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稲穂対ごぢら 6


(罠ってどういうことだ?)

 Rと合流し、彼の運転するジープで帰京中に、例によって稲穂は助手席でモゲタンと脳内で二人だけの会話を。

〈ワタシ達のしたことを、ごぢらもまたコチラの向けて行っていたということだ〉

(はあああ?)

〈ごぢらの力がどれ程のものなのか遭遇前には判別ができなかった。だから、ライフル弾を使用してごぢらの体内にナノマシンを侵入させ能力を把握しただろう〉

 返事の代わりに稲穂は小さく首を縦に動かした。

 50口径の大型ライフルの先制攻撃は、同時にごぢらの分析も兼ねていた。

〈同じようなことをされたんだ〉

(だからそれはどういう意味なんだ?)

〈あのごぢらはおとりだ〉

(……大トリ?)

 確かにあれが地球上に残っていた最後のデータであるならば大トリであるが。

〈違うそうじゃない。囮だ〉

(ああ、そうか囮か。……それはどういう意味なんだ?)

〈キミとワタシの戦力を把握するための存在だ〉

「ちょっと待て」

 モゲタンとの会話は声に出す必要はないのだが、驚きのあまり声がつい出てしまう。

 車中にはRと稲穂の二人。

 突然助手席の人間が大きな声を出したので普通の人間ならば何事かと驚き運転に支障をきたすのかもしれないが、彼は訓練を受けた人間であり、またこの優秀な上司が偶にこのように独り言とも奇声ともとれるような音を発すること、事情知らない人間の目にはそう映る、を言うことを把握しているので、運転に支障をきたすことなく、いかといってこの独り言について何かを言うわけでもなく、淡々と職務を実行。

(……というとは、ごぢら、というかあのデータは俺達が標的なのか)

〈そうであるとも言えるし、そうでないとも言える〉

(どういうことだ)

〈データを回収した時に分かったことなのだが、あのデータ、ごぢらは、ゴジラに似ているからなのか、それとも他に意図があるのかまでは分からなかったが、とにかく東京を破壊するという明確な目標を持っている。そしてそれを遂行するためにはキミとワタシがその目的を阻害する存在になるということも分かっていたみたいだ〉

(話がかみ合っていないような感じがするけど。俺達がデータの行動にとって邪魔な存在なことであることは理解できる。だけど、お前はその前に、あれはおとりだと言ったよな、俺達の力を試すために出現したようなことを言ったよな)

〈ああ、肯定だ〉

(倒したんだから、仮にお前の言うようにおとりだとしても無意味だろ)

〈あのごぢらを倒した瞬間、第二のごぢらが出現するようにプログラムされていた〉

(はああああ?)

 また大きな声が出そうになったが、それは口から出る寸前で抑えることに成功。

 しかし、驚きまでは静めることはできなかった。

〈ごぢらはあの一体だけではないということだ。ごぢらを倒し、データを回収した瞬間に新しいごぢらが誕生した。それもコチラとの戦闘情報を取得している〉

(それでソイツは何処に出現したんだ。また、小笠原諸島近海か)

〈いや、今度のは北極海だ〉

(北か……たしか北海道にも原発はあったよな)

〈ああ、存在しているぞ〉

(ということはまた原発を狙う可能性もあるよな。急いで北海道の原発に急行しないと)

〈残念だが、それは不可能だ〉

(何でだ? 今度のごぢらは放射能をエネルギー源にしてないのか?)

〈おそらくだが、同じく放射能をエネルギーにして活動すると思われる〉

(なら、急がないと)

〈それは無理だ〉

(無理ってどいうことなんだ、一体? 急いで駆けつけても間に合わないということなのか?)

