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稲穂対ごぢら 7


 稲穂がモゲタンから頼まれたことは、情報の伝達、であった。

 ごぢらを倒したことによって、第二のごぢらが北極海で誕生した。

 しかし、そんな遠方の海の中で起きたことなど、日本の人間はもとより世界中の誰も知り得ないこと。 

 このことを知っているのは世界中で稲穂とモゲタンだけ。

 それを誰にも教えない、秘匿しておくというのはある種、罪、である。

 もし稲穂とモゲタンが万全の状態であり、第二のごぢらを秘密裏のうちに破壊、回収できるのであれば、知らせずにおくという選択肢もあるであろう。何も知らないままに事態が無事解決されるのであれば、ある意味それはそれで幸せなことである。

 だが、現状の稲穂とモゲタンには第二のごぢらに対応するだけの力はない。

 ごぢらが上陸を開始したとしてもそれを止める術がない。

 ということは、ごぢらによって日本のどこかにある原発施設を襲われ、そこで放射能というエネルギーを充填され、為す術なく東京という街に三度目の破壊がもたらされるのであろう。

 否、抵抗すべく力はまだ存在した。

 自衛隊という組織が。

 だがしかし、自衛隊はそれ単独では行動できない。内閣の承認が無ければ動くことはできない。

 稲穂が最初に連絡をしたのは内閣であった。

 一般人ならば、悪戯と一笑されてしまうような情報であるが、稲穂には内閣府との仕事上の関係があった。

 手短に、第二のごぢらが北極海で誕生したこと、放射能がごぢらのエネルギー源であること、それゆえに浜岡原発に接近したことを告げた。

 話した内容はそれだけの極短いものであった。

 が、それで十分であった。

 普段、税金泥棒、庶民の敵、無能の集まりと揶揄されるような政治家、官僚であったが、それなりの学歴、キャリア、経験を積んだ集団である。

 この情報をもとに、素早く対応案、法案を立案。

 第二のごぢらの情報は、その存在を確実に確認できるまで国民には知らせず、いたずらに不安を煽らないことが決定。

 そして確認されるのを待つだけではなく、急遽防衛相に予算をつけて、北海道にいる陸上自衛隊の部隊を道内の原発施設付近に展開。これは名目上は、訓練であった。万が一にもまた未確認の存在が原発施設に接近した場合に備えてというのが、対外的な、国民、マスコミに向けての発表であった。

 そして同時に予測した場所以外にも上陸することを考えて、海上自衛隊と海上保安庁に空と海からごぢらの捜索をさせた。


 稲穂の連絡相手は一つではなかった。

 次は、米軍関係に。

 横須賀の在日アメリカ海軍に情報を伝える。

 これはアメリカ海軍に自衛隊に協力してほしいと要請したわけではない。そんな権利の権力も持ち合わせてはいない。稲穂自身としては世界最強ともうたわれるアメリカ海軍の第七艦隊がごぢら対応を手伝ってくれるのであればこれほど心強いことはないと思っている。だがそれを米軍にお願いするような権限は当然ないわけであり、それができるのは国家間の同盟、パートナーシップを結んだ政府であり、出すぎた行動は越権行為である。

 では、稲穂は何故米軍に一報を入れたのか?

 それは東京湾に面した横須賀に、第七艦隊の軍港があり、そしてそこに原子力空母ロナルド・レーガンが入港していたからである。

 ごぢらの主なエネルギー源は放射能、そしてその目的地は東京。

 第七艦隊の駐留する横須賀港は東京湾の入口にある。つまりごぢらの目的地へとルート上に存在している。そこにロナルド・レーガンが鎮座していたら目的達成前のかっこうの餌、補給に丁度良い御馳走、行がけの駄賃になってしまう。

 そうならないために、米軍に情報を。

 これにアメリカ海軍は素早く対応。

 一隻建造、運営するのに数兆円もかかる虎の子の戦力を得体のしれない存在に破壊されてしまうのは。

 ドッグに入る前だったこともありロナルド・レーガン他数隻の艦船は横須賀港から出航。比較的浅瀬の東京湾の深い場所、古東京川が形成した澪筋の上を航行しながら太平洋へと進んだ。

 

 そして最後、会社、桂への連絡であった。

 心配をかけたくないというのが本音ではあったが、この先事態はどう転ぶのか現段階では見当もつかない。案外あっさりと終結するのか、それとも今回以上のことがおきてしまうのか。正直、モゲタンのサポートのない稲穂には判断がつかない。

 黙っておくという選択肢もあるのだが、これは事態が悪い方向に進めばその時点で判明することであり、おそらくだがそうなった場合「どうして教えてくれなかったの」、と怒られて、悲しませて、そして泣かれてしまうのは必至であろうから、正直に自分の身体に起きていることを説明。

 そしてそれと一緒にモゲタンから頼まれたもう一つの大事な伝言を。これからのごぢら対策の方針、もしかしたら必要になるかもしれないことを言付けた。


 三日後、未だごぢらは日本の国土に上陸してなかった。

 そして、東京へと戻った稲穂は長い眠りについていた。

 


作中時間の2015年夏にはロナルド・レーガンはまだ横須賀基地配備になっていませんが、これもわざとです。

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