって思ってさ」
「良いんじゃないのか。後で稲穂が大活躍する過程を説明しているし」
「そこについては文句はないけど、でも問題なのは……」
「……何かな?」
「稲葉くんの衣装よ。ちょっと出し過ぎじゃないかな」
「だが、稲穂なら似合うぞ。稲穂のお尻は良いお尻だ」
「まあ、それは否定できないけどさ。でも他の人の目に触れるのはちょっと……」
「シロはどうなの?」
「うーん……まあ桂の言うように露出過多かなという気もするけど、多分何かしらの意図があってのことなんじゃないかな」
もしかしたらただ露出させたかっただけの可能性もあるが、そこは敢えて口に出さずに。
「その通り、さすがシロね」
「それでどんな意図があったの」
「庵野さんをリスペクトして、シロの変身衣装は『トップをねらえ!』のあのハイレグを参考にさせてもらいました」
「ああー、なるほどそういうことか」
「そういえば、あんな格好だったような気も」
「それはどんなのだ?」
稲穂と桂は麻実に付き合って以前作品を観たことがあったが、実里は無いので質問を。
「こんなの」
そう言いながら麻実はスマホで検索した画面を実里に見せる。
「ああ、似ているのは似ているが、稲穂のはこれよりももっと際どいが」
劇中の稲穂のハイレグの角度はもっと小さい数字。
「それはね、サービスカットよ、お色気シーンよ。こういうのは大事でしょ」
「……そうかなー」
よく分からないといった感じで桂が。
「絶対に必要だって。ねえ、シロもそう思うよね」
同意を求められ、かつて男であった身としては視覚的なエロさを求めてしまうことは十二分な程に理解できるが桂がいる手前大いに賛同することを躊躇い、
「ごぢらを内部から崩壊させるというアイデアは面白いよね。アレは麻実さんのオリジナル?」
と、話を露骨に逸らす。
「……まあ、いいけどさ。さっきの80年のゴジラのカドミウム弾と、ビオゴジの峰岸徹のミサイルをゴジラの口の中に撃ち込むのが元ネタ。そんでついでに言っておくと解説すると最後のキックは、トップの稲妻キック」
「仮面ライダーじゃなかったのか」
最近付き合いで麻実と一緒に昭和のライダーを観ていた実里が。
「まあ、それも少しは考えたんだけど庵野さんリスペクトで」
変身衣装に風になびいて映えるような長いマフラーを着けようかと悩んだが、それだと仮面ライダーを想起してしまいそうなので泣く泣く没にした経緯が。
「少し話を戻すけどさ、変身の台詞は某月の美少女戦士ふうよね」
「うん、そう。シロは嫌がるかもしれないけど、そういうキャッチーなのは入れないと」
「……いや、台本に書いてあったら一応は言うけど……」
「だったらもっとエロい変身にすればよかったかも」
「それはちょっとご勘弁を」
ある程度は許容できるが一線を越えてしまうのは、昔は冗談交じりで全裸の衣装を提案したこともあったが、いざ実際に着るとなると流石に遠慮願いたい。
「まあそれは置いておいて、その後の展開は良いよね。これで終わりでもいいのにもう一山というか、一難去ってまた一難、これはちょっと違うか、何と言うのかもう一山、盛り上がりがあるのが」
「ポイントオブノーリターン」
稲穂がボソリと言う。
「そう。昔シロに三幕構成の話を聞いてさ、上手くはできないけど出ている人間も、観ている側も引き返せないような状況を作り出してみたのよ」
「なるほどな、それが稲穂の弱体化と新しいごぢらの出現というわけか」
「そういうこと」
解説の解説
長くなったので分割で。
作中時間は2015年で、翌年に『シンゴジラ」が公開するので思いついた話。
ゴジラの顔、ポスターやティザー諸々の発表は2015年には無かったはずですが、ここは発表されていたことにしています。
後、長くなりそうだったので『MM9』と『巨神兵東京に現わる』はオミットしました。
サブタイトルもパロにしました。