〈そうではない〉

(なら……)

〈今のキミとワタシには北海道に急行する力がない〉

(俺のエネルギーが足りないというのなら補給すればいいだけの話だろ。確かに静岡から北海道まではものすごい距離が離れているけど、連続して空間跳躍をすればごぢらよりも先に北海道に着くことは可能なはず。誕生してすぐに北海道に上陸は流石にできないだろう、さっきのごぢらと一緒で辿り着くまでにはある程度時間がかかるはず)

〈キミのその考えは間違っていない、正しい〉

(だったら何で無理だというんだ?)

〈……キミに知らせる前に対処できていれば良かったのだが、上手くいかなかった〉

(何言っているんだ?)

〈罠は一つだけはなかった〉

(…………)

〈データを回収した時点で、キミの身体はデータに侵されてしまった。データ事体が罠だったのだ、取り込んだ瞬間に君の体内へと侵入してキミの動きを封じる。ワタシ達のしたこととは異なるが、ある意味同じ考えだ。内部からの攻撃、いやこの場合はハッキングを行ったというべきか。キミの力を制限して弱体化させるというのが二つ目の罠だ〉

モゲタンの説明を聞きながらも稲穂はその言葉に少々懐疑的であった。

自身が弱体化させられたといわれてもその兆候のようなものをまるで感じていなかった。

 お前の考えすぎだろ、そんな反論を言おうとした瞬間、稲穂は自身の身体が急激に重たくなったような気が。

 だが、その原因は先程までの戦闘の疲れが急に出てきたからである、として納得しようとした。

〈そうではないぞ。キミが自身の身体が急激に重たく感じたのはデータが原因だ。ワタシは抵抗を試みたが、遅かった、間に合わなかった〉

 データはいわばパソコンのウィルスのようなことを。稲穂という機体の中に侵入して、その中で動きを、能力を妨害する役割を。

(それじゃもしかしてあの時すぐに戻れといったのは……)

〈ああ、そうだ。能力を封じられてしまう前に安全な場所に退避する必要があったからだ〉

 あの時モゲタンの判断がもう少し遅ければ、あの場でその理由を問いただし、それから行動していたら、稲穂の身体は相模湾の底に沈んでいたかもしれない。

 身体がまた重たくなった。

(……このまま俺の身体は徐々にデータに侵食されていってしまい、最後には動けなくなってしまうのか。ごぢらが東京を破壊する様を指をくわえて見ているだけになってしまうのか。……桂や麻実さん……他にも大事な人達を守れないのか……)

〈分からない。だが、そうならないように努力する〉

(どうやって?)

〈これからワタシはキミの身体の制御を取り戻すための行動をする。完全にするというのには時間はないが、それでも出来得る限りキミが力を発揮できるようにはするつもりだ〉

(……どれ位かかる?)

〈キミを落ち着かせるためには直ぐにと答えるのがいいのだろが、そんな直ぐにバレるような嘘をついても仕方がない。可能な限り早急に解決するつもりだが、おそらくそう上手くはいかないだろう。だからしばしの間キミとの交信を断つ〉

「へっ」

 声にならないような音が。

 Rはその音に少しだけ反応を見せたが、運転の集中。

(ワタシの力の全てを注力してキミの中のデータを退治する。だからキミはワタシを信頼して待っていてほしい)

(……ああ)

〈そして来るべき決戦に備えて、今のうちに身体を休めておいてくれ〉

(……頼んだぞ、相棒)

〈ああ、任せてくれ。と、その前に一つ大事な用事を頼まれてくれないか〉

 モゲタンが稲穂にしておいてほしいことを指示。

(ああ、それは絶対にしておかないとな)

〈ああ、そうだ。本来ならばワタシがすべき要件であるのだが、ワタシは全てのリソースをキミの中にいる存在の排除に回す。行うだけの余裕がない。だから、キミにお願いしたい。疲れて動けないところ申し訳ないが〉

(それくらいならば大丈夫だ。身体を動かすわけじゃないしな)

〈では、頼む〉

(任せておけ。それより、そっちこそ頼むぞ)

〈了解だ〉



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